2021年5月23日

がっかり日本、予防接種

 新型コロナ感染症(COVID-19)の予防接種について、日本とブラジルのそれぞれの進捗に注目しているのだが、日本の予防接種が遅々として進まないのは全く驚異である。
オリンピック東京大会が開催されると大勢の外国人が訪日するから、日本政府は当然大会前に日本国民の大半に2回接種を済ますようなスケジュールを立てて、予防接種をてきぱきと手際よく進めるだろうと、確信に近い予想をしていたのであるが、全く裏切られてしまった。

ブラジルで少なくとも1回接種済みとなった人の、総人口に対する割合は、昨日の時点で約20%、2回の接種が完了した人は、総人口の約10%となっている。
日本は少なくとも1回の接種済みの人が、5%前後に留まっているという。
いまブラジルで1日約70万人に接種、調子のいい日には100万人に達するのだが、きょうのオリンピック関連のニュースで、日本の1日接種人数は約8万人と言っていた。
ブラジルの九分の一である。
両国の人口を考慮して単位人口あたりにしても、九分の二である。
日本のように組織がしっかりしているはずの国で、なぜそんな残念な結果になるのだろうか。

ポータルサイトを見ると、日本では郵便で接種券が送れられてきてから、電話、インターネットサイト、あるいは市役所で対面で予約をするという形になっているようである。

電話は通話殺到のためずっと話し中、インターネットはやり方がよくわからない、そういった人がみな集まって密になるから対面対応は取りやめにするとか、なかなかうまく機能していない。

日本は何かと郵便で通知することが多いようである。
もちろんブラジルでも裁判所とか税務署などの通知は、受け取り証明付きの郵便で行われるが、最近はインターネットを使うことが多くなってきている。
特に情報のやり取りが迅速であることが必要な、今回の非常事態のような場合には、郵便は遅すぎる。

ブラジルの2020年の緊急援助金の支給のために、連邦政府はどういうやり方をしたか。
これまで自行他行に銀行口座が有る無しに関わらず、連邦貯蓄銀行は一律に各受取人名義のデジタル口座を開き振り込み、出金つまり支払い・振り込みと現金引き出しの操作を行えるのは、スマホのアプリのみとする単純な方法をとった。
現金引き出しに必要なコードをアプリで生成して、ATMや宝くじ売場で引き出すようになっているらしい。
一律に新規に口座を作るのだから、いろいろな個別的なチェックなど一切必要なく、迅速に行う目的にはかなっていた。

しかし受取人の便利などは全く考えていない。
アクセスが集中すると、何時間も何日も根気が必要な時期があった。
スマホがない人やガラケーの人は買え、買えなかったら家族や知人から借りろ、操作がわからなかったらデジタルに詳しい子供に手伝ってもらえ、といった突き放した冷たい対応で、どうにもならなかった人たちは、行くなと言われても構わず、銀行支店に密な大行列を作っていた。

今回の予防接種もわが市の場合、最初に市役所のインターネットサイトで登録しなければならず、そのときにパソコンかスマホが必須である。
ワクチンの供給が極めて不定期なため、私達の場合には接種日時場所を受け取ったのは接種日前日の午後であって、日時にしても場所にしても、こちらの希望など全く聞いてくれない。
「xx月xx日(明日)のxx時xx分にどこそこに指定」という強制的呼び出しの通知が送られるのは、携帯電話のショートメッセージサービスであるから、ガラケーでも受け取ることができる。
理屈ではもちろん、パソコンも携帯も持っていないという人でも、毎日ランハウス(LAN house)つまりインターネットカフェ様の施設へ行って、料金を払って市役所のサイトにアクセスして、自分の順番が来ているかチェックすることはできるが、これはめんどくさい。

基礎疾患を持つ人の区分ではさらにハードルが上がる。
市役所サイトから診断書定形フォームをダウンロードして印刷、普段かかっている医師に診察して記入してもらってから、その写真を撮って登録時にアップロードを行う。
市役所はその画像で可否判定を行う。
接種可となった人は接種指定日に原本を持参して、会場の受付でシステム内の画像と照合するだけにしておく。

日本政府は、高齢者はスマホが使えないとか持っていないとか、至れり尽くせりの気配りをしているのだが、もっと突っ放しても構わないのではないか。
日本はヨーロッパやアメリカ大陸諸国と比べてコロナ流行が抑えられているから、普通の年だったのならば、ゆっくり予防接種しても構わなかっただろう。
しかしオリンピック大会に間に合わせるためには、もう2ヶ月しかなく、予防接種はスピードが命である。
残った僅かな時間にスケジュール遅れを一気に挽回するためには、どうしたら良いだろうか。

  • 連絡は郵便ではなく、画像のやり取りも含めてインターネット(携帯電話、パソコン、タブレット等)で行う
  • そのために居住市町村で携帯番号と電子メールアドレスを登録させて、住民登録のある市町村で接種する
  • ワクチン輸送や保管を容易に、無駄を減少するため、市町村で体育館やスタジアムのような少数の大規模接種会場を用意
  • 接種日時や場所は住民が予約するのでなく、例えば高齢者を優先して接種する場合には、生年月日が早い住民から、順番を機械的に割り振る
  • 場所も同一市町村内なら遠近に関わらず割り振り、住民に選択などさせない
  • 密な行列ができないように指定時刻を細かく区切って設定する
  • 指定日時場所に行けない場合や遅刻などは、個別に対応するのではなく、何日か後に後回しにする
  • 企業に対して、従業員が予防接種のため指定日に半日あるいは全日欠勤をすることを認め、これを有給とするよう法令で保証する(ブラジルではそこまではしていない)

こうしてみると、ブラジルの私が住む市の予防接種の段取りは悪くない。
ただしわが市はうまくやっているが、住民を行列させて密状態を作ってしまう、段取りが悪い市も少なくない。
単純機能のアプリを手早く作って、機械的に人々をさばいて、速い流れにのせることができた都市が、うまくできていると言って良さそうである。
日本では住民の知恵と努力にもっと寄りかかっても良いから、とにかく速くできる方法を取ることだ。
個人個人の都合など慮る必要など一切ない。

マイナンバーが言われだしてから、もう十年近く経ったのではないか。
息子が日本に留学した2015年に、マイナンバーカードを作成してきた。
それから6年経つのに、どうしてこれが未だに普及して使用されていないのか全く不思議である。
米国とかブラジルでは、いわゆる納税者番号が遠い昔から使用されていて、予防接種の接種希望者登録のようないろいろな場面で、個人識別番号として役立っている。

2021年5月9日

簡単にオリンピックをつぶす方法

毎日ブラジルだけでなく、日本の新型コロナ感染症による死亡数、正確に言うと、死亡数の7日間移動平均の変化も記録している。

これから見ると、日本は第3波が収まりそうになったのだが、その前に第4波に入ってしまったのでないか。
詳しく見ると、2021年2月6日に死亡数7日間移動平均の第3波ピーク100人に達してから、4月8日に20人まで降下したのであるが、一転して増加して、今は60を超えてしまった。
つまり、現在死者数は増加している。

最近の何日か前のニュースで、ブラジルも他所の国で発生している変異株の侵入を防ぐための方策をすべきでないかと言っていた。
その中で、日本在住の日系ブラジル人がブラジルへ入国するためには、72時間前以内のPCR検査が陰性であることを求められるだけであるのに対して、ブラジルから日本へ入国する場合には、3日の指定場所での隔離、ついで11日の自宅での隔離が必要だと言っていた。

当然の事実であるが、病気が未だ猖獗を極めない日本のような国は、病原体の侵入に対して神経質に備えるのが普通だろうが、反対にブラジルのように既に病気が蔓延している国は、入国者に対していろいろな面倒な制限を課すまでもなく、あえて入国したい観光客がほとんどいないということである。
今インドを放浪旅行したいという人もまずいないだろうし、いても周りが全力で止めるに決まっている。

あと2ヶ月後に、東京オリンピックは開催されるのだろうか?
2021年の初め、各国で新型コロナ予防接種が始まった頃、オリンピックのために外国から大勢訪日するのだから、日本政府の方針は、それに備えて日本国民の大半に予防接種を済ませてコロナ対策を万全にしてからオリンピックを迎えることになるだろう、と私は楽観的な予想をしていた。
ところが実際は、5月になったのだが、高齢者はおろか、医療従事者にも予防接種が行き渡っているとは言い難い状況のようなのだ。

ブラジルのように先進国とみなされることがない国でも、国民全体に対する予防接種を少なくとも1回受けた人の割合がようやく17%、2回完了が8%に達したブラジルと比較しても、日本は非常に遅れていると、これで大丈夫なのかと心配せざるを得ない。
それでいながら、オリンピックは何が何でも開催すると言っているから、まあ向こう見ずなことだ。

オリンピック関係者(選手と役員?)が来日する場合には、予防接種の有無を問わないとか、14日の隔離を免除するとか、日本に住む人が不安になるようなゆるゆるの規則を定めているようだ。
それだけでなく医療従事者や病床などの国民にとって大切な医療資源を、オリンピック専用に割り当てろと、できそうもない相談を持ちかけている。

日本に住む人達がこんな無理やりなオリンピック開催について、どのようにとらえているかは、もちろん肌で感じることはできないが、こんな状況の中で強行するだけの価値があるものと思っている人は、それほどいないようである。
こんなに歓迎されないオリンピック大会が、かって存在しただろうか。

歴史にたらればはないだろうが、もし2020年ないし2021年のオリンピックが東京でなく、時間が5年ずれて、リオデジャネイロで開催されることになっていたとしたらどうだろうか?

ブラジルの状況をざっと眺めてみる。
ようやく今になって、一日死亡数7日間移動平均が2,200程度に落ちてきているが、4月上旬にやってきた第2波のピークでは、これが3,100を超していた。
現在インドで新型コロナ感染症の流行が目も当てられない状況になっているが、ブラジルもわずか1ヶ月前には同様な惨状であった。
そして、単位人口あたりの死亡数を揃えようとすると、インドの人口がブラジルの6.5倍あることを考慮すると、人口2億1千万のブラジルの死亡数3千は、インドで19,500人死亡することに等しい。
ニュースでは、インドの1日死亡数が4千を超えたと言っている。

ブラジル国内の多くの地方で、インドで今起こっている酸素不足が1ヶ月前には頻発していた。
インドで火葬場が足りなくなっている代わりに、ブラジルでは墓地の墓穴掘りが追いつかず、墓地で霊柩車が列をなしていたところが続発していた。

実はブラジルの様子を観察すると、日本のようにコロナが蔓延していないのに医療が逼迫するという事態は全く理解できない。
ブラジルでは既に、コロナ以外の患者にとっては迷惑であろうが、緊急にしなくて良い手術などは延期して、コロナ患者を優先するするような措置が取られている。
病床占有率が常に90%を超えているのが常態になっているが、これは必要に応じて通常病床をコロナ病床へ切り替えたり、その逆を頻繁に行っているからである。
このような操作を指して、ブラジルでは医療崩壊とか呼ばないが、日本では少しでも日常と同じ治療ができないとなると、即医療崩壊とみなされるのだろう。
それでも病床占有率が100%になると、十分な治療を受けられずに死亡する人も少なくない。

集中治療病床に入っても、半分くらいは死亡しているようである。
人工呼吸器挿管の薬品が不足したり、医療スタッフがコロナに罹って人員補充ができず、治療ができなくなってやむなく病床を減少した病院もあった。
ここまで来るとさすがに医療崩壊状態と言えるだろう。
だから、今の日本で言う日本の医療崩壊状態は、ブラジルの見方では、まだまだ十分に余力を持っていて、とても崩壊からは程遠い、健全に近い状態であると言って良さそうである。

そんな医療状況のブラジルで、いくらブラジルのオリンピック委員会が大様(おおよう)に絶対大丈夫だからと、全世界へ呼びかけたところで、どの国が安心して選手団や応援客を送り出したいと思うだろうか。

実はここに解決法があって、東京オリンピックを忌避するためには、日本人は新型コロナへのガードを少しばかり緩めればよいのだ。
効果が出ているのかよくわからない営業時間制限を全部やめてみる。
緊急事態制限下でも歩き回りたい人がいくらでもいるのだから、放っておいても病気は広まってくれる。

何も別に現在のインドやブラジルと同じ、あるいはかってのイタリアのように病床占有率100%といった状況まで持っていかなくても良い。
医療が逼迫して、使い古された呼びかけだけでなく本当の緊急事態なんだ、国民や政府がオリンピックまで面倒見きれない、強行しようとしたら暴動が起きるぞという空気が醸成されて、大会のためにこのような国へ危険を冒してまで行きたくないという声が、多数の国から上がるようになれば十分だろう。

来日する選手や役員にワクチンを供給するとか言い出した。
ワクチンを受けるのは選手や役員なんかではなく、日本の住民が先だろう。
日本では多分2%くらいしか予防接種済みの人がいないだろう。

コロナに打ち勝った勝利のしるしのオリンピックなどと、無理な意地を張らずに、たわけたことを唱えるのはやめることだ。

コロナを流行らせてオリンピックを中止するという考えは本当に荒唐無稽だろうか?
絶対にそんなことはない。
本記事のタイトルのように簡単にできるかもしれないが、ある程度犠牲も出る辛い方法ではある。
でも無理してオリンピックを開催しても、準備不足のアスリートは万全のパフォーマンスを披露するのは無理な話で、けが続出、記録低迷の不完全燃焼オリンピックとなることが予想される。
競い合うのは各地から集った変異株で、残るレガシーは、オリンピック大会発の凶悪変異株の世界への蔓延という結果になるだろう。
どうせオリンピック後の変異株蔓延から逃れられないというのなら、日本が体を張ってオリンピックを中止したほうが、絶対人類のためになる。

オリンピックに関しては、開催都市がキャンセルを決定した場合には膨大な賠償金が発生するとか言われているが、本当だろうか。
疫病の蔓延という非常事態の考慮はされないのだろうか。

最近追い風が吹いているようだ。
米国のメディアが金権IOCを強烈に批判している。
開催都市から絞れるだけ絞るが、自身は絶対損しない組織である。
オリンピック大会の意義を思い出して初心に帰り、笑うのはずさんな運営で不正マージンを手にする開催国の一部の権力者とIOC役員だけの、現在の金権オリンピック方法を見直す良い機会になる。
ブラジルはリオデジャネイロ・オリンピック大会で、もう懲りたことと思う。

2021年4月30日

コロナワクチン第1回接種

ブラジルの新型コロナ感染症による1日あたり死亡数は、不名誉な世界第1位をしばらく続けている。
死亡数の過去7日の移動平均は、4月20日時点で約2,800人である。
4月前半には1日3千人を超える日があった。
4月27日になると、約2,340まで下がっていて、果てしない上昇は終わり、第2波の下降期へ入ったと判断して良いかもしれない。

そして4月21日のニュースによると、ブラジルで少なくとも第1回接種を受けた人の割合は、ようやく総人口の13%に届いたところである。
4月27日には約14%近くなっていたから、第1回接種の速度は、1週間で人口の1%のペースで進んできている。
しばしばワクチン供給が途絶えて、接種が中断されることも多く、50%上昇するのに50週間とは非常にもどかしい。

ブラジルの予防接種についての、各レベル行政府の役割分担はこうなっている。
連邦政府がワクチン原液輸入の交渉をして、 輸入された原液から国内の保健医療機関で調製された製品ワクチンは、各州に分配するため、それぞれの州都へ送られる。

州都にある州政府が州内各市への配布をするときには、まず各地方の中核都市へ送られ(ここまでは概ね空路)、近隣各市の担当者がそこまで自動車で取りに行く、といった形である。
国土が広い国で考えられる、ごく自然なやり方といえる。

そのワクチン流通の最終部である、ミナス・ジェライス州のわが町のワクチン接種システムについて書く。

まず市民である接種希望者は、市のサイトで登録をする。
識別の一意キーは、ブラジルの「マイナンバー」にあたるCPFが使われる。
つまり少なくとも現在は、わが町でワクチン接種を希望しない人は、ここで登録しなければ、決して呼ばれることはないと思われる。

もしも接種希望者が非常に少なくて、ワクチンが余るのに集団免疫ができない恐れがある、といった場合には、半強制的な招集が行われることになるのかもしれないが、今のところワクチン供給が遅く、コロナ流行は最盛に近い勢いのため、予防接種を望む人が大勢であるから、その心配はまずいらないだろう。

しばしばワクチン供給が途絶えて、接種が中断されることが多いため、市保健局は一週間先のワクチン受領の予想すらできない。
そのため、携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)によって、 ⽇時場所の指定を受け取ったのは接種前日の午後になってであった。

ワクチンの種類はおろか、時間も場所も選ぶことができない。
市内に3箇所ある接種会場の中で、セントロにある一番遠いところに割り当てられてしまった。
車で行って適当なところに駐車して、少し歩くことになる。
持参するよう指示されたものは、写真付き身分証明書と予防接種カードであった。

市保健局は密を避けるために、指定時刻よりずっと前に会場に行くなと念を押している。
5分前に着いた。

こうして書き出してみると、わが市のシステムは、下に書くような他の市と比較してかなりしっかりしたものと思われる。
日時場所を自分で指定できないのは少し不満だが、雑な指定のため待ち時間が多くなるのも嫌だ。

日時場所を自分で指定できるようにするとなると、システムは非常に複雑になるだろうし、米国や日本で行われるような街の医院や薬局でも受けられるようにすることは、ワクチンが余ったときに無駄になるし、データ集計も時間や漏れの心配が出てくるだろう。

会場入口でまず、係員が口頭で接種予約のない人をチェックして、会場に入れさせない。
会場は市のスポーツ施設の一つ、テニスクラブの体育館で、大スペースを2つに分けて、接種場と、急性の副反応に備えて、間隔を開けて椅子が並べられた接種後休憩場となっている。
アーチ型大天井だけで、壁がない部分が多く、換気は非常に良好だ。

コンピュータ端末のある登録チェック窓口が、3つ並んで通路に設置されている。
本人と写真付き身分証明書とシステムに記録された接種予約を正式に照合する。
行列は3人のみだった。

接種員がいる接種テーブルが12ほどある接種場への行列は待ちがなく、すぐに空いていたテーブルへ行くよう指示された。

各テーブルにはワクチンの入った保冷ボックス、接種済み登録入力用のパソコン、注射器やアルコール綿などが置いてあり、看護師が一人で担当している。

予防接種開始当初ときどき起きた「ワクチン空打ち事件」を防ぐためだろう、決められたプロトコル(手続き)がある。
  • 薬瓶を見せて、「あなたが受けるワクチンはxxxxで、nミリリットルです」と宣言する
  • 目の前で注射器に薬液を吸引して、「nミリリットルです」と復唱する
  • 注射する
  • ピストンが押されて空になった注射器を見せる

といったものである。

そして、テレビのニュースでみた接種風景と同じように、ほとんどの人が付添人か本人がスマホで接種場面の写真や動画を撮影している。
いちおう担当看護師さんに、写真や動画を撮ってよいか聞いたら、すぐに肯定したことからわかるように、プロトコルの一つになっている。

現在ブラジルで承認された上に流通している2種類のワクチンは、中国シノバック社の商品名「コロナヴァッキ」と、アストラゼネカであるが、1回め接種時にどちらが当たるかは指定された会場に行ってみないとわからない。
当日会場に着いて、ワクチンの種類を見て「これは打ちたくないから、今回はキャンセルしてもう一回予約する」というわがままを聞いてくれるかどうかは定かでないし、そのような人が今までいたかどうかも不明である。

この日この時間この会場では、アストラゼネカであった。

注射後、あたりを観察しながら休憩場の椅子に座って、しばらく休んでから帰路についた。

副反応であるが、当日翌日くらいに、腕を動かしたとき接種部分に軽い痛みを感じたくらいで、インフルエンザの予防注射と大差ないと思えた。
しかし同じワクチンで、 発熱したり体がだるくなったと訴えた知人もいた。
アストラゼネカとジョンソン&ジョンソンのワクチンに起きうるという血栓症は、接種後2週目に多発するというから、今その時期にあたっているが、宝くじの確率だろう。

接種翌日、市役所のサイトで照会したら、1回め接種済みとしっかり記録されていた。
アストラゼネカの2回め接種は4週間から12週間の間に行われるというから、2回めの日時場所指定が携帯電話のSMSに届くのをじっと待つことになる。

隣市の予防接種システムはもっと雑で、x月x日には、yyyy年生まれの氏名アルファベットAからLの人はA会場で、MからZの人はB会場で、といった具合である。

リオデジャネイロ都市圏のある市のシステムは極めて雑で、x月x日には65歳から67歳までの人ですから来てください、と広報するだけであったという。
それですら既に手持ちのワクチンが不足する人数を軽く超えている上に、住所確認が求められなかったため、近隣のよその町からも話を聞いた人が集まってしまい、密になりながら半日待ったのに、ワクチンがなくなったというので無駄足で帰っていった人も多く出た。

リオデジャネイロ都市圏には、治安に問題がある市が多いのだが、このような運営が滅茶苦茶な市に住んでいなくてよかったとは思う。

2021年3月23日

フランスもブラジルも「寒う」

 
いや全く大したことはないのだが、気がついて面白いと思ったので書こう。

現在ブラジルは、あのグダグダのWHOにすらも世界の脅威になると心配されるくらい、Covid-19の感染者と死亡者の増加がひどく、もっと力を合わせろと警告を受けている。

テレビのニュースで、フランスでも再び市民の外出制限が敷かれると、パリの街の情景が流れた。
パリの救急車の車体にも"SAMU"と書いてあるのを見て、あっブラジルと一緒だ!と思ったので調べてみた。

ブラジルでは「サムー」と後ろの音節に強勢がある。
長音ではないが心持ち長くなるようである。
"Sam"と混同しないようにサムーとここでは書き表わそう。
フランスでどのように発音するのかは不明だ。

フランスのサムー = Service d'aide médicale urgente
その英語訳 = Urgent Medical Aid Service
その日本語訳 = 緊急医療援助サービス

ブラジルのサムー = Serviço de Atendimento Móvel de Urgência
その日本語訳 = 緊急モバイルケアサービス
病院に着くまでに車内で緊急処置を進められる設備を備えた救急車のことである。

ブラジルのサムーをフランス語に訳したら = Service de soins mobiles d'urgence
略語(頭文字)は一緒でも、元の語は確かに少し違いがある。

さらにわかったことは、サムーには国際シンボルがある。
そのためブラジルの救急車もフランスの救急車も、車体にSAMUと大書してある上に、六角アスタリスクを背景に、杖に巻き付く蛇のマークをつけているから、遠目には全く区別がつかないのだ。

2021年3月7日

二部落ちしたデング熱

感染の心配の少ない、食事を用意したり会食することができる、三方の風通しが良く開放した広いスペースが田園地域にあるので、ときどき週末に会うほぼ唯一の親戚家族がある。
その者と一緒に働くトラック運転手が体調不良になった。
2週間前のことだ。
風邪のような症状と聞いて、まず恐れるのは当然新型コロナ感染症である。
これは検査結果がわかるまで会わないほうが良いかなと、一週間考えていた。

結果がすぐにわかる簡易検査は陽性だったので、PCR検査の結果を待った。
こちらは陰性だった。

最近町で問題になっていることに、簡易検査、つまり抗体検査キットの精度が悪く、これで陰性と出たので普通の生活に戻ったところ、実はPCR検査の結果は陽性であり、それが判明するまで周りの人にウィルスをばらまいてしまうという困った状況が出ていることである。
市の衛生当局は、キットを配布した保健省へ返却するとか言っていた。
まあこんなゆるゆるだから、日本の人の目から見ればブラジルでコロナが蔓延するのも当然だと思われるかもしれない。
うん、その通り、確かに返す言葉はない。

このトラック運転手の場合は通常問題になるケースと逆で、抗体検査では陽性、PCR検査では陰性となったところが異なる。
他の病気の検査もしたところ、デング熱であったことが判明した。
みんなの口々で異口同音に聞かれたのが、「ああ、デング熱で良かった」という言葉だった。

6年前の昔、「デング熱とソファと女性の関連性」という題の記事を書いたが、その頃に恐れられていたデング熱が、「なーんだ、デング熱か、安心した」と言われるようになってしまった。

デング熱は、病気のチャンピオンシップで二部リーグ落ちしたようなものだ。

2021年3月6日

ブラジルがコロナ死亡数1位になる日

米国はワクチン入手と接種に全力で取り組んでいる。
国内に複数のワクチン開発生産メーカーがある上に、政府の呼びかけに応えてライバル会社も巻き込んで協力して、ワクチン生産能力を上げている。
バイデン大統領は約3ヶ月先の5月末までに、米国の成人にワクチン接種を終えるつもりだと発言した。
そして現在の1日あたり接種人数は約2百万人で、これまで人口の15%が接種済みだという。

一方ブラジルはどうか。
本ブログの一つ前の記事で、ブラジル連邦政府はワクチンの購入交渉が下手で、ワクチン入手が非常に困難なことを書いた。
今日(2021/3/5)のニュースは、保健省の3月ワクチン購入予定数が4千5百万から3千7百万台まで下がったと言った。
それもまだ未契約だったり未承認だったりするワクチンを含んでいるという、不確実な数字である。

毎日発表される24時間の接種数を見ているが、一日あたり25万から30万くらいである。
それも連邦政府の五月雨式供給が途絶えると、接種も中断する。
2021年3月5日現在人口の3.75%が少なくとも1回、1.2%が2回めの接種を完了している。

以上の数字と国連発表の人口統計から計算してみた。
2020年推計で米国の人口は3億3100万、ブラジルの人口は2億1256万である。

米国もブラジルも一番優先順位が高いグループは医療従事者、とりわけコロナ患者に直接接触する人たちであるが、その人数は不明なため、高齢者から接種が始まったものと仮定する。
そして接種のペースは上の数字がこれからも続き、接種を拒否する人はいないとした。

65歳以上の人口と接種が終わる予定日
米国 55,049千人(総人口の17%)2021/3/7
ブラジル 20,389千人(総人口の10%)2021/4/15

18歳以上の人口と接種が終わる予定日
米国 257,510千人(総人口の78%)2021/6/16
ブラジル 158,962千人(総人口の75%)2022/7/21

確かにバイデン大統領の掲げた目標は、少し頑張れば半月早めて達成できそうだ。
しかしブラジルでは同じ結果となるまで、1年以上も余計に年月を要するということだ。
最初に接種した人たちの免疫が切れてしまい、次の接種サイクルに入ってしまうだろう。
永遠のワクチン接種キャンペーンになる。

現在までの新型コロナ死亡数
米国 520千人(世界1位)人口10万人あたり157人
ブラジル 261千人(世界2位)人口10万人あたり123人

まだ今のところは単位人口あたり死亡数で比べると、米国の状況はブラジルより深刻だといえる。
しかし米国はあと3ヶ月もすれば18歳以上の国民皆接種、つまり国民の78%がワクチンによる免疫を得て、国全体が集団免疫獲得のレベルに達する。
そうすれば死亡数増加もおのずからゼロに近くなってくるだろう。

かたやブラジルの単位人口あたり死亡数は米国とかなり近くなっているし、ワクチン接種が進むまでブラジルの死亡数減少は減速しないとなると、実数でも米国に追いつくことは間違いない。
ブラジルの接種速度が一日100万であったとしたら、2021/8/2に18歳以上の人口に接種が完了するのであるが、奇跡を妄想してもしかたがない。

米国は科学無視のトランプ大統領が、科学重視のバイデン大統領に代わり、流れが一気に変わった。
ブラジルはトランプ大統領に薫陶されたボルソナロ大統領が、思想を変えない限り2022年末まで相変わらず科学軽視・無視を続ける見込みであることが、両国の科学力・生産力の差を、さらに拡大していく未来が心配される。

しかし2022年下旬の大統領選挙で再選を目指すとなると、急速に方向転換する可能性は非常に大きい。
現実に、連邦政府がワクチン入手にもっと力を入れないと、地方政府が共同でワクチンを直接購入する動きが急速に形成されていて、連邦政府は保健政策の主導権と国民の称賛を持っていかれる可能性があり、大統領はそれを望まないだろう。
だらだら長びくコロナ流行のもとで、経済を止めたり緩めたりを繰り返しながら補助金を小出しにする消耗戦より、流行を一気に停止してから経済全開にするほうが政府の税収を増やし出費を減少するという認識が、もっと広まり力を得ると良いのにと思う。

2021年3月2日

富者のワクチン、貧者のワクチン

 各国の新型コロナ感染症対策は、その国で利用可能なリソースによって決まるから、ある国の治療法は、必ずしも隣の国の治療法と同じだとは限らない。
新型コロナのワクチンであっても事情は同様だ。

下の表は全ての認可されたりその候補のワクチンを上げたのではなく、現在ブラジルで話題に上がるものだけである。

番号開発者名称商品名開発国種別特徴
1AstraZenecaウィルスベクター2回接種、冷蔵保管
2Johnson & Johnson蘭/米ウィルスベクター1回接種、冷蔵保管
3ModernaRNA2回接種、冷凍保管
4Pfizer/BioNTech米/独RNA2回接種、冷凍保管
5Bharat BiotechCovaxin不活化ウィルス
6Gamaleya研究所Sputnik Vウィルスベクター
7SinovacCoronaVac不活化ウィルス2回接種、冷蔵保管


現在ブラジルで認可を受けているワクチンは3種である。
いずれも昨年からブラジル国内で第3フェーズ試験を行ったため、以前の法規に則って、ブラジル衛生監視庁(アンヴィザ ANVISA - Agência Nacional de VIgilância SAnitária)より認可された。

  • 1.アストラゼネカ(英国)
  • 4.ファイザー/ビオンテッキ(米国・ドイツ)
  • 7.シノバック(中国)


1.アストラゼネカは、ブラジルの医学衛生分野で権威実績のある、オズワルド・クルス財団(フィオクルス FIOCRUZ)と提携して、年内の国内生産を目指している。
現在は緊急使用許可で、フィオクルスが生産を開始するまでは、中国工場からのワクチン原液の輸入と、インド工場からの製品ワクチンの輸入に頼っている。

4.ファイザー/ビオンテッキは、初めてブラジル国内で完全使用許可を得たワクチンであるが、連邦政府は商談に手こずっていて、契約に至っていない。
2020年半ばにファイザーブラジルがブラジル連邦政府に契約を打診したのだが、副反応が出たときの免責条項にブラジル政府が同意しなかったので、提案はそのまま放置された。
免責条件に同意しなかった国は、ブラジルの他にはベネズエラとアルゼンチンだけだったというのだが、ニュースで一回聞いた限りで、以降確認していない。

7.シノバックは、サンパウロ州立の医学衛生研究機関ブタンタン研究所(Instituto Butantan)が第3フェーズ試験を行った。
ブラジルで権威のある研究所をパートナーとしたので、情報開示に問題がありがちな共産圏ワクチンであるが、検証はしっかり行われたと信じたい。
現在は緊急使用許可で、もちろん原料は中国に頼っている。

1.アストラゼネカも7.シノバックも中国頼みであるが、ブラジル大統領派の議員や大臣が中国批判ばかりするので、ブラジルへのワクチン原料が妨害されて遅れているのではないかと噂されていた。
中国の返答は事務手続きに時間がかかるという理由であったが、外交のことであるから隠れた本心はわからない。

ブラジルで第3フェーズ試験が行われているものはあと一つ、2.ジョンソン&ジョンソン(米国)があるが、ANVISAへの承認申請が行われていない。

これまでの法規は、ブラジルで治験が行われたワクチンでないと国内使用は認可されなかったのであるが、あまりにもワクチン入手に困難があるため、連邦議会は認可条件を緩和する立法に取り組んでいる。
例えば、科学的に信用のおける国の保健機関が認可したワクチンについては、試験結果を引用して簡略に許可するといった方策である。

そのような流れで未だブラジル衛生監視庁から認可されていないが、連邦政府が契約しようとしているのが次のワクチンだ。

  • 5.商品名コバクシン Covaxin(インド)
  • 6.商品名スプートニク・ブイ Sputnik V(ロシア)


米国は自国で複数のワクチンの開発が行われているので、全く比較対象にはならないだろうが、現在まで3種のワクチンが認可されている。

  • 2.ジョンソン&ジョンソン(米国)
  • 3.モデルナ(米国)
  • 4.ファイザー/ビオンテッキ(米国・ドイツ)


ブラジルのワクチンリストと米国のワクチンリストを比較すると、ワクチン生産国のコントラストがくっきりしている。

ブラジルにはブラジル独自の事情がある。
インディオはこれまで他の文明から隔離されてきたため、いろいろな感染症に免疫を持っていない。
インディオが、医療従事者や高齢者と並ぶ予防接種優先順位に位置づけられる理由である。

アマゾナス州の保健部門で働く人がインタビューで言っていた。
インディオ部落へワクチンを届けるのは並大抵でない。
川船で6日川をさかのぼってから、小さいボートに乗り換えてさらに1日かかるというような辺鄙で不便な場所がある。
辺境地では電力事情が悪いだけでなく、電気自体が通っていない場所もある。
国土が広いため空路でも陸路でも、冷凍輸送するには機材や燃料が高くつくし、時間が足りない。
マイナス20度冷凍保存のワクチンなど持っていけるわけがない。

そのような事情で、90%を超える有効性を誇っても、取り扱いが非常に面倒なワクチンは、手元にあっても十分に役に立ってくれない可能性は大きいのだ。
日本のようにワクチン全量がファイザーであるような国を羨ましがっても仕方がない。
接種を受けるのは無料だし、地元にあるワクチンで満足しなければバチがあたる。

ブラジルは、規則に従って国内で第3フェーズ試験が行われて、50.38%という際どい数値ながら、WHOが基準と定める必要な数字を叩き出したから許可したのである。
中国製ワクチンを闇雲に入手するのとは違う。

今のところブラジルで入手可能なワクチンの中で、唯一の西側先進国製のアストラゼネカにしても、政治的事情はあるもののEU諸国では不利な情報があふれて、できるなら避けたいワクチンナンバーワンになっているようなのだ。
ブラジルなら打ちたいワクチンナンバーワンになれるぞ。

インフルエンザワクチンと同じようなもので、発病しても入院して重症に至る確率が低くなれば、個人にとっては儲けものだし、医療機関が機能不全に陥ることはないから、社会全体が安心できる。

まあそれにしても、BRICSの中でもワクチンを生産しているのは中国、ロシア、インドががんばっているのに、熱帯病研究に強いはずのブラジルが、治験と生産の提携に過ぎないのは残念である。
計画と信念、何よりも予算が足りないのだろう。