2018年11月19日

左右政権国際喧嘩で揺れるキューバ人医師

「私は祖国を愛するが、帰りたくない」ブラジルのキューバ人医師の状況
'Eu amo o meu país, mas não quero voltar': A situação de médicos cubanos no Brasil
15/11/2018 17:06 -02 | Atualizado 15/11/2018 18:14 -02

「もっと医者を」(Mais Médicos)は、通常はブラジル国内で医療行為を行えない、ブラジル国外で医師資格をとっている医師に、ブラジルの医療過疎地で働いてもらうプログラムである。
「もっと医者を」プログラムに参加するキューバ人医師は、その他の国籍の者と同様に、自国で取得した医師資格をブラジルの法的有効化を行う義務を免除されて、プログラムの枠内の制限付きでブラジル国内で医療行為を行うことを許される。

しかしこの記事を読むと、キューバ政府はこれを逆手に取り、「もっと医者を」プログラムのためにキューバ国営の「キューバ医療サービス提供会社」と契約させられる「キューバ保健のプロフェッショナル」―つまり公務員であるキューバ人医師―が、「もっと医者を」プログラムの枠外で―つまりキューバ政府から独立して―ブラジル国内で勤務や開業を目指して、ブラジルで法的有効化の試験を受けようと試みると、即座契約終了となる契約の縛りがある。
「造反者」としてキューバに帰国したら何かの罰則があるかどうかはわからないが、良い待遇が待っているはずがない。
きっと祖国では干される運命が待っているだろうと想像する。

たしかにこういう運命が見込まれるならば、独立を目指すなら祖国との絆は一切断ち切って、つまり亡命覚悟で試験を受けなければならず、誰もが容易に選択することのできる進路ではないだろう。

そして最近の大変動である。
ボルソナロ次期ブラジル大統領は2019年1月1日に就任するが、労働者党(PT)政権(2003-2016)が創設した「もっと医者を」プログラムで働く医師が、ブラジルで正式な資格を持つ医師でないことを問題にしている。
しかしそれだけではない。
キューバが問題なのである。
多分次期大統領の本心では、そちらの方が大問題かもしれない。

ボルソナロ次期大統領は声明の中で、労働者党政権と仲の良かったキューバ政府と結んだ医師派遣プログラムに文句をつけて、応えたキューバはブラジルに派遣している8,332名のキューバ人医師を今年中に強制帰国させる決定をしたので、大いに問題になっている。

他の国籍の医師も参加しているのに、なぜキューバだけが問題なのか。
派遣される医師は報酬1万レアル(毎年インフレ率で調整されているので現在は1万1千レアル台)を受け取ることになっている。
キューバだけは事情が異なっていて、かの国の医師は全員公務員であるが、キューバ国営の「キューバ医療サービス提供会社」からブラジル政府に派遣されるという形になり、ブラジル政府からの医師への報酬の70%はキューバ政府に直接送金されて、医師本人は30%しか受け取れないことになっていて、キューバ以外の外国の医師と著しい格差が生じている。

キューバ国家にピンはねされるわけだが、考えようでは、本国で税率70%で源泉課税されているとも言える。
ともかく、キューバ人医師1人1か月あたり7千レアルが共産国家の国庫に入る、国際人材派遣のしくみなのである。
左派の労働者党は喜んで盟友カストロのために尽くしたのであるが、右派のボルソナロにこれが気に入るわけがない。

これまでの「もっと医者を」プログラム関連のボルソナロ次期大統領の声明では、
  • ブラジル国外の医師資格所持者は、ブラジルの法的有効化試験を通らなければブラジル国内で医療行為を認めない
  • 医師は報酬の全額を受け取らなければならない
  • 外国人医師は家族を帯同する権利がある
  • 現役のプログラム参加中のキューバ人医師が、ブラジルの法的有効化試験に合格してブラジルに残りたい場合は亡命保護を認める

迷惑を被るのはキューバ人医師だけでなくて、本当に大多数の被害者は、キューバ人医師に引き上げられると診療所の医師がいなくなる地域に住むブラジル国民である。

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