2020年9月20日

ボルソナロ大統領は馬鹿振り賢者か

先にルイス・エンリケ・マンデッタが2020年4月半ばに保健相を罷免されたことを書いた。
後任の保健相はネルソン・テイチ(Nelson Teich)で、4月17日に就任した。
この人も前任者と同様、医師である。
そして1ヶ月に満たない5月15日に辞任した。
辞任の理由はマンデッタと同じく大統領との意見相違である。

ネルソン・テイチの後任は、エドゥアルド・パズエロ(Eduardo Pazuello)暫定大臣である。
前任2人が医師だったが、彼は全く異なるキャリアの持ち主である。
ブラジル陸軍大将で、リオデジャネイロオリンピックのときにはサポートする陸軍部隊を率いたり、ベネズエラと国境を接するロライマ州で難民受け入れのサポート部隊の指揮をとったりの公務活動歴がある。

正式大臣であった前任者の任期が1ヶ月足らずだったのに、暫定であるくせに、はや3ヶ月を超えている。
これだけ時間がたっても、ボルソナロ大統領は後任を探している様子が全く見えない。
候補者の名前が全く上がってこないのだ。
そんなことを思っていたら、この9月16日に、暫定任期4ヶ月の後に正式な保健大臣となった。

もしも保健省の長に前任2人と同様、専門家である医師のようなプロフェッショナルを据えていたら、どうなっていたか想像してみた。

有名無名に関わらず良心的な医師は、職業倫理に忠実に従って、患者を放っておけないものらしい。
マンデッタは毎日記者会見を行って、国民へ呼びかけることを忘れなかった。
ブラジル国民の間に、この大臣の言うことを聞いていれば病気を防げる、命を守ってくれるだろうという安心感を与えてくれていた。

ボルソナロ大統領の頭越しに直接国民に話しかけて、大統領を上回る人気と信頼を得ていたので、ボルソナロにとっては面白くなかったという一面があったのは否定できないと思う。

国民の信頼の厚い保健相が、これからもまだまだ社会的隔離が必要なので継続したいのだが、経済相が反対していると少しでも愚痴を言ったら、国民の非難の矛先が政府の経済チームへ向かう。
同じ目的を持って行動すべき連邦政府内の、保健相と経済相が対立してしまう。

経済活動を減速して社会的隔離を継続していくことになると、政府は国民に休業支援金を支払わないとならないだろうが、無い袖は振れないので支援を中止すると、飯が食えない金が無いという国民から悲鳴が上がり、心理的にも鬱屈する隔離はいい加減止めて働かせろ、経済を回せと、今度は不満をぶつける対象は、終点が見えない隔離をやみくもに強制する保健相へ向かうことになる。

厳格な防疫隔離を数週間かせいぜい2,3ヶ月行えば病気流行が完全に解決すると前もってわかっているのならばよいのだが、どれだけ隔離を続けていけばよいのか見当をつけようとしたら、最低半年、悪くすれば数年にわたるかもしれないというのだったら、施政者はどこかで見切りをつけなければならないときが来る。
ここでボルソナロ大統領の手本となりそうなのは、政治的姿勢が似通ったトランプ大統領であるが悲しいかな、国の財政力が異なるから、耐久力勝負に持っていくことができない。
見切りをつける、つまり政策転換をするのだが、国民の直接選挙で選ばれた行政の最高責任者である大統領としては、経済相も保健相も顔を立ててやり、統制の取れた政府を率いなければならない。

ここは聞き分けのない馬鹿になったつもりで一徹に、「コロナなんて風邪の一種だ」「人はいつか死ぬものである」のような、報道がブラジル国外へも知らしめた非情暴言的発言にふさわしい態度を取る。
コロナについてはブラジルが頑張らなくても、世界中で研究が進んでいる。
その知見を導入すればよいではないか。
だからワクチン開発については、コロナ大流行のわが国で第3フェーズ試験を大いにやってもらって協力しよう。

一方保健省には、政策の音頭を取るより、国内病院で消費するコロナ対策資材が不足しないように、リソース補給に徹してもらうことにしよう。
そのためにはなまじ一徹な医学の専門家より、軍隊で補給の仕事に長けている、聞き分けの良い将官を当てておこう。

こう考えて医師であるこれまでの保健相には、無知な大統領と意見相違で袂を分かったということにして彼らの名誉を守る。
このようにして保健省と経済省の対立を招くことなく、結果として両方の顔を立てることができたような気がする。

偶然そうなったのであったら、いささか買いかぶり過ぎとなってしまうし、ボルソナロ政府の施政には環境問題を始め問題が山積しているが、ボルソナロ大統領はコロナ禍長期化に対して、ブラジルの実情に即してかなりうまく政府の統一を保つことができていると評しても褒め過ぎではないと思う。
「ブラジルの実情に即して」先進国と同じような金をかけた政策を取れない条件では大切なことだろう。

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