2012年4月30日

ブラジルのアファーマティブ・アクション

最近のこのブログの記事には、かなり裁判の判例ものが多いのだが、今回もそうだ。

画期的な判例が出た。
日本では絶対出ない判例だ。

2012年4月26日に、ブラジルの連邦最高裁判所(Supremo Tribunal Federal)は、公立大学の人種割当(cotas raciais)は合憲であると、10人の判事全会一致で決定した。

訴状の報告者(relator)、Ricardo Lewandowski判事は、現在野党である政党Democratas(DEM)から提出された、首都ブラジリアの連邦大学であるブラジリア大学(Universidade de Brasília - UnB)が、学生定員の20%を黒人の学生に割り当てる人種割当を違憲だとする請求をしりぞけ、人種割当は合憲と結論した。

歴史的な不平等性を超越するために、国家・州はアファーマティブ·アクション-積極的(差別)是正(en. affirmative action, po. ações afirmativas)をもって、ある特定の社会グループに手を差し伸べるのは許されるとする。
ブラジルのような著しく不平等な社会においては、入試に「表面的な一律」基準を杓子定規に当てはめても、現在存在する不平等性を堅固にするか、さらに顕在化してしまうだろう。
Lewandowski判事は、アファーマティブ・アクションは一時的なものであるとの見解を示した。

次いで各判事は意見を述べた。
大半は報告者と同意見であるが、異なった見方もある。

Luiz Fux判事は、割当制を10年継続しているリオデジャネイロ州立大学(UERJ)に寄せられた学生の手紙を披露した。
「(大学の環境は)より民主的、より平等、そして何よりも、よりブラジル風(mais brasileiro)になった」

Rosa Weber判事、この人は女性だが、黒人を取り巻く社会状況と歴史条件により、彼らは白人と同じ機会から遠ざけられている、と述べた。
この不平等を正すために国が介入するのは有効である。

Cármen Lúcia判事(この人も女性)は、アファーマティブ・アクションは最善の策ではない、理想は全員が等しく自由な社会を築くことだ、と述べた。

連邦最高裁判所で現在ただ一人の黒人Joaquim Barbosa判事は、本でこのテーマで意見を発表してから11年たつが、差別によって利益を得る人々がアファーマティブ・アクションに抵抗を示してきた、と述べた。
アファーマティブ・アクションの目的は、差別と戦い、社会に調和と平和をもたらすものだと考える。

Gilmar Mendes判事は、人種割当違憲請求については棄却したが、ブラジリア大学の是正法に注文をつけた。
いわゆる「人種裁判所」(tribunais raciais)、学生が黒人かどうか判定する委員会がときどき誤判定をくだすことがあり、兄弟が異なる人種に判定された例をあげた。
社会経済的ひずみを許すことから、人種のみによる基準に疑問を呈した。
なぜなら、単純に人種から判断して割当すると、経済的に豊かで教育機会に恵まれる黒人が相対的に優遇されるからだ。

歴史的な人種にまつわる不平等とは、言うまでもなく奴隷制度(escravidão)である。

黄金法と訳せようか、Lei Áurea つまり(ブラジル)帝国法3,353号(Lei Imperial n.º 3.353)が承認されたのは、1888年5月13日のことだった。
たった2条の法律だ。

第1条 この法発行の日をもって、ブラジルの奴隷制は消滅する。
第2条 この法に反する諸条例は無効となる。

極めてすっきりと直接的な法律で実現した奴隷制廃止(abolição)であったが、現実はすっきりとはいかず、124年経った現在でも、まだいろいろな傷跡は残っている。

黒人は高給な職をみつけにくい。
職をみつけても、黒人の給料は白人の給料より少ない。
黒人は出世できない。
だから黒人は貧しい。
子供の教育に金をかけられない。
だから私立高校は無理で、公立高校に行くしかない。
公立高校は、州や市に金がないので設備が不十分で、二部制や三部制で授業時間がただでさえ短い上に、教師が薄給のため頻繁にストをするので、設備が良く全日制の私立には教育の質が追いつかない。
そのため、授業料は無料だが入試が難しい公立大学には入れず、私立大学は授業料が高い、下手すると家庭の都合で中等過程(ensino médio)も基礎課程(ensino fundamental)も卒業できない、さらに転んでしまうと、犯罪の世界に引きこまれてしまう。
(最初に戻る)

黒人で金持ちになるにはサッカー選手かミュージシャンになるしかない、などと昔はよく言われた。
現在は公立大学へ行く道がひらけてきたのだ。

人種による割当とは、一般の受験生枠と独立して黒人だけの受験生枠があって、たとえばブラジリア大学だとこれが全定員の20%なのだが、黒人受験生は黒人受験生だけの割当枠の中で合格を競うわけだ。

今回の最高裁の判例はアファーマティブ・アクションの中でも、人種による割当という方法だが、実はほかにもアファーマティブ・アクションの方法はある。

公立高校学生割当というのがある。
これは人種は問わず、公立高校の学生に大学の定員割当を設けて、公立高校学生同士で合格を競う。

黒人とか公立学校学生とかに定員の割当を設ける方法のほかに、黒人や公立学校学生は一般入試と同じ枠を争うのだが、点数に下駄を履かせる、という方法もある。
ゴルフのハンディキャップ制のようなものだ。

なお通常、大学入試の黒人割当には先住民(índioあるいはindígena)も含まれる。

最後に明らかにしておく。

至極当然のことだが、入試に関しては優遇措置があっても、大学に入ってからは他の入試方法で入った学生と一緒に勉強し、同一の試験を受けて同一の点数で単位取得をしていく。

入学が難しくても卒業が比較的簡単な日本の大学だったら、割当を利用して簡単に大学に入ったらもう目標達成で安泰、ということになろうが、ブラジルの大学は単位をとって進級して卒業に到達するのはなかなか大変なのだ。
そういう意味では、卒業にたどりつくまで同じふるいを通るので、黒人と白人の間に、公平さは保たれることになっているのだ。

(STF julga constitucionais as cotas raciais em universidades
iG São Paulo | 26/04/2012 10:23:23 - Atualizada às 26/04/2012 20:23:23
http://ultimosegundo.ig.com.br/educacao/2012-04-26/supremo-retoma-julgamento-das-cotas-raciais-nesta-quinta.htmlを参考)

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