2019年1月30日

命あっての勝ち組

Vale社はブラジルで最大の鉄鉱会社である。
2018年の純利益135億レアル、総資産3423億レアル、純資産1667億レアルと資料にある。
最近の為替は1レアル=29円くらいである。

Vale社へ入社するのは大変である。
いくらブラジルでは相対的に大卒が少ないといっても、このような超大企業は就職競争が激しい。
特にエンジニアだったらこのような大会社で、でっかい仕事をしたいと思う人が多いと思う。
そして、ブラジルでは誰でも知っているこの会社の給料は高くて、福利厚生は手厚いはずだ(調べてないから断定はしないでおく)。
白黒つける物言いは好きではないし、ブラジルではこういう言い方はしないが、当然入った人は勝ち組とみられる。

2019年1月29日午後の発表では、ダム決壊の死者84名、行方不明者276名である。
今回のダム決壊の特徴は、死者・行方不明者の大半がVale社員と出入り業者であることである。
付け加えておくと、もっと下流にあったリゾートマンションの従業員と宿泊客が三十人ほどいる。

なぜか?
決壊したダムの下流の氾濫原に、事務所と食堂が建っていて、事故が昼過ぎに起きたとき、多くの従業員が昼食をとっていた。

少し話はそれるが、日本でも似ている主張がある(あった)。
「そんなに原発が絶対安全というのならば、どうして(消費地の)東京湾岸に原発を建てないのか」
結構言い古された命題である。

Vale社の、事務所や食堂という従業員が集中する施設と、決壊したダムの位置関係である。
この鉱山プラントの配置を設計したエンジニアは、ダム決壊など決して起こりえない、だから事務所や食堂をすぐ下流に設置しても何も心配することはないと思っていたからこそ、現実にそういうレイアウトになったのだろう。

今となって「〇〇はいつも(事故が起きるのではないかと)不安だと漏らしていた」と発言する、行方不明従業員の家族もいる。

その立地がもたらした損害がどれだけ大変なものか。
事務所・食堂地域を覆う泥の厚さは14~15メートル、破壊した食堂の建物の構造物の破片が、800メートル下流の泥の中に発見されている。
こんな強烈な破壊力で建物ごとなぎ倒された状況を想像すると、泥流の圧力に負けずに形を保つことができた強固な建物の中で、十分な空気とともに人が生存している可能性は限りなく低いと思う。

2019年1月29日月曜日は災害当日を含めて4日目であった。

行方不明者の家族に携帯電話のSIMカードを配布して、情報伝達用に使うとの発表があった。
どのようにこの情報伝達システムを運用するのかは不明だが、情報伝達を専有一本化・テキスト化して、どこの誰が情報を持っているのかわからない、情報が間違っている、漏れている、言った言わないでもめる、といった情報の錯綜にまつわる問題を減らすために役に立つだろう、良いアイデアであると思った。

ブラジル陸軍やイスラエル陸軍の救助部隊がミナス・ジェライス州消防・警察に加わって救助活動は続いている。
主題と全く関係はないが、ミナス・ジェライス州消防のスポークスマン、ペドロ・アイハラ中尉(ブラジルの消防は軍組織である)は、イケメンの日系人である。
他州の消防の救援も駆けつけた。
避難のため無人になっていた区域で、空き家を荒らしていた複数の盗人が逮捕された。
夫婦喧嘩がこじれて一方が放火した家屋が、たまたま救助のオペレーションセンターの隣家だったために、ヘリで発着していた消防の救助隊の人員が消火のため作業中断させられる、はなはだ人騒がせな事件が起きた。
要らぬ騒ぎのため、救助や治安維持に必要な人力を無駄に損耗しないでもらいたい、と遠くに住む普通の人々は呆れている。

各地で自発的な救援物資キャンペーンが起きているが、物資搬送に問題があって食料などが無駄になる可能性があるため、要求物が明らかになるまで見合わせるように報道されている。

Vale社の地質学者、環境責任者およびパラオペバ川コンビナートのオペレーション責任者の3名がミナス・ジェライス州内で、ダムの安全評価を請け負ったサンパウロ市にあるドイツ資本のTüv Süd Brasil社のエンジニア2名の合計5名が、昨年6月と9月に作成された2つの安全評価報告書の改ざんの嫌疑があるため、証拠保全の目的で、ミナス・ジェライス州警察により逮捕されて家宅捜索が行われた。
日系人名のエンジニアが逮捕者に含まれている。
サンパウロで逮捕されたエンジニア2名がマコト・ナンバ及びアンドレ・ヤスダと言う名前である。

Vale社は、死者・行方不明者の家族に一律10万レアルの見舞金(賠償金と区別するためにポルトガル語では贈与と表現)を支払う決定をした。
零細企業には真似できないことだろうが、当然だが失われた命は戻らない。

本記事はタイトルからしてふざけているように取られるかもしれないが本心は、できるだけ多くの人が無事に発見されることを願い、死亡者の冥福をお祈りする。

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