日本が平成から令和への代替わりに熱狂していたころ、南アメリカのニュースはベネズエラに集中していた。
どちら側も自分が正統な政権だと考えているし、だから呼び方には困るのだが、一応継続していることからニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)大統領側を政府側、フアン・グアイド(Juan Guaidó)宣言大統領(presidente auto-proclamado)側を反政府側とここでは呼ぶ。
メーデー予定より一日前倒しされたと言われる4月30日の中途半端な蜂起の後、両者の不可解な数時間にわたる消息不明があってから、夜になって両者は再び表に現れて、それぞれの立場から表明をした。
5月1日は一見元に戻って反乱側は毎日街路で示威行動を進めていくようだし、マドゥロの演説は相変わらず威勢がよい。
しかしまさに中途半端に終わった原因であるベネズエラ軍の内部状況、正確に言えば司令部に対する忠誠度が微妙に綻んでいるようなのである。
多くの反乱側大衆や世界のマスコミが勘違いする元となった、グアイドの「行動を起こせ」声明では、彼の両側に軍服が何人も並んでいた。
米国のマイク・ポンペオ(Mike Pompeo)国務長官、ジョン・ボルトン(John Bolton)国家安全保障問題担当大統領補佐官などは十分な確信を持って、「ベネズエラの三権や軍部の一部などの説得によって、後少しのところでマドゥロのキューバへ亡命の瀬戸際まで追い込んだのに、土壇場でロシアが出しゃばって亡命を思いとどまらせた」と発表した。
米国の情報によると、2万5千人ものキューバ軍兵力がベネズエラ国内に駐留しているらしい。
もちろんロシアは関与を否定した。
でもロシア軍用機のベネズエラ国内での駐機が確認されているし、ベネズエラの舞台裏では米露交えて陰謀が渦巻いているとみえる。
しかし消息不明から戻ったマドゥロの声明では、彼と同席した多数の軍将官は、軍部の政府への忠誠を表明していた。
活字にはならないが、放送で口頭で伝えられた情報が興味深い。
マドゥロは定員より2千人も多い将官を任命して、高い給料を支払っているだけでなく、そのうちの多くの者が麻薬と武器の密売に関わって懐を肥やすのを認めている。
それだけでなく、上納金のように吸い上げた不正資金が選挙運動費用に使われているという。
自分でやっていなくても、これは薬漬けだ。
取引に関わっているのだから、自分ひとりでふけって勝手に破滅する常用者より質(たち)が悪い。
密売に関わって甘い目をみている軍将官は、政権が替わって米国へ引き渡され密売で裁かれるのを何よりも恐れているから、命をかけてマドゥロ政権を支える動機が極めて強く、軍の士気は高まる。
ベネズエラにくっついているのはロシアやキューバだけではない。
ロシアやキューバはあまり金を持っていないが、中国は余裕がある。
そして反米産油国からできるだけの果実を収穫しようと、中国はベネズエラ政府に大きく投資して貸しこんできた。
当然中国にとっては、政府が替わってしまって、「あれは馬鹿な前政権がやったこと」などと返済を渋られたらかなわない。
だから制裁をかいくぐっても、マドゥロ政権を支持しなければならない強い動機がある。
2019年4月30日の騒動では、25名のベネズエラ軍兵士がカラカスのブラジル大使館に亡命を申請した。
彼らのうち最高位が中尉であるというから、まだまだ将軍たちは体制側についている。
ベネズエラと接するブラジル・ロライマ州パカライマ国境で、ベネズエラ政府が一方的に国境を閉鎖して二ヶ月位経つが、一日あたり約250人だったブラジルへの亡命あるいは一時滞在を求めるベネズエラ市民は、この4月30日一日だけで約850人と急増した。
これからのベネズエラの行方はひとえに、グアイド側の民衆がどれだけ、マドゥロによる恩恵をそれほど受けていなくて不満を持つ下士官や兵士、それから密輸に手を染めていない正義の将官を説得して軍勢力を分裂して、反政府側に加勢させることができるかにかかっているだろう。
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