2019年11月28日

安くて危ない飲み物

先週、路上生活者のグループが路上の酒盛りで怪しげな飲み物を飲んで、4人死亡4人病院搬送という事件が、サンパウロ大都市圏のバルエリ(Barueri)で起きた。
当然毒物中毒が疑われた。
その後、多分ブラジルの安酒の代表ピンガだと思われるが、飲み物に混入したコカインの中毒であったことが判明した。
第一容疑者が入院中の一人であるため、誰が何の目的で持ち込んだかはまだ明らかにされていない。

ニュースを聞いて記憶した数字では、焼酎1ml当たりコカインが50mg混入していたという。
早速興味が湧いて調べたことを書く。

1ml当たり50mgということは50/1000=5%もの高濃度である。
ピンガがアルコール度数35%として、それに5%のコカインを加えるのだから、40%もの有効(善悪関わらず効果があるという意味)成分を含む飲料となる。
それだけ大量のコカインを飲み物に加えると味は変わるし、精神への効果がすぐに現れるだろう。

中毒にかかった路上生活者たちがこれまでにコカイン入りピンガを飲んだ経験があったかどうかは不明であるが、初めて飲んだとしても、「お前いつもと違って今日はいい酒を持ってきたな、酔い心地がとても愉快だ」ぐらいの会話で、特に詮索することなく終わってしまったのではないか。
すぐに怪しんで「これは危ない、みんなちょっと待て、飲むな」と警告するような注意深い者が誰もいなかったからこそ、被害者が多くなったのだろう。

日本の警察の平成3年警察白書を見た。
コカインの致死量は1.2gとある。
胃か腸の消化器から吸収された場合にこの数字通りなのかわからないが、少し余裕を見て1.5gとすると、バルエリ事件のピンガの30ml、つまりシングルワンショットを飲めばあの世行きとなる計算である。

どれだけの量のボトルを持ち込んだのか。
ペットボトル500ml 1本でシングル30mlは16杯とれるから、8人殺して余りが出る。

この飲み物を日本国内で調製するという反社会行為をするのに、いくら金がかかるか。
2019年3月の日本経済新聞の記事でコカイン1gの末端価格が2万円という。
50mg/mlの500ml分を計算すると必要なコカインは25gであるから、ピンガの値段を外しても50万円である。

参考にすることがあるかもしれないから、新聞記事から一文だけ引用しておくが、元ソースは警察庁である。
「18年調査での1グラム当たりの末端価格は、覚醒剤6万円、大麻5千円、コカイン2万円、ヘロイン3万円という。」

時期も場所も異なる別の、売人摘発事件のローカル報道だったが、マリファナの小売価格は25gが80レアルだと言っていた。
1レアル26円で計算したマリファナ1gは83円である。

一般的に農畜産物の値段が日本より安いブラジルであるが、安いから試してみたい、という気にもならないので、農産物には違いないがこの種類の物の値段が安くてもあまりうれしくない。

2019年11月24日

ブラジルにベネズエラのウルトラヘビー・ゲリラ・アタック

格闘技の話ではない。
ましてやベネズエラ国民やベネズエラの国家が、ブラジルに攻撃を仕掛けたわけではない。
ベネズエラに由来する、ある物体がブラジルを攻撃しているのだ。

8月終わりからブラジル北東部海岸へ原油が漂着するようになって、もう少しで3ヶ月になろうとしている。
最初報道で見たときは浮遊原油による巨大な汚染海域は見られなかったので、すぐに終わるものだろうと思っていた。
しかし一度汚染除去された海岸に再び油が漂着するだけでなく、汚染海岸は範囲を増しながら、このニュースは毎日繰り返されてきた。

しばらく作文を放って置いてから書き足している。
ブラジル北東地方の9州は、海岸線の長短に差があるものの、すべて海岸を持っているが、軒並み原油が到来した。
そして南側の原油汚染到達最遠部は、ブラジル南東地方に入り、エスピリト・サント州を越えて、リオ・デ・ジャネイロ州北部まで届いたと先ほどのニュースは言っていた。
結局11州の160以上の郡市にまたがる720地点以上が汚染地点となった。
11月下旬になって、時々以前の場所への汚染の戻りがあるものの、海流のため汚染原油の到達地はより遠くに、また広域に拡散されたため一つの地点での汚染量は少なくなっている。
11月22日のニュースでは、手のひらにのせた豆粒大の原油塊を7~8個見せてくれた。

ブラジルを襲った原油汚染の様相について考える。
水や海水に油を落とすところを想像してみよう。
普通、水面に薄く広がる油膜を思い浮かべる。
しかし最近ブラジル北東部海岸に漂着した油は、オリーブオイルのようなさらりとしたものではなく、原油、それも超重質である。

これを形容するのにどういう喩えを使ったら良いのかわからず、少し調べた。

コールタールはその英語綴り(coal tar)を見たらわかるように、石炭からできるものである。
私の記憶では、粘度は高いがどちらかというと液体であって、刷毛で物の表面に塗ることができるだろう。
もしかしたらクレオソートと混同しているかもしれない。

一方、道路を舗装するアスファルト(asphalt)は、コールタールと似ているが、石油からできるもので、道路が液体だったら困るから、灼熱の日でなければ、常温で固体のはずである。

ブラジルを困らせているのは、粘度が両者の中間的に見える。
原油塊を手で掴んで海岸を清掃するボランティアの作業動画をみると、粘体の水飴のような硬さである。
液体より固体に近い。
なおこの粘体に直接触れると毒性があることがわかってきてからは、手袋・マスクなどを着用するよう注意が出された。
事態を重く見た連邦政府は軍隊を動員して汚染原油除去を行い、海軍の艦船や航空機は沖から汚染監視を行うようになった。

ベネズエラの超重質原油は、その国土を流れる南アメリカの大河、原油を産出するオリノコ川の名をとって、オリノコ・ウルトラヘビーとか言うらしい。
強そうな名前だ。

このウルトラヘビーがどれだけ重いかというと、蒸留するときに軽質油を加えて流動性を高める必要があるくらいである。
重質原油しか生産しない国は、精製のために軽質油を輸入しなければならないし、そもそもアスファルトのような重い成分が余るのに対して、沸点の低い揮発性の高いガソリンとかケロシンとかの、商品価値の高い成分が足りないと輸入の必要性は高まる。

海洋の海面近くの海水温は、当然気温に近い。
熱帯の海水温は高いので、その密度は小さい。
一方海洋の深海の水温は、日光の熱がほとんど届かない場所だから、どこの気候帯でも総じて低く、密度は高いはずである。

海流や風の影響で、海水中に水温の異なる層がはっきり分かれることがあるらしい。
熱帯の海洋の垂直温度分布を模した、密度が完全に異なって混じり合わない2つの液体層からなるビーカーに問題の原油を入れてやると、どろりとした原油は浮くでもなく沈むでもなく、2つの層の境界に浮かぶように留まるのだ。
飛行機などで上空から、深度の深い沖合を観測したときに原油塊を確認できないのに、岸に接近すると海水層の厚さが減るので、明るい海底の色とのコントラストが真っ黒な原油を浮かび上がらせることになる。
それがゲリラ的に原油塊が突然出現する理由と思われる。
原油塊が水面に浮かばない間は、浮かぶ油層を取り囲み拡散を防ぐオイルフェンスも使えないので、沖合で汚染を拡散前に一網打尽することもできない。

攻撃してくるのはベネズエラ産ウルトラヘビーなのだが、それを撒き散らした原因はいわゆるブラックシップや海賊船ではなく、ギリシャ船籍のタンカーであることが解明して国際的な調査が進行中である。
観察された原油の拡がり方から過去をシミュレートして推定した時期と海域を通過した、ベネズエラから原油を積み込んだ船を絞り込んだ結果である。
船主は自分の船であるわけがないと言って責任を逃れようとしているが、どのような成り行きになるかが注目される。

原油の国際価格の標準の一つはアラビア湾岸産の原油、アラビアン・ライト(Arabian Light Crude Oil)であると聞いたことがある。
昔の話である。
今の今まで「北海ブレンド」とは、北海産の原油をコーヒーのようにブレンド(blend)したものかと想像していたのだが、それは間違いで、(北海の)ブレント産原油(Brent Crude Oil)ということだ。
北海産のいくつかの原油をブレンドしたものというのもあって、これこそがBrent Blendとなる。
時代と共に前者から後者へ指標油種は変わった。
オリノコ・ウルトラヘビー原油(Orinoco ultra-heavy crude oil)は、名前だけは強そうだが、いや本当に環境に与えるダメージは大きいのだが、商品価値となるとこれらの油種よりかなり低そうである。

日本商品先物振興協会の原油の商品特性を見た。

原油の軽重(比重)によって、超軽質から超重質の区分がある。
原油からの製品で価値が高いのは、軽質の区分である。

硫黄・硫化水素の多少によって、サワー(すえた)原油(含有量が多い)とスイート(あまい)原油(含有量が少ない)の区別がある。
味覚の好みはもちろん人それぞれだが、原油に使われる意味では間違いなく、甘味は酸味より優れている。

2019年11月21日

フラメンギスタのリマ巡礼

11月となると、ブラジレイロン(Brasileirão)と呼ばれるフットボール(サッカー)のブラジル選手権(Campeonato Brasileiro)が終盤にかかっているが、2019年はフラメンゴ(Clube de Regatas do Flamengo)が断トツ1位を走っている。
クラブの正式名からわかるように、元々はレガッタのクラブから発したようだ。
フラメンゴはリオ市内の海岸の地名である。
燃える理由はブラジレイロンだけでなく、アルゼンチンの名門リーベル・プレート(正式名はクルブ・アトレティコ・リーベル・プレート Club Atlético River Plate)とリベルタドーレス(南米クラブ選手権)の決勝を戦う日が近づいている。
2019年11月23日、今週の土曜日である。

当初この決勝戦はチリの首都サンティアゴで行われる予定だった。
しかし、確か数円か数十銭の地下鉄運賃値上げから発して拡大暴徒化している反政府デモのために、世界環境会議開催地もこの都市からスペイン・バルセロナに変更されて、環境少女グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)が再び飛行機を使わないでどうやって大西洋を越えるか困る状況に陥ったのだった。
この子は、キロメートル・人だったか、距離と輸送重量の積の単位当たりで計算すると飛行機の燃費が非常に優れることを聞いていないのだろうか?

グレタ少女のことはともかく、同じような目にあった人が数千人いるのである。
リベルタドーレスの決勝戦がチリのサンティアゴからペルーのリマへ変更されて、航空券の変更手配や、その他、主にバスでの陸路旅行計画に右往左往するフラメンゴのサポーター、フラメンギスタ(flamenguista)である。
この有名なチームがリベルタドーレスに優勝することになったら38年ぶりだというので、連中は苦労しながらも旅行準備に嬉々としている。
スペインのサンティアゴ(Santiago de Compostela)は巡礼で有名だが、チリのサンティアゴ(Santiago de Chile)ならぬペルーのリマで願いが実現する瀬戸際なのだ。

ブラジルからサンティアゴへ応援しに行く予定だった数千人、アルゼンチンの敵チームの連中も含んだら、ことによると数万人の目的地が土壇場でリマになったのである。
記憶に間違いがなければサンパウロからサンティアゴへ国際バス定期便があったはずだか、リマへ路線バスが出ているという話は聞いたことがない。
飛行機はかなり臨時便が出ていると思うが、バスを借り切るグループも多い。

南アメリカ大陸とヨーロッパ大陸が異なる点がいくつかある。
ヨーロッパ大陸のように、鉄道や道路で容易に隣国へ渡れるところばかりではない。
南アメリカ大陸は大きな盆地のようで、内陸に広大な熱帯雨林(北の方)や乾燥地帯(南の方)があり、人口密度が極めて低く、陸上交通の便が悪いし、水上(河川)交通は時間がかかりすぎる。
一つ一つの国土が欧州より大きい。
旅客列車が走れる鉄道網は皆無で、網が粗い道路網は保守が悪い。
だから南米大陸は海岸沿いで行ける縦断はともかく、横断を陸路で行うのは相当覚悟が必要だ。
ブラジルとペルーは隣国だが、道は遠い。

飛行機の直行便が取れなかった人や、貸し切りバスで移動する人のルートを南アメリカ地図上で見ると、いずれも大迂回の大旅行なのである。
陸路の最短距離を取ろうとするとボリビアを横断しなければならないが、現在大統領選挙結果が疑問視されて混乱しているこの国を避けて旅行しなければならない。
こんな目的の長距離旅行をすることは自分にはないだろうが、面白いのでニュースで紹介されたいくつかのルートを記録する。

  • 国内線2つを国境陸路越えで結ぶ
    Rio de Janeiro-RJ -(飛)-> Rio Branco-AC -(チャーター車で国境越え)-> ペルーPuerto Maldonado -(飛)-> Lima
    車で国境越えと簡単に言っても今見たら570キロもあるでないか、多分1日旅程
  • 全行程貸切バスのボリビア南迂回ルート
    Rio de Janeiro-RJ -> Foz do Iguaçu-PR -> アルゼンチン国土通過 -> チリ国土通過 -> ペルー入国 -> Lima
    一番道路状況が良さそうな陸路
    でも月曜日出発でリマ到着は金曜日予定、つまり5日の旅
  • 全行程空路
    ペルーに比較的近い内陸部に住んでいるから、航空運賃が多少安くなるのではないかと思うと裏切られる
    直行ルートがないので地図を見るとぐるっと半回転して距離を稼いでいる
    Palmas-TO -> São Paulo-SP -> Foz do Iguaçu-PR -> Lima
  • 全行程貸切バスのボリビア北迂回ルート
    Rio de Janeiro-RJ -> São Paulo-SP -> Campo Grande-MS -> Cuiabá-MT -(やっとこの辺りが旅程の中間)-> Porto Velho-RO -> Rio Branco-AC -(ブラジル・ペルー国境)-> Puerto Maldonado -> Cusco -> Nazca -> Lima
    悪路に立ち向かうこのグループは既に昨土曜日にリオを発っているから、7日がかりの楽しいバスの旅である

陸路は5千キロないし6千キロの距離がある。
当然だが心の洗われる巡礼の後には、みんな帰ってこなければならない。
貸切バスの人たちは往復料金だから、余分な金を払う気がなければ、嫌になっても帰りもバス旅である。

興味のある人は次の動画を見ると良い(2019/11/18放送、ポルトガル語約3分、前に宣伝あり)
既にペルーのリマへ向かっているフラメンゴのサポーター
Torcedores do Flamengo já estão a caminho de Lima, no Peru