2015年6月6日

ブラジル・イングレスは三つの敵

イングレスと聞いて何を想像するか。
日本でどれだけ流行しているのかわからないが、知っている人は、全地球をフィールドに見たてた仮想現実?現実仮想?ゲームを思い浮かべることと思う。

ポルトガル語で'inglês'というと、英語でEnglish、つまり"英国人"とか"英語"とかの名詞や、"英国の"などの形容詞になる。
ゲームの方は'Ingress'と綴るので、カタカナで書くとどちらも「イングレス」となる。
カタカナで書くと同じでも、発音は異なる。
日本ネイティブ、いやこんな言い方は嫌らしいから、「日本育ち」の人にとってなかなか苦手な'l'と'r'の違いがある。
英語耳のある息子と話をするときは、発音に注意しなければならない。

ブラジルでイングレス(ゲームの方)をする人なんかいるのか、と思っていたのだが、何回か付き合って徒歩や車で回ってみた。
これがなかなか面白いのだ。

近所にあるポータルは警察署と2つの教会である。
2キロ近く歩くと市役所前のオブジェ、スーパーCarrefourの標柱、隣接するショッピングセンターなどにポータルがみられる。

やはり学生は新しい物好きなのだろう、徒歩で通う大学キャンパス内はポータルの密度が高いのだが、息子が言うには、キャンパス内のポータルは激戦地であって、最近始めたばかりの彼のレベルでは歯が立たないという。
息子は緑組だが、キャンパス内は青組が優勢という。

しかし多少心配があるのだ。

ブラジルは交通マナーが荒っぽい。
もちろんところによっては、取り締まりの成果なのか、歩行者が待っていると車は止まって横断するのを待つという都市もあるのだが、歩行者優先というルールは基本的にないと言って良い。
スマホに気を取られてふらふらと車道へはみ出したりしても、車は必ず止まってくれて、せいぜい罵声を浴びせられる、のならばまだいい。
当て逃げや轢き逃げする奴も少なくないから、怪我損で目も当てられない。
普通の人ならそんなところでスマホなどいじる気になどならないだろう。

車の通行が少ない場所では、気が緩んで歩きスマホなどするかもしれない。
四輪車は重いけれど二輪車だったらぶつかったら相手も転倒するし、大したことないなどと軽く考える人がいるかもしれない。
その考えは甘い。
強盗やひったくりがある。
スマホでなく普通の携帯であっても、あまり通話やメッセージなどに気を取られてしまうと、怪しい人影がそっと近づいても気付かないで金目の物を奪われる危険がある。
二輪車の二人乗りはひったくり強盗の愛用の乗物だ。
そんな場所では普通の神経の人だったらスマホや携帯を取り出すのをためらうだろう。

イングレスというのはそんな懸念を押しやるような面白さがあるので、トキソプラズマの力に頼らなくても、危なげな場所でもスマホを取り出してポータルを我がものとするために何分か熱中することになってしまうのではないか。

住めばどこも都、住民になってしまえば近所は皆友達、大したことないのだろうが、外から見ると怖いのがファベラ(favela スラム街)である。
ファベラの中や周辺にもポータルがあるのだろうか。
ハックも命がけで値千金、千倍といかなくても2、3倍位のポイントが付いて良さそうである。

ファベラでも安全にイングレスをやれる方法はないのだろうかと、ここから妄想モードに入る。
実はイングレスに付属している物語を見ると、不法薬物とそれを密売する組織の抗争に例えられる点が多い。

ゲームで拾い集めるXMはエキゾチック・マターと呼ばれるが、これは人間の心身に啓発的な効果を及ぼす謎の物質と説明されている。
本当に啓発されるかどうかは知らないが、身体に効果を与えて、臨界量を超えるXMは影の存在の影響を受けて侵略される(日本語Wikipedia)ことなど、薬物依存や中毒そのものだ。
ポータルをリンクさせてコントロールフィールドを作り、その範囲内にある地域に住む人々を支配下に置く、というところは対立密売組織の抗争に当てはめることができる。

だから、対立組織の縄張り争いで発砲と流血が絶えない地域では、双方が銃器を収めて、販売エリア、まあ縄張りとも言うが、いっそのことイングレスで決めてしまったらどうか。

麻薬類の販売ポイントはポルトガル語で"boca de fumo"、直訳で「煙口」と言うのだが、これをポータルにする。
ポータルを所有している組がそのポイントで販売を行い、ポータル同士を結ぶエリアを得た組がそのエリアの支配権を得て、エリアに住む客、というかクスリを買いたい常用者に薬物を売ることができる、と決めるのだ。
薬物を欲しがる客はファベラ内にとどまらないから、ファベラ外の一般の住民や観光客も交えて仲良くイングレスをプレーして、商圏拡大を競い合うのだ。

現実に戻るが、きのうのテレビのニュースで、学校の周辺で児童や生徒たちが携帯を脅し取られる事件が多いという記事を見た。
初耳だったのは、最高価格帯のモデル(topo da linha)でないと、これは要らない、取っとけ、と返してくれると言っていたが、全部の強盗がそうなのかは分からない。
iPhoneとかGalaxyの一番高いのとかでなく、普通の価格や低価格モデルだったら心配する必要はないということになる。

結局ブラジルでイングレスをやるとき、敵は三つある。
プレー上の敵(Enlightened 対 Resistance)と、危険な車両往来と、強盗などの暴力である。
ヒャッハーでもよい、修羅の国でもいい、スリルはいや増す、ブラジルのエージェントの仕事は楽でない。