2019年1月31日

ブラジルのダム決壊メカニズム

どうしてダムの決壊が気になるのか。

まず、ブラジルを代表する産業(鉱業)の最大の企業(Vale)が主体の事故であることであり、そのため同様の事故が別の鉱山で起きる可能性がある。
第二に、Vale社内で、加害側(経営)と被害側(従業員)両方に関わっているので、労使問題がどのように解決されるのか。
第三に、汚泥が下流に達するまで何十日もかかる、日本では地形的に考えられない状況の環境汚染が長期間続くと予想される。
第四に、両者とも就任して1ヶ月経たないうちの大災害に、ボルソナロ大統領の連邦政府とゼマ知事のミナス・ジェライス州政府がどのように対応していくかが気になる。
最後に、意識したことはなかったが私自身がかなりダム厨の気質があるようなので、事故の責任問題と関わる土木技術についての情報自体が興味深い。

さて、ダムの設計や施工がいい加減だったという危惧に一部答えてくれる情報があったので載せる。
後から判明した情報によって、先のブログに書いた表現の数値を訂正して再録すると、適当な谷間に16メートルの堰を建設する→鉱滓を貯める→一杯になる→最初の堰の上に16メートルの堰を積み増す、というサイクルを繰り返して、ダムは段々畑のように積層状に高くなって5段80メートルに達するということである。

少しでも土木やダムに興味のある人なら、図を見てもらえば説明は不要だろう。
図は放送局GloboのサイトG1から借用

  1. 上流方向伸張 - 一番安い構造
  2. 下流方向伸張 - 安定性が高い構造
  3. 中心線 - 中間的な構造
「原因はまさかこれではないか?」と危惧した推測がほぼ当たった。
今回決壊したブルマジニョも、2015年のマリアナも、ダムの構造は図1の、伸張する堰が貯蔵されている残渣の上部にかかっていて、川の上流方向へ伸びる、一番古い方式で、安く上がるが安全性に不安の残る構造で作られていた。
安全性が高い図2の下流方向伸張は、図1の上流方向伸張の3倍のコストであると解説された。

つまり、下から2段め以上の段は、貯留されている水分が抜けきらない鉱滓の上に一部が乗っかっているという不安定な構造であったのた。
貯留鉱滓の高さと容量のため圧力が増すと、上部の堰段を支えなければならない、堰の下に当たる部分が液状化して堰が崩壊する、ということだろう。

2019年1月30日になって、ボルソナロ連邦政府はこの古い方式で作られた全国の鉱滓ダムの緊急点検を命じた。
同日Vale社経営陣は、この古い方式で作られた同社所有の10のダムを使用停止(descomissionamento)、つまり多分鉱滓の投入を止め、排水を行って鉱滓を乾かして土に戻してから植林をするという決定を行った。

ダムを設計施工する企業と、監督認可する政府であるが、誰も全く危険性を予知できなかったのか、誰かは危険性を予知していたのか、予知していたのなら何らかの対策が取られたのか、これから解明されることだろう。

時期尚早だが、外れ承知で予想してみる。
産業振興を環境保全に優先する姿勢を見せている、就任1ヶ月未満で事故に見舞われたボルソナロ新政権であるが、まさにその時期ために、野党から環境政策の不在を責められることはなく、逆に過去の政権のせいにすることは、敢えてやろうと思えばできるだろう。
報道の断片から判断すると、産業界に過重な負担をかけないように、不問とはいかないだろうが過去については深く問わず、現在から将来にかけての安全対策に重点を置く処置をとっていくのではないかと思う。

2019年1月30日午後発表で、死者99名、行方不明者259名であった。

2019年1月30日

命あっての勝ち組

Vale社はブラジルで最大の鉄鉱会社である。
2018年の純利益135億レアル、総資産3423億レアル、純資産1667億レアルと資料にある。
最近の為替は1レアル=29円くらいである。

Vale社へ入社するのは大変である。
いくらブラジルでは相対的に大卒が少ないといっても、このような超大企業は就職競争が激しい。
特にエンジニアだったらこのような大会社で、でっかい仕事をしたいと思う人が多いと思う。
そして、ブラジルでは誰でも知っているこの会社の給料は高くて、福利厚生は手厚いはずだ(調べてないから断定はしないでおく)。
白黒つける物言いは好きではないし、ブラジルではこういう言い方はしないが、当然入った人は勝ち組とみられる。

2019年1月29日午後の発表では、ダム決壊の死者84名、行方不明者276名である。
今回のダム決壊の特徴は、死者・行方不明者の大半がVale社員と出入り業者であることである。
付け加えておくと、もっと下流にあったリゾートマンションの従業員と宿泊客が三十人ほどいる。

なぜか?
決壊したダムの下流の氾濫原に、事務所と食堂が建っていて、事故が昼過ぎに起きたとき、多くの従業員が昼食をとっていた。

少し話はそれるが、日本でも似ている主張がある(あった)。
「そんなに原発が絶対安全というのならば、どうして(消費地の)東京湾岸に原発を建てないのか」
結構言い古された命題である。

Vale社の、事務所や食堂という従業員が集中する施設と、決壊したダムの位置関係である。
この鉱山プラントの配置を設計したエンジニアは、ダム決壊など決して起こりえない、だから事務所や食堂をすぐ下流に設置しても何も心配することはないと思っていたからこそ、現実にそういうレイアウトになったのだろう。

今となって「〇〇はいつも(事故が起きるのではないかと)不安だと漏らしていた」と発言する、行方不明従業員の家族もいる。

その立地がもたらした損害がどれだけ大変なものか。
事務所・食堂地域を覆う泥の厚さは14~15メートル、破壊した食堂の建物の構造物の破片が、800メートル下流の泥の中に発見されている。
こんな強烈な破壊力で建物ごとなぎ倒された状況を想像すると、泥流の圧力に負けずに形を保つことができた強固な建物の中で、十分な空気とともに人が生存している可能性は限りなく低いと思う。

2019年1月29日月曜日は災害当日を含めて4日目であった。

行方不明者の家族に携帯電話のSIMカードを配布して、情報伝達用に使うとの発表があった。
どのようにこの情報伝達システムを運用するのかは不明だが、情報伝達を専有一本化・テキスト化して、どこの誰が情報を持っているのかわからない、情報が間違っている、漏れている、言った言わないでもめる、といった情報の錯綜にまつわる問題を減らすために役に立つだろう、良いアイデアであると思った。

ブラジル陸軍やイスラエル陸軍の救助部隊がミナス・ジェライス州消防・警察に加わって救助活動は続いている。
主題と全く関係はないが、ミナス・ジェライス州消防のスポークスマン、ペドロ・アイハラ中尉(ブラジルの消防は軍組織である)は、イケメンの日系人である。
他州の消防の救援も駆けつけた。
避難のため無人になっていた区域で、空き家を荒らしていた複数の盗人が逮捕された。
夫婦喧嘩がこじれて一方が放火した家屋が、たまたま救助のオペレーションセンターの隣家だったために、ヘリで発着していた消防の救助隊の人員が消火のため作業中断させられる、はなはだ人騒がせな事件が起きた。
要らぬ騒ぎのため、救助や治安維持に必要な人力を無駄に損耗しないでもらいたい、と遠くに住む普通の人々は呆れている。

各地で自発的な救援物資キャンペーンが起きているが、物資搬送に問題があって食料などが無駄になる可能性があるため、要求物が明らかになるまで見合わせるように報道されている。

Vale社の地質学者、環境責任者およびパラオペバ川コンビナートのオペレーション責任者の3名がミナス・ジェライス州内で、ダムの安全評価を請け負ったサンパウロ市にあるドイツ資本のTüv Süd Brasil社のエンジニア2名の合計5名が、昨年6月と9月に作成された2つの安全評価報告書の改ざんの嫌疑があるため、証拠保全の目的で、ミナス・ジェライス州警察により逮捕されて家宅捜索が行われた。
日系人名のエンジニアが逮捕者に含まれている。
サンパウロで逮捕されたエンジニア2名がマコト・ナンバ及びアンドレ・ヤスダと言う名前である。

Vale社は、死者・行方不明者の家族に一律10万レアルの見舞金(賠償金と区別するためにポルトガル語では贈与と表現)を支払う決定をした。
零細企業には真似できないことだろうが、当然だが失われた命は戻らない。

本記事はタイトルからしてふざけているように取られるかもしれないが本心は、できるだけ多くの人が無事に発見されることを願い、死亡者の冥福をお祈りする。

2019年1月28日

ダム決壊と災害救助、技術、外交

ダム決壊 = rompimento de barragem - ポルトガル語メディア
ダム決壊 = colapso de presa - あるスペイン語メディア

2019年1月25日の昼過ぎの事故だった。
ミナス・ジェライス州ブルマジニョ(Brumadinho - Minas Gerais)のVale(ヴァレ)社の鉱滓ダムが決壊した。
Vale社はブラジル最大の鉱業会社である。
Mina Córrego do Feijão(フェイジョン小川鉱山)20°07'09.0"S 44°07'27.1"W

このようなダムの目的は、鉱物採掘とその処理からできる鉱滓を貯蔵するのが目的である。
少し注釈すると映像から判断して、この鉱山には鉱石を溶解して精錬する処理は行われず、浮遊選鉱あるいは湿式製錬が行われるだけと思われ、その場合の鉱滓はスラグに対してスライムと呼ばれるとインターネットの知識には書いてある。
いずれも鉱山の残渣、つまり鉱滓である。

ダムを作って残渣を貯蔵する方法は、正しい処理方法なのか、それとも完全に正しくないのだが経済的理由で仕方なくそのようにせざるを得ない方法なのか、そこのところは不明である。
土の中から掘り出したものから利用対象物質を取り出して、その残りを土に戻すだけなら正しいと感じるが、処理に使われた酸・アルカリなどの余計で有害な物質が加わっていたなら重大な問題となる。
飲料や農業のため水を利用する、決壊の下流域は不安になるが、今のところは主成分はシリカ(二酸化ケイ素)であるから心配ないと言われている。
不都合なことが発見されて、問題が重大化する可能性はもちろんある。

ともかく、ブラジルの鉱山は露天掘りのところが多く、一次的な精錬処理された鉱物は鉄道などで輸出港へ運搬されるが、国土が広大であるから、余計な鉱滓をわざわざ他の場所へ移すという手間を掛けているという話を聞かない。
そのためどこの鉱山でも、鉱滓を貯蔵するダムなどは普通に多数存在する。

このようなダムを建設するときは、適当な谷間に例えば5メートルの堰を建設する→鉱滓を貯める→一杯になる→最初の堰の上に5メートルの堰を積み増す、というサイクルを繰り返して、ダムは段々畑のように積層状に高くなっていく、とニュースで説明していた。
5メートルは単なる説明例であり、本当は一段何メートルという基準や全高の制限などがあるのかは不明である。
ダムの素材は近くに豊富にある岩石や土砂そのものを使うのであって、内部に鉄筋コンクリートなどの強い構造があるのかもしれないが、基本的に岩石や土砂で作られるものだろう。
その分余計に厚い堰の厚みを必要として、比較的薄い非透水層を持つ構造となるだろう。
ダムに関するサイトをざっと見て、ブラジルの鉱滓ダムがどのタイプかと考えてみると、ロック(岩石)フィルダムかアース(土砂)ダムだろうと見当をつけてみる。

このような構造であるということは、運動会の組体操の人間ピラミッドの構造のように、しっかりとした設計に従って、最上段までの高さに応じて、下段は上部構造を安定に支えるだけの壁の厚みが必要だと素人目にも想像される。

仮に50メートルの高さのダムを設計しておいて、堰高が50メートルに達した時に、ブラジルは地震がないし、あと2段くらいは何とか大丈夫だろうと、当初の計画から外れて60メートルにしてしまうようなことはないと断言できるだろうか?

ダム決壊の原因は、設計(構造計算)の間違い、施工の間違い、メンテナンスの間違い、あるいはこれらの複合が考えられるが、鉱山エネルギー省、環境省、連邦検事局が原因解明に動き出している。

州消防・警察による救助活動と、Vale社への行政処分に先立つ資金確保のための強制執行はミナス・ジェライス州政府の手で行われている。

そしてここが外交が関与してくる部分なのだが、イスラエル陸軍の特殊部隊136名がイスラエル政府の特別機で16トンの資材を引っさげて到着して、行方不明者が集中しているVale社の事務所と食堂がある区域で、ミナス・ジェライス州消防と一緒に救助活動に入った。
この区域の泥の厚さは14~15メートルである。

イスラエルが携える技術は、まだバッテリーが残っているかもしれない行方不明者の携帯が発している信号探知、埋まる泥とその他の物質を区別できる探査映像処理、ドローンなどの例があげられた。

ブラジルのボルソナロ連邦政府とイスラエル政府の関係強化は、大統領就任前からマスコミが明らかにしている。
アラブ諸国は、日本などアジア諸国と共にブラジル産の鶏肉などの顧客であるから、あまりイスラエルと緊密になると、アラブのイスラム諸国への輸出に差し支えが出るのでないかという意見があるのだが、政府はそんなことをあまり構っていないらしい。

ブラジルは鉱業国であり、原油や鉱石の大規模な採掘には優れた技術と経験を持っているはずなのだが、設計や規則を厳守するという面で盲点はないのだろうか。
決壊したダムの最新の安全検査はドイツの第三者専門企業が行って安全であるという結果が出ているという。
すべての規制に従っていたのだが事故が起きたと言うなら、規制が緩かったわけだから、見直す必要が出てくるだろう。

一番近い先進国である米国は、もはや自国の得になること以外には手を出したくないと引きこもっている。
欧州は、自身の団結を維持する苦労に精一杯である。
イスラエルは周囲に味方してくれる国がない一方で、誇れる軍事・技術力を持ち、周りの目を気にしないで動ける自由を行使して、ブラジルで存在感を否応なく増している。

日本は地震の多い軟弱な地盤もものともせず、橋梁やトンネルを建設する土木建築技術や、地震や津波に対する知見と救助技術の経験を積んで、これらに優れているはずである。

救助の様子をテレビで見ると、3年前のマリアナの泥とは土質が違って、3日経っても表面が固くならないので、救助員は腹ばいで移動しなければならない部分があって、難渋している。
水害と液状化したような軟弱土壌での作業なのである。

日本政府がとにかく国際的に手柄を立てて、味方を増やしたいのならば、日本の近隣国には真似できない技術力を持つ援助を送って、ブラジルでアピールする良いチャンスだと思うのだが、遠すぎると遠慮しているのだろうか、要請が来るまで待つのか、そんな考えは持っていないようである。

2019年1月25日

12月は水木だったが、1月は木金

時間割やスケジュールの話ではない。

先月は水星と木星の接近観察をしたのだが、今月は水星は太陽に接近してしまうから見えず、一方で木星は太陽から離れてきているので、早起きさえできれば観察が容易である。

そして木星と金星が接近する。
アストロアーツの2019年1月下旬 金星と木星が接近や、国立天文台の明け方の空で金星と木星が接近(2019年1月)に情報がある。

2019年1月20日の日曜日、未明に雨が降っている音が聞こえた。
雨の音が消えたのに気づいて空を見た。
午前4時50分だった。
空の明るさと観察時刻の関係は次のようだったから、見たのは完全に夜間であった。
日の出時刻は夏至の頃から20分ほど遅くなっている。

事象EnglishPortuguês時刻
観察開始4:50
天文薄明Astronomical twilightCrepúsculo astronômico5:30
航海薄明Naval twilight (Nautical twilight)Crepúsculo náutico5:59
市民薄明Civil twilightCrepúsculo civil6:27
日の出SunriseAmanhecer6:51

この日はブラジルで皆既月食のみられる一日前で、西の空には、もののページによると「小望月(こもちづき)」と呼ばれる満月の一日手前が見られるはずだが、雲に隠れている。
しかし月明かりが雲をランプシェードのように照らして、雲はかなり明るい。
その雲の間に南から南東にかけて、ちょうど木星・金星やみなみじゅうじ座を見渡せるだけの大きさに、そこだけぽっかり窓が開いていた。
雨上がりの空気の透明度は極めて高く、夜空は黒く、星は際立つ。

窓の左にはひときわ明るい金星と次に明るい木星が、双眼鏡の7ºの視野の三分の五の距離で一望できる。
木星は日々高度を上げているが、23日の最接近までまだ日があるので、金星は木星より高い位置にある。
さそり座(Scorpius)のアンタレス(Antares)はさすがにその4倍位の距離にあるので視野には収まらない。

もっと右の南に当たる方向を見ると、正立したみなみじゅうじ座(Crux)が均整な形で天の南極を指している。
みなみじゅうじ座の十字架部分を双眼鏡で見ると、縦棒がちょうど視野に収まる大きさであるから、角度は7ºである。
南十字の上方に、3つの明るい星による、"へ"の字の左右を逆にした、いびつな傘のような三角形があり、左方には2つの明るい星が斜線を作っている。
調べたら、この斜線は"Southern Pointers"と呼ばれて、中点を通る垂直線が南十字の縦棒の延長線とぶつかる点が、天の南極を見つける方法となっている。

なお、天の南極には北極星のような明るく目印になる星は存在しない。
はちぶんぎ座(Octans)σ星がもっとずっと明るかったらα星と呼ばれて、南極星を名乗れて、南半球の全住民に見てもらえただろうが、5.4等と暗いので物好きな人しか見つけてくれずに、残念な星である。

正立したみなみじゅうじ座の上と左右の三方は、ケンタウルス座(Centaurus)に囲まれていて、これら5つの明るい星はα星とβ星(斜線)、γ星, δ星とε星(傘)つまりケンタウルス座で最も明るい5つの恒星である。
明るい雲にぽっかり空いた漆黒の窓に描かれた、輝く息をのむ惑星と恒星のコラボであった。

2019年1月22日

ワンダー一杯田舎バス

わが町の交通局バス代が市内均一料金4レアルになって1年くらい経つ。
4レアルでどこまで行けるか?
農場近くにある、数年前まで牛しかいなかった放牧地が、大区画の耕作・宅地混合分譲地になったため、1日に数便であるがバスが通るようになった。
路線は二地点の往復ではなくて、三角形を一周巡る形なので、行きは町の外郭のバスターミナルから15分以内だが、帰りは運行予定表によると40分位かかる見込みである。

夏時間の午後7時はまだ明るい。
旧牧場の土道にあるバス折り返し点で、帰りのバスを待っていた。
午後7時ターミナル発の最終バスは、予定より10分位遅れて7時25分ころようやくバス停を通って乗り込んだ。
最初から遅れかよ。

市内バスの車両についてだが、長距離バスとは全く異なる。
サスペンションが硬い、シートが硬い、ガタガタ騒音がうるさい。
聞いた話だが、ブラジルの都市内バス用車両にバス専用に作られた車体はなく、トラックのシャーシをそのまま使って、荷台の代わりに乗客を乗せる箱を付けてあるだけだという。
サンパウロ市のバスはもっと乗り心地が良かったけれど、地方では多分本当なんだろう。
だから乗り心地と騒音がトラックの荷台並みなんだ。
だれがバス会社を経営しても、新車は都心の黒字路線に使うのが当然で、路線の一部が未舗装の土道で、車両が汚れる上に車両構造に負担がかかる田園路線に使うはずがない。
だから田舎路線のバスは車体が古くて、ガタピシ音がうるさいのだ。

おばさん4人ほどの先客がいる。
前の方に陣取って、うるさく喋っている。
途中で別々の停留所から、一人ずつ青年が乗ってきた。

ダム湖近くの、川魚料理を出して酒を飲んでくつろげる、戸外スペースを利用した開放的なバルというかレストランが折り返し地点になっている。
市の中心部からは27キロ離れている。
田舎ではおなじみのセルタネージョ、ブラジル風カントリー音楽が大音量でかかっていて、踊っている人もたくさんいる。
道路脇の大きな木の周りのスペースを使ってバスは帰り道への方向転換をするのだが、場所にお構いなく乱雑に止めてある車が邪魔で、バスは方向転換ができない。
これだけ車がたくさん止まっていて、各車に一名酒を飲んでない運転者が必ずいるのだろうか気になるのだが、とりあえず忘れておく。
バスの運転手はエンジンを切って、邪魔な車の持ち主を探しにバルに行ってしまう。
しばらくして戻って来て車をどかす間、さらに10分ほど遅れた。
まだ明るさの残る、日曜日の午後8時を少し過ぎた頃だった。

ここで乗ってきた十数人の客は、車内後ろの方に散らばったが、子供を除いた半分が酔っ払い男、もう半分が酔っ払った女で、しばらくのあいだ非常にうるさかったが、すぐ静かになった。
眠ってしまったのだろう。
途中で後方で物が倒れる大きな打撃音がしたが、荷物が落ちた音か、泥酔した誰かが椅子からずり落ちて床に倒れた音か判別できなかった。
そんなことに構わずバスは快適に走る。

「肌黒男たちの小屋」という地点から、二か所目の土道に入る。
あたりはすっかり暗くなっていて、分岐や合流地点で本道と細道の区別がつかず、どう見ても農道としか見えない道を、バスは耐え難い騒音と振動を撒き散らしながらのろのろ進んでいく。
「昔話だったらいかにも山賊が出そうなところだ、誰の目も届かないところで、強盗が待ち伏せていたらひとたまりもないな」と想像すると、あまりいい気持ちはしない。

このあたりは牧場と耕作地で、昼間だったら人間の経済活動が十分感じられる場所なのだが、街灯も人家の明かりもまったくみえない暗闇の中で、頼れる光はバスのヘッドライトと室内灯だけだ。
さっきまであれだけはしゃいでいた連中が今は全く無音なので、実は毒物でも飲まされて全員この世の人ではなくなっていて、生きているのは私たちだけで、次元の狭間を走るバスで異次元へ連れ去られる、「きさらぎ駅」のブラジルのバス・バージョンかと、妄想だけがふくらむ。

道が一番低くなっていて、小さな川に橋がかかっているあたりで女性が一人降りた。
こんなところで一人で?
人間の女性だと信じたい。
「水源の保護人」と看板がある。
大都市の水源を涵養する農家が、都市から報酬を受け取る制度がアメリカ合衆国にあるが、ブラジルでも同様のシステムがあるのだろうか。

ほどなく次の目的地、「泉」と呼ばれるところを通過して、やっとアスファルト舗装国道へ出た。
路線図では「マリエルザ集落」というところは、別路線のバスが運行していて、このバスは通過するはずなのだが、なぜか集落に入っていく。
集落内は未舗装だ。
慣れない運転手が道を間違えるので、前に乗っているおばさん方がうるさく道を指示している。
4人のおばさんたちはこの集落で、それぞれ別の場所で降りていった。
自分の家に近いところに無理やり止めてもらっている感じがした。
バスがタクシー化している。
この集落を出て、市街区域に入ってバスターミナルに着いたのは午後8時50分だった。
行きの旅はターミナルから13分ほどに過ぎなかったのに、帰りは1時間30分かかり、いろいろなワンダーが続く、全く対照的なラウンド・トリップであった。

バスターミナルで係員にいつもこんなに時間がかかるのか尋ねたら、「2つの路線が合わさっているから」と謎の回答だった。
車両故障のためか、客が少ないからかわからないが、勝手に別々の路線をくっつけて運行してもらったら困るよ。
客が少ない田園地帯ではよくあることなのだろうか。

途中で降りなければ4レアルで一周28キロ、1時間40分の安い「田舎一巡り」ができる。
昼間の顔と夜の顔を比べるのも一興であるが、他人には勧めない。

2019年1月6日

安室、Amro、AMLO

普通の日本人、昭和から平成の?日本人にアムロと聞いて何を想像するかと問えば、安室奈美恵と答えると思う。

一部のブラジル人、私自身が口座を持っていたから特に連想するのかもしれないが、amroと聞くと、ブラジルの金融界において、現在はスペインのSantander銀行と合併して名前がなくなった、オランダのABN Amro銀行のことかなと思う。

最近新しいのが出てきた。
昨年2018年12月1日に就任したメキシコの新大統領アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(Andrés Manuel López Obrador)大統領の名前が、スペイン語の記事では頭文字をとってAMLOと表記されているものがある。
メキシコ人にアムロは誰と聞いたら、大統領と答えるだろう。

ブラジルにも報道記事の中では頭文字で表現された大統領、FHCつまりFernando Henrique Cardoso(任期 1995-2002)がいた。
二代前にFernando Collor de Melloと、同名フェルナンドが存在した(彼はコロル大統領と呼ばれていたが)のと、カルドーゾはかなりありふれた名字であることが理由だろうが、記述でなく発声される場合には、プレジデンテ(チ)・フェルナンド・エンリケ(エンヒッキと聞こえるが)・カルドーゾとフルネームで呼ばれることが多かったように思う。

メキシコの大統領絡みの略称で、もう一つ印象に残るのがある。
彼の所属政党、国家再生運動(Movimiento Regeneración Nacional)であるが、略称は3つの単語からそれぞれの初めの二文字をとって、MORENAというのである。
モレナまたはモレーナとは、特にブラジルでは褐色の肌の女性のことである。

国家再生運動についてのWikipediaポルトガル語版も英語版も、「メキシコの守護聖人であるグアダルーペの聖女(Nuestra Señora de Guadalupe)を暗示している」と書いてある。
英語版では"Tanned Virgin (Mary)" Our Lady of Guadalupeと注釈してある。
しかし、スペイン語版にその記述が見つからないのは不思議である。

2019年1月5日

リマ・グループ対ベネズエラ同調組

リマ・グループというものがある。
これはペルーの呼びかけでベネズエラに民主主義を取り戻すことを目的として、賛同する南・中央・北アメリカの13カ国で2017年に結成された。
リマはペルーの首都である。

2019年初にあたって、アメリカ大陸の「旗色」を明確にしておくことには、国際情勢を理解する助けになるだろう。
13カ国とは、Argentina, Canadá, Colômbia, Costa Rica, Chile, Guatemala, Guiana, Honduras, México, Panamá e Paraguai(以上11カ国名はポルトガル語表記)、つまりカナダ、メキシコ(以上北米)、コスタリカ、グアテマラ、ホンジュラス、パナマ(以上中米)、アルゼンチン、コロンビア、チリ、ガイアナ、パラグアイにペルーとブラジル(以上南米)を加えた国々である。
ベネズエラから難民が直接入ってくる陸続きの、ガイアナ、ブラジル、コロンビア3国は全部入っている。

加入していない国をあげると、アメリカ合衆国(北米)、ベリーズ、エルサルバドル、ニカラグア、カリブ海全部(以上中米)、スリナム、(仏領ギニア-独立国でない)、エクアドル、ボリビア、ウルグアイ及び焦点となっているベネズエラ(以上南米)である。

アメリカ合衆国はグループのメンバーではないが、目的には大いに賛成して、オブザーバー参加(テレビ会議)を通してグループの後押しをしている。

ニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)現大統領は今月、2019年1月10日に次の6年の任期に入る。
ニコラス・マドゥロ大統領は、ウーゴ・チャベス(Hugo Chávez)の死後、副大統領から2013年4月に憲法に則り大統領に就任した。
2018年5月に大統領選挙に彼自身が当選したのだが、選挙では不正があったとされている。
そのためリマ・グループは、ベネズエラのニコラス・マドゥロ現政権の継続を承認しない決定をした。
2015年の選挙で選出された国会が、自由選挙が実施されるまでの正統なベネズエラ政権者であるとする。

議長国のペルーは、グループメンバーがベネズエラと断交をしようという強硬な提案をしたが、そこまでの合意はできずに、ベネズエラの要人の入国禁止、経済制裁などを行ってベネズエラを絞め上げようという結論となった。
全会一致でなかったのは、国家再生運動(Movimiento Regeneración Nacional)のオブラドール(Andrés Manuel López Obrador)大統領が2018年12月1日に6年の任期で就任して、13カ国内で唯一の社会主義政権となったメキシコの反対があったからであり、メキシコはリマ・グループの決定に署名をしていない。

日本ではあまり報道されていないだろうが、物不足の深刻なベネズエラから、ここ数年で逃げ出したベネズエラ人は2百万人を数えている。
よくベネズエラ国民が耐えているなあと疑問に思うものだが、産油国であるから石油生産を押さえている独裁政権は、豊かとは言えなくても金に困ることはないし、票田となる労働組合員や特定の社会階層には苦しい思いをさせないようにして過半数を確保しながら、一方では野党勢力を逮捕して選挙参加させずに政敵を追い落として、強権を使って独裁を維持しているのだろう。
北朝鮮やシリアと全く同じ匂いがするのである。

2019年1月1日

赤嫌いボルソナロ大統領就任する

2019年1月1日は4年に1回起きる、共和国大統領と各州の州知事の就任式の日である。
初詣のような正月の行事がないブラジルの、年越しのパーティーで疲れて何もかも止まってしまったような元日の午後に、式典の中継を見るともなく流していた。
並行して行っている他のことの手を止めてまで、テレビの前に歩いていくほど注意を引いたことを書く。
だから報道を改めてチェックする手間を省いた第一印象のみであるから、ある程度の勘違いと情報漏れは十分にありうることに注意してほしい。

議事堂で行われた就任・宣言書類署名の儀式で、上院議長の演説があった。
連邦上下議員も大統領と同日選挙だったが、式典の指揮は議会議長によるものだから、旧議員が行うようだ。
再選が叶わなかったエウニシオ・オリヴェイラ上院議長にとっては、悔しいが最後の大仕事だったと思う。

ボルソナロ第38代共和国大統領が観衆の前で2回目の(1回目は議事堂内)演説をする前に、大統領夫人が手話で演説をした。
ミシェリ夫人は前から障害者を助ける活動に携わっているため、手話は付け焼き刃でなく、音声は別の人に任せて自身は手話のみの演説をした。
就任式で一番感動的な場面だった。

大統領の2回めの演説で注意を引いた点をあげる。
  • 汚職・特権の撲滅
  • 党利のための政府役職分配の習慣から脱する
  • 悪党を保護して警察を目の敵にするような間違ったイデオロギーを正す
  • 武器の所有と正当防衛の権利を尊重する
  • 対外的にはブラジルに利益をもたらす国際関係を重視する
  • 締めは「すべての上にブラジル、すべての人々の上に神」(Brasil acima de tudo, Deus acima de todos)という選挙運動中からおなじみのレンマ
もっといろいろなことを言ったが、以上はこれまでの大統領にない特別に目立った点である。
大衆向けであり、演説自体はかなり短かったが、終盤でブラジル国旗を広げてみせて、「これがブラジルの色だ、再び赤くなることはない、なるとしたら我々の血の色だ」と勇ましい明言をした。
名指しはしなかったが、もちろん労働者党(PT)とそれに連帯する左翼勢力のことである。

就任の挨拶を来賓から受ける時の序列は、次のようになっていた。
招待されなかった国は、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアであった。
  1. メルコスル(南米共同市場)-パラグアイとウルグアイ
  2. ポルトガル(旧宗主国として尊重しているのか、伝統を共有しているからか?)
  3. メルコスル以外の隣国-チリとボリビア
  4. 中央アメリカ
元首(大統領)の中では以上の序列であったが、次に来るのは首相・副元首、閣僚級、国際機関代表と続くようであった。

ボリビアのエボ・モラレス(Evo Morales)大統領は、社会主義運動つながりでPTのルラ元大統領と親しく、ボルソナロ大統領就任式には出席しないのではと思われたが、ブラジルは戦略的に重要な隣国であるから挨拶だけは欠かすまいと考えたため、参席してお祝いの言葉を交わしていた。

首相で最初に登場したのはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相で、先週金曜日から夫人と共にブラジル訪問している。
既にボルソナロ大統領は、時期は不定であるが、ブラジル大使館をテルアビブからエルサレムへ移転する意向を表明して、ブラジルとイスラエルの緊密な関係が予想されていた。