2019年4月21日

その後のキューバ人(医師)

題名に(医師)と、括弧を付けたのには意味がある。
昨年まではブラジル国内の医師資格を所持していなくても、プログラムの効力によって、ブラジル国外で取得した資格のみで医師として、主に過疎地域の住民を診療してきたキューバ人は、現在はブラジルで医療行為ができないからである。

労働者党(PT)政権が2013年に始めた「もっと医者を」プログラムは、2019年1月就任の赤嫌いボルソナロ大統領が、キューバ政権と袂を分かつために中止したものだが、その後の情報が最近報道されたので記しておく。

プログラムが中止された2018年12月の時点で約8千5百人いたキューバ人医師は、本国へ帰国か、ブラジルで医師以外の仕事に就きながら資格有効化試験に合格してブラジルの医師資格を取得するかの選択を迫られた。
2019年4月18日のGlobo局報道によると、8千5百人の内、2千人ほどのキューバ人は本国に帰国せずにブラジルで生活していく道を選択した。
帰国組76%、居残り組24%という割合であった。
4人に1人が居残りとは、なかなか高いのではないか。

サンパウロ市から西方へ約100キロの地点にソロカバ(Sorocaba)市がある。
この町に今年キューバ風バーができた。
キューバ風に飾った飲み屋で、キューバ音楽をかけて、キューバのドリンクや料理を供する。
料理人もウェイターも従業員は皆、元キューバ人医師であるのが特徴だ。
元キューバ人医師がバンドを組んでキューバ音楽を奏でたら完全だったろうが、ミュージシャンはいなかったようである。

ブラジルでは一般化して、アプリカチーヴォ(aplicativo)の運転手と呼ばれる、Uberなど配車アプリのドライバーになった人もいれば、エステサロンでエステティシャンになった人もいる。
いずれにしても昨年まで、診療所で治療をしてあげた元患者たちが、お客としてついてくれるようで、慣れない職業についたのだが客が全然来ないという、苦しい状況ではないように見受けられる。

そして誰もがブラジルでの医師資格取得を目指して、難関の医師資格有効化試験への勉強にも励んでいるようである。

ボルソナロ政権のもとで、キューバ人医師の抜けた穴をブラジル人医師で補充しようと、昨年12月には募集採用が行われ、新卒無経験の医師までかき集めた形で定員をほぼ充足したのであった。
それから3ヶ月経ったのだが、約1千5百人の新任ブラジル人医師は、早くもポストを辞退して、特に過疎地の診療所で医師不足になっているところがある。
資格を取って欠員補充に応じさえすれば、キューバ政府に報酬のピンハネをされることなく、まるまる自分の収入になるのだから、試験勉強にも身が入るはずである。

マスコミが絵になる映像を求めて、ヤラセや仕込みをすることは洋の東西を問わないから、これも作られた映像だろうと思って見ていたのであるが、壁に吊るされた、"Dr.〇〇"とネーム刺繍の入った白衣と聴診器を背景にして、分厚い本を開いて試験勉強に励む姿には、悲壮感はない。

しかしながら、報道によると現在のところ、ブラジル政府は次回の試験の予定を発表をせず、時期は不定のままである。

2019年5月2日追加

昨夜、キューバ人医師の抜けた医療過疎地のルポ番組を見た。
家族をキューバに置いてきた男性は、インターネット上のメッセージアプリで幼い子供を見て、会えるのは8年経ってからと言った。
キューバ政府の帰国命令に従わずにブラジルに居残ったキューバ人(医師)は、8年の禁止期間を経た後でないと本国へ帰国できないそうである。

2019年4月17日

ブラジルの架電ロボット

これが字違いの「家電ロボット」だったら、ブラジルにもこんな進んだものがあるのかと誇ることができただろうが、残念ながらそうではなく、「架電ロボット」である。
機械的ロボット(robot)と区別するために、IT界では、ロボットの短縮形のボット(bot)がしばしば使われる、という記述があるから、それに従うと、架電ボットとなるだろう。


前に、セールス目的と思われる謎の電話の瞬切りについて、ブラジルの不審電話に書いた。
これについてある日のニュース記事に解説がされて、ボットのせいであることがわかった。

何が目的で、どのような仕組みでボットが働くのか。

携帯電話や一般家庭の固定電話に、ひっきりなくセールスの電話がかかってくる。
インターネット接続、衛星やケーブルテレビの契約、携帯電話、クレジットカードのセールスが多いようである。

特に、携帯電話と異なり、必ずしも発信者番号通知機能が備わっているとは限らない固定電話にかかって来る発信先に、ブラジルの通常の電話番号規則から外れている、一目で怪しい不審番号が多い。
0022222222とか0033333333とか、インターネットに接続されたボットが、実在しない番号を適当に装って付けているのだろうか。

ある一人のテレフォンオペレーターが、セールス通話を終えて手すきになったとしよう。
オペレーターの目の前の端末が属する潜在顧客番号管理システムの架電ボットは、前回架電してからある程度時間の経っている番号から、たった一つだけではなく、任意に7つの番号を選んで同時に架電する。
7つの架電先の中で一番先に受話器をとった番号がオペレーターに接続されて、要りもしないモノをなんとかして売りつけようとするセールストークと戦わなければならない不幸な目に合うのだが、残りの6つの番号は次のオペレーターの手がすくまで保留されるのでなく、通話は破棄される。

つまり、目的は電話呼び出し時間の最適化と、応答率向上であるということができる。
そして、通話破棄と呼び出し切断のタイムラグの中で受話器を取ると、もう切れているというワン切り的状態になることが判明した。

日本とブラジルで電話のシステムは同一でないだろうし、両国で電話による取引に関する規制も異なるだろうから、ブラジルで起きるような「ワン切り不審架電」が、日本で起きうるのかどうかはわからない。
こんな通話が病人のいる家にひっきりなしにかかるのではたまらないだろうが、日本と違ってブラジルでは、週末のフェスタの大騒ぎなど、隣家の騒音にかなり寛大であるから、ワン切り不審架電くらいでは国民的大問題になることがないとは考えられる。

それでも、夜8時から翌朝8時まで、及び週末はこの手のセールス通話は禁止されていたと思う。

2019年4月8日

水星に突然の邂逅

2018年12月の南半球の夏至のころ、次のように書いた。

水星は、わざわざ「観察するぞ」と意気込んで、しかも一年の中でどの時期のどの時刻にどの方向を探すべきか、あらかじめ調べておかないとなかなか見ることができない。

たしかにその通りなのだ。
2018年12月には、水星は西方最大離角にあって、暁の東の空に見えた。
見通しの良い場所を求めて、1キロ位歩いて公園に行った。
実は家の前の通りに出るだけで、屋根の低い場所を東方に探せば見つけることはできた。

2019年2月19日には、わが家の西側の通りに面した高い塀にはしごを掛けて、塀の上に顔を出し、日没後間もない19時から19時15分ころまで、西の空に東方最大離角を迎えようとしていた水星を見つけた。

いずれにせよウォーキングをしたり、塀まで登り、双眼鏡を使うという、コストと言うか手間を掛けなければ見つけられない高度と明るさだった。

しかし、偶然に出会うということもあるのだ。

2019年4月7日朝5時45分のことだった。
家のダイニングからは東の空が見える。
その方角には通りと反対側の隣家の塀がある。
データに示すとおり、少しずつ明るくなっていく直前の、暁の夜空だった。
塀のかなり上に金星が見えた。
そのすぐ下に、明るさが及ばないため、金星よりは小さいが、この暁の東の空の明るさに負けない光点がある。
手持ちの双眼鏡の視野にぎりぎり入ったから、距離角度は6.3ºである。
こんなところにこんなに強い光を放つ星があるとは、もしや水星ではないかと、スマホのSky Mapを作動させた。
やはり水星だった。
事象EnglishPortuguês時刻
天文薄明Astronomical twilightCrepúsculo
astronômico
5:08
航海薄明Naval twilight
(Nautical twilight)
Crepúsculo
náutico
5:33
観察開始5:45
市民薄明Civil twilightCrepúsculo civil5:59
日の出SunriseAmanhecer6:21
肉眼で目視できたのは最初の瞬間だけで、早速取ってきた双眼鏡で2分ほど観察できたものの、地平線側に湧き起こってきた雲に隠されてすぐに見えなくなってしまった。
いや、儚い邂逅であったものよ。

後から日本の天文サイト、アストロアーツを見たら、2019年4月12日 水星が西方最大離角ということである。
しかし、記事によると、東京での日の出45分前の水星の高度は約3度というから、よほど東方に何もない開けた場所でないと見えないのではないか。

疑問を解くために、以前も参照したさいたま☆天文同好会の内山茂男氏による、水星の最大離角をみる。

西方最大離角のときの日出時高度というグラフを見ると、4月初旬のころ、パースや赤道の南半球側では高度が一年中で最も高く25度位、反対に北半球の埼玉では12度位と、水星の見やすさは大違いである。

たしかに東側の塀の高さは、手を伸ばした握りこぶし2つ分くらいなので、山上企画天文情報いろいろの手の分度器~身体を使った角度の測り方を参考にすると、約20度とみる。
それより少し高いところに見えるのだから、水星の高度は二十数度だろう。

星見アプリを使ったり、天文サイトを参照する前に水星を見つけることができたのは、これまでに何回かこの惑星を探して観察していた経験があったからだと思うが、旅行中これまで行ったことのない町で、旧知の人に出会ったような驚きを感じるものだ。

家から一歩も出ずに窓越しに、高度が低く観察条件が限られている水星が見えるとは、全く予期していなかった。

2019年4月1日

令和前1月雑感

紀元前○○年という言い方に従うと、今日は令和前1月である。

頭文字だけでも当てたかったが、私推しの"K"ではなく、"R"となった。

令和である。
今変換を試みても、Google日本語変換の候補に引っかからない。
令和の披露後、初めてパソコンを起動して1時間も経っていないからまだ反映されていないのだろう。

まず気づくのが昭和との一字一致である。
きっと現代の有識者と評されるはずである、元号考案者も審議会も、昭和の記憶を忘れられない人たちなのだろう。
新鮮さに欠けて、少し残念である。

誤解をしないように、「令」について、昭和時代の紙の漢和字典「新字源」から写しておく。
一、いいつける。命じる。つげる(告)
二、いいつけ「命令」
三、おしえ。いましめ。
四、のり。おきて。法律。「法令」
五、おさ。長官。「県令」
六、よい(善)
七、他人の親族に対する敬称。「令兄」

万葉集から引いた「令月」は、この字典によると、
一、よい月。「令月令日」
二、陰暦二月の別名。

万葉集のある歌会についての、漢文で書かれた序文では、「初春令月、気淑風和」。
「初春のこの良い月に、気は良く風はやわらか」という意味(国文学者の辰巳正明氏の説明)。
よし、原典の意味はわかった。

つぎ、平成からの流れを考える。
平成と令和の文字を並べ替えると、令成和平→冷静和平となる。
何かと感情的にアツくなることが多いが、冷静になって和平を追求せよ、というメッセージが込められているのだと無理やり考えてみる。
そんなわけないか。

タカナワ、と来たら、ゲートウェイと続くが?
レイワ、だったら、ピース・エラとかなるのか?
令和ピース・エラ元年!
元号に余分なものがつかないように、地名・駅名も変な修飾はみっともない。

外国語との読み替えである。
ブラジル人にReiwaを読んでもらうと、地方による訛りはあるだろうが、「ヘイワ」と読む人が多いと思う。
当然「平和」と聞くことができるから、良い印象である。

スペイン語だと、Reiwa の字を等音的に書き替えて読むと、(El) rey va 王様は行く、という意味になるが、これはあまり意味的なこじつけをしにくい。

BBCは「令和」の訳を"Order and Harmony"または"Order and Peace"としているようだが、ブラジル国旗の中の文句"Ordem e Progresso"(秩序と進歩)と通じるところがあるのが少しうれしい。
原典の意味に忠実に従うと、"good and bland"となるのだろうが、会話でたまたま「それはどういう意味かい?」と聞かれるときにその答えは、その時点で固まっているであろう定説に従うことになるだろう。

最後に戯れ言をひとつ。

令和年間は、算数・数学教師をはじめ数学者災難の時代だね。
毎年ごと、0(れい)は1(元)年、0は2ね(ん)、0は3ね(ん)、0は4ね(ん)と、無理難題というか、無茶な命題をつきつけられるからね。