2018年12月29日

巷にあふれるマシェット


高千穂6人殺害 凶器は軍用山刀「マシェット」か

毎日新聞2018年12月26日 13時24分(最終更新 12月26日 20時38分)

記事の見出しが気になるのである。
軍用山刀「マシェット」?

「マシェット」は、スペイン語のマチェテであろう。
Wikipediaをみると、マチェテは、「中南米の現地人が使う山刀のスペイン語による呼称である」と説明している。

ポルトガル語でも同じ綴りでマシェチと読む単語はあるが、同じものを私たちはファコン(facão)と呼んでいる。
ナイフ(faca)に指大辞がついて「大ナイフ」といった意味になる。
ファコンなら私も使うぞ。
だから私も中南米の現地人なんだぞ。

しかし新聞の見出しの「軍用山刀」とは何だ。
確かに軍用に使われていることは上のリンク(特に英語版が軍用の使用について歴史を交えて説明している)を見てもらうとわかる。
普通の読者の受ける印象では、軍用と書かれると非常に危険な武器であると感じてしまうだろう。

昔はともかく、現代はファコンを使って白刃戦をするというのではない。
ブラジル陸軍はアマゾン(あるいはその他の原野や森林)でサバイバル訓練をするらしいが、欠かせないサバイバル用品であることは認める。
野生動物の狩りをしたり、戦わなければならないこともあるだろう。
実際は、軍需よりも民生用のほうが多いと思う。
高千穂でこれによって6人も殺されているから、武器ととらえられても仕方ないか。

私たちはこれを使って、行く手を塞いでいる枝葉や灌木を切り払って通り道を作ったり、草刈りをしたり、枝を打ち払って製材したりの作業をする。
農場には大小2つあった。
日本では鉈や鎌を使うような作業に、ブラジルのファコンは使われている。

ブラジル旅行をして、海岸の屋台で売っているヤシの実のジュース(液体の胚乳)を頼んだことがある人は見たかも知れないが、器用なココナツ売りは左手にヤシの実を持ち、右手に持ったファコン一つでヤシの実の片側を削って、ストローを差し込む穴を開けてくれる。
ココナツジュースがなくなると、ファコンで半分に割ってくれて、同じようにファコンで実の果皮をそぎ取ったものをヘラにして、ココナツの内側についたゼリー状の胚乳を食べる。
つまり、ファコン一つでココナツ売りの全ての用が足りるわけだ。

サトウキビの収穫は、現在は1台で200人分(この数についてはうろ覚え)の働きをするハーベスターを使って行われることが多いが、昔は人手に頼っていた。
収穫期になったサトウキビ畑に火を入れて、茎の周りに密着していて収穫作業の妨げになる、鞘状になっている下葉の基部を燃やしてしまう。
収穫の対象となる茎だけになったサトウキビを、収穫人はファコン一つで刈り倒して、集められた茎は砂糖やアルコール製造の原料になるために計量運搬される。
このようにファコンは軍用より何よりも農具なのである。

従って、どこの農機具屋でも売っている。
もちろん購入するのに許可などいらないから、誰でも買える。
日本の鉈や鎌よりも普及していると思う。
「殺傷能力の高さから、南米においてはしばしば凶器として犯罪に使用される」というWikipediaの解説がある。
鉈よりは軽いから、殺傷能力も鉈よりは低いと思う。

あるときある牧場でシュラスコがあったのだが、カウボーイ頭の男が腰にピストルをつけていたので、「お前そんな物を持ってきて大丈夫か?」と聞いたら、「いや荒っぽい奴が多いから」と答えた。
「危ないのはお前の方だろう」と言いたかったがこらえた。
部下をいつもいじめまくっていて、酒の入った娯楽の座で仕返しされるのを恐れているのかとも想像した。
遠くから馬でやってくるカウボーイ(vaqueiro ヴァケイロ)たちは、腰に鞘に入ったファコンを着けていなくても、馬具に装着しているだろう。
道中で藪を切り開かなければならなくなる可能性があるから必需品といえる。

秀吉が刀狩りを行ったのは、支配層の力を絶対的に増大するだけでなく、民衆の間に犯罪の凶器となりうる武器や道具を溢れさせないので、警察力が小さくても、凶悪犯罪は起きにくくなるわけである。

ブラジルの農村社会では農林造園機具でもあるファコンを取り上げてしまっては仕事にならない。
つまり、ブラジルでファコンを取り上げたり、所有認可制にするような政策はありえないから、社会にファコンが溢れているのは仕方ない。
当然だが、物は物に過ぎず、道具はそれを使う人によって善にも悪にもなる。

2018年12月28日

2019年のキリスト教移動祝日

2019年のカーニバルは何月何日か気になる人もいるだろう。
ズバリそれだけを知りたいなら、米国のカーニバルで有名なニューオーリンズのサイトがあって、向こう9年、2027年までのMardi Gras(マルディ・グラ)の日付がここでわかる。
Mardi Grasとはフランス語で確か「肥えた火曜日」と言う意味だったと思うが、ブラジルでは普通にTerça-feira de Carnaval「カーニバルの火曜日」と呼ぶ日である。

カーニバルがキリスト教行事かというと巨大な疑問であるが、少なくとも日付の決め方だけは教会に従っている。
このようにキリスト教行事の中には、毎年、天体の月の動きに応じて日付が移動するものがある。

年の後半にある、知らない人はいないクリスマスは12月25日(ブラジルの祝日)、ブラジルでは死者の日(Finados)と呼ばれる万霊節は11月2日(ブラジルの祝日)―これはハロウィン(10/31)-万聖節(11/1)-万霊節(11/2)と続く―と、毎年同じ日付に決まっているが、年の前半にある宗教祝日は移動するものが多い。

2019年の移動宗教祝日を下に一覧表にした。
復活祭の日、2019年ならば4月21日日曜日が、すべての移動祝日の基準になっていると言ってよい。
2018年より20日遅い。
さて2019年の復活祭の日付の決定について大きな疑問が湧いたのだが、詳しく調べた結果氷解したのでここに記す。
面倒くさい話はいらないから結果だけ見たいという人は、ここをクリックして記事の最後にある表へ飛んでほしい。

2019年の3月分点、つまり教皇庁のあるローマの春分の日は3月20日、その次の満月の日は翌日の3月21日になるはずだ(天文データはhttps://www.timeanddate.comによる)。
March Equinox (Vernal Equinox) is on Wednesday, 20 March 2019, 22:58 in Rome.
Full Moon 21 Mar 02:42

これだけ見ると、天文学的な3月分点のわずか3時間44分後に満月の瞬間が訪れるのであるが、教会暦では3月21日は「春分の次の満月」とみなされずに、その次の満月4月19日金曜日が「春分の次の満月」となって、従って2日後の2019年4月21日日曜日が復活祭となっている。
なぜだ?

はるか昔から(カトリック)教会本部の重要な仕事の一つが、復活祭の日付を決定することであった(コンプトゥス)のであるから、上のデータだけ見て2019年の復活祭の日付は、俺の計算と違うぞおかしいぞとローマ教皇庁へ抗議しても当然相手をしてくれないと思われ、調査してみた。
コンプトゥスのリンクをざっと見たら、概要のところに簡単な説明がある。
毎年教会暦を確認する時に考え込まないように、次に整理しよう。

  • キリスト教の教会暦において春分の日は3月21日に固定されている
  • 3月21日(暦上の春分の日)当日あるいはそれ以降の最初の暦上の満月(新月から数えて14日目)を過ぎたあとの最初の日曜日が復活祭
大事なことは、教会暦は実際の天体の現象と必ずしも一致していないことである。
  1. 太陽が春分点を通過するのが3月20日であり、日本の祝日春分の日が3月20日であっても、教会暦の春分は必ず3月21日である
  2. 月が望(厳密な満月時刻)となるのが、その前の朔(厳密な新月時刻)から15日目であっても、教会暦では必ず14日目である
そうなのか、上の規則1が適用されて、2019年の天体の春分の日は3月20日であっても、教会暦の春分の日は常に3月21日なのだ。

でも3月21日は満月当日でないか?
上の規則2が適用されるかどうか確かめるために、3月21日を含む朔望月を調べると、朔日つまり陰暦1日は
New Moon 6 Mar 17:03
であるから、陰暦15日は3月20日であり、天体の月の望日つまり
Full Moon 21 Mar 02:42
より一日早く、従って教会暦春分日と同日以降の満月にはならない。
だから次の満月は次の朔望月に持ち越されて
New Moon 5 Apr 10:50
を朔日とする陰暦15日つまり4月19日であり、これは天体の月の望日
Full Moon 19 Apr 13:12
と一致する。
ちょうど中秋の名月(十五夜)が必ずしも満月でない現象と全く同じ現象が起きるのである。
くどい演繹をしたが、これで納得できた。

あわてて教皇庁へ抗議などして恥をかくという、大変な目に遭うところだった。
当然の結果として、一朔望月である29日半に加えて、月曜から日曜の6日間から4日少ないだけの2日を足した合計の31日が春分の日付に加算されるから、2019年の移動宗教日はとても遅い部類である。
実際に2015年から2027年までの過去4年と将来9年の13年間で最も遅い日付である。

ブラジルで国定祝日(feriado nacional - 下表ではFN)、任意出勤(ponto facultativo - 下表ではPF)になっている日と、特に休日になっていない日がある。
任意出勤というのは、建前では労使協定によって、職種組合や職場ごとに、休日とするか勤労日とするか決められる。
大部分の勤め人にとっては、普通の休日となることが多いが、商店は営業するところと休むところがある。

行事日の決まり方2019年休日種類
カーニバル
Carnaval
週末から灰の
水曜日前日4日間
3月4-5日
月火曜日
PF
灰の水曜日
Quarta-feira de Cinzas
復活祭46日前の水曜日3月6日水曜日14時までPF
四旬節Quaresma灰の水曜日から復活祭前日
枝の主日
Domingo de Ramos
復活祭7日前の日曜日4月14日日曜日
聖週間Semana Santa枝の主日から復活祭前日
キリスト受難日
Paixão de Cristo
復活祭の2日前の金曜日4月19日金曜日FN
復活祭Páscoa北半球春分の次の
満月の次の日曜日
4月21日日曜日
ペンテコステPentecostes復活祭の49日後の日曜日6月9日日曜日
キリスト聖体の日
Corpus Christi
復活祭の60日後の木曜日6月20日木曜日PF

2018年12月27日

2019年のブラジルの祝祭日

連邦政府の企画開発管理省は、2019年の祝日と任意出勤についての通達442号を2018年12月28日付官報に掲載した。
下の表はこれに応じている。

一連のキリスト教関連の移動休日は、2018年より20日遅くなる。
たとえば2018年の灰の水曜日は2月14日、2019年は3月6日であるので14+6=20を足した日になる。

1 1月1日 Confraternização Universal 世界友好の日 FN
2,3 3月4-5日 月火 Carnaval カーニバル PF
4 3月6日 quarta-feira de cinzas 灰の水曜日 14時までPF
5 4月19日 Paixão de Cristo キリスト受難の日 FN
6 4月21日 Tiradentes チラデンチス・復活祭 FN
7 5月1日 Dia Mundial do Trabalho 世界労働の日 FN
8 6月20日 Corpus Christi キリスト聖体の日 PF
9 9月7日 Independência do Brasil ブラジル独立の日 FN
10 10月12日 Nossa Senhora Aparecida アパレシーダ聖母の日 FN
12 11月2日 Finados 死者の日 FN
13 11月15日 Proclamação da República 共和制宣言の日 FN
14 12月24日 véspera de natal クリスマスイブ 14時以降PF
15 12月25日 Natal クリスマス FN
16 12月31日 véspera de ano novo 大晦日 14時以降PF

注:FN = Feriado Nacional 国定祝日、PF = Ponto Facultativo 任意出勤


Feriado Nacionalは国定祝日であるが、もう一つのPonto Facultativoは任意出勤という意味である。
職種や企業によって働くか休むかが決められる日である。
各人が勝手に自分の都合で出勤したり欠勤したりして良いという意味ではない。

左端列の通し番号で11が欠番になっているが、政府公報では「公務員の日」(Dia do Servidor Público)になっていて、民間は通常日であるが、官庁は休日となる。
国営銀行とみなされるブラジル銀行(Banco do Brasil)と連邦貯蓄銀行(Caixa Econônica Federal)について、この日に営業するかは確実でなく注意する必要がある。

当表の連邦政府が定める全国一円の休日のほかに、各地で市、地方あるいは州の記念日が数日定められていることが多い。

次のサイトで、任意の過去・将来年の、任意の国の休日が入った月齢付きカレンダーを閲覧・印刷できる(英語・ドイツ語・当国語-ブラジルならポルトガル語)。
このリンクはブラジルの2019年

2018年12月20日

かなり楽だった人生初の水星観察

日本の天文関係のサイト、今年いちばん見やすい水星(2018年12月)2018年12月15日 水星が西方最大離角2018年12月下旬 水星と木星が大接近などを見ると、2018年12月の明け方の空には水星が一番見やすくなるだけでなく、木星と接近することになっている。

宵・明けの明星は非常に明るいため、それが金星であると認識するかは別として、意識しなくても目に入ってくる存在である。
しかし、より小さく、最も太陽に近い惑星である水星はそのため、わざわざ「観察するぞ」と意気込んで、しかも一年の中でどの時期のどの時刻にどの方向を探すべきか、あらかじめ調べておかないとなかなか見ることができない。
今まで水星を見た記憶が無いということは、これから見ることができれば人生初の水星の肉眼での観察ということになる。

北半球の中緯度にある上記サイトのデータと、当地南半球低緯度の天体の動きは異なるから、参考にはなるが実状は違うはずである。
さいたま☆天文同好会の内山茂男氏による、水星の最大離角をみると興味深いことがわかる。
季節によって水星の高度は変化するが、大雑把に結論すると、時期を選べば南半球は、北半球と比較して水星の高度は高くて、観察の条件が良好である。
西方最大離角のときの日出時高度というグラフを参考にして、当地(南緯19º)は赤道とオーストラリア・パース(南緯32º)の中間だろうと見当をつけると、地平線からの日の出時高度が17º位であることがわかる。
12月には埼玉(東京)とあまり高度差がない。

だから観察の難度も同等かというと、これが大違いである。
南半球は夏を迎えようとしているから、戸外でじっと空を観察するのが楽である。
しかも低緯度でありながら夏時間(サマータイム)実施中であるから、滅茶苦茶早起きしなくても良い。
せいぜい虫除けをするくらいだ。
ごく気楽に出かけられるから、この時期の寒い日本の明け方の星空観察とは大違いである。

夏至の一日前である2018年12月20日、近くの公園の湖の西岸に、スマホと双眼鏡を持ってでかけた。
公園に運動のため行く人々と同じような、半袖シャツとショートパンツである。
全く寒さを感じないから、おそらく22ºCくらいだろうと見当をつける。

スマホにはSky Mapというアプリが入っていて、双眼鏡は8x23 6.3ºという小さめのレジャー用である。
スマホのSky Mapが正確に方角を指さないので、煌々と明るい金星を使って目測で角度補正をする。
湖の向こう方向にはサッカースタジアムの輪郭が見えるが、消灯されている。
スタジアム外壁の上には雲の層が見えるが、もっと上空は晴れている。
12月は雨季なので、ちょっとした大気の具合ですぐ雲が出てくる。

午前6時に立ち止まって観察を開始したら、全く困難なく木星と水星のペアを確認することができた。
より明るく大きく見えるため、水星を探す目標となってくれる木星から、地平線との角度左上約30ºの空間に水星が、これもかなり明るく見える。
発見順は、金星→木星→水星の流れである。
実視界6.3ºの双眼鏡の、丸い視野の直径の約40%離れているので、木星と水星の距離角度は約2.5ºの近さにある。
一応2018年12月20日のデータを書いておこう。

事象EnglishPortuguês時刻
天文薄明Astronomical twilightCrepúsculo astronômico5:09
航海薄明Naval twilight (Nautical twilight)Crepúsculo náutico5:39
観察開始6:00
市民薄明Civil twilightCrepúsculo civil6:08
肉眼で水星視認可能-6:17
双眼鏡で水星視認可能-6:21
双眼鏡で木星視認可能-6:26
日の出SunriseAmanhecer6:32

2018年12月21日(夏至の日)、この日も観察したが、出遅れた。
公園まで歩いて10分近くかかるのだが、家を出てすぐ前の通りで東の空を見たら、水星が左、木星が右に今日は横一列に並んだ、太陽系で最小と最大の惑星の最接近(見かけだが)を観察できた。
双眼鏡の視野と比較して、2つの惑星の見かけの距離(角度)は1º前後であった。
太陽や月の直径が角度30分であることから、とても近く見えることがわかる。

昨日より天気がよく、曙光を隠してくれた雲がないので、東の空全体がすぐに明るくなってしまい、昨日容易に観察できた時刻でも、今日は観察困難となっていた。
観察は、刻々と増す明るさとの競争である。
水星が双眼鏡でも周りの明るさに埋もれて確認できなくなったのは6:23頃であった。

2018年12月22日(夏至の翌日)、昨日の反省で少し早めに出たが、報われず東の空の雲の層が厚く、観察の条件がここ数日で一番悪い。
6時10分ころようやく木星が確認できた。
それから水星が雲の層の上に現れるまで数分かかった。
この日の水星の位置は、木星の高さの水平平行線から左下へ約60下りた場所だった。
2つの天体の見かけ距離は双眼鏡の視野から概算して大体1.3ºとみた。

これから木星は太陽から離れていき、夜の領域に入っていくため見やすくなる。
水星は反対に太陽に近づくため、観測困難になる。

2018年12月4日

結局泣きを見るキューバ人医師

「もっと医者を」の選抜医師はすでに働き始める
Profissionais selecionados para o 'Mais Médicos' já começam a trabalhar
Segunda, 26 nov 2018

このグロボ放送の記事によると、
  • ブラジルの正式資格医師の応募者30,734
  • 募集ポスト数8,517
  • うち8,278は応募者は要件を満たして勤務先自治体が決定している
  • うち40はすでに着任
  • ブラジルの正式資格医師の応募期間は12月7日まで
ということである。

キューバ人医師を始め、ブラジルの正式な資格を持たない医師たちはどこへ行った?

この記事の日付で、まだ空きのあるポスト数は239しか残っていない。
現在決定済みのポストであっても、後から辞退するケースはかなりあるとは思うが、どうせブラジルの医師は僻地勤務なんか応募しないから俺たちに回ってくるだろうと、高をくくっていたキューバ人医師は(いたとしたらだが)、泣きを見ることになってしまった。
まだ今のところ、どれだけのキューバ人その他の国籍の医師がブラジルに残ろうとしているかは不明である。

さて、ここで疑問が起きる。

5年前に労働者党(PT)が、ブラジルの過疎地で勤務してもらうため、キューバその他の国から医師を呼んで来るプログラムを作ったのであるが、そのときの説明では医者が足りないから外国の資格でも良しとしよう、医者はポルトガル語かスペイン語を話す人だったらOK、ということだった記憶がある。

プログラムが5年経った今、ブラジル次期政権とキューバとの確執により急遽帰国することになったキューバ人医師の穴を埋めるために約8千5百名募集したら、ブラジル正式資格保持医師が3万人応募してきた。
一体5年間に何が起こったのだろうか?
ブラジル正式資格を持つ医師が3万人ほど増加した?
前回募集は経験その他の応募要件が高かったが、今回は経験を問わないので、なりたて医師が多数応募した?
5年前はなりふり構わず、労働者党政府が盟友と認めるキューバ政府に援助をしたかっただけ?

キューバという国は、少なくともラテンアメリカでは医学が進んでいる、医療に力を入れている国であるとみられている。
インタビューされたブラジル人患者はみんな、キューバ人医師に大変感謝している。

キューバ人医師への月額1万レアルの報酬の70%がキューバ政府へ直接送金されるということは、本来キューバ人医師が個人で受け取るべき報酬からピンはねされて、7,000レアル✕8,500人✕12か月で7億1400万レアル、約3億127万ドル(5年前の為替レート2.37)の援助をしたと解釈することができる。

選挙に金がかかるからという理由で汚職に手を染めるのは、左右関わらず大政党はどこもだが、イデオロギー同盟国に送金とは、ブラジル大衆にとっては誠に不明快な税金の使い方をしたものである。
人権を声高に叫ぶ人たちは、中国やキューバの人権は別物だと思っているのだろう。
ここでは声を潜めてしまうようである。

2018年11月20日

キューバ人医師に救いの手

昨日の本ブログ記事のキューバ人医師の数について次の考察をしたのだった。
当ブログの前記事「ブラジルで医師になるための最後の難関」のデータを大まかな仮定に基づいて概算すると、「もっと医者を」プログラムに参加する8332名のキューバ人医師のうち13%に当たる1095名のキューバ人医師が、「もっと医者を」プログラムの契約解除を承知で、またはできるかどうか知らないが隠れて、医師資格の法的有効化試験の受験に挑戦して、そのうちの140名が二次試験まで進んだ勘定になる。
試験に通った僅かな者はブラジルで勤務や開業をできるから万歳であるが、大部分の落ちた者はアルバイトをしながら次回の試験を待つのだろうか。

この計算をした後で見た11月19日の晩のニュースで、連邦政府は「もっと医者を」プログラムの募集要項を発表した。
要項は明日11月20日付けで公開される。

保健省は火曜日(20日)に「もっと医者を」の8,500ポストの募集を公開する
Ministério da Saúde vai publicar nesta terça (20) edital com 8.500 vagas para o Mais Médicos

2,824自治体(ムニシピオ)と34先住民居住区の計8,517ポスト募集、報酬は11,800レアルである。
そして契約期間は3年で、3年の再契約があり得る。
一次募集はブラジル人および外国人で、ブラジルの医学部を卒業して医学審議会の登録済、つまりブラジルの正式資格の医師が対象である。
自治体ごとのポスト数を発表して、自治体単位で先着優先とする。

一次募集で補充できなかったポストには二次募集を行う。
この段階でようやく、ブラジル人および外国人で、ブラジル以外の国で医師の資格を取ったが、ブラジルの法的有効化試験を通っていない医師が応募できる。

一次募集を通った医師は、来月7日からポストで勤務することが求められる。
二次募集は様々な書類の審査があるので、完了まで多少時間がかかる予定である。
ボルソナロ次期ブラジル大統領が表明したように、ブラジル医師資格を持たないキューバ人医師は(キューバ人だけでなくどの国籍でも同じだが)、即座に法的有効化試験合格を求められることはないが、医師として働くためには二次募集に応募するしか道はない。

外国で資格を取った医師は1万7千人ほどいるとみられ、現在法的有効化試験の結果待ちや、残念ながら落ちてしまったキューバ人医師はもちろん、現行「もっと医者を」プログラムの契約解消に伴って12月までの帰国指示を受けたその他のキューバ人も、かなりこの二次募集に期待することになるのではないか。

キューバ政府の帰国命令に従う医師の帰りの運賃は、キューバ政府の一方的契約破棄であるため、ブラジル政府は一切負担する予定はないと、ブラジル側は発表した。

ざっと分析してみると、今回の二次募集は現行「もっと医者を」プログラムと要件も待遇もほぼ同じであり、単に次期大統領の気に入らないキューバ政府の関与(派遣医師からピンはねして左翼政権の国庫に入れる)を外すためだけにわざわざ行ったと勘ぐることができる。
キューバ政府にとっては外国に医師を派遣する事業は大きな外貨獲得源であるが、その原動力であるキューバ人医師の切り崩しを狙い、希望者には亡命してブラジルで医療で働く道を与え、帰国希望者にはキューバ政府のお金で帰国してもらうという形になっており、次期ボルソナロ政権はうまく立ち回ったのではないか。

二次募集に成功したならの条件がつくが、キューバ人医師はとりあえず医師資格の法的有効化試験の準備時間を稼げた格好で、本国帰還を放棄するものがどれだけ出るのか、なかなか興味が湧く。

2018年11月19日

左右政権国際喧嘩で揺れるキューバ人医師

「私は祖国を愛するが、帰りたくない」ブラジルのキューバ人医師の状況
'Eu amo o meu país, mas não quero voltar': A situação de médicos cubanos no Brasil
15/11/2018 17:06 -02 | Atualizado 15/11/2018 18:14 -02

「もっと医者を」(Mais Médicos)は、通常はブラジル国内で医療行為を行えない、ブラジル国外で医師資格をとっている医師に、ブラジルの医療過疎地で働いてもらうプログラムである。
「もっと医者を」プログラムに参加するキューバ人医師は、その他の国籍の者と同様に、自国で取得した医師資格をブラジルの法的有効化を行う義務を免除されて、プログラムの枠内の制限付きでブラジル国内で医療行為を行うことを許される。

しかしこの記事を読むと、キューバ政府はこれを逆手に取り、「もっと医者を」プログラムのためにキューバ国営の「キューバ医療サービス提供会社」と契約させられる「キューバ保健のプロフェッショナル」―つまり公務員であるキューバ人医師―が、「もっと医者を」プログラムの枠外で―つまりキューバ政府から独立して―ブラジル国内で勤務や開業を目指して、ブラジルで法的有効化の試験を受けようと試みると、即座契約終了となる契約の縛りがある。
「造反者」としてキューバに帰国したら何かの罰則があるかどうかはわからないが、良い待遇が待っているはずがない。
きっと祖国では干される運命が待っているだろうと想像する。

たしかにこういう運命が見込まれるならば、独立を目指すなら祖国との絆は一切断ち切って、つまり亡命覚悟で試験を受けなければならず、誰もが容易に選択することのできる進路ではないだろう。

そして最近の大変動である。
ボルソナロ次期ブラジル大統領は2019年1月1日に就任するが、労働者党(PT)政権(2003-2016)が創設した「もっと医者を」プログラムで働く医師が、ブラジルで正式な資格を持つ医師でないことを問題にしている。
しかしそれだけではない。
キューバが問題なのである。
多分次期大統領の本心では、そちらの方が大問題かもしれない。

ボルソナロ次期大統領は声明の中で、労働者党政権と仲の良かったキューバ政府と結んだ医師派遣プログラムに文句をつけて、応えたキューバはブラジルに派遣している8,332名のキューバ人医師を今年中に強制帰国させる決定をしたので、大いに問題になっている。

他の国籍の医師も参加しているのに、なぜキューバだけが問題なのか。
派遣される医師は報酬1万レアル(毎年インフレ率で調整されているので現在は1万1千レアル台)を受け取ることになっている。
キューバだけは事情が異なっていて、かの国の医師は全員公務員であるが、キューバ国営の「キューバ医療サービス提供会社」からブラジル政府に派遣されるという形になり、ブラジル政府からの医師への報酬の70%はキューバ政府に直接送金されて、医師本人は30%しか受け取れないことになっていて、キューバ以外の外国の医師と著しい格差が生じている。

キューバ国家にピンはねされるわけだが、考えようでは、本国で税率70%で源泉課税されているとも言える。
ともかく、キューバ人医師1人1か月あたり7千レアルが共産国家の国庫に入る、国際人材派遣のしくみなのである。
左派の労働者党は喜んで盟友カストロのために尽くしたのであるが、右派のボルソナロにこれが気に入るわけがない。

これまでの「もっと医者を」プログラム関連のボルソナロ次期大統領の声明では、
  • ブラジル国外の医師資格所持者は、ブラジルの法的有効化試験を通らなければブラジル国内で医療行為を認めない
  • 医師は報酬の全額を受け取らなければならない
  • 外国人医師は家族を帯同する権利がある
  • 現役のプログラム参加中のキューバ人医師が、ブラジルの法的有効化試験に合格してブラジルに残りたい場合は亡命保護を認める

迷惑を被るのはキューバ人医師だけでなくて、本当に大多数の被害者は、キューバ人医師に引き上げられると診療所の医師がいなくなる地域に住むブラジル国民である。

2018年11月18日

ブラジルで医師になるための最後の難関

900名を超す医師がブラジルで資格を有効にするための試験を受ける
Mais de 900 médicos fazem exames para validar o diploma no Brasil
2018/11/17放送

外国で取得した医師資格をブラジルで法的有効化する試験の二次(そして最終)試験が2018年11月17日から18日にかけて行われる。
報道で見ると、この試験には"Revalida"(男性名詞)という名前がつけられたようである。

INEP(国立研究学習教育研究所)によると、外国の医師資格を所持するがブラジルで有効な資格にしたい応募者の55%はブラジル人、15%はキューバ人、10%がボリビア人で占められる。
一方同ソースによると、各人が取得した資格の40%はボリビア、19%はキューバ、13%がパラグアイのものである。
一次試験受験者は7300名で、二次試験に進んだ者は937名であるので、易しい試験ではないことがわかる。

テレビニュース報道では2人にインタビューしている。
ボリビアで医学を修めて、ブラジルで医師の職を見つけたいボリビア人と、アルゼンチンで医学を学んだが、ブラジルで開業したいブラジル人である。

開始から3年になる「もっと医者を」プログラムは、国外資格医師にブラジルでの法的有効化試験受験を免除していて、現在11,607人の国外資格医師が参加している。
この中では、国家が派遣組織を作って後押ししているキューバ人医師が8,332名と大部分を占める。

ボルソナロ次期大統領が、体制が相容れないキューバ国家のピンはねに手を貸しているこの制度に手を入れる意向を表明して、応えたキューバは30日内にキューバ人医師の引き上げを命じていることから、早く手を打たないと600を超える市町村が無医地区となる恐れがある。
週が明ければ、連邦政府はブラジル資格のブラジル人医師を、それで足りなかったら他の国籍の医師を募集する要項を発表することになっている。
緊急経過措置として、ブラジル医師資格非所持のキューバ人以外の国籍の医師を採用し続ける可能性も残っていると思う。

2018年10月21日

Windowsより馬鹿なAndroid

去年までだったら10月第3日曜日の今日10月21日は、ブラジル南部・南東部・中西部でサマータイムに入って、時計を1時間進める日であった。
しかし、受験生注意!ドタバタ2018/19年夏時間の開始日で紹介したように、今年からは夏時間入りの日は11月第1日曜日となっている。



上の証拠写真に見るように、10月21日にはまだ夏時間には入っていないのに、アンドロイドのスマホは勝手に1時間進んでしまった。
Windowsのパソコンの時刻が正しい。
AndroidがWindowsより馬鹿とは大げさであっても、ブラジルの法令に注意不足だったとはいえるだろう。

次の記事を見つけた。
何時かい?夏時間の始まりを誤り時計を1時間進めてしまう機器がある
Que horas são aí? Alguns aparelhos erraram o início do horário de verão e adiantaram seus relógios
Por: Giovanni Santa Rosa
21 de outubro de 2018 às 2:54

これを読むと、勝手に夏時間になってしまった機器の持ち主は、UTC-3地帯の中で夏時間入りしない都市にローカル変更したり、夏時間の自動設定をオフにしたりしているそうである。
それはそれで構わないのだが、今日から2週間先の本当に夏時間入りする11月4日には、目覚ましを電子機器の自動設定に頼りきらないようにする慎重な注意が、全国中等教育試験(ENEN)の受験生には求められる。
Googleが2週間の間に夏時間の自動設定を含むAndroidの更新を配布して、それが自分の機器に反映されるかどうか全く不明だからである。

2018年10月17日

受験生注意!ドタバタ2018/19年夏時間の開始日

これまでと違う2018/19年の夏時間

サマータイムは2018年ENEMの1日目に始まる-各州の閉門時刻をチェック
Horário de verão começa no 1º dia do Enem 2018: veja a hora local de fechamento dos portões em cada estado
16/10/2018 10h43

昨日2018年10月16日の上記報道によると、ENEM(全国中等教育試験)のために2018/19年の夏時間入りを11月18日まで延期するという話は消散した。
2018年11月の第1日曜日である4日を夏時間入りとする政令は既に発布されているが、11月18日とするものは発布を待たれていた。

しかし実際のところ、夏時間入りを2018年11月4日と定めた昨年12月発効の政令に基づいて航空券などが発券されてきたものが、この瀬戸際の時間変更で滅茶苦茶になるという実際的弊害が予見されていた。

教育相による夏時間入り延期の提案について、大統領府は検討したが、受け入れを見送った。
理由として連邦政府は、既に公布されたが一度も実施されていない政令が存在するので、「法律の信頼性」の名のもとに、夏時間入りを11月4日に留め置く決定をした、とある。
要するに変更に関する政令をこの前出したばかりなのに、そう何回も覆せるか、ということだ。

結局ENEMの受験生はどうなるのか。

試験のすべての時間割は、ブラジリア時間と同時に進行することになっている。
もちろん、時間差を利用したカンニングを防止するためである。
しかし試験前日までUTC-3(協定世界時マイナス3時間)であったブラジリア標準時間は、当日はブラジリア夏時間入りのため、UTC-2に変わっていることに注意しなければならない。
  • 試験会場開門 12:00
  • 試験会場閉門 13:00
  • 試験開始 13:30
  • 問題冊子を持ち出し不可の退場許可 15:30
  • 問題冊子を持ち出し許可の退場許可 18:30
  • 試験終了 19:00

だから各地の受験生は、住んでいる場所で夏時間が実施されるかに注意して、試験当日の自分の時間帯を知って、UTC-2との時間差を計算して、UTC-2立てである上の予定表からその時間差を引いて、ローカル時間での各予定時刻を求めればよいのである。

一番守らなければならないのは試験会場閉門で、門が閉まったら無慈悲にも、たった1秒後であっても絶対会場に入れてくれないので、泣き叫ぶ閉め出された受験生を映し出すのがニュースの風物詩である。

だから各時間帯地域の試験会場閉門ローカル時刻だけを示しておこう。
なお引用した元記事には、州ごとの試験会場閉門ローカル時刻が載っている。
  • UTC-2地域試験会場閉門 13:00
  • UTC-3地域試験会場閉門 12:00
  • UTC-4地域試験会場閉門 11:00
  • UTC-5地域試験会場閉門 10:00

受験生も要らぬ苦労をするもので、大変である。

2018年10月8日

楽しく驚くブラジル総選挙

2018年10月7日はブラジル総選挙投票日である。
4年毎に共和国大統領、共和国上・下院議員、州知事、州議会議員を投票する。
少し詳しく言うと、そのうち定員各州3名の上院議員だけが、他の職の2倍の任期8年のため、2018年は総数の三分の二が改選されるが、前回と次回つまり2014年と2022年の総選挙では三分の一が改選の対象となる。

大統領と州知事のみ、有効票の過半数を得た候補者が出ない場合に、上位2人による決選投票が3週間後に行われることになる。

ちなみに2年後には、市長と市議会議員(いずれも任期4年)の地方総選挙が行われる。
要するに、ブラジルでは偶数年の10月に何らかの選挙がある。

ブラジルの選挙では、統計的なサンプルによる投票意向調査が頻繁に行われて、結果は公表される。
長い軍政時代はともかく、昔は起き得なかったことだと思うが、世論調査がプロフェッショナル企業化していて、主に新聞社やテレビ局のようなマスコミが発注主となり、選挙裁判所の許可を受ければ気軽に行えるようになったため、明文化されていないものの事実上選挙システムと一体化している。
テレビのニュースでは通常、地方版では州知事と州選出上院議員の、全国版では大統領の調査結果が発表されるので、特に投票日直前の結果を参考にして投票行動を決定することができ、どうするのが一番効果的であるか作戦を練るのが楽しい。

特に一発勝負でなく上位2名の決選投票があり得る、投票意向調査が広く発表される大統領と州知事については、意中の候補者が思ったより伸びず、投票が死に票になりそうな場合に、次善の候補者を少なくとも決選投票まで残すために、あるいは死んでも入れたくないという拒否候補を3位以下に落とすために、一番好きなではない候補者に戦略的投票をすることができる。
このように考える有権者が多いために、前日までの投票意向調査と全く異なる開票結果が出てびっくりすることが多く面白い。

今日の大統領選挙については、意向調査と開票結果で順位こそ変わらなかったものの、3位候補者の実際得票率は意向調査とほぼ同じだったのであるが、決選投票に残ることになった上位2位の候補者の得票率は、それ以下、特に4位候補者の票をかなり奪って意向調査結果より共に増加するという開票結果となった。

わが州知事の一次投票結果は、新党新人の意向調査3位候補者が調査終了後に急進して開票結果1位に躍進、意向調査1位候補者は順位を一つ落として両者の決選投票となり、意向調査第2位であった再選を狙う現職州知事の候補を決定的に追い落とすことに成功した。

有名人で言えば、リオデジャネイロ州知事候補で意向調査2位につけていたのは、1994年のワールドカップでブラジル優勝の原動力となったロマリオ現上院議員であったが、土壇場の有権者投票行動の激動によって実際4位まで転落して、決選投票に残ることができなかった。

今日までの結果を見て気づくのは、不正な政治献金で逮捕者・服役者を出した既成政党の衰えである。

ミナス・ジェライス州の州知事選で、調査結果2位の労働者党(PT)の現職州知事は、新党新人の3位候補者が調査終了後に急進して、決選投票から追い出された。

同州の上院議員選では、2016年に罷免された労働者党(PT)のジルマDilma前大統領が、PT内ではクリーンであり、知名度は抜群に高いため、調査結果では1位で上院議員当選が確実かと思われていたものの、調査結果発表を見たアンチPTが発奮したようで、結局4位に落ち上院議員の座を逃した。

このようなことが他の州でも起こっていて、特に割りを食ったのは現職大統領及び前・元大統領が所属するMDBとPT及び最大野党PSDBの3つの、献金漬けでこれまでいい思いをしてきた既成大政党であったのは小気味よい驚きである。

普段見ることのないよその州の選挙結果を見ると、懐かしい人が出てくる。
今回新たな驚きは、1996年と2002年のオリンピック女子バレーボールで銅メダルを獲得したブラジルチームの愛くるしい人気者レイラが、連邦区の上院議員に選出されたことである。
連邦区で初めての女性上院議員であるという。
選挙候補者登録名が「バレーのレイラ」Leila do Vôleiであるのが得点源だったのだろう。

最後に付け加えるが、ブラジルにとって外国である欧米先進国のマスコミが糞であることである。

大統領選一次投票で有効票の46%を獲得した小党PSLの現職下院議員、退役軍人で選挙運動中に刺傷事件の被害に遭ったジャイル・ボルソナロ(あるいはボウソナロ)Jair Bolsonaro候補者は、女性・人種・LGBT差別者で、思想は極右であり、軍政を礼賛する民主主義の破壊者であるからブラジルの将来が不安であるという論調である。
彼と決選投票を戦うことになった、有効票の29%を獲得した2位候補者、フェルナンド・アダジFernando Haddad候補者の所属政党PTは、不正政治献金事件で最も逮捕者を出しているのだが、もし彼が大統領になったとしたら、ルラ元大統領を含むPTの面々を有罪判決して、元大統領自身の署名によって発効した法律に忠実に従って元大統領の立候補を棄却した、大統領制立憲独立国家ブラジルの司法権を無視して、手放しで民主主義の勝利であると、海外マスコミは礼賛するのだろうか。

どこの国でもマスコミは人権擁護に熱心であり、それはマスコミに求められる資質であるが、社会主義国の人権と資本主義国の人権に差をつけるような、ダブルスタンダードを持つマスコミは信用できず、ブラジルはこういうのは全く無視して良いと思う。

2018年10月5日

これまでと違う2018/19年の夏時間

政府は夏時間入りを11月18日に延期する
Governo adia início do horário de verão para 18 de novembro
04/10/2018 07h27

2008年9月8日政令第6558号(DECRETO Nº 6.558, DE 8 DE SETEMBRO DE 2008)を見ると、ブラジルのサマータイムつまり夏時間の実施規則は、
  • 夏時間入り - 10月第3日曜日の零時
  • 夏時間明け - 翌年2月の第3日曜日の零時
  • 夏時間は通常時間より1時間進められる
  • 夏時間終了日曜日がカーニバルの日曜日と重なる場合は、夏時間終了は次の日曜日となる
と書いてある(修正前後が明示されている)。

2018年の夏時間入りは、これに従うと10月第3日曜日の21日になるはずなのだが、今年はいささか事情が異なる。
2018年10月7日はブラジルの連邦・州総選挙投票日であるが、特に大統領選挙で過半数を取る候補者がいない見込みで、10月第4日曜日の28日に二次投票となる可能性が高い。
そうなると二次投票日は、実施地域においては既に一週間前に夏時間入りしていることになる。

調べたら昨年12月に選挙高等裁判所長官が共和国大統領に、夏時間入りを11月に延ばすことができないか要請して、受け入れた大統領は政令を公布したので、その時点からつい最近までは、2018年の夏時間入りは11月の第1日曜日の4日ということになっていたのである。

テメル大統領は夏時間期間を削減して夏時間入りを11月に移す
Temer reduz duração do horário de verão e muda início para novembro
15/12/2017 19h45

2017年12月15日政令第9242号(DECRETO Nº 9.242, DE 15 DE DEZEMBRO DE 2017)は、先の政令を修正して、今年(2018年)からは選挙のあるなしに関わらず、
  • 夏時間入り - 11月第1日曜日の零時
としている。

まず、どうして二次投票日が夏時間だったら都合が悪いのか。
極めて定住人口の少ない、UTC-2(協定世界時マイナス2)時間帯の大西洋離島部を除いて検証する。

夏時間でなはい通常時間であっても、人口が集中するUTC-3地域から、アマゾナス州西半分とアクレ州のUTC-5まで、2時間の時差がある。
これが夏時間になると、人口が集中するUTC-3地域の南半分がUTC-2に移行するが、赤道に近いUTC-5地帯は夏時間を実施せず時間帯は変わらないので、時差が3時間に増えてしまう。
そうなると大半の地域で投票結果が判明したとしても、得票数の最終結果が確定するのが、夏時間のもとでは通常時間より1時間余計にかかってしまう。
ブラジルは電子投票であり、そのため投票結果は当日の夜半に判明するので、1時間の差は大きいのである。
だから投票開票のある日は絶対夏時間であってほしくない、というのが、夏時間の二次投票日が過去に存在した(はず)にかかわらず、日本であったら選挙管理委員会に相当する選挙裁判所が、大統領に要請した理由である。

しかし、実は変更はこれだけで済まなかった。

連邦大学全てと、一部の州立や私立大学の入試を兼ねる、2018年の全国中等教育試験(ENEM-Exame Nacional do Ensino Médio)の日程は、11月第1週と第2週の週末に当たることになった。
そのため受験生に要らぬ負担を負わせないようにと、今度は教育相が大統領に、夏時間入りのさらに2週間の繰り延べを要請して、大統領は受諾した。

その結果、2018/19年の夏時間は、
  • 夏時間入り - 2018年11月18日の零時に時計を1時間進める
  • 夏時間明け - 2019年2月16日の零時に時計を1時間遅らせる
  • 夏時間継続日数 - 13週間、計91日
となる。

2018年10月17日加筆

夏時間入りの日について、次に見るような大きな変更があった。

受験生注意!ドタバタ2018/19年夏時間の開始日

2018年10月1日

東京五輪ボランティア募集につまづくか

五輪ボランティア募集ページが複雑怪奇…組織委は早急な対応を! --- 音喜多 駿
9/29(土) 17:05配信
というのが、ヤフージャパンのサイトに掲載された。
音喜多氏は、今度の2020年のオリンピック大会の主催都市、東京都の都議会議員である。
五輪大会ボランティア応募フォームの記入が難しすぎると言うのだが、どんなに複雑怪奇なのか記事を読んだ感想を書く。
最初に断っておくが、スマホでなくPCで入力する場合を想定している。

「システムを作っているのは、オリンピック公式ワールドスポンサーのATOS(仏系企業)。
それもあって、デフォルトで設定されている言語は英語です。いや、なんでだよ!!」
と音喜多氏は疑問と怒りを表明するのだが、主催者は一体どれだけ外国人のボランティアを予想しているのだろうか?

参考のためにワールドカップ2014ブラジル大会のためにFIFAが募集したボランティアについてのデータを、過去の本ブログから引用する。
投稿日: 2014年1月18日には、「FIFAの1・2次募集ボランティアの48%は開催都市外からの参加者であり、国外137カ国からの3,980人の応募者トップ10は、Colombia (1,427), USA (772), Spain (760), Mexico (742), Argentina (731), Poland (495), Peru (481), Germany (352), China (335) and Russia (314)とある。」

FIFAの1・2次募集ボランティアの総数が、本ブログの別の記事、投稿日: 2012年8月22日にある、「コンフェデレーションズカップには7,000名、ワールドカップには15,000名が募集される。」と等しいとすると、ボランティアの約半分は開催都市外からの参加者であり、4000/15000=27%、ざっと4人に1人はブラジル以外の外国から参加している勘定であった。

ということは、4人に1人は日本語以外の言語で応募すると考えてよいのではないかと思ったが、隣国が地続きでないからブラジルのワールドカップのように外国人率が高くなることはないだろう。
確かに大半は日本人向けなのであるが、デフォルト言語が英語であっても特におかしいと文句つけるほどのものだろうか。

言語選択問題である。
「言語選択が国旗マークというのも大丈夫なんでしょうか…?」と記事では問題提起をする。

ブラジルで見る多国語サイトでは、例えばポルトガル語、スペイン語、英語、フランス語の切り替えが、ホームページ上右端に並ぶそれぞれ、ブラジルまたはポルトガル、スペイン、イギリス、フランスの国旗アイコンをクリックすることによって切り替えを行うサイトがかなり多い。
国旗マークで大丈夫なのですよ。
他所の国の国旗など皆目わからんという人にとっては全く意味不明だろうが、どんな外国語のオプションがあるかクリックなどしなくても一瞥しただけでわかるから、慣れたら視認性は良い。
言語オプションが数十もあったら使える方法でないことは認める。

年月日入力問題である。
年月日入力の場面で、
「「DDMMYYYY」の意味を若者や老人がどれだけ理解しているのかね?
基本はシステムに携わってる人間じゃないとなかなか理解出来ないとおもふ」
という意見が紹介されている。

確かにシステムに年月日を表示させるフォーマットを指定するときに、このような表記法をよく使うことは認める。
ただ、ブラジルで通常に使われる年月日表記法を使って、今日の日付2018年10月1日つまり、
"01/10/2018"
を、システムに入力するときは、通常のブラジルのサイトの作り方なら、
日をhtmlのセレクトボックスで1から31の中で選択させる→
月をhtmlのセレクトボックスでjaneiroからdezembroの中で選択させる→
年をhtmlのセレクトボックスで1948から2018の中で選択させる(対象が70年以内と仮定)
とするか、唯一つのテキストボックスで、DDMMAAAAとフォーマット指示を付けて、01102018と数字列を入力させるかどちらかだろう。
DDは日(dia)、MMは月(mês)、AAAAは4桁の西暦年(ano)を意味する。

前者のフォームだったら、いちいちセレクトボックスを開いて探してクリックでも良いけれど、すばやく入力したいのなら、0-1-Tab-o-Tab-2-0-1-8とタイプするが、後者だったら0-1-1-0-2-0-1-8だけだからテンキーのみ使ってより早くタイプできて、慣れるとこっちの効率が良い。

一番頭にくるのは、次のような場面である。
長時間かけてページ全部の入力を済ませて次ページに移る進むボタンを押したら、入力データチェックが行われて、訂正の後で再送信をすると、特にパスワード入力欄はリセットされることが多くて、解読困難で強力すぎて自分でも覚えられない長大パスワードを、コピペが効かないから何度も何度も再入力を強制されることである。
また、何ページにも渡って全部の入力に数十分かかるようなときに、進捗パーセントが見えない上に、入力の途中で続きは後でするために、その時点までの入力データをセーブできないつくりの入力システムは辛い。
それほど大事な要件でなかったら、嫌気が差して諦めてしまう。

私自身が、日本から見た海外のサイトの入力インターフェースに慣れてしまったせいで、引用したサイトで酷評された東京オリンピックのボランティア応募ページに、自分で操作してはいないから確実な印象ではないものの、それほど違和感を感じないのだろうか。
でも、あえて言えば、オリンピックのボランティアをしようとする人に、最低の国際的適応性を求めることは間違っているのだろうか?

2018年9月15日

新幹線の窓を開けて台風を知る

ところ変われば単位が変わるものがある。

最近日本でも米国でも東南アジアでも自然の脅威となっている、台風とかハリケーンでは、その強さの指標の一つが風速である。
ブラジルには台風は来ないが、世界の強大な熱帯性低気圧のニュースは、動画の迫力があって注目を集めるからだろう、こちらの報道でもよく登場する。
ここで気になるのが風速の単位である。

日本の天気報道では、秒速何メートルで表す。
だから、秒速10メートルの風を想像すると、10メートル風上にタバコを吸っている人がいたら、ひとつ数える間に煙が到達するということである。

ブラジルの天気報道では、時速何キロメートルで表現する。
だから、時速60キロメートルの風は、無風状態のなか、時速60キロメートルで走行する自動車の窓から顔を出して前を向いたときに受ける風である。
経験したければ、車があればすぐに実験できる。
当然、安全な場所で安全を確かめて、運転しながらであると危ないから誰かに運転してもらって助手席でやってみれば良い。

さてフィリピンの台風報道である。
超大型台風22号、フィリピン北部に上陸
9/15(土) 7:29配信
これを見ると、超大型の台風22号(アジア名:マンクット、Mangkhut)がフィリピンのルソン島に上陸したという。
この台風は今年発生したなかで最も強力な台風で、風速は70メートルに達しているそうだ。

煙の例で言えば、70メートル離れた人のタバコの煙が1秒で到達する。

同じ台風のニュースがブラジルでは、時速250キロメートルの強風と言われた。
計算してみると250000/3600=69.4になるから秒速70メートルで、同じ台風を指していることが確認できる。

自動車の例を使おうと思っても、時速250キロメートルで走行することなど普通はできないので、別の例にしなければならない。
時速250キロで走っている新幹線から外を見ると、景色が飛ぶように流れるから、仮に窓を開けることができてそこに顔を出して風を受けることを想像したら、ただごとではないことがわかる。

北半球と南半球では海と陸地の様相が異なる上に、偏西風とか海流のような様々な要因が関係していることは想像できるが、南大西洋で発生して南西に向かってブラジルに上陸するような熱帯低気圧は、少なくとも1985年から2005年までの20年間に全く存在しなかった。
もしもあったならば、いったいどんな影響があるだろうか。
ブラジル北東地方の永年的な水不足が解決する自然の恵みになって、ありがたがれる存在となるだろうか?
それとも最近増えた発電風車や諸々の構築物の破壊者になって、忌み嫌われる悪役とみなされるだろうか?

2018年8月28日

腐肉でも喜ぶベネズエラ人と難民

停電のためベネズエラ人は腐った肉まで買う
Com a falta de energia, venezuelanos acabam comprando carne estragada
Por jornal nacional
23/08/2018 21h00 Atualizado 23/08/2018 21h00

アフリカや中東から難民が押し寄せるヨーロッパがもっぱらニュースとなっているが、世界の中で難民が問題となっているのは、欧州だけではない。
ここ南アメリカ大陸でも、難民問題はますます大きくなっている。
難民送り出し国はベネズエラ、受入国はブラジルを含む周辺国である。

ブラジルでベネズエラと国境を接するのはブラジル北部地方の、一般には辺境とみなされるロライマ Roraima 州と広大なアマゾナス州だけである。
ちなみにロライマ州は他に、南アメリカで唯一英連邦に所属して英語を公用語とするガイアナとも国境を接しているが、ブラジル側の隣州は広大なアマゾナス州とパラ州の二つである。
押し寄せるベネズエラ人難民で国境の町パカライマ Pacaraima や、そこから約200キロ南下した州都ボア・ビスタ Boa Vista は難民受け入れに追われている。

8月17日(金)国境の町パカライマで、ブラジル人商店主がベネズエラ人4人組強盗に襲われて怪我する。
8月18日(土)事件に怒ったパカライマ町民が町内のベネズエラ人キャンプを襲い、テントや所持品に火がつけられる。
8月20日(月)ロライマ州政府が連邦最高裁判所に、ベネズエラ人の移民受け入れを停止するよう請願するが、拒否される。

その後ロライマ州政府の請願に応えた連邦政府は、治安維持のため陸軍と衛生維持のため医療団を派遣して野戦病院のような施設を作り、ロライマ州に入ったベネズエラ人を他の州に移送する手はずも整えている。
ちょうどブラジルの中のロライマ州が、ヨーロッパの中のイタリアの立ち位置となっている。

初めに引用したテレビニュースの記事から書き出しておこう。

ベネズエラ第二の都市マラカイボ Maracaibo では、一日に5,6時間停電する。
そのため肉屋の冷蔵庫も冷たさを保てない。
肉屋は傷んだ肉に特売価格をつけて、「レモンと酢で洗えば大丈夫」といい加減で無責任な説明をして売りさばいている。
腹をこわす人が少なくないはずなのだが、それでも買っていく人がいるのは、市場に肉が不足しているからだ。
衛生管理をする役所も機能していないのだろう。

2018年の予想インフレ率は百万パーセントであり、ニコラス・マドゥロ政府はこのほど5桁デノミを実行して通貨呼称をボリヴァル・ソベラノ(bolívar soberano)として、同時に最低給料を3400%調整した。インフレ予想が一万倍なのに給料調整が35倍で、何の意味があるのかよくわからない。
本ブログの「ブラジル驚愕高金利は踏み倒すが勝ち」の数式を使って、一体どれくらいの期間を置いて給料35倍調整をすれば、年間インフレ百万パーセントに追いつけるのかを計算したら、一年に2.57サイクル、つまり4か月20日ごとに同率の調整が必要であることがわかった。

ボリヴァル・ソベラノを石油と連動する通貨と言っているのもわけがわからない。
そういえば、ベネズエラ政府が石油を裏付けとする仮想通貨を発行するような話もあって、ペトロという名前がついていたような気がする。
石油と兌換なのだろうか?
原油をもらっても仕方ないが、ガソリンなら役に立つ。
石油製品への補助金も見直して、世界で最も安いガソリン価格も調整された。

今日8月27日のニュースでは、ICチップの場所に金を嵌め込んだ?ような珍奇なカードを手にしたニコラス・マドゥロ大統領が、ベネズエラ国民は金を買えと、また不可解な発言をしていた。
もう何でもありのようである。

これまで230万人のベネズエラ人がすでに祖国を後にした。
その90%は周辺国へ移動した。
国連によるとブラジルは4月までに5万人を受け入れたが、全難民の2%にすぎない。
受入国ナンバー1はベネズエラの左隣にあるコロンビアで約87万人、第二位がコロンビアの向こうにあるペルーで35万4千人を超える。さらに離れたチリ(10万6千)とアルゼンチン(9万5千)がそれぞれ10万人ほどを受け入れた。

ブラジル人はパスポート無しで、ブラジル政府発行の身分証明書だけで南米大陸どこでも旅行できるのだが、大陸内の他の諸国も同様の権利を持っている。
しかし、きりのない難民に業を煮やしたエクアドルやペルーなどは、ベネズエラ人にパスポート携帯義務を課す動きが出てきていて、これには国連が反対している。
国連は反対するのだが、どうすれば良いと言うのだろうか?

大金を払って陸を離れる前から半分沈んでいるような船にようやく乗せてもらい、地中海を決死の旅をするアフリカ難民と違って、ベネズエラからブラジルやコロンビアへの旅は陸路だから、トランクを引きながら子供を抱えたりしてとぼとぼやって来て、ブラジルに着く頃にはかなりぼろぼろになって到着する。
いや、金のない連中はもとからぼろぼろなのだろう。

ベネズエラでは予防注射が徹底していないらしいので、国境の町ではさっそく難民に防疫のため黄熱やはしかのワクチン予防注射を行っている。
マラリアも心配される。
薬品や医療が十分でないベネズエラの妊婦は、ブラジルにやって来て出産することを夢見るので、パカライマの産婦人科病棟の70%はベネズエラ人に占められベッド数定員オーバーとかも問題になっている。

コロンビアやペルーの報道を見ないと、これら同じスペイン語を話す国々でのベネズエラ人の難民の状況がどうなのかはわからないが、言葉が通じやすい点はともかく、他の状況は似たようなものではないか、いやコロンビアへはブラジルの18倍もの数のベネズエラ人が押しかけるのだから、もっと混乱しているものと思う。

ブラジル政府によると、ベネズエラ人は国連発表の5万人ではなく、2015年から現在まで既に6万人以上ブラジルに入っていて、難民認定を求めているという。

2018年8月13日

火星大接近記念惑星名三か国語対照

火星大接近は2018年7月31日であったので、それから2週間経つが、まだまだ火星は明るく大きく見えている。
並んで土星と木星、早い時間だと金星と共に見ることができる。

普通に肉眼で見ることのできない惑星の名前などは、普段の会話で使うことはほとんどない。
こういう機会なので太陽系の惑星名の一覧を、例によって3か国語対照にしてみた。

EnglishEspañolPortuguês
Solar SystemSistema solarSistema solar
SunSolSol
MercuryMercurioMercúrio
VenusVenusVênus/Vénus
EarthTierraTerra
MarsMarteMarte
JupiterJúpiterJúpiter
SaturnSaturnoSaturno
UranusUranoUrano
NeptuneNeptunoNetuno/Neptuno
PlutoPlutónPlutão

2006年に惑星から外された冥王星であるが、気の毒なので上には入れておいた。

ポルトガル語で二つ語形がある惑星名は、最初のがブラジルの、最後のがポルトガルの綴り方である。
ポルトガル語は金星と地球のみが女性名詞、残りは太陽も含めて全部男性名詞である。
母なる大地は特別だが、さすがにヴィーナスが男性名詞では都合が悪いのだろう。
冠詞なしで最初の字を大文字で始めるのが通例である。

スペイン語では大地つまり地球だけが女性名詞、太陽も全ての惑星も男性名詞で、ヴィーナスが男性だとおかしいのではないかと思うだろうが、そこのところをどう解決するのかというと、金星の意味では男性名詞、ヴィーナスの意味では女性名詞となっている。
スペイン語でも同様に、無冠詞の大文字始まりが使われるようだ。

組曲「惑星」"The Planets"といえば、イギリスの作曲家ホルストの代表的な作品である。
これは本物の天体の観察というより、占星術の知識をもとに作曲されたという。
作曲された時期(1914-16)に、冥王星は発見(1930)されていなかった。

有名な組曲に入れてもらえなかったし、76年経ってから惑星の仲間から外されるし、かわいそうな冥王星である。
しかし海王星と交差するいびつな軌道を持つし、地球の月より小さいし、惑星よりも小惑星に近い性質であるから、そういう運命でも仕方ないのだろう。

2018年8月8日

ブラジルの風車

(o) cata-vento = [水を汲み上げる]風車
辞書を見るとハイフン入りが正しい綴りである。

風車と言っても、「かざぐるま」ではなくて巨大な「ふうしゃ」である。
エネルギー関係で興味深い報道があった。
Vento pode ser segunda principal fonte de energia elétrica do país em 2019
風力は2019年ブラジルの主要電力源第2位となるだろう

10年前にブラジルで風力発電による電力の供給を受けた人口は2百万人であったが、今日この人口は6千7百万人に急激に増大した。
2022年にはこれは1億人に達すると記事では予想している。

ブラジルの地方別で風力発電の盛んな地方はもっぱら北東地方であったのだが、最近は南地方のような他の地方も発電量が増えている。
風力発電には風量・風向ともに安定した強風が必要であるが、ブラジルの特に海岸線には風車建設の適地が多い。

経済危機にかかわらずこの部門は2017年には110億レアルを動かし、2019年にはブラジルの電力源の第2位になると予測されている。
今日ブラジルで発電される電力総量の60%が水力、9%がサトウキビの絞りかすを主としたバイオマス、風力は8.5%、次いで天然ガス8%となっている。
電力源Fonte割合(%)
水力Hidráulica60.6
バイオマスBiomassa9.1
風力Eólica8.4
天然ガスGás Natural8.1
石油製品Derivados de Petróleo6.2
石炭Carvão2.3
その他Outras5.3
出所:国家電気エネルギー庁(ANEEL)、ブラジル風力エネルギー協会(ABEÉOLICA)

石油と天然ガスを主な生産品とする、ブラジル国策石油会社であるペトロブラス(Petrobras)までも、洋上風力発電の最初のパイロットプロジェクトを発表している。
リオ・グランデ・ド・ノルテ州グアマレ海岸(Costa de Guamaré)の沖合20キロにある原油プラットフォームから1キロ離れたところに風車タワーを建設して、発電された電力は海底ケーブルを介してプラットフォームを経由して陸地に送電される。
発電量は16,500家庭に供給可能な6メガワットである。

パイロットプロジェクトが成功すればよりこの発電法への投資が期待されている。
「このようなプロジェクトによって、ブラジル北東地方のセアラー、リオ・グランデ・ド・ノルテ両州海岸は、140ギガワットの潜在的発電能力を持っている。
これは現在のブラジルの総発電量に相当する。
だからブラジルは経済的に引き合う、実行可能なビジネスとなる地域を所有しているわけだ。」
ペトロブラスのエネルギー戦略ディレクターのネルソン・シルヴァ氏は語る。

風まかせといったら変わりやすいものの例えの一番たるものだが、発電量の変動や、鳥の衝突事故や、低周波振動の健康への影響のような、風車の弊害については、バラ色の未来ばかりのニュースは語ってくれない。
普及の途中でこういった問題も顕在化してくるのだろうか。

昔から風車の登場する小説はドン・キホーテ、風車のある風景はオランダであるが、今日世界で最も風車の重要性が高く注目されている場所はブラジルである。

2018年10月22日追加

ドイツで潰えたグリーン電力の夢
Power Shift
2018年10月19日(金)15時30分
ダニエラ・チェスロー

上に示したNewsweek日本版の記事からコピペしてあったドイツの電力源状況について、ブラジルと対比する意味でここに貼っておく。

「ドイツはいち早く固定価格買い取り制度を導入(17年に入札制度に移行)するなど、個人や企業による太陽光と風力発電事業をテコ入れしてきた。おかげで1990年には電力比率の3・6%にすぎなかった再生可能エネルギー(風力、太陽、水力、バイオガス)が、発電量の3割超を占めるようになった。」

まあ国土の広さと気候が違うから、比較してどうすべきだとかいう問題ではない。

でも記事にある送電網の充実は、全くブラジルにも当てはまる問題である。
水資源に恵まれ発電所がある場所と電力需要地帯は離れている上に、それらを結ぶ長大な送電網は世界有数の落雷地帯を通っていくため、発電所からの発送電に異常があった場合に、できるだけ短時間で他の発電所から供給を埋め合わせるような、技術的に複雑な問題を解決できるようなインテリジェントな送配電ネットワークがブラジルにも必要なのである。
今日ではまだ、ブラジル・パラグアイ国境のイタイプ発電所のような巨大発電所からの送電に異常が起きると、広域停電が数時間続くことが、数年に一回くらいの頻度で起きる。
記憶が不鮮明であるが、もしかしたら毎年1回位は起こっているかもしれない。

2018年8月3日

半島だらけの日本、半島のないブラジル

(a) península = 半島
Ibérico, -ca イベリアの〔人〕;イベリア半島の

地図帳の日本地形図を開いて、半島を並べあげる。
  • 知床半島
  • 根室半島
  • 積丹半島
  • 渡島半島
  • 下北半島
  • 津軽半島
  • 男鹿半島
  • 牡鹿半島
  • 能登半島
  • 房総半島
  • 三浦半島
  • 伊豆半島
  • 紀伊半島
  • 国東半島
  • 大隅半島
  • 薩摩半島
男鹿半島と牡鹿半島は昔から混乱したものだった。

あまり半島と意識したことがないものある。
小さいか、形状が半島らしくないからである。
  • 知多半島
  • 渥美半島
  • 丹後半島
  • 島根半島
  • 佐多岬半島
長崎や佐賀の人に、このあたりはどうなっているのか聞きたいところである。
カリフラワーのような形状の、下にあげる細かい半島がくっついている場所自体が大きな半島ではないのか?
  • 東松浦半島
  • 北松浦半島
  • 西彼杵(にしそのぎ)半島
  • 長崎半島
  • 島原半島
ざっと日本地図を見てこれくらいの半島をあげることができた。

一方で、ブラジルの海岸線はどうか。
これまで探したことがなかったが、意識して探してみても見つからない。

詳しい地形図がないから見つからないだけかもしれないが、普段から天気予報その他で「半島」という単語を聞くことがないから、日常的にそう呼ばれる地名・地方名がブラジルには存在しないということだろう。
日本列島と比較すると海岸線が驚くほど単調なのである。
だからこそ、延々と見渡しても終りが見えないような雄大な砂浜があったりするのだ。
日本の砂浜が箱庭のように見えてしまう。
ゴンドワナ(Gondwana)大陸がアフリカ大陸と南アメリカ大陸とに割れたときの境界面だから、そんなに海岸線が複雑になりようがないのだろう。

結局半島と呼ぶ必要がある場所はどういった特徴があるのか。
例えばイタリアのようなところは、「半島地方」、「平野地方」とか「アルプス地方」と区別して呼ぶのかもしれない。
いろいろな市町村や国が中に含まれていて、しかも半島がくっつく大陸部と区別したい時にわざわざ「半島」と呼ぶのであろう。

ポルトガル語辞典を見ると、大文字から始めて特定する単語を付けずに単に"Península"というと、イベリア半島(=Península Ibérica)のことをさすようである。
スペインとポルトガルを他のヨーロッパと区別するときに使える。
イベリコ豚とか、イベロアメリカといった場合である。
スペインの航空会社はポルトガルから許可をもらったわけではないだろうが、勝手にイベリア航空と称しているのだろうか。

2018年8月2日

千葉市の中心の駅

今回はブラジルと全く関係のない話になる。

房総半島の地図を見ていた。

まず気になったのが、鉄道の内房線と外房線の境は一体どこなのか?
房総半島の一番先っぽのあたりの大きな駅が境目となっているのかと思ったら、そうではない。
安房鴨川駅はだいぶ外側にはみ出していると思う。

そして内房線と外房線を分ける房総半島の根元側は、千葉市中央区の蘇我駅である。
するともう一つの疑問が湧いた。

千葉市は千葉県の県庁所在地であるが、一番中心の駅と考えられるのはどれだろうか?
  • JR千葉駅-普通はこれが一番中央と県外の人は考えるだろう
  • JR蘇我駅-千葉県と言ったら房総半島、内房線と外房線の根元側と京葉線の終端(ターミナル)駅ならここ
  • JR本千葉駅-県庁の最寄りJR駅であるし、「本」当の「千葉」と言っている
  • JR千葉中央駅-名前が「中央」を主張している

千葉に住んでいる人は、何を下らないことを言っているのかと思うだろうが、行ったことのない場所のことを想像するのは楽しい。

2018年6月30日

まず32か国名三か国語対照

日本の外務省のページ
世界と日本のデータを見る
(世界の国の数,国連加盟国数,日本の大使館数など)平成30年3月5日
によると、世界の国の数は196か国(日本が承認している国の数である195か国に日本を加えた数)である。

いっぺんに二百近い国名を覚えるのはとうてい無理だけど、FIFAワールドカップ2018ロシア大会に出場した32について、三か国語対照表を作った。
これを作った時点ですでに半分の16か国しか勝ち残っていないのだが、まあ気にしない。
32は全ての国の数の約6分の1をカバーする勘定である。

英語とスペイン語はFIFAのワールドカップのサイトから国名を写した。
FIFAのサイトは、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、アラビア語、ロシア語、中国語に切り替えができるようになっている。
ポルトガル語の国名はブラジルのポータルサイトから写した。

韓国の国名については、大会用の名称だという。
通常ポルトガル語では、Coreia do Sul、Coreia do Norteと、南コリア、北コリアと呼ぶのが普通だ。
同じくイランは、単にIrã、イランと呼ばれることが多い。

国名の固有名詞だけでなく、国民や国語を意味する形容詞・名詞形、つまりJapanに対するJapaneseをのせなければ万全ではないが、時間があったらやってみよう。

EnglishEspañolPortuguês
ArgentinaArgentinaArgentina
AustraliaAustraliaAustrália
BelgiumBélgicaBélgica
BrazilBrasilBrasil
ColombiaColombiaColômbia
Costa RicaCosta RicaCosta Rica
CroatiaCroaciaCroácia
DenmarkDinamarcaDinamarca
EgyptEgiptoEgito
EnglandInglaterraInglaterra
FranceFranciaFrança
GermanyAlemaniaAlemanha
IcelandIslandiaIslândia
Islamic Republic of IranRepública Islámica de IránRepública Islâmica do Irã
JapanJapónJapão
Korea RepublicRepública de CoreaCoreia do Sul
MexicoMéxicoMéxico
MoroccoMarruecosMarrocos
NigeriaNigeriaNigéria
PanamaPanamáPanamá
PeruPerúPeru
PolandPoloniaPolônia
PortugalPortugalPortugal
RussiaRusiaRússia
Saudi ArabiaArabia SaudíArábia Saudita
SenegalSenegalSenegal
SerbiaSerbiaSérvia
SpainEspañaEspanha
SwedenSueciaSuécia
SwitzerlandSuizaSuiça
TunisiaTúnezTunísia
UruguayUruguayUruguai

2018年6月28日

テレビごとネイマールを倒すな!

SNSでこんなのが回ってきた。

Recadinho para todos
Durante o jogo evitem esbarrar na TV pra não derrubar o Neymar
皆様にお知らせ
試合中はネイマールが倒れるから、テレビにぶつからないよう気をつけろ

ネイマールがコロコロ倒れるのはブラジルでも有名である。

ブラジルのワールドカップ中継局グロボGloboの看板スポーツアナウンサーであるGalvão Buenoの言動で、ネイマールが気分を害したという。
Neymar se irrita com críticas, e Globo nega distinção entre jogadores
Folhapress 2018.6.25

一節だけ引用する:
Ao longo da partida, Galvão criticou o que viu como um "gesto artístico" de Neymar durante pênalti que foi marcado pelo árbitro, mas acabou anulado com ajuda do vídeo.
試合の途中で、審判が宣言したペナルティーがビデオ判定で取り消された場面で、ガルボンは見たことを、ネイマールの「芸術的なジェスチャー」と批判した。

これを書いているのは2018年6月28日、日本はポーランドに負けながらも、ノックアウトフェーズへ進出した。
同時間のHグループ別試合でコロンビアがセネガルに先行してから、日本は失点とイエローカードをくらわないように自陣に籠もってボール回しを始めた。
昼の試合後のニュースのコメンテーターは、「どのチームもそうするだろう」と同情したものの、夜のニュースのガルボン・ブエノは容赦しなかった。
「間違いではないが、柔道だったらどうだろうか。消極性のためポイントを取られるではないか」

一応ワールドカップの史上初の「規律によってノックアウトフェーズに進んだ」ニュース価値は認めていた。
勝ち点-得失点差-総得点-直接対決が同一で、5番目の基準イエローカード数が日本とセネガルの明暗を分けた。

一方でGグループのイングランドとベルギーの試合は、結果如何に関わらず両者はグループフェーズを勝ち抜けることが試合前から決定しているのだが、ガルボンによると勝者の1位抜けは歴代チャンピオンが4か国いる難しい山へ、敗者の2位抜けはチャンピオンが2カ国の易しい山になるけれど、イングランドとベルギーはわざと2位になろうと手を抜かなかったと、日本の戦い具合と対比して称賛した。

日本でもブラジルでも、日本チームは次の試合にかかる期待値のハードルがすごく高くなった。

2018年6月23日

10秒のおフザケ、一生の後悔

人々の心がいやでもうきうきする夏至の頃から、FIFAワールドカップ2018ロシア大会たけなわである。
スタジアムの外でも国際交流は進む。

日本女性に下品な言葉コロンビア男性が謝罪
2018年6月21日 8:30

日本で話題になったが、こういったのはブラジルでも事欠かかない。
オリンピック2016リオデジャネイロ大会でこのような事件の記憶がないが、なぜか今回のワールドカップではやけに目立つ。
SNSの隆盛の波に乗っていることは間違いない。

ブラジルの報道では、女性を侮辱する行動として捉えられている。

Vídeos machistas de torcedores na Rússia se espalham pela web e causam revolta
Por G1
19/06/2018 19h21

2つ目の画像(静止画)は、例のコロンビア人と日本女性のものである。

最初の画像(動画)では、3人のブラジル人の身元が割れた。
4番目と5番目の画像(静止画)は、1番目のビデオからのキャプチャ静止画である。

弁護士で元ペルナンブコ州のある市の観光局長-州議会が非難決議を行った。
警察官-サンタカタリーナ州警察の行政処分を帰国時に受ける予定。
土木技師-所属先である技師評議会が声明を出し、懲罰を受ける可能性。

本記事には載ってないが、もっと悲惨な目にあった男がいる。
2人のブラジル人男性が3人のロシア人女性に同様に、いたずらで卑猥な言葉を言わせて笑っている動画がSNSを通じて拡散した。
2人のうち1人はブラジルの航空会社ラタン(LATAM Airlines Brasil)の従業員だった。
映像が拡散して不名誉な話題が拡大した時点で、ラタンは「会社の価値観と原則に反する、倫理行動規範に違反」という理由で即時に解雇してしまった。

一連の悪趣味な悪ふざけを仕掛けたブラジル人は、帰国時に連邦警察に逮捕されるだろうという報道もある。

10秒の悪気のない悪ふざけだったつもりが、一生を台無しにする後悔に変わってしまった。

その場限りの悪ふざけだったら、仮に相手が嫌な思いをしたとしてもその場でしっかり謝れば済んでしまう。

しかし映像にしてSNSに載せてしまうと事情は異なる。
いたずらの対象にされた人は、自分も無邪気に楽しんで嫌な思いなど少しも感じなかったとしても、撮られた映像が拡散して不特定多数の人が見ることになると、何を言わされたか分かってない状況で騙された被害者の愚かさが視聴者の笑いの種になったり、見るだけで不愉快になる視聴者も出るだろう。

一生を台無しにはしないが、似た状況は自分たちにもときどき起こる。
自分たちとはブラジルに住む日本人のことである。

酒の席とかあまり堅苦しくない状況に(日本人にとっての)外国人がいて、何か日本語(の単語)を教えてくれと言ってきたときに、「お○ん○ん」とか「お○○こ」その他の卑猥な単語をふざけて言わせておもしろがる悪ふざけをしたことがある人は少なくないのでなないか。

そしてこんな状況で受けることがある、次の質問にはいつも困惑する。
「日本語で"filho de puta"は何て言う?」という質問だ。
日本ではこの意味の罵倒語はないとことわった上で、「売春婦」だと長いし硬いし、「女郎の子」と言うことが多いが、意味はわかるが全く使わない語法だから、口に出してもしっくりこないので、とても気持ちが悪い。

ブラジル人から日本語の単語を知っているから聞いてくれと、「ジョロノコ(女郎の子)」を逆に聞かされることもある。
「女郎の子」はかなり普遍的に知られているようなのだ。
きっと昔から日本人移民も、聞かれることが多く、困り果てながら教えてやった歴史があるのだ。
注釈をつけて正しい知識を教えるのが、正しい民間交流のあり方ではないのかと大上段に構えたりするのだが、根が優しいから、「きっとウケ狙いで言うのだから、面白がって欲しいのだろうな」と入らぬ気遣いをして、そうかそうかと力なく笑ってあげるくらいしかできないことが多いのだ。

2018年6月11日

ブラジルの不審電話

次のリンクは日本のものである。
自動音声で「65歳以上ですか」 個人情報聞く不審電話
6/9(土) 16:04配信

ブラジルの電話にも自動音声の通話がかかってくる。
その時は面倒だし、自動音声なら重要性もないだろうし、どうせセールスだろうからすぐに切る。
受話器を取ると対応する間もなく1、2秒で切れてしまう通話もたくさんかかってくる。
インターネットで検索するとそのような瞬切りを受ける人は多く、そのような番号リストもある。
ほとんどテレフォンセールスの会社のようである。
通話が切れる理由は不明だ。

セールスと寄付のお願い以外の、これまであった不審な電話を書いてみる。

だいぶ前の昼飯時のこと、市外局番11サンパウロから「俺だよ俺、サンパウロのいとこだよ」と男の声で固定電話にかかってきた。
そして金が無いとかなんとか言っていた。
サンパウロにいとこはいない。
発信元と日時の記録はない。
記憶にあるだけである。

別の通話である。
去年の8月のある日の日記に「詐欺の可能性の通話」と記してある。
隣の州の州都の携帯電話から固定電話にかかってきた。
「父さん助けて、助けて」と女性の声だった。
私達に娘はいない。

詐欺電話やらセールス電話やら面倒だから、発信番号を見て未知の番号からかかってきたときは、すぐに切れることも多いし、受話器を取っても自分から声を出して話し出さないようにしている。
そうすれば電話の向こう側の詐欺脅迫者が、「お父さん助けて」と切り出すか、「お母さん助けて」と言い出すか判断できないだろうから。

もっともこの最初から沈黙対応作戦はブラジルだから通用するのかもしれない。
日本だったらベルは待たせるな、受話器をとったらすぐ名乗れと教わってきたからだ。
ブラジルでは向こうから掛けてきた電話に出るとすぐ「どなたですか」と聞かれることが多いのだが、これに対して日本からブラジルに来たばかりの人は「てめえが掛けてきたのになぜ名を聞く」と怒り出す人がいる。
どのくらいの昔の時代のことかはわからないが、ブラジルの電話は交換の間違いや混信が非常に多かったから、話したい本人につながっているか前もって確かめるために自分が電話をかけたとき、通話先で電話をとった人の名前を尋ねるのだ、と聞いたことがある。

最近はかかってこなくなっているが、受話器を取っても無言の電話がある。
いたずら電話か電話の故障かはわからない。
そのような相手にはこちらも無言で答えるのだが、沈黙では申し訳ないので、優しく音楽を聞かせてあげるようにしている。
音楽はその時聞いていたものだからこれとは決まっておらず、テレビ音声を聞かせることもある。
しばらくすると音楽に飽きるか満足して電話は切れている。

2018年6月9日

多様化する恋人たち

en. homophobia = po. homofobia = ホモフォビア、同性愛嫌悪
en. LGBT = po. LGBT

6月12日はブラジルの恋人の日"Dia dos Namodados"である。
衣料品小売大手のRennerの恋人の日のプロモーションビデオである。



後で見つけたが、もう一つの衣料販売C&Aも負けていない。



見ればすぐに分かるが、レズビアンとゲイ、つまりLGBTのLとGそれぞれのペアが参加しているのである。
ブラジルのLGBTは、Wikipediaによると、Lésbicas, Gays, Bissexuais, Travestis, Transexuais及びTransgêneros、つまりレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、いわゆるオカマ、トランスセクシュアル及びトランスジェンダーの頭文字である。
トランスセクシュアルとトランスジェンダーの違いはよく説明されていないのだが、前者は肉体的に、後者は心理的・社会的に生まれて持つ性と異なるものに自身を認識するとされている。

注意してみると、出身地・肌の色や年齢のような要因に愛は囚われていないというメッセージも含まれているようだ。

YouTubeの動画のスポンサーになっているのを見つけたのであるが、ネットショッピングのためと思われる文言"Compre online"が入っている。
万人が視聴する地上波でこのビデオが放送されているかは、今のところ確認をしていない。

コメント欄は賛・否・どうでも良いが混じっている。
反対理由として、神の摂理に反するとか地獄に落ちるとかいう宗教的理由をあげるところにブラジルらしさが現れている。

2018年5月31日

軍政復活や王政復古を願う人達

intervenção militar = 軍部介入
monarquia = 王政、君主制

トラック運転手ストライキ9日目の2018年5月29日になって、事態は好転に切り替わった。
先のトピックに書いたように、トラック運転手の労働者組合は、連邦政府と合意に達して、組合員には道路封鎖とピケを解いて労働に戻るように声明を出した。

5月28日になって連邦政府側がしきりとアピールしているのだが、組合執行部の決定に従わずに道路封鎖を続ける不服従集団の中に浸透している政治的分子の存在である。
政府と組合執行部の合意に満足せず、労働復帰を拒否している連中を煽っているのは、もはやトラック運転手でなく、反政府勢力であるというのだ。
それなら一体どんな政治的勢力なのだろうか。

ようやくストライキが解決したので喜んで労働に戻ろうとしたら、トラック運転手とは何の関係もないのにストライキ団に入り込んでいるおかしな連中に、ストを続けるように脅迫されたとインタビューに答えたトラック運転手が何人もいる。
ブロックから離脱しようと動かしたトラックに投石されてフロントガラスが割られたり、小競り合いでシャツを破られたりするトラック運転手もいる。
一体どこの誰がしているのかわからないが、ストライキを応援するように食事その他の差し入れが届けられる。

労働者のストライキと言ってまず想起されるのが、労働者党のような社会主義・共産主義を標榜する政党に率いられるものである。
しかし、ストライキの開始から現在に至るまで、左派運動につきものの赤旗や赤シャツは一切スト団の中には見られず、ストライキ名物の、貸切バスで送り込まれる土地なし・屋根なし運動の参加も見られない。
今回のストライキには左派は一切関与していないのである。

ストライキの収拾に失敗してストが長引き、国民生活への影響が過大になって一般国民の不満が爆発すれば現政権への批判は大きくなって、10月の選挙に打撃を与えることができるから、罷免されたジルマ・ルセフ前大統領や収監下のルラ元大統領の所属する前政権党である労働者党にとっては十分な動機があると考えられる。

しかし今回はそうではない。
29日のニュースを見て、労働へ戻らないトラック運転手の不満勢力に浸透している政治的分子とは何と、軍政復活を願う人達であるという。
本気で言っているのか、それとも一種の脅し程度の意味として使うのか不明だが、「即座に軍部介入を!」"Intervenção Militar Já!"と言ったスローガンを掲げた連中の映像が流れた。

ブラジルは1980年代前半まで軍政が続いていたので、その記憶を持つ人はかなり存在する。
反政府勢力を暗殺などの汚い方法で始末したことが今でも糾弾される軍政は、特にその後期には膨大な累積債務や増長するインフレに経済政策では苦慮していたが、治安面では少なくとも薬物や武器の密輸販売で勢力を競う組織的犯罪や殺人・強盗のような凶悪犯罪に、今日のように一般国民が悩まされることはなかった。

多少言論の弾圧や自由の抑制があったとしても、安全な日常生活を過ごすことができた時代を懐かしむ人がいてもおかしくない。
世界的風潮だろうが、軍政以降に生まれた世代も少数派排斥性向と結びついてこの方向に流れるものがいないわけではない。

ヘルペスのように、潜伏していたウイルスが身体の免疫力が弱ったときに症状が顕在化して苦しめるように、中道政権がつまずいて社会が不安になると左派だけでなく極右までが政権を揺さぶろうと蠢き出すことを今回のトラック運転手のストによって実感した。

現在までブラジルの王室(ポルトガル王室ブラガンサ家)の子孫が続いていて、その人達はもはや望みはしないだろうが、それでも王政復古を目指すモナルキスタのグループまで存在するのだから、軍政復活を目指す市民がいることも少しは頷ける。

2018年5月30日

ブラジルのトラック運転手という階級

血栓症重症のブラジル

caminhoneiro = トラック運転手

5月21日からブラジル社会の大麻痺状態の原因となったブラジルのトラック運転手とはどんな人達だろうか。
次の記事から見えるその実体は、強固な労働組合組織を形成する一枚岩の労働者の団体像とは、印象がかなり異なる。

Edição do dia 25/05/2018
25/05/2018 21h17 - Atualizado em 25/05/2018 21h17
Governo tem suspeita de locaute na greve dos caminhoneiros
http://g1.globo.com/jornal-nacional/noticia/2018/05/governo-tem-suspeita-de-locaute-na-greve-dos-caminhoneiros.html

なお下の文章は記事のみでなく、他から持ってきた情報も含んでいる。

2015年のトラック運転手法(法律)は、労使間協約があれば一日12時間、週72時間の労働を認める。
しかし法律はいくつもの例外を設けて、車両が安全な場所や目的地に到着するまで労働時間を延長することが許される。

長時間の運転の眠気と疲労を追い払うために、日本では覚醒剤に指定されている、こちらの日常言葉でレビッチ(rebite)と称されるアンフェタミンの力を借りる運転手もいる。

トラック運転手の仕事は奴隷にもたとえられる。
年平均200日は自宅の外で過ごし、狭いトラック内のキャビンで強盗の脅威にびくびくしながら浅い眠りを取りながらの旅が続く。

街道沿いには食堂だけでなく、売春も行われているから、トラック運転手は性病の高リスクグループであるという不名誉な属性も持つ。

昔のトラックの装備は、運転手仲間で情報を共有するためにせいぜい無線が付いていたくらいだったが、現在はインターネット接続や、運転手が初めての配達先に迷うことなく到着するためのカーナビだけでなく、トラック盗難や強盗に備えて遠隔から位置確認が可能なGPSによる監視がされている。

サンパウロ大学が2月に発表した調査によるトラック運転手の横顔は、この職業が楽なものでないことを示している。
  • トラック運転手の58%は正式な被雇用者
  • トラック運転手の27%は自営者、つまり自分が所有するトラックを運転する
  • トラック運転手の15%はその他の形態の契約
ストライキの間は労働を中止しているから、当然自営者の場合収入はなくなるのだが、運送会社の従業員の給料体系はどうなっているのだろうか。
自営者と被雇用者の間に格差ができそうなものだが、そこを説明してくれる報道はない。
  • トラック運転手の43%は法定の週44時間以上労働する
  • トラック運転手の85%は1から3最低給料を稼ぐ
  • トラック輸送は国内輸送の60%以上を担う(2018年4月)
調査などのデータからみると、社会で大きな力を誇示しにくい、どちらかというと社会弱者と考えられる、ばらばらで団結力がなさそうなトラック運転手が、どのように組織化した実力行使を行い、一般市民の同感を得ているのはどうしてだろう。

まず、今回の全国規模のトラック運転手ストライキを組織したのは一体どこの団体だろうか。
報道によると、トラック運転手の労働者組合と考えられる2つの団体が、既にスト入り前から連邦政府に警告の書状を送っていた。
ブラジルトラック運転手協会(Associação Brasileira dos Caminhoneiros - ABCAM)と、全国自営運輸業連盟(CNTA - Confederação Nacional dos Transportadores Autônomos)である。
トラック運転手の労働組合はこれだけではなく、全国組織も地方組織もいろいろあってあって多数存在する。

そもそもなぜこのような抗議活動が始まったかと言うと、汚職スキャンダルに見舞われたペトロブラスが、その反省から最大株主の連邦政府から独立性を高めて、製品価格をドル為替と原油価格に連動して、ほぼ日単位で変動するように2016年から変更した価格決定方針が原因になっている。
そのため連邦政府が人気取りやインフレ率の操作のために、ペトロブラスの製品価格を人為的に抑制することや、会社の資産が不正な政治献金に流用されることが難しくなって、ペトロブラスは復配できるまで体力を取り戻してきた。
反対にペトロブラス製品であるガソリンや軽油の価格調整は、国際情勢緊張のため原油価格の上昇とレアル下落によってインフレ率を大幅に超えて、自動車所有者を苦しめる結果となった

だからストに参加したのはトラック運転手だけではない。
タクシーやUberや通学バンの運転手も、局地的一時的であったが賛同ストやデモを各地で行った。
ストに参加した職業運転手だけでなく、仕事で車を使う人も私用にしか使わない人も大部分が、燃料の価格と付加される税金を下げろというストの趣旨には賛同している。

さらに問題を複雑にするのがトラック運転手の雇用者の立場である。
燃料価格が下がって、しかも上乗せされる税金が減税されたならば、一番得をするのは給料をもらう個々の運転手ではなく、利益の大部分を持っていく雇用主だろう。
だから、故意にか不作為にかに関わらず、運転手を焚き付けてストをしてもらえば労せず得するわけだ。
そこで連邦政府はブラジルでは禁止されているロックアウト、つまり運送会社の事業所や車庫を閉鎖して運転手に労働させない戦術をとった疑いを持って、日本の公正取引委員会に相当する経済防衛行政審議会(CADE - Conselho Administrativo de Defesa Econômica)が捜査に入っている。

2018年5月27日日曜日になって、軽油の価格を0.46レアル引き下げ、連邦政府はペトロブラスに差額を補填する、その他いろいろある詳しい内容については省略するが、実施事項を政令で定めることに、連邦政府とトラック運転手の多数の労働組合の間で合意に至って公式的にはストライキは終結した。
と言い切りたいのだが、実はそう簡単に全てのトラック運送が復帰するのではなく、時限立法であることに不安を持つ一部の勢力は中央執行部の決定に従わない、いわゆる山猫スト状態になっている。

ロックアウトから山猫ストまでいろいろな戦術が出ているのだが、闘争目的が労使で一致して大衆の支持も高いという珍しいできごとではある。

2018年5月26日

血栓症重症のブラジル

全国規模のトラック運転手のストライキは6日目になる。
トラック輸送が止まっているだけでなく、止まったトラックが各地で国道を封鎖している。
鉄道輸送の場面が非常に限定的であるブラジル社会の血管は道路に、血球はトラックに例えることができるだろうが、今週は血管に血球がこびりついてふさがった血栓症状態である。
始まりは2018年5月21日月曜日であった。
現時点で日常生活にどんな影響が出ているか?
  • ガソリンスタンドの行列がすごい
    と思っていたら売る燃料がなくなったので行列も消えた*
  • 市内バスの運行本数が半分に減った*
    リオデジャネイロ市のBRTは6年前の開通以来初めての全休、普通のバスは23%しか動かなかった
  • ケロシンが空港に配達されないため、航空便がキャンセルされる*
  • 卸売市場に商品が届かず*、スーパーで野菜・肉など生鮮食料品が品薄になる
  • プロパンガス店の売り物のガスが無くなった*
    ブラジルの家庭やレストランの厨房で使われるプロパンガスがなくなりそうになると、買いに行ったり配達を頼んだりするのだが、現物がない
  • 事業所や工場の原料供給が止まり、製品の発送もできず操業を停止する
  • 通学バスの燃料がないので学校が休校になる
  • ごみ収集が停止される
  • 酪農家で牛乳があふれるので泣く泣く捨てる一方、チーズ生産者は原料不足で生産できない
  • 飼料が不足したり製品を出荷できない養鶏農家が、鶏や卵をただで配る
  • 薬局や病院で薬品や資材が不足するので、うかつに病気にもかかれない
  • 病院などの非常電源の燃料が不足する
*印はわが町でも見たり聞いたりしたできごとである。

さてこうして並べていくと、人的物的な直接の傷害や破壊の被害はないものの、日本の震災後のような物不足の状況と非常に似ていることに気づく。

ただ不可避な自然災害ではなく、トラック輸送の麻痺という純粋に人為的な行為のみによって、わずか4、5日でこれだけの悪影響が矢継ぎ早にあらわになるブラジル社会の脆弱さが、何とも感覚的に理解し難いところがある。

日本人の災害時の助け合いや我慢強さのような特質や、普段から災害時に備えた公私共の予防や備蓄の十分さと比較してしまうからそう思える。

2018年5月13日

廃屋処理は腐海

【動画】廃墟の村を草がのみ込んだ、不思議な風景
中国・上海沖の小島、放置されたかつての漁村は今

2018.05.02

このリンクの映像を見たら、すぐに思い浮かんだ風景は、1年半前に見た日本のいくつかの場所のものだった。
当時日本に住んでいた息子に田舎の風景を見せたいと思って、友人と親戚を頼んで関東地方と東海地方の二つの県を訪ねた。

どこに行っても山の緑が一方や全方から迫ってくる田園の風景は懐かしかった。
しかし訪れた集落には、どこでも滅びの兆候が見られるのだ。

人が住まなくなってかなり時間がたって、蔦がはびこる古びた家がたくさんある。
軒が崩れて瓦が落ちて、草が生えている屋根がある。

昔は訪れる観光客で賑わっていた温泉旅館が門戸を閉めて年月が経ち、川沿いに並ぶ窓が軒並み壊れた大浴場や、水のない底を晒すプールが、寂しく昔の繁栄を思い出させる。
昔はいつ通りかかっても清閑としていた和風庭園を前庭に持つ旅館に、横付けする観光バスから降りてくる団体客は中国語を喋っていた。

昔は近くの漁村の小型漁船を作ったり修理していた小さな造船所のドックを囲む、錆びた鉄骨やクレーンの脇を歩く。
事務所の入り口には古びて字も読めなくなった紙が貼られて、どこからか水が漏っている音が聞こえている。
二階に上る鉄製の外階段は、上の数段が腐食して崩れ落ちていた。

当時日本に住んでいた息子が、多分お父さんも好きだと思うからと予約してくれた三鷹の森ジブリ美術館へ行った。
屋上にある疑似廃墟のロボット兵を持って行っても、ごく自然に溶け込みそうな中国の廃村風景である。

住む人がいなくなり相続人が不明になった住居や、破産してしまい、これからも決して誰も改装して復業しようとは考えない古い旅館などを解体するには、かなりの費用がかかる。
誰も費用を負担できないのなら、いっそのこと解体をあきらめて、リンク映像の中国の漁村のように植物が覆うのに任せてしまったら良いのでないか。
上海近辺より気候が寒くて植物の力が足りないというのなら、人為的に助けよう。

分解過程を加速したいのなら家屋全体をビニールハウスにして、熱帯のような条件を作ってやって緑化を加速しても良い。

最初にカビやキノコのような菌類に木材などを分解してもらってまず堆肥のようにしてから、緑色植物の出番にする二段階計画でも良い。

植物や菌類の品種改良で、コンクリートやプラスチックを分解できるようにすれば良い。
地上に留めておけば、海洋の微小プラスチック汚染は起きない。

コンクリートやプラスチックの分解能力が強化された菌類や植物が廃屋以外のものに害を与えないように、ある条件のもとで「引き金」が引かれると生存ができなくなるような遺伝子的メカニズムを備えていたら、環境に安全である。
やはり遺伝子操作に頼るのか?

分解したい建物に菌類や微生物や植物の種を蒔いてやってドームで覆い適当に加熱して数年で土に戻るような技術があったら、廃屋や廃村の処理はごく簡単になる。

なんか既視感のあるプランである。
ナウシカの世界の「腐海による環境浄化」そのものではないか?
ジブリは何でもお見通しだ。
ただジブリ映画の滅びは次に来る復活をほのめかしているが、現在の時点で想像しても、人口が復活して廃村が再生するような日本の将来は、今のところ見えてこない。

2018年5月3日

Rio Cardを使ったリオ大衆乗り物巡り

前回のブログに紹介したサイトを見ながら、オタクであろうとなかろうと乗り物ならなんでも好きだという人にぴったりの街巡りプランを思いついたので書こう。

あらかじめ注意しておくが私はリオ住民でないから、これら乗り物や通過する地区がこの時間帯に安全かどうかは確認できない。
ホテルのスタッフやリオ住民に情報をもらったり、Google Street Viewなどで街の様子を眺めて行くか行かないかを判断してもらいたい。

率直に言うと、どこを通っても、バスで行ってもタクシーで行っても、100%安全な場所はないと思うが、服装や所持品をふさわしいものにして、行動に気をつけて、心の準備をしていれば、事件に対処できる度合いが十分大きくなるだろう。

朝早いのは、ココター発プラサ・キンゼ行きのフェリー便の最終がこの時間だからである。
多分ゴベルナドール島住民の足と思われるこのフェリー路線は、朝3便、夕夜3便のみ、しかも土日は運休である。
当然当プランは平日のみ有効である。

プランの各交通機関の発着時刻はGoogle Mapsの機能を使って調べたが、サイト自体が断っているようにあくまで参考であるから、特にSuperViaは遅れることで有名らしいし、ここに書いた時間通りに進まない場合があることに注意してほしい。

出発・到着地点はセントラル・ド・ブラジルとしたが、もちろん自分のいる場所を考慮して変更しても良い。
このリオデジャネイロのターミナル駅は映画でしか見たことはないが、行き先を間違えないように、人が多いだろうからひったくりなどに十分注意してもらいたい。

Rio Cardにはある条件を満たすと乗継割引があるのだが、その条件が今ひとつ明らかでないので、下に示す各々の運賃を合計した金額以上をあらかじめチャージしておいて、旅行中は読み取り機にタッチするだけで通過できるようにしておくと良いだろう。

  • 6:34 Central do Brasil駅12番ホーム―
    電車 [SuperVia Ramal Saracuruna支線-Gramacho行き途中7駅停車23分 15分毎 R$4.20]
    →6:57 SuperVia Olaria駅
    BRTオラリア駅まで徒歩2分位
  • 7:10 BRT Olaria駅―
    BRT [Transcarioca BRT42-Fundão行き途中4駅停車終点フンドン駅で乗り換えBRT30-Galeão Tom Jobim 2行き(Google MapsにはAlvorada行きと書いてあるのだが間違いだろう)途中駅無し終点 R$7.20]
    →7:44 BRT Galeão Tom Jobim 2駅
    空港で飛行機を見たいとか値段の高い朝食を取りたいとかいう人は、その分早出(はやで)しなければならない
  • 8:05 Galeão Tom Jobim 2バス停―
    路線バス [924番 Bananal行き途中23停留所停車52分 R$3.60]
    →8:57 Praia da Olariaバス停
    空港を含めて全経路がゴベルナドール島内にある
    マヌエル・バンデイラ公園を横切るとココター駅(港)
  • 9:20 Cocotá駅(港)―
    フェリー [CCR Barcas 航海55分 R$6.10]
    →10:15 Praça XV駅(港)
    これがプラサ・キンゼ行今日の最終便!
    海からのリオの眺めを楽しめるし、リオ・ニテロイ橋の下をくぐる、割安な観光船
  • VLT Praça XV駅―
    VLT [2号線/1号線 R$3.80]
    →(Central, CariocaまたはCinelândia駅)
    プラサ・キンゼに着いたら、すぐにVLTに乗らずにオリンピックのときに再開発された海岸の公園やセントロを散策しても、それから昼食にしてもよいし、メトロとの接続駅Carioca, CinelândiaまたはCentral駅でメトロに乗ってビーチ方面に行ってもホテルに戻っても、好きなように行動できる。
  • (Central, CariocaまたはCinelândia駅)―
    メトロ [1号線/2号線 R$4.30]
    →(行きたいメトロ駅)

本記事の表題が示すように、全ての交通機関はRio Cardにクレジットがあれば、改札機や読み取り機にタッチするだけで運賃支払ができるはずだ。
路線バスとVLTは車内に、その他はフェリーも含めて駅に改札機がある(と思う)。

BRTもVLTもオリンピックのために作られたから、観光客にも使われている。
メトロも問題はない。

電車はリオ市と近郊の都市を結ぶ路線だが、メトロと比較して客のガラが悪く、物売りなどが多く雑然としているそうだから注意。
スマホを出すのがためらわれる環境であることを予想して、下車駅までの途中の駅名を紙切れに書いておくと良いと思う。

めったにないことだが、車両故障などで電車が立ち往生すると、乗客は勝手に線路に降りて歩き出すが、日本風に考えて車両に残っていないで大勢に従うのが良いと思う。
腹を立てて凶暴化したけしからん連中が、電車を打ち壊したり放火したり馬鹿な騒ぎを起こすことがあるかもしれないが、どこにも良識があって親切な人はたくさんいるからそのような人を見つけて一緒に安全なところに避難するように心がけよう。

路線バスは住民の利用第一に運用されているので、旅行者には使いづらいとは思われる。
通過点で下車するのだが、どこで降りるかわからなくなる可能性が多い。
リオのバスはどうか知らないが、普段使う市内路線バスの経験から言うと、車内は路線図もアナウンスも何も案内が全くないし、そもそもバス停に名前などないので、いるならば車掌、いなかったら運転手に、「ココター駅からバルカに乗りたい」と言っておけば止まって教えてくれるから安心できる。
ワールドカップとオリンピックのおかげでどれだけリオが国際都市化したのか想像できないが、乗務員に英語が通じなくても、学生らしい若者や教養がありそうな乗客に話せば助けてくれるだろう。

これで最後のメトロを含めて6種類の乗り物に乗って、空港で飛行機を見ることができたわけだ。
Rio Cardで乗ることのできるもう一つの乗り物であるバンがないだろう、という疑問を持つ人がいるかもしれないが、さすがにロシーニャやヴィジガルのバンを薦めることは避けた。
両方共有名なファヴェラ(スラム街)の名前である。

平日の午前中だから安全な時間帯だと思うが、十分気をつけながら楽しんでほしい。

2018年5月2日

リオデジャネイロ交通マップ

リオデジャネイロ大都市圏の交通マップに良いものがなかなか見つからない。
Wikipediaでみつけたこれがまあまあだろうか。

長所は地図が正確で位置関係がよく分かる、ポン・ジ・アスーカルのロープウェイとか、コルコヴァード登山鉄道とか、サンタ・テレザ路面電車のような普通観光客がよく使う交通機関だけでなく、新しい観光名物と言われる(行ってみたいのなら軽々しく信じて行かないで、前もって安全性を十分調べてもらいたい)アレマンのファヴェラ(スラム街)にかかるロープウェイなどマイナーなのが一緒にのっていることだ。

マイナー過ぎる、コンドミニアムの(私設の?)ケーブルカーのようなものまでのっているが、このような情報に需要があるのかわからない。

欠点はメトロやBRT、VLTの路線や運行系統の区別がわかりにくいことと、図面の日付が2018年1月でありながら、2016年のオリンピックに開通が間に合ったメトロ4号線が建設中となっていたりと、更新が追いついていないことだろう。
二つの路線が近接する駅で乗り換えが可能かどうかも地図からはよくわからない。

後日、なかなか良いのを見つけた。
メトロリオのサイト内にあった。
ただしBRTは運行系統の数が多いので、全部同じ色になっている。
VLTの2路線も同じ色で表されている。

  • BRT-急行停車駅・他の交通への乗換駅の情報あり-運賃R$3.60
  • メトロ・リオ-各駅案内リンクあり-運賃R$4.30
  • VLTカリオカ-他の路線、他の交通への乗換情報と観光地図あり-運賃R$3.80
  • SuperVia電車-他の路線、他の交通への乗換情報あり-運賃R$4.20
  • CCRフェリー-時刻表
の路線図を併用したら良いだろう。

いつも使っているよと言う人も多いだろうGoogle Mapsは、鉄道駅だけでなくバス停留所の情報(どこに何番の系統が止まるか)が地図上にマップされているので、これも非常に役立つだろう。

2018年5月1日

Rio Cardを使ってみる

息子がリオデジャネイロに旅行した。
正確に言うとリオデジャネイロ市とグアナバラ湾を挟んで向かい合うニテロイ市に用があったので、リオからどうやって向こう岸に渡ろうかと思案したのであった。

1か月以上前に計画的に購入していれば、レイト(leito=寝台)というフルリクライニングワイドシートのバスより少し高いくらいの値段で航空券が買えてリオまで行けたのだが、うかうかして値段が2倍も3倍にもなったので、結局バスで行った。

長距離バスはリオデジャネイロ市のノーヴォ・リオ・バスターミナル(Rodoviária Novo Rio)に到着する。
在リオデジャネイロ日本国総領事館発行の2017年11月「安全の手引き」を見ると、「長距離バスターミナル周辺は治安が劣悪」と書いてある。
到着予定は土曜日午前9時半、危ない時間帯ではない。
リオ・ニテロイ橋を通る都市間路線バスを使う方法と、オリンピック2016年リオ大会に合わせて建設されたVLTと、昔からある渡し船バルカ(barca)を乗り継ぐか、である。

「安全の手引き」によるとこれまた避けたいと評価されるが、いっぺん乗れば乗り換えのない路線バスで、延長13キロ、片道4車線の堂々たるリオ・ニテロイ橋でグアナバラ湾を渡るのもいいけれど(橋上で強盗事件は皆無ではないのだが)、リオの町に用はなくても、せっかく来たのだからVLTで再開発されたセントロを観ながら船着き場まで行きフェリーで行ったほうが観光らしくなる。

経路は次の通り
  • ロドヴィアリア(Rodoviária)-[VLT2号線 R$3.80]→プラサ・キンゼ(Praça XV-終点)
  • プラサ・キンゼ-[バルカ・アラリボイア線 R$6.10]→プラサ・アラリボイア(Praça Arariboia-ニテロイ市)

VLTとは英語のLRV (Light Rail Vehicle)のポルトガル語(Veículo Leve sobre Trilhos)であり、そのままアルファベット読みしてヴェーエリテーと言われている。
オリンピックのためのリオ市セントロ再開発の目玉の一つである。

インターネットの情報により、あらかじめVLTの乗り方を「予習」していおいた。
Google Mapsでは乗り場の地点がわかるが、これ丸呑みも避けたいところである。
乗り場や乗り方がわからなくてウロウロするには危険な場所である。
この新しい乗り物は、十分な小銭を持って乗れば良いバスや、乗る前に駅で切符を買えば良い電車やメトロとは乗り方が少し異なる。
  • まずリオデジャネイロ大都市圏で有効なRioCardという「Suicaのリオ版」を入手する必要がある。
    車内での支払いはできない。
  • VLT乗車場の近くにある(らしい)カード発券・チャージ機(Máquina de autoatendimento)で、カード発券保証金(カードを返納すると返金される)R$3.00と当面の運賃クレジットを現金かデビットカードで購入する。
    今回はVLTのあとでリオ・ニテロイ間フェリーに乗るのでその分も含めて全部払える金額をチャージする。
  • 到着したVLTドアのボタンを押して開けて乗車する。
    寒冷地の電車みたいである。
    冷房の冷気を逃さないためだろう。
  • 乗客は自発的に車内のカード処理機にタッチして運賃支払を完了する。
ガイドを見て不思議に思ったのは、乗客が責任を持って自律的にカード有効化という部分である。
皆ごまかそうとせずに正直に行なうのだろうか?
ここはブラジルだよ?
旅から戻った息子に聞いたら疑問は解けた。
フィスカル(検札員)がたくさん乗っているというのだ。
そんなに一編成に何人も検札員が乗っていたら人件費はどうなるのだ?
まあいい。

さてRioCardである。
カードの右側に利用できる交通機関の図解、アイコンが6つあるのだが、これがよくわからない。
RioCardのサイトにあるビデオを見たら、昔のカードは交通機関が5つだった。
バス、電車、メトロ、フェリーと最後の一つが少し謎のバン(van)と説明してくれた。
バンはバン型車両である。
ブラジルでバン型乗用車と行ったら乗客15人乗りの車両を指し、これはコミュニティバスのことだと思う。
新しいカードにはこれにVLTが加わって6つになった。
上から
  1. バス/BRT
  2. メトロ(架線なし、レール、トンネル)- Metrô Rio
  3. 電車(架線あり、レール、オープン)- SuperVia - Trens Urbanos
  4. フェリー - CCR Barcas
  5. VLT(細身、レール、架線なし)- VLT Carioca
  6. バン(バックミラーが車体全体比でバスより大きいから)
であろう。

VLTと同じくリオ・オリンピックを利用して作られたBRT (Bus Rapid Transit)もあるが、これは専用の連節バスが専用レーンを走るもので、VLTと違ってレーンから外れた場所でも行けるバスであるから、普通のバスの仲間なのだろう。

カードの特徴は、ここには書かないがルールに従ってこれらの交通機関を乗り継ぎをする場合に割引運賃が適用されることがある。

それにしてもである。
日本だったらSuicaでもPasmoでもその他の地方のものでも交通系ICカードが一枚あれば国内大抵の場所で使えて、ついでに買い物までできるのだが、ブラジルでは都市ごとに分かれているのはどうにもならないのだろうか?

自己回答すれば、各都市の交通事業体は独立していて横の関係は全く無いので、きっと無理だろう。
わが町にもここ専用で他所では全く利用できないICカードがある。

サンパウロに行く用事があったときにはバスとメトロに何回も乗れる24h割引を利用するために、旅行前にインターネット登録をしてサンパウロのBilhete Único記名カードを作った。
こいつは役に立った。

ゴイアニアではインターネットにあまり情報がなくてカードを作らなかったので、乗り込んだ現金を受け取らない(!)バスが、現金受取りができる市内各地に散在するバスターミナルのどれかに着いて支払いを行うまで車内のカード処理機を通過できず、狭いスペースに押し込められた。

そして今回はリオデジャネイロである。
RioCardというのが手に入った。
割引をフルに利用するためには記名カードにする必要があるが、今回は無記名式カードである。

この分では10都市を訪問する人は10枚の交通カードを作らなければならないようだ。

2018年4月14日

ルラ被告vs裁判官

4回に分けて書こうとした、ルラ元大統領の収監であるが、5回に伸びた最終回である。
あえてここで幻となる可能性の多いルラ大統領候補に個人的期待する理由を書いてみよう。

ルラ元大統領は検察と裁判所を目の敵にする。
本心はともかく、演説ではそう言っている。

議員は選挙第一である。
何もかも選挙至上であるから、その資金集めにはことのほか熱心になる。
汚職にまみれやすい。
選挙に落ちたらただの人どころか、借金を抱えたらただの人以下になる。
それでも落ちた人を救う互助会のような仕組みが政党にはあるようだ。
政治家になるのに必要な素質は何か。
学歴や試験ではない。
政党への貢献と党内外の人望と、演説術や説得術のような選挙能力と、献金を集める集金力だろうか。
ブラジルの立法府の最高の地位は上下院議長である。
下院議長 Rodrigo Maia、上院議長 Eunício Oliveira

大統領は権力と注目が集中するが、これも選挙次第なので議員と似たようなものだ。
行政の実行者である公務員はどうか。
立法府と司法府にも行政府よりずっと数は少ないが、公務員がいて、待遇は行政府より良いようだ。
キャリアの公務員になるには公務員試験があって、職種によって特定の学位が求められ、競争はきわめて激しい。
なるのは難しいが、一度なったらよほどのことがない限り首にならない。
日本とは違う意味でのノンキャリア公務員は、政治任命であって、試験に受かる必要はないが、政権党に功績があって党に尽くすことが求められる。
これがまた汚職の種になったりする。
選挙で負けたなどの理由で所属党が政権から離れたら、当然すぐクビになる。
行政府の長はもちろん共和国大統領である。
共和国大統領 Michel Temer

司法府である。
判事という職業の、この権力の一員になるのは、多分一番困難だろう。
法学を修めなければならないが、法学出身者である弁護士は無数にいるのだが、裁判官任用試験は普通の公務員試験よりずっと難しそうだ。
公務員の中でも無数の法律と判例を頭に叩き込む職業的知識と倫理を一番要求される職種であり、その職務行使を保証するために最も強力な身分保障が与えられ、汚職防止のためだろうか、給料も良い。
判事をやめさせることができるのは、現行犯のような犯罪の場合を除けば、同じ判事から構成される司法評議会の審査だけだったと思う。
ブラジルならではだが、判決の逆恨みから自衛しろと言うのだろうか、使うか使わないかはともかく武器の携帯まで認められている。
司法府の最高位は連邦最高裁判所長官である。
最高裁判所長官 Cármen Lúcia

職業上の法律判断の厳しさは当然良いこととして、対外的には慎重で誠実そうな印象を与える判事という職業であるが、仲間意識は相当強烈である。
かなり前になるが、パラナ州のある新聞が判事の高給を批判して記事にしたことがあったが、州内の判事が次々に新聞や記者を名誉毀損か何かで訴える嫌がらせに出て、記者はあちこちの町の裁判所に出廷させられて仕事にならなかった、という判事の復讐の話を聞いたことがある。

判事とはそんな人種であるから、社会保障改革で公務員の特権に手を付けるようなことになると、一番反抗しそうな厄介な存在になると思う。
法律を盾に取ることが得意技であるから、既得権利の剥奪など至難の業だ。
法律を改正する権限は立法府だが、合憲性裁判によって無効にされる恐れもある。
そこで憲法改正であるが、議会の三分の二の賛成が必要である。
議会がまとまらなければできない。
だからこの特権階級に正面から闘っていける存在として、議会をまとめることができたならという条件は付くが、司法に恨みつらみのあるルラ元大統領がもってこいである。

労働者党は、ルラが超カリスマを持っている分、大統領候補になりうる他の人材が見当たらない。
ジルマ前大統領も悪くはなかったけれど、党内掌握は今ひとつだったし、現党首のGleisi Hoffmann上院議員は容姿はいいのだけど頼りなさげな上に、この人も起訴された被告である。
エースに頼って優勝したが、若手育成を怠って沈んでいくチームのようだ。
労働者党の候補者不在は、右派中道で候補者がひしめく状態と全く対照的である。
現実に労働者党は、ルラが立候補できないときのBプランを、少なくとも表向きに示さず、格子の向こうにいて家族と弁護士としか面会が許されないルラをなんとしても候補者に担ぎたい。

先週の土曜日に連邦警察に収監されるため赴く前に、自分の原点の場所サンパウロ大都市圏ABC金属労組本部で行った最後の演説は、「昔の労組リーダーだった頃のルラ」を彷彿とさせるようで、かなり強い口調で自分を起訴した検察や自分を有罪にして人身保護も認めなかった裁判所を非難した。
40分位あったという演説を全部聞いたわけではないが、印象に残る格好良い言葉を発した。
「私は今生身の人間ではなく、イデアである」。

というわけで、ルラが立候補できて社会保障改革で公務員勢力と戦わねばならないと観念したら、非常に面白い展開になると期待している。
でも、やはりその不都合な未来を予見した判事たちは何としてもルラを牢屋に留めておいて、被選挙権を断固として認めない手に出るんだろうなと予想する。

2018年4月13日

名大統領になりそこねた囚人

ブラジル大統領の系譜を現在のTemerテメル大統領から三代遡ると、34代Fernando Henrique Cardoso、通称FHC [1995-2002 2期8年]、35代がLuiz Inácio Lula da Silva、通称ルラ[2003-2010 2期8年]、そして36代Dilma Rousseff、通称ジルマ[2011-2016年8月 1期と20か月]である。

この3代の大統領を比較すると、いつも感じることだった。

FHCが宴の準備を整えて、
ルラが宴会を楽しんで、
ジルマが片付けをさせられる。

経済政策も労働党の統制も手に余る苦境だったと思うが、良い政策もあった、気の毒なジルマさん。

FHCの功績はそれまでの何代もの大統領がなし得なかった、インフレ撲滅という大仕事を成し遂げたことである。
経済が安定したから、資産防衛や財テクではなく本業に専念できるようになって、各産業の本当の繁栄を期待できるようになった。
税収が上がって政策の選択肢が増える。

ルラが大統領に就任したときは、このように経済の基盤は前任者がきちんと整備しておいてくれて、その果実を味わうだけでよかった。
市中金利こそ高かったもののインフレも落ち着いて、国自体の信用が高まると外国からの投資は増大して、中国は鉱物資源や農産物を主とするブラジルの輸出を牽引してくれて、国内の企業は潤って労働者の給料も上がって、景気が極めて良かった。
社会保障会計の急激な悪化の問題はまだ顕在化する直前であった。

経済の内外状況が良かったから、財源を心配すること無く、悪く言えばバラマキ、よく評価すると所得再分配政策を行ったので、特にそれを受け取る民衆での大統領人気は高かったし、現在も高い。

外交にも困難な問題はなく、ルラ大統領がG20のような会議で外遊に出ると、支持率の高さをオバマ大統領はじめ他国の大統領や首相から羨ましがられる、彼にとっては楽しい訪問であったことだろう。
国内外に問題を抱えていたのだったら、記者会見で突っ込まれたときの言い訳をいつも考え続けなければならない苦しい旅行で、息抜きなどできなかっただろう。

ルラが大統領になったらどんなに社会が変動するのかと懐疑の目でみていた中流階級も、好調な経済を目にして、ルラも心配するどころでなくなかなか良くやるじゃないか、と考えを変えた。
もっとも、経済がうまく回っているときは、財務大臣が誰でどんな政策をとっても、文句を言う社会層はごく少なく、誰が大統領をやっても、楽な政権運営だった。

その上に、これまで反政府運動に精を出してきた労働組合や土地なし・家なし運動のような農地・社会改革推進勢力は味方であるから、仕事は楽をしながら、高い人気を保つことが可能だったこの時代に大統領を奉職できたルラは、条件に恵まれた幸せな大統領であった。

だからこそ問うのだが、何をやるにも抵抗が少ない頂点の時期に、将来起きうる問題の解決に手を付けなかったのだろうか。
社会保障改革、政治改革、税制改革である。

ブラジルも世界の趨勢に遅れず、少子化と人口の老年化が進んできて、ブラジル人の寿命が今よりずっと短かった時代の古い年金制度を続ける限り、破綻は時間の問題である。
日本も官尊民卑のようであるが、ブラジルは特に公務員と私企業や自営業のような民間の年金制度の待遇の差が大きく、詳しい数字は上げないが民間と比べて少数の公務員年金会計はその構成員数に比較して相対的な赤字が莫大である。

人気のない社会保障改革を行うためには、まず民間と比較して公務員の年金制度が持つ特権を全部なくして金食い体質を正して、公共と民間の差を完全に埋めてから初めて民間に手を付けるようにして、社会の不公平をなくすことから手をつけたいと、道筋を国民に説明して理解してもらうようにすれば、当の公務員を除けば民間部門からの抵抗は皆無に近くなるのではないか。
ブラジルの雇用全体に占める公務員の割合は12.1%で、OECD平均の21.3%よりかなり低い(2013年)。
民間が結束すれば公務員のわがままは押さえられそうだと思うのだが、そうもいかないようだ。

どの国でもたいてい公務員の労働組合は団結力が強い。
ルラの支持基盤の柱の労働組合の中でも、公務員の労働組合は勢力を占める。
政府の手足である公務員を敵に回したら行政の何もかもが回らなくなる。
だからルラにとって、公務員労働組合を労働組合連合体から切り離して、労組の世界内部で対立を煽るような政策にはとても踏み込めず、将来を見据えたブラジルを救う大改革に踏み込む先見と決意がみられなかった。

一見、右派は資本家とズブズブだから金にまみれて汚く、左派は労働者の清い力に支えられるからクリーンだと前世紀に引きずられたイメージがあるのだが、そうでないことは労働党政府を見れば一目瞭然で、結局労働党もこれまでの政府と同様に賄賂献金大歓迎であった。
当選したらまずするのは相も変わらず同じこと。

ブラジルで「右派は右手で盗む、左派は左手で盗む、中道は両手で盗む」と言われている戯れ言は本当であることを証明してくれた労働党政権であった。

2018年4月12日

赤信号皆で渡れば青信号

これまで何十人も企業の責任者と政治家が起訴されたり有罪判決を受けたりしているのだが、企業家は司法取引で贈賄の罪を認めても、収賄の罪を認める政治家は一人もいない。

なぜブラジルの政治家は潔くないのか?
国民性とか政治家の資質とかの主観的な見方から離れて説明を試みる。

贈賄側と収賄側の非対称性がある。
贈賄する側は明言、暗示の違いはあるかもしれないが、政府資金入手や優遇税制や入札指名や許認可などの政治的便宜を求めて、政治献金をする。
何らかの見返りを求めて、意図と作為がはっきりしているから、言い逃れしにくい。

一方収賄側は、選挙のために献金を受け入れていると言う建前を貫けば十分で、献金を受け取っても便宜を図ったわけでないから全く悪くないと言い張ることが可能だ。

政治献金は選挙裁判所(選挙管理委員会に相当)に届けて政治資金の会計に異常がないと承認されれば合法である。
この「選挙裁判所に届け出て承認された」というのをどの政党も政治家も錦の御旗として、「わが党が受け取ったすべての献金は選挙裁判所によって承認されている」点を強調して、「司法取引を受け入れた贈賄者の自供は罰を軽減して欲しさの作り話」、とか「政敵による汚い政治的迫害の捏造」とか言い張る根拠としている。
金を受け取ったのは確かだが、ちゃんと申告して承認されているではないか、という言い分である。

要するに受け取った金は、自分個人が私腹を肥やすためでなくて、自分の所属政党がブラジルを良くするためには選挙に勝たなければ、そのための清い資金だ、と考える。

資金集めにはいろいろな苦労はつきものだから、頑張ってこれだけの金を一人で手に入れた自分は1割(2割、3割かもしれないが)ぐらいの褒美をもらえる価値は、党も認めてくれるだろう。
どの政党もどの候補者も皆やっていることでないか。
これは赤信号ではないぞ、皆やっていることだから青信号と一緒だぞ。

確かに出処の不審な金も一旦洗浄されれば、危ないとか安全とか色はついていないから、自分や家族の贅沢に使ってしまっても、選挙資金になったとしても、入っている財布が同じだったら区別するのは難しい。

名義を借りてペーパーカンパニーを作って、その会社に選挙マーケティングやコンサルタントや法律顧問をやってもらう形にすれば金の行く先も怪しまれない。

献金された選挙運動資金のうまみは実際のところ、仮に百万の献金を受け取ったら、90万は選挙運動に使うが、10万は自分の懐に入れてしまっても外部からは追跡できない、という点であると思う。
莫大な金額が献金されるから、一部をくすねるだけでも全く苦労せずに大層な金額を手にすることができる。

しかしさすがに資金が国境を超えてタックスヘイブンの口座にあるのはまずいのではないか。
不審な国外口座からのブラジル国庫への資金返還repatriaçãoのニュースはかなり多い。

選挙に金がかかる、これは事実である。
政党の右も左も区別ない。
だから政敵が起訴され有罪になったといっても、うかつに喜んでばかりはいられない。
都合のいいところで自分の足元に火が回らないうちに、捜査の対象を広げるのは止めにして、このあたりで幕を引いてもらいたいと、どの政党も考えることであろう。

大して重大な責任問題もないのに立法府によって罷免された、ルラ元大統領の秘蔵っ子、不運が重なった前ジルマ大統領の副大統領で、昇格して大統領になったテメル現大統領の立場がまさにその通りだろう。
労働者党シンパがクーデターで政権をとったと誹謗する事件であった。
実際にテメル大統領のMDB(ついこの前までPMDB)は昨年中頃定年になるRodrigo Janot検事総長の後任にRaquel Dodge氏を指名して、その恩で捜査の手を緩めさせようとしたと思われるのだが、ラケル検事総長は予想外に職務に頑張っていて、テメル大統領の友人たちを捜査しているので、MDBは苦り切っていることと思う。

だからどの政党が政権を取ることになっても自分たちの懐具合に直接影響することだから、本当は誰も本気で取り組みたくない。
現在の政治献金の制度が続いていくのなら、贈賄側ばかり有罪になるのに収賄側が逃げ切れるという事態は全く改善されない。

どうすれば断ち切れるか、素人なりに考える。
  • 選挙運動をテレビ・ラジオの選挙公報プログラムだけに限り、公費で賄う。
  • 選挙運動で金がかかる行為を禁止する。
  • 政治献金を禁止して選挙運動費を全部政府が政党に交付してそれだけで賄う。
    この考え方は政治改革案で選挙基金として提案されている。
  • 政治献金を禁止したくないのなら、企業や個人の献金を一つの基金に集中して行い、それから各政党に分配する。
  • これまでのような政党や候補者に宛てた政治献金を続けたいのなら、政党や候補者の特別なガラス張りの口座を立法制度化する。

誰が改革を行うのか?
行政府でも司法府でもなく、当然立法府である。
現在の「赤信号皆で渡れば青信号」をどの政党も続けたいと思っているのならいつまで経っても実現しない。

今年の10月は選挙であるが、牢屋に入ったルラ元大統領が投票意向調査で1位になるようなので、獄中から立候補できるのか、そうしたら中道右派は統一候補を出せるか、あるいは二次(決戦)投票で団結できるか、現政権の思惑通りに獄中で潰されるか、これからどうなっていくかが見ものである。

2018年4月10日

脆弱な「二審有罪確定で収監」判決

連邦最高裁判所が、二審有罪確定の段階で懲罰に服すべき司法判断をしたのはもちろんこれが初めてではなく、既に判例が出ているので、司法はそれに従って多くの政治家を収監してきた。
その判例は2016年の連邦最高裁大法廷の判断であり、その前の判断は2009年に遡るが、反対の判決が出ている。

面倒なので裏をとる確認はしないが、2009年の判断は、全ての上訴の道が尽くされてもうこれ以上裁判で争うことのできない、つまり本当の最終審で確定判決が出るまでは被告の罰の執行はできないと結論していた。

多分世界の大部分の国の司法制度には「推定無罪」「疑わしきは罰せず」の原則があって、有罪が確定されるまでは罰に服することはないのであるが、もちろんブラジル憲法もこの、"Presunção da inocência"の条文を持っていて、この原則を尊重した判決であった。

連邦最高裁判所大法廷は2016年に、今回のルラ元大統領の人身保護請求の拒否に根拠を与えることになった、「被告が二審で有罪の確定判決(それでは確定判決ではないという議論は置いといて)が出た時点で罰の執行を行なう」という規範を示した。
2016年の判決を行った連邦最高裁の11人の判事の票決は、全く同じ6対5であった。
詳しく触れないが11人の判事の顔ぶれは一部異なっているが、大部分は同じ人である。

これは黒に限りなく近い被告が、財力にまかせて弁護士に高額の報酬を払いながら裁判の引き延ばしと人身保護請求の合わせ技を図って、判決から逃げながら服役をできるだけ将来に延ばして時効到来を狙う行為を是正する意図があったのだろう。

2009年と2016/2018年の二つの異なる判決の根拠は、矛盾を含み相容れないものである。
そのため連邦最高裁の11人の判事の意見は半々に割れて一致を見ることはない。

一方は「推定無罪」「疑わしきは罰せず」の原則である。
「推定無罪」に厳格に従うと、当然最終の確定判決が出ないことには、被告は本当の犯罪人でないのだから留置されることはあっても服役することはないはずだ。
この説に従えば、最高裁では下級裁のどんな誤謬も正されるから、無実の人間の冤罪は起こらないという仮説を信ずることになる。

他方にあるのが、ブラジルに蔓延するimpunidade、つまり本来罰せられるべき犯罪人が裁判ののろさと制度の複雑さを悪用して罰せられずにいる悪弊をなくそうという意図である。
この考え方に沿うと、「推定無罪」原則を逆手に取って逃げる本当の悪人の企みを阻止して、犯罪人の逃げ切りは起きないという仮説に基づくことになる。

これで見るように似たもの二つからどちらを取るかという問題でなく、全く反対の考え方のどちらを選ぶかという問題であって、判決の勢力配分が、判事の票決が全員一致とか、9対1とか(裁判長は同点決戦でない場合には票決に加わらないと思う)で圧倒的であったのなら、後に蒸し返しは起こらないだろうが、直近2回の判決が6対5という僅差なので、近い内に誰かが文句をつけて蒸し返す余地が大きく残っている。

実際に人身保護を連発してどんな被疑者も逃してしまうことで有名なGilmar Mendes最高裁判事は、2016年には二審有罪確定で服役に票を入れたが、2018年には最終確定判決までは服役しない方に寝返っている。
反対に、Carmen Lúcia最高裁判所長官と共に2/11を占める女性判事であるRosa Weber最高裁判事は、「本心は推定無罪の原則に従いたいが、たった2年前の判断をコロコロ変えるようだと最高裁の見識が疑われて司法の信頼性(segurança judiciária)が損なわれるから、後者を尊重したい」と、2016年とは票を変えたので、Gilmar判事と入れ替わって結局投票は2018年と2016年を比較してプラマイゼロ、同じ6対5となったのである。

この非常に根拠の弱い二審有罪確定で服役という規範は、ルラ元大統領弁護団が連邦最高裁の弱点とみなして攻撃してくる可能性が極めて高いと思われて、これからも波乱は絶えないことを予感させている。

2018年4月9日

上がりの遠いブラジルの司法

日曜日の午後、サッカーの州チャンピオンシップ決勝があって花火が上がっていた。
本題と全く関係ないが、2018年ミナス・ジェライス州チャンピオンはアトレチコ・ミネイロを2戦目で逆転したクルゼイロであった。
3日前思いがけない時間に花火が上がったことを思い出す。

2018年4月5日木曜日未明0時30分ころ、突然遠くで花火が上がった。
思い出してテレビをつけてみたら、ブラジルのルラ元大統領が「二審で有罪確定判決が出ても最終審で確定判決が出るまで逮捕されないよう」連邦最高裁判所に請求した人身保護請求について大法廷での審判が決着したのだ。

連邦最高裁判所大法廷は御老体の判事達には堪えるだろう、延々と11時間(もちろん何回か休憩はあったが)審理されて、といっても各判事は既に意見を固めていたようであるから各自の論旨を主張して、5対5だった票決は裁判長の決定票によって6対5でルラ元大統領の人身保護請求を認めなかった。
数的には危ない票決だった。

同日木曜日夕方、逮捕命令を出す担当である一審のSérgio Moro判事が早速逮捕命令を出した。
元大統領は「名誉ある役職にあった」ので、連邦警察に「自発的出頭」をするように24時間の猶予を与えた。
自発的出頭期限の金曜日夕方になっても、元大統領は現れなかった。
自分の古巣、サンパウロ大都市圏のABC地区金属労働者労働組合に籠城したとか報道したメディアもあった。
連邦警察と「出頭の方法について交渉中」とメディアは伝えた。

翌土曜日19時ころには、娑婆の最後の演説を終えた元大統領をのせた車が連邦警察に向かっている映像をテレビ中継していた。
時間の遅れはあったにせよ、元大統領は自発的に連邦警察に赴いた。

気になった点を忘れないように書き留めておく。

上がりの遠いブラジルの司法

誰かが逮捕されそうになると、特にそれが権力や金を持った人である場合に、"habeas corpus"というものが請求される。
普通ポルトガル語風にh無音のローマ字読みして、アベアス・コルプスと言われて、「人身保護令状」と訳されている。
HCと略されたりもする。
不当逮捕に対抗する正当な手段である。

これだけなら別に問題はなさそうであるが、そうではない事情がある。

貧乏人相手の仕事は門前払い、金を積まなければ仕事をしないような、いわゆる有能な弁護士が、依頼人が罪を犯したことがほぼ濃厚であっても、「依頼人の身体に危険が及びそう」とか、「依頼人は社会に害を与えないから逮捕に及ばない」とか、理由をつけて被告を逮捕させないために持ち出す武器である。

裁判所の系統が大きく分けて、司法裁判所と連邦裁判所と分かれていて、それぞれが三審となっている上に、両方が場合によって交差することがあって、「裁判を遅らせるのが得意な」弁護士にかかると訴訟は縦線で上がったり下がったり横線で隣のラインに移ったり、変幻自在である。
その他に、多分ブラジル特有の労働裁判所とか選挙裁判所(選挙管理委員会の役割)という別系統があって、これはこれで摩訶不思議な世界であるが、ここでは触れない。

上訴だけではなく、同じ段階の裁判所の判決に異議申し立てをすることが可能で、異議申し立てを意味する司法用語を見ると、異議申し立てにも種類があっていくつもの用語があるようなのだが、こんなことは我々一般の市民には複雑過ぎて理解できない。
ニュースを見ていたら、その一つである、embargo de embargos、異議申し立ての異議申し立て、名前からおかしいのであるが、これが制度上何回もできるようなのだ。
通常は理由をつけて3回位までだと言っていたが、それぞれに数ヶ月から数年かかったら、いつ終わるのか見当がつかなくなる。
次の一手が一つだけでなく、裁判の道筋の可能性が無数にあるようで、見通しがきかないのである。

見方を変えると「疑わしきは罰せず」精神を実践して、慎重な審理を行っていると言えるのだろうが、この複雑な上訴・異議申し立て制度を人身保護請求と組み合わせると、あら不思議、裁判で何年も争っている間全く収監されずに、自宅で寝起きできる。
一つの例としてあげられたのは、裕福な農場主に殺人容疑が掛けられたが、この裁判引き延ばしと人身保護請求の二本立てで、一度も(と肯定はできないが、少なくとも長期間)牢屋に入ること無く、時効が来て無罪になってしまった。

このような馬鹿げた恥ずべき「犯罪が罰せられない(impune)ブラジル」という事態を許さないために、事実審理が終わる二審まで審理が尽くされたら服役してもよいのではないか、という判例の規範が2016年に連邦最高裁判所によって出された。

実際にルラ元大統領の収賄容疑は連邦裁判所で審理されていて、現在二審である連邦地方裁判所の3人の判事の合議判決は全員一致で、一審の連邦判事一人の判決(禁錮9年6か月)より重罪とした(12年1か月)。
ルラ元大統領の弁護団は人身保護請求を別系統の司法裁判所に請求して棄却されたために、連邦最高裁判所つまり最終審に改めて人身保護請求を行ったのだが、同様に否決されたわけである。
しかし裁判の最終的な行方はわからず、選挙裁判所がルラ元大統領の被選挙権を確認したら、獄中の立候補者という想像し難い大統領候補が生まれる可能性も否定できないのである。

結局、金持ちと貧乏人は「法のもとで平等」ではないと誰もが感じている。

2018年3月30日

サンパウロ国際空港アクセス鉄道開通

大都市の空港と都心が必ずしも鉄道で結ばれているわけでないのは、特にブラジルではかなり当然の事実である。

行政区域ではサンパウロの隣にあたるグアルーリョス市にある、サンパウロのグアルーリョス国際空港(空港コードGRU)は、2018年3月末日から鉄道線の運用が始まる。
といっても最初は運転時間の限られた試運転である。
無料である試運転の乗車はできる。

概要

線名はサンパウロ大都市圏鉄道会社(CPTM)の13号翡翠(ひすい-Jade)線
全長12.2km
3駅
  1. Aeroporto-Guarulhos駅=空港駅
    歩行者通路を渡ってから、3つあるターミナル間を連絡する無料バスに乗り換えと書いてあるのだが、どれだけ歩かされるのかは不明である。
    駅にカートが置いてあるのかも不明。
  2. Guarulhos-Cecap駅
  3. Engenheiro Goulart駅
    CPTM 12号サファイア(Safira)線に接続。

2018年4月

上記3駅区間を運行。
土曜・日曜10時から15時まで30分毎、所要時間15分、無料。
都心からEngenheiro Goulart駅までは4レアル。

2018年5月

上記3駅区間を運行。
全日10時から15時まで、無料。

2018年6月

全日4時から24時まで。
Connect(なぜ英語なのか?外国人を意識しているのだろう)運用開始
12号線ブラス(Brás)駅から空港駅まで直通各駅停車35分、4レアル。
路線図をみると、12号線はブラス駅の他に、タトゥアペ(Tatuapé)駅でメトロ3号赤線に乗り換えできるようである。
どこで乗り換えたら乗り換え時間が短いとかの詳しい情報は、そのうちにサンパウロ住民が知らせてくれるだろう。
CPTM 13号線が他の路線と一緒の料金体系なら、都心まで4レアル一貫で行けるはずであるが不明。

2018年7月

全日4時から24時まで。
Airport-Express(これまた英語)運用開始
ルス(Luz)駅から空港駅まで直通35分、たぶん15分毎、4レアルより高いだろうが運賃未定。
ルス駅ではCPTM 7号ルビー(Rubi)線、CPTM 11号珊瑚(Coral)線、メトロ1号青線、メトロ4号黄線に乗り換えできる。

昨日までの都心から空港まで最安運賃と比較してみる。

これまで

セー駅-タトゥアペ駅 メトロ3号赤線 R$ 4.00
タトゥアペ駅バスターミナル-空港前 EMTUバス257番 R$ 6.15
合計 R$ 10.15

これから

13号線がCPTMの他の路線と同じ料金体系と仮定して、メトロとCPTMの無料乗り換えを使えば、1回料金でよいはずである。
セー駅-ブラス駅 メトロ3号赤線 無料乗り換え
ブラス駅-空港駅 CPTM 12・13号線(直通・乗り換え)
合計 R$ 4.00

2000年の最初の公約では2005年開通予定だったものが無理で、2007年の州新政府は2010年までできると約束した。
2009年になると、2010年では無理だ、2014年のワールドカップまでには間に合わせると言い換えた。
民間部門が引き受けたがらずに公約は霧散した。
2015年州政府は2017年末までという目標を出していたが、2017年9月になって完成予定を2018年3月に延ばされたものが、最終日に滑り込んだ格好である。

Trem que leva ao Aeroporto de Guarulhos começa a circular neste sábado
を全面的に参考にした。
記事に写真と路線図がある。

2018年3月3日

リオ宛小包に暴力割増料金

2018/03/02に1レアル=約33円

現代ポルトガル語辞典(白水社)から:
a intervenção 連邦政府の州政への干渉
o interventor [非常事態に大統領が州に派遣する]執政官、臨時行政官

1年半前の2016年8月に、美しい、魅惑の、すばらしいその他ありとあらゆる形容詞で賞賛される、この有名な観光地でオリンピックが開かれたことが、奇跡としか思えない。

先月(2月)カーニバルが暴力にまみれて終わった直後に、リオデジャネイロの治安が急激に悪化したことを理由に、連邦政府がリオデジャネイロ州政府の治安に介入を決定した。

"O interventor federal na segurança do Rio, general Walter Souza Braga Netto"
新聞の記事に書かれるように、連邦政府が州政に介入するのは保安部門だけであるが、執政官の肩書名称からわかるように、ブラジル陸軍東部方面司令官を兼任する将官であり、インタビューには迷彩服で出てくるから異様ではある。

この介入決定は戒厳令などには至らないがその一歩手前であって、これが発効している間は、改憲は不可能であると憲法に定められる。
そこで4年に1度の大統領・上下院議員・州知事・州議員の選挙が今年後半と近づいてきて、改憲を必要とする不人気な社会保障改革を無理と見た連邦政府が、断念する言い訳にリオの治安悪化を、人気回復を兼ねて一石二鳥を見込んで当てつけたもので、十分に政治目的と言えるのだが、ここでは問題にしないでおこう。

表題の話である。
2018年3月からブラジル郵便(Correios)は、リオデジャネイロ市をあて先とする小包に3レアルの特別割増料金をかけることにした。
理由として小包、郵便配達人、配達車それから郵便局自体を強盗や略奪から守るコストが大きいという。
今までも危険地区に住んでいると、配達人の身の危険から郵便物を配達してくれず遠くの局留めになっているが、これからはカリオカ(リオ住人)にとっては、インターネットでの買い物が高くなって余計に不便になる。
しかしリオデジャネイロ市の治安が改善したら、この「暴力非常割増料金」は廃止されるだろうと郵便局はこのページで説明している。
郵便局自体は、「暴力非常割増料金」とは言わないで、「非常時の取立て」という表現を使っている。

昨日のニュースで、リオで一か所での歴代最大?のコカイン発見が報道された。
重量は1.2トンという報道もあるが1.5トンで、いくつもの旅行バッグに入れられてコンテナ内の建材の奥に隠されていた。
真空パックされていて、二重包装の間には正確にどれか忘れたけれどオレガノのような香辛料を入れて、麻薬探知犬の嗅覚をごまかそうとしていた。
コカインのルートは、生産地コロンビアやボリビアから、長大な国境を越えてブラジルに陸路で入り、リオデジャネイロまで運ばれてからは海路か空路で欧州に運ばれるのだという。
くだんのコカイン入りコンテナはベルギー・アントワープへ運ばれる予定だった。
この1.5トンのコカインは濃縮されているのだろうか、消費者向け製品にすると10トンになって、2億レアルの価値を持つそうである。

一方でこんなニュースもあった。

路上で検問を行っていたリオデジャネイロ州警察の警官二人が、不審な運転手の不審な車を調べたら現金180万レアルが積まれていた。
不動産を売った代金だと言うのだが、どこのどんな不動産か説明できなかった運転手は、見逃してもらうために80万レアルを差し出したが、二人の警官は贈賄その他の容疑で早速逮捕した。
見逃し料としては桁違いであると思うが、こういう人達がいるからこそブラジルが住むところとして魅力を失わない支えになっているのだろう。

連邦政府のリオデジャネイロ州治安介入は今年いっぱい継続するそうだが、リオ宛て小包の暴力割増料金が廃止されるのはいつのことになるだろうか。

なお日本郵便のページによると国際小包(ブラジル全国が第4地帯)、EMS(ブラジル全国が第3地帯)には、この暴力割増料金の適用はない。

2018年5月5日追加

郵便局のリンクが切れているが、調べてみたら「暴力割増料金」は、実施したその週に裁判所が差し止めて、結局今は実施されていない。

以下の数字を実際生活の中で参考にすることはまずないと思うし、あったら人生終了に向けてまっしぐらだろうが、単なる参考として計算してみた。

上の記事では、1.5トンがヨーロッパで小売製品化すると10トンにまでなって、それが2億レアルとなっているから、1レアル=30円として計算すると60億円、つまり1グラムは20レアルで600円である。

別の記事のうろ覚えで数字が合っている確信はないが、別地域のデータがある。
中国で過去最大のコカイン摘発があって、そのときの重量と価格は、1.3トンが170億円となっていたとメモに書いてある。
つまり、1グラムは13,077円である。

欧州と中国のコカインの小売値段に20倍以上もの差がありすぎるのだが、大中継地かつ大消費地であるブラジルの実勢価格は、死を覚悟で持ち込まなければならない中国よりもヨーロッパのものに近いのだろう。

traficanteと呼ばれる密売人に聞けば解決するのだが、知り合いにはいないし、密売組織と警察両方から潜在的使用者とみなされても困るので止めておく。


2018年2月2日

黄熱ワクチン、日伯91倍価格疑惑

以前このブログで、日本とブラジルではどうして黄熱ワクチンの価格に大差があるのか疑問をあげた。
東京検疫所によると黄熱ワクチン接種は国際接種証明書発行込みで11,180円、一方ブラジルでは公的機関で行えば全て無料である。
そのため日本とブラジルでは同じ黄熱ワクチンと言っても品質や効果が異なるのではないかと疑ったりした。
その疑問に少し答えてくれる情報を見つけたのでここに書いておこう。

安いため黄熱ワクチンの在庫はぎりぎり
Barata, vacina de febre amarela tem estoques no limite


昨今の人気商品、品薄商品と言っても良いかもしれない。
黄熱ワクチンである。

しかしこの生産は儲かる事業ではない。
主な需要地は、あまり金がありそうもないアフリカと南アメリカの国々であり、最終製品価格は低価格である。
金のある先進国では、黄熱の危険国へ旅行する人しかこのワクチンを必要とせず、数量が捌けない。
一方生産には、近代的施設と複雑な過程を必要とする、つまりたやすくできる活動ではない。

そのような理由で、世界保健機関(WHO)が認証するワクチン生産者は、全世界で4つしかない。

最大のものがリオデジャネイロにあり、1937年から活動している。
今年の予定生産量は4830万人分であり、単価はR$3.50、3レアル50センターボである。

その他の3つの生産者とは、フランスのSanofi Pasteur、セネガルのInstitut Pasteur、ロシアのChumakov連邦センターである。

生産技術というか原理は新しくない。
1930年に完成して、1951年南アフリカのMax Theiler氏にノーベル賞をもたらした。

原材料は鶏卵であるが、そのあたりのスーパーでパック入り卵を買ってきてもだめのようだ。
黄熱ウィルスだけを増殖させてその他の微生物が混じってはならないから、最高の衛生状態の養鶏場で、無菌状態を保つよう念入りに生産された卵が使用される。
そして1個の鶏卵から200人分の黄熱ワクチンが作られる。

ワクチン製造の簡単なプロセスは理解できた。
そしてブラジルは無料だから、有効期限が切れそうになったり効果が弱くなったような二級品ワクチンを使わされている疑惑も解けて、逆にブラジルでは世界で一番流通量の多い銘柄のワクチンを使っていることに安心した。

価格差であるが、ブラジルでは無料で黄熱の予防注射を受けることができるけれど、ゼロは何倍してもゼロだから比較にならない。
だから記事にあったブラジルのワクチン原価を持ってくる。
ブラジルでR$3.50といったら、1レアル35円として123円となるが、どうやって日本で11,180円と、倍率を計算すると91倍の価格になるのだろうか。

死んだら損だから、国民は自費で接種しろなどと人任せなことを言っていたら、金のない連中が軒並み黄熱にやられてしまうだろうから、政府の率先で国民に行き渡らせるために、大量にワクチンが必要な黄熱蔓延国では、政策的に安く入手する必要がある。
多分、多大な需要がそれを可能にするだろう。

反対に、海外旅行者のごく一部にしか需要のない先進国では受益者負担の考え方で、先進国特別小口割増しワクチン価格の上に、さらに検疫所の人件費や維持費などをごっそりのせて、ついでに高率の税金をかけると、これだけの価格差になるのだろうと勝手に推測するしかない。

2018年1月31日

黄熱が町に到来

州保健局によると、昨年2017年11月から2018年1月までの3ヶ月間、ミナス・ジェライス州で黄熱のため36人が死亡した。
罹患者の死亡率は40%を超える。
そしてその全員が黄熱予防接種を受けていなかった。

患者は州都ベロ・オリゾンテ大都市圏に集中しているが、州西方のトリアングロ・ミネイロ地方に位置するわが町の都心部近辺で、2ヶ月前に発見された野生の猿の死体を検査した結果、黄熱によるものであったことが昨日発表された。
町の人口の90%が予防接種済みだと言うので、10%にあたる約6万人は未接種である。
ブラジル保健省は、人口の95%が接種済みとなることを目標としている。

市衛生当局は、黄熱にかかった野生猿の死体が見つかったといっても、人への感染は起きておらずむやみに心配することはないと、パニック状態になることを戒める。
しかし市衛生当局は、予防接種方針を変更して、9歳以上60歳までの未接種者に全て接種を促している。
これまで60歳以上の人には、医者にかかって接種可能診断書を提出するよう要求してきたが、これに代わり当日接種所での問診だけに簡略化して、この年齢帯の未接種者にも接種を勧めている。
市内70か所の接種所に加えて、人が集中するバスターミナルと公園の2か所で臨時接種所を設けて対策にあたる。

デング熱・チクングニア熱・ジカ熱・黄熱の媒介者ネッタイシマカ対策のため、水たまり撲滅の訪問点検指導は、例年通り行われている。

未接種の6万人が慌てふためき保健所に行列を作る光景は、今のところ見られていない。
犠牲といえば、気の毒な野生の猿2頭が、病気媒介は猿によると勘違いした心無い住民の石つぶてで殺されてしまった。
媒介者は3種類の蚊である。

2018年1月21日

一度の予防接種で一生心配なしの黄熱

Brazil yellow fever: WHO warns travellers to Sao Paulo
17 January 2018

Updates on yellow fever vaccination recommendations for international travelers related to the current situation in Brazil
Information for international travellers
16 January 2018

カーニバルも近づいてきて、サンパウロやリオを旅行する予定の人もいると思うが、上のBBCの記事及び世界保健機関の発表では、新たにサンパウロ全州に対して、外国の旅行者は黄熱の予防接種をすませておくことを推奨している。

WHOサイトによると2017/07/01から2018/01/08の期間で、黄熱で死亡した野生猿が確認された州は、マット・グロッソ・ド・スル、ミナス・ジェライス、リオ・デ・ジャネイロ、サン・パウロで、さらに17州で死亡猿の病原確認作業中である。
同期間で確認済みの黄熱患者数と死亡者数は、ミナス・ジェライス(1-1)、リオ・デ・ジャネイロ(1-0)、サン・パウロ(8-2)、連邦区(1-1)、合計(11-4)である。
現在1月20日にはもっと増えている。

最も有効な対策は予防接種であるのだが、黄熱の予防接種は接種後10日経たないと有効にならず、それ以前の期間は証明書で有効とされないことに注意してもらいたい。

サンパウロ州知事は「サンパウロ州全体を汚染地域として一括りにするのは大げさ過ぎる」と文句を言っていた。
確かに、黄熱が発生しているのは農村森林地帯だけで、そこに実際に行ったり住んでいる者しか感染発病していない。
感染者-ネッタイシマカ-未感染者、という感染経路を持つ都市型黄熱は、1940年代からブラジルで確認されていない。

しかし、外国人にしてみれば、サンパウロ州内のどこが危険でどこが安全かなど説明されても、地理がわからないのは当然である。
そのためにWHOは、サンパウロ州全体を危険地域として注意を促している。
ブラジル政府は国内向けに、サンパウロ州内を細分した地図を作成して、それを使って防疫施策を進めている。

州知事によるといささか大げさと評価されるWHOの発表は、実際に実害をサンパウロ市周辺の住民に及ぼしている。
ブラジル全国の保健所では無料で黄熱の予防注射を接種してくれるのだが、サンパウロ市内では行列待ちが数時間に達しているので、それを嫌う非危険地域の住民が、重点的に住民に予防接種を行っている危険地域までわざわざ出かけていって、本当に注射が必要な現地住民に行き渡りにくいという問題を引き起こしているため、政府は危険地帯に行くなと、広報に躍起である。

本ブログ内黄熱が吠えるで見るように、黄熱の予防接種は通常の服用量ならば99%の確率で一生有効である。
しかし非常事態であるので、サンパウロ州の54都市では、今月末からフラシオナダ(dose fracionada)といって、通常の五分の一量の接種を開始する。

多分現地で勝手に服用量を増加する行為を防止するためと、注射の作業を迅速に進めるためだろう、わざわざ0.1mlしか液が入らず、押し込むとピストンがロックされて二度と使えないという特殊な細い注射器をドイツから二百万レアルかけて緊急輸入して対処にあたっている。
通常の五分の一服用であるが、効果は一生有効であるとの保証はされず、8年としている。
そして、重要なことだが、ブラジル在住の者が黄熱予防接種証明書を必須とする国へ旅行する場合には、フラシオナダではだめで、全量接種でなければ証明書が出せないので、フラシオナダ接種地域・時期であっても接種間2ヶ月の禁止期間を考慮して最初から特別に申し出て全量接種を受ける必要がある。

ついでに国立保健監視庁(ANVISA)で調べた、ブラジルでの
黄熱予防接種から証明書(Certificado Internacional de Vacinação ou Profilaxia)発行までの手続き
を書いておこう。
無料である(公的保健所での接種は無料であり、少なくともANVISAのサイトには証明書発行手数料についての記述はない)。

  1. 国内用予防注射カードと念のために身分証明書を持参して、公的な保健所で黄熱予防接種を受けてカードに記載してもらう。カードを持っていない場合にはその場で作成してもらえる。フラシオナダ地域・時期だったら外国へ行くから全量接種が必要であることを説明する。
  2. このページで仮登録を行なう。予約が必要な場所だったら同時に行う。
  3. 本人がこのリストにある証明書発行所へ出頭する必要がある。
  4. 上記国内予防注射カードと写真入り身分証明書を提示して証明書を発行してもらう。

このリストで私立(Privado)と書かれている接種所は、そこで接種した場合のみに証明書を発行してもらえる。私費接種はR$150くらいするらしい。

2月17日までにサンパウロ州全体で650万人、そのうちサンパウロ市は250万人に接種する必要があるから、なかなか大変だと思う。

2018年1月20日

コパカバーナのてんかんドライバー

(a) epilepsia 〔医学〕てんかん
epiléptico, ca 形 てんかん〔性〕の 名 てんかん患者

(a) convulsão ①痙攣、引きつけ②変動、激動、混乱

リオデジャネイロで一番有名な海岸はコパカバーナ、またはイパネマだろう。
2018年1月18日木曜日、夏時間宵の口、観光客や市民であふれるコパカバーナ海岸沿いのアトランチカ大通りを走っていた乗用車が、突然歩道に乗り上げ歩行者を巻き添えにしながら砂浜に入って、客で賑わう露店バーのすぐ横でようやく止まった。
18人が暴走車の巻き添えになり、ベビーカーに乗っていた8ヶ月の乳児が死亡、外国人ではオーストラリア人観光客が重傷である。

フランスのニースの惨事とは異なり、テロの可能性は元々ない。
しかし、コパカバーナの小惨事では、ドライバーにアルコール反応はなかったが、本人の申告ではてんかんの発作が起きていた。
警察の捜査では、このドライバーにいくつもの問題が指摘されている。

  • 過去5年間に多くの違反(主にスピード違反や信号無視)で62点を累積
  • 免停に達して、当局へ免許証預託の義務があるのに守らず
  • 免許更新時の問診票に、「常用する医薬品」、「高血圧、糖尿病、てんかん、心臓・神経・肺臓病の有無」、「これまでに気を失ったり痙攣したことがあるか」の質問すべてに無しと虚偽記載
  • 特に「常用する医薬品」については一度は書き込んだものの、黒く塗りつぶして訂正した

ときどき日本でも問題になる、てんかん持ちの人は運転できるのかという疑問が、ブラジルでも起きている。

昨日見たニュースでは、医師が診断して、「臨床的にコントロールできて」、最近1年(運転中に)失神したことがなければ、医師の許可のもとで運転免許は交付される、と言っていた。
そして、許可されるのはカテゴリーB(普通車)だけである、つまり、大型車も二輪車も運転免許はおりない。

以下BBC Brasilの記事からである。

最初に断っておくと、このドライバーは「アナキン(Anaquim)」と呼ばれる41歳の男性である。
アナキン・スカイウォーカーではない。
アナキンは名前ではなく、名字である。
スターウォーズ以外で初めて聞いた。

てんかん持ちの人は運転できるのかという問いへの答は、「はい」である。
しかし当然条件がある。

  • 直近1年に痙攣の発作が起きていない
  • 神経科医の診断意見書が、「状況を制御できていて、患者が医薬を規則的に服用すること」を保証している

ということで、ニュースで聞いた条件を裏付けている。

問題は、いくら診断意見書で運転可と判断しても、患者の規則的医薬服用が前提になること、てんかんの30%くらいは医薬でコントロールできない性質であることで、後者の場合は診断書で運転不可とされるべきものである。

人口の1.5%がてんかんの持病を持ち、リオデジャネイロ州だけで25万人がいて、そのうち8万人が耐医薬性であり、運転免許が交付されてはならないグループと考えられている。

問題点を整理しておく。
  • てんかんの診断は難しく、運転可否の診断は不十分になりがちである
  • 問診票はあてにならない

これから免許を取る・更新するものが、問診票に不利な回答を書くことは期待できない。
事故を起こしてしまうまで野放しという状態である。
今後は、問診票に虚偽を記入して事故を起こした者は、即免許取り消しとするような罰則的法律が作られない限り防止できない。
それにしても、本人と周りの人を巻き込む事故を起こすまで免許を持つことを許すのだから、社会に及ぼす潜在的危険が大きい。

日本でもブラジルでも、住んでいる場所によっては公共交通機関が不便・不快で、免許と自動車を所持していないと、特に年寄りや病人のような弱者にとって「生活の質」が悪くなるから、そのような者へ代替案を提案しないで、ただ免許を取らせないだけでは解決しない。