ブラジルは8年の基礎教育(ensino fundamental)に続き、3年の中等教育(ensino médio)があり、中等学校は通常コレジオ(colégio)と呼ばれる。
教育省の機関である国立教育研究所(INEP - Instituto Nacional de Estudos e Pesquisas Educacionais Anísio Teixeira)が中等教育3年生を対象に行う全国試験がENEMだ。
ENEMがただの学習到達度調査に過ぎなかったならこんなにブラジル国民の注目を集めないのだが、多くの公立大学はENEMの結果で入学判定をしたり(来年2012年は定員30万人を超す)、ENEMを1次試験に代用したりする上に、私立大学生への政府奨学金(bolsa do Prouni)支給可否もこの試験によって決定されるため、高校生を含む受験生にとっては将来を決定する大試験なのだ。
そんな大事な試験なのに、いつも疑念と騒動がつきまとって、一度でうまくいった試しがない。
2009年には試験問題の印刷所から問題が盗み出されたので、試験を1ヶ月延期して、問題用紙を印刷し直して翌月に実施された。
2010年には試験問題冊子の一部に問題の重複や欠損があったり、解答欄に紛らわしい部分があったりして、試験官の訂正連絡に不備があった一部の受験生は混乱した。
セアラ(Ceará)州の検事が試験無効の請求をしたが、連邦裁判所は試験は有効と判断した。
そして今年何が起こったか。
またもやセアラ州であるが、州都フォルタレザ(Fortaleza)の私立高校Colégio Christusで、生徒が本番の一週間前に受けたENEM模擬試験の中の13問題が、ENEMに出た問題と同じだったという。
ニュースの画面で模擬試験と本試験の設問図の比較が出たが、全く同じだった。
ENEMの試験問題作成の過程でいくつか作られるプレ試験の問題は、問題用紙は回収されて厳重に管理されるはずなのだが、回収されずに誰かの手に渡ったプレ試験問題が高校の模擬試験に出たということらしい。
試験実施の翌日くらいからすぐニュースネタになって連邦警察の捜査が始まったので、どういう解決になるのかが注目されていた。
- 教育省とINEPは、Colégio Christusの3年生639名だけ実施した試験を無効として639名だけ再試験を行いたい。
- 教育省とINEPは、次善の策としてColégio Christusの3年生639名だけ13問を無効としたい。
- 告発したOscar Costa Filho共和国検事は、漏れた問題のみ無効にして、残りの問題を有効としたい。
- 全受験生に対して再試験を行う。
判決は全国の受験生に及ぶ。
Luiz Praxedes Vieira da Silva連邦裁判事は判決理由として、Colégio Christusの3年生639名のみが漏れた問題にアクセスしたと肯定はできないことをあげた。
さらにINEPを批判し、「プレ試験に使った問題を再び本番で使うのは重大な誤り」と指摘した。
至極もっともだと思う。
なぜ全く新しい問題にしなかったのだろうか。
ここに2009年と2010年のENEMの問題がある。
第1日目(土曜日午後)は人文科学(45問)・自然科学(45問)、第2日目(日曜日午後)は小論文及び言語(ポルトガル語と外国語計45問)・数学(45問)あり、各設問は多肢選択(5つから正解一つを選ぶ)問題だ。
180問のうち13問は7.2%に当たるから、無効にする影響はかなり大きいと思える。
漏れた問題は数学に偏っているので、TVニュースでは数学が得意な生徒は問題無効により損をして不満がり、数学に失敗した生徒は喜ぶという反応が見られた。
セアラ州フォルタレザの私立高校は5校ほどあるが、同市のセアラ連邦大学(UFC - Universidade Federal do Ceará)への合格率を看板にして中流子弟を競い合っている。
優秀でしかも月謝を毎月支払える生徒を確保して合格率を上げれば、さらに良い学生が集まって学校は儲かるということだ。
その競争の中でColégio Christusはフライングを起こしてしまった、という見方が多い。
11月3日政府側の国家総合弁護団(Advocacia Geral da União)は判決を不服として、レシフェの連邦第5地方裁判所(Tribunal Regional Federal - 5a Região 第2審)へ控訴した。
翌日11月4日レシフェの連邦第5地方裁判所は、漏れた13問を全国で無効にする一審の予備判決を覆して、Colégio Christusの639名についてのみ13問を無効にする判決を下した。
上の3番を覆し2番になったわけだ。
639名の学生の点数については有効な点数を使って再計算を行うらしい。
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