2019年1月22日

ワンダー一杯田舎バス

わが町の交通局バス代が市内均一料金4レアルになって1年くらい経つ。
4レアルでどこまで行けるか?
農場近くにある、数年前まで牛しかいなかった放牧地が、大区画の耕作・宅地混合分譲地になったため、1日に数便であるがバスが通るようになった。
路線は二地点の往復ではなくて、三角形を一周巡る形なので、行きは町の外郭のバスターミナルから15分以内だが、帰りは運行予定表によると40分位かかる見込みである。

夏時間の午後7時はまだ明るい。
旧牧場の土道にあるバス折り返し点で、帰りのバスを待っていた。
午後7時ターミナル発の最終バスは、予定より10分位遅れて7時25分ころようやくバス停を通って乗り込んだ。
最初から遅れかよ。

市内バスの車両についてだが、長距離バスとは全く異なる。
サスペンションが硬い、シートが硬い、ガタガタ騒音がうるさい。
聞いた話だが、ブラジルの都市内バス用車両にバス専用に作られた車体はなく、トラックのシャーシをそのまま使って、荷台の代わりに乗客を乗せる箱を付けてあるだけだという。
サンパウロ市のバスはもっと乗り心地が良かったけれど、地方では多分本当なんだろう。
だから乗り心地と騒音がトラックの荷台並みなんだ。
だれがバス会社を経営しても、新車は都心の黒字路線に使うのが当然で、路線の一部が未舗装の土道で、車両が汚れる上に車両構造に負担がかかる田園路線に使うはずがない。
だから田舎路線のバスは車体が古くて、ガタピシ音がうるさいのだ。

おばさん4人ほどの先客がいる。
前の方に陣取って、うるさく喋っている。
途中で別々の停留所から、一人ずつ青年が乗ってきた。

ダム湖近くの、川魚料理を出して酒を飲んでくつろげる、戸外スペースを利用した開放的なバルというかレストランが折り返し地点になっている。
市の中心部からは27キロ離れている。
田舎ではおなじみのセルタネージョ、ブラジル風カントリー音楽が大音量でかかっていて、踊っている人もたくさんいる。
道路脇の大きな木の周りのスペースを使ってバスは帰り道への方向転換をするのだが、場所にお構いなく乱雑に止めてある車が邪魔で、バスは方向転換ができない。
これだけ車がたくさん止まっていて、各車に一名酒を飲んでない運転者が必ずいるのだろうか気になるのだが、とりあえず忘れておく。
バスの運転手はエンジンを切って、邪魔な車の持ち主を探しにバルに行ってしまう。
しばらくして戻って来て車をどかす間、さらに10分ほど遅れた。
まだ明るさの残る、日曜日の午後8時を少し過ぎた頃だった。

ここで乗ってきた十数人の客は、車内後ろの方に散らばったが、子供を除いた半分が酔っ払い男、もう半分が酔っ払った女で、しばらくのあいだ非常にうるさかったが、すぐ静かになった。
眠ってしまったのだろう。
途中で後方で物が倒れる大きな打撃音がしたが、荷物が落ちた音か、泥酔した誰かが椅子からずり落ちて床に倒れた音か判別できなかった。
そんなことに構わずバスは快適に走る。

「肌黒男たちの小屋」という地点から、二か所目の土道に入る。
あたりはすっかり暗くなっていて、分岐や合流地点で本道と細道の区別がつかず、どう見ても農道としか見えない道を、バスは耐え難い騒音と振動を撒き散らしながらのろのろ進んでいく。
「昔話だったらいかにも山賊が出そうなところだ、誰の目も届かないところで、強盗が待ち伏せていたらひとたまりもないな」と想像すると、あまりいい気持ちはしない。

このあたりは牧場と耕作地で、昼間だったら人間の経済活動が十分感じられる場所なのだが、街灯も人家の明かりもまったくみえない暗闇の中で、頼れる光はバスのヘッドライトと室内灯だけだ。
さっきまであれだけはしゃいでいた連中が今は全く無音なので、実は毒物でも飲まされて全員この世の人ではなくなっていて、生きているのは私たちだけで、次元の狭間を走るバスで異次元へ連れ去られる、「きさらぎ駅」のブラジルのバス・バージョンかと、妄想だけがふくらむ。

道が一番低くなっていて、小さな川に橋がかかっているあたりで女性が一人降りた。
こんなところで一人で?
人間の女性だと信じたい。
「水源の保護人」と看板がある。
大都市の水源を涵養する農家が、都市から報酬を受け取る制度がアメリカ合衆国にあるが、ブラジルでも同様のシステムがあるのだろうか。

ほどなく次の目的地、「泉」と呼ばれるところを通過して、やっとアスファルト舗装国道へ出た。
路線図では「マリエルザ集落」というところは、別路線のバスが運行していて、このバスは通過するはずなのだが、なぜか集落に入っていく。
集落内は未舗装だ。
慣れない運転手が道を間違えるので、前に乗っているおばさん方がうるさく道を指示している。
4人のおばさんたちはこの集落で、それぞれ別の場所で降りていった。
自分の家に近いところに無理やり止めてもらっている感じがした。
バスがタクシー化している。
この集落を出て、市街区域に入ってバスターミナルに着いたのは午後8時50分だった。
行きの旅はターミナルから13分ほどに過ぎなかったのに、帰りは1時間30分かかり、いろいろなワンダーが続く、全く対照的なラウンド・トリップであった。

バスターミナルで係員にいつもこんなに時間がかかるのか尋ねたら、「2つの路線が合わさっているから」と謎の回答だった。
車両故障のためか、客が少ないからかわからないが、勝手に別々の路線をくっつけて運行してもらったら困るよ。
客が少ない田園地帯ではよくあることなのだろうか。

途中で降りなければ4レアルで一周28キロ、1時間40分の安い「田舎一巡り」ができる。
昼間の顔と夜の顔を比べるのも一興であるが、他人には勧めない。

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