「戒厳」は、辞書を見ると厳密な意味では「非常事態の際、立法・行政・司法の事務の全部または一部を軍隊の手にゆだねること」とあるから、いささか過激すぎるのであるが、まあタイトルくらい多少大げさであってもかまわないだろう。
あくまでもこんな感じがするかもしれない、ということである。
「非常事態(宣言)」にあたるブラジルポルトガル語は、estado de emergênciaであるが、共和国大統領が公布して24時間内に国会が承認する手続きが必要で、法律上ではestado de defesa (30日)→estado de defesa (30日延長)→estado de sítio (30日)→estado de sítio (30日延長)という順序をたどることになっているそうだ。
ブラジルの地方で大雨や土砂崩れなどが起きた時のニュースを見ると、災害時に被災地に宣言される「非常災害宣言」は、estado de calamidadeと呼ばれて、地方自治体長が宣言するもののようである。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM16010_W4A510C1EAF000/
ブラジル各地でW杯反対デモ 一部暴徒化、警官ストも
2014/5/16 10:28
もう一か月も切った6月14日に、日本-コートジボワール戦が行われるペルナンブコ州都レシフェでは、州軍警察のストライキがあり、警察力の減少した商店街で略奪騒ぎも起こった。
日本のマスコミにも以上のようなニュースが流れたわけだが、その後どうなったか。
このニュースに既視感があるのは当然、昨年のコンフェデレーションズ・カップの時期にも今回以上の大規模な抗議デモはあったし、ブラジルでは警察官のストも起きる。
公共サービス部門ではもちろん無制限のストライキが認められることはなく、司法権の労働裁判所(justiça do trabalho)が、例えば路線バス便数の40%は運行しなければならない、といったような条件をつけるのが普通である。
しかし警察官のストライキに関する労働裁判所の裁定が出るまでの時間に警察力の空白が起き、必要な場合には国軍力に頼ることになる。
連邦政府及び州政府は陸軍部隊を治安維持のために出動させて、町中に迷彩服をまとい軽銃器で武装した兵隊たちがトラックで散開している画面が流れた。
陸軍は撤収時不定でレシフェの街に駐留するそうだ。
スト入りしていたペルナンブコ州軍警察であるが、ストライキを中止して職務へ戻った。
しばらくは略奪が続いたようだが、警察力の復帰とともに終息した。
昨日テレビニュースを見ていたら、商店から電気製品などを略奪したならず者が、後から反省して商品を返還している場面が出た。
ある略奪者は言った。
「人生で初めてこんなことをしてしまったが、後からやましい気持ちになったので返すことにした。」
別の略奪者の母親が言った。
「息子が略奪品を家に持ち帰ったのでとんでもない、こんなものプレゼントされてもうれしいどころか情けなくなるから、返してこいと言った。」
いろいろな家族の会話があったのだろう。
レシフェ市内の警察署は返却された略奪品で部屋も廊下も一杯になっていた。
商店連盟の人は、返却された商品は10%ぐらいしかないよ、と言っていたが、実際のところどのくらい戻ってきたのかはわからない。
嵐が過ぎ去って台風一過といった感じであった。
さて、肝心のワールドカップが始まったらどうなるのか予想してみよう。
今から一年前、ワールドカップ本番になったら抗議運動対策はどうなっているだろうか、と懸念したものだ。
今回の抗議運動の様子が昨年のコンフェデレーションズ・カップのときと異なる点がいくつかある。
昨年の抗議運動は、公共交通機関の運賃値上げが発端となり、抗議内容が徐々に拡大してきたのだが、今年は最初からメインでワールドカップ反対を訴えている。
昨年の参加者の大部分は、SNSなどでかなり自発的に集結した大学生や高校生であり、その後いろいろな参加者が集合したのだが、政党色はほとんど見られなかった。
今年の参加者は、画面を見たところ「家よこせ運動」や労働組合が主体となっており、去年と全く違うのは赤旗が大々的に目立っていることだ。
昨年はコンフェデレーションズカップのために6つのスタジアムが完成したのだが、現在さらに残る6つのスタジアムが相次いで完成していることから、「こんな豪奢なスタジアムを建設する金があるのなら、家も土地もない我々に家を建ててくれ、という声がより大きくなっているのだ。
町や州や地方などの個別状況に注目せず、一般論を言うと、一年間の社会改善の成果はほとんど実感できない。
外国人医師の導入で無医地区の診療など多少の改善は見られたと思われるが、都市部の公共医療の劣悪さは改善からほど遠く、インフレは収まらないから(年6.5%程度)生活費は上昇していて、去年と比べてなにか良くなったかと聞かれたら、即答に詰まるような状況だ。
“EDUCAÇÃO PADRÃO FIFA”(FIFA水準の教育を)
“HOSPITAL PADRÃO FIFA”(FIFA水準の病院を)
と言った、去年見たスローガンが倍加しても当然な状況である。
最近Dilma共和国大統領が頻繁にテレビに出て、去年も言ってたように「スタジアムなど建設費用はチームとか地方自治体の受益者が負担するもので、連邦政府は融資しているだけだ」と繰り返してはいるが、真実だとしても政治家が言うことなので素直に信用する人は少ないだろう。
救いなのは、現在でも昨年と同じように、平和的抗議活動は市民の権利でこれは尊重されるものであるという政府見解が不変なことである。
この見解が守られる限りは国政がおかしな方を向くことはないと思う。
抗議アピール活動の主催側とすれば、昨年の8カ国参加のコンフェデレーションズカップに比べて、今年本番のワールドカップの参加国は32ヶ国で世界の注目度は格段に大きい。
この時期にストライキを打って大幅ベアを勝ち取ろうと目論んでいる労働組合も、ペルナンブコ州軍警察の例に留まらず、きっとメジロ押しであろう。
というわけで、抗議デモの頻発は避けられない状況となっている。
政府および大会実行委は、実効的な抗議活動デモ予防対策もできずに開幕一か月を切ってしまった。
そのうえで、ワールドカップ開催組織はどう対応するか。
幸い、と言えるが、政府は平和的抗議デモは弾圧しないはずである。
しかし、実際のデモは、大多数の平和的参加者の中に、騒擾を目的とした尖鋭派や略奪を目的としたならず者などの少数不穏分子が混じり込んでいるので、政府の抗議活動公安対策を複雑なものにしている。
この土壇場まで来てしまったら、デモ隊と観光客の動線を徹底的に分断する作戦に出るであろう。
「陸軍は撤収時不定で駐留する」というのが本当ならば、レシフェやリオデジャネイロの町中に、迷彩服を着て軽銃器を抱えた兵士がごく普通にみられる。
兵法というと言葉が古臭いが、スタジアム、観光地とホテル地区を結ぶ「守備線」を設定して部隊を配置して、デモ隊の動きを予想して部隊を移動させて、デモ隊の守備線突破を許さないような用兵をするのだろう。
空港と観光地区を結ぶ主要道路がファベラの横を通っているようなところにも守備線が設定され、警察と犯罪組織の衝突による銃撃戦の絶えないスラム街を観光客動線から隔離することも大事な使命である。
軽銃器といっても軍隊の装備である。
警察官の短銃と異なり、銃身の長い目立つ武器である。
こういったものを持った本物の兵士が、町中にうじゃうじゃ駐留することになるのだ。
日本で迷彩服を着た兵士は災害時でなければ見られないだろうから、珍しい風景だろう。
許可を乞えば記念写真撮影を許してくれるかもしれない。
作戦中だからだめと断られるのが落ちか。
というのが私の予想なので、外国から来たサポーター応援観光客は、空港からホテルに着くまでや繁華街に、平時にかかわらず大勢の作戦執行中の陸軍部隊を見ることになるだろうが、こういったいきさつがあるので、驚かないで普通に行動すれば何も怖くない。
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