2019年1月28日

ダム決壊と災害救助、技術、外交

ダム決壊 = rompimento de barragem - ポルトガル語メディア
ダム決壊 = colapso de presa - あるスペイン語メディア

2019年1月25日の昼過ぎの事故だった。
ミナス・ジェライス州ブルマジニョ(Brumadinho - Minas Gerais)のVale(ヴァレ)社の鉱滓ダムが決壊した。
Vale社はブラジル最大の鉱業会社である。
Mina Córrego do Feijão(フェイジョン小川鉱山)20°07'09.0"S 44°07'27.1"W

このようなダムの目的は、鉱物採掘とその処理からできる鉱滓を貯蔵するのが目的である。
少し注釈すると映像から判断して、この鉱山には鉱石を溶解して精錬する処理は行われず、浮遊選鉱あるいは湿式製錬が行われるだけと思われ、その場合の鉱滓はスラグに対してスライムと呼ばれるとインターネットの知識には書いてある。
いずれも鉱山の残渣、つまり鉱滓である。

ダムを作って残渣を貯蔵する方法は、正しい処理方法なのか、それとも完全に正しくないのだが経済的理由で仕方なくそのようにせざるを得ない方法なのか、そこのところは不明である。
土の中から掘り出したものから利用対象物質を取り出して、その残りを土に戻すだけなら正しいと感じるが、処理に使われた酸・アルカリなどの余計で有害な物質が加わっていたなら重大な問題となる。
飲料や農業のため水を利用する、決壊の下流域は不安になるが、今のところは主成分はシリカ(二酸化ケイ素)であるから心配ないと言われている。
不都合なことが発見されて、問題が重大化する可能性はもちろんある。

ともかく、ブラジルの鉱山は露天掘りのところが多く、一次的な精錬処理された鉱物は鉄道などで輸出港へ運搬されるが、国土が広大であるから、余計な鉱滓をわざわざ他の場所へ移すという手間を掛けているという話を聞かない。
そのためどこの鉱山でも、鉱滓を貯蔵するダムなどは普通に多数存在する。

このようなダムを建設するときは、適当な谷間に例えば5メートルの堰を建設する→鉱滓を貯める→一杯になる→最初の堰の上に5メートルの堰を積み増す、というサイクルを繰り返して、ダムは段々畑のように積層状に高くなっていく、とニュースで説明していた。
5メートルは単なる説明例であり、本当は一段何メートルという基準や全高の制限などがあるのかは不明である。
ダムの素材は近くに豊富にある岩石や土砂そのものを使うのであって、内部に鉄筋コンクリートなどの強い構造があるのかもしれないが、基本的に岩石や土砂で作られるものだろう。
その分余計に厚い堰の厚みを必要として、比較的薄い非透水層を持つ構造となるだろう。
ダムに関するサイトをざっと見て、ブラジルの鉱滓ダムがどのタイプかと考えてみると、ロック(岩石)フィルダムかアース(土砂)ダムだろうと見当をつけてみる。

このような構造であるということは、運動会の組体操の人間ピラミッドの構造のように、しっかりとした設計に従って、最上段までの高さに応じて、下段は上部構造を安定に支えるだけの壁の厚みが必要だと素人目にも想像される。

仮に50メートルの高さのダムを設計しておいて、堰高が50メートルに達した時に、ブラジルは地震がないし、あと2段くらいは何とか大丈夫だろうと、当初の計画から外れて60メートルにしてしまうようなことはないと断言できるだろうか?

ダム決壊の原因は、設計(構造計算)の間違い、施工の間違い、メンテナンスの間違い、あるいはこれらの複合が考えられるが、鉱山エネルギー省、環境省、連邦検事局が原因解明に動き出している。

州消防・警察による救助活動と、Vale社への行政処分に先立つ資金確保のための強制執行はミナス・ジェライス州政府の手で行われている。

そしてここが外交が関与してくる部分なのだが、イスラエル陸軍の特殊部隊136名がイスラエル政府の特別機で16トンの資材を引っさげて到着して、行方不明者が集中しているVale社の事務所と食堂がある区域で、ミナス・ジェライス州消防と一緒に救助活動に入った。
この区域の泥の厚さは14~15メートルである。

イスラエルが携える技術は、まだバッテリーが残っているかもしれない行方不明者の携帯が発している信号探知、埋まる泥とその他の物質を区別できる探査映像処理、ドローンなどの例があげられた。

ブラジルのボルソナロ連邦政府とイスラエル政府の関係強化は、大統領就任前からマスコミが明らかにしている。
アラブ諸国は、日本などアジア諸国と共にブラジル産の鶏肉などの顧客であるから、あまりイスラエルと緊密になると、アラブのイスラム諸国への輸出に差し支えが出るのでないかという意見があるのだが、政府はそんなことをあまり構っていないらしい。

ブラジルは鉱業国であり、原油や鉱石の大規模な採掘には優れた技術と経験を持っているはずなのだが、設計や規則を厳守するという面で盲点はないのだろうか。
決壊したダムの最新の安全検査はドイツの第三者専門企業が行って安全であるという結果が出ているという。
すべての規制に従っていたのだが事故が起きたと言うなら、規制が緩かったわけだから、見直す必要が出てくるだろう。

一番近い先進国である米国は、もはや自国の得になること以外には手を出したくないと引きこもっている。
欧州は、自身の団結を維持する苦労に精一杯である。
イスラエルは周囲に味方してくれる国がない一方で、誇れる軍事・技術力を持ち、周りの目を気にしないで動ける自由を行使して、ブラジルで存在感を否応なく増している。

日本は地震の多い軟弱な地盤もものともせず、橋梁やトンネルを建設する土木建築技術や、地震や津波に対する知見と救助技術の経験を積んで、これらに優れているはずである。

救助の様子をテレビで見ると、3年前のマリアナの泥とは土質が違って、3日経っても表面が固くならないので、救助員は腹ばいで移動しなければならない部分があって、難渋している。
水害と液状化したような軟弱土壌での作業なのである。

日本政府がとにかく国際的に手柄を立てて、味方を増やしたいのならば、日本の近隣国には真似できない技術力を持つ援助を送って、ブラジルでアピールする良いチャンスだと思うのだが、遠すぎると遠慮しているのだろうか、要請が来るまで待つのか、そんな考えは持っていないようである。

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