2019年1月31日

ブラジルのダム決壊メカニズム

どうしてダムの決壊が気になるのか。

まず、ブラジルを代表する産業(鉱業)の最大の企業(Vale)が主体の事故であることであり、そのため同様の事故が別の鉱山で起きる可能性がある。
第二に、Vale社内で、加害側(経営)と被害側(従業員)両方に関わっているので、労使問題がどのように解決されるのか。
第三に、汚泥が下流に達するまで何十日もかかる、日本では地形的に考えられない状況の環境汚染が長期間続くと予想される。
第四に、両者とも就任して1ヶ月経たないうちの大災害に、ボルソナロ大統領の連邦政府とゼマ知事のミナス・ジェライス州政府がどのように対応していくかが気になる。
最後に、意識したことはなかったが私自身がかなりダム厨の気質があるようなので、事故の責任問題と関わる土木技術についての情報自体が興味深い。

さて、ダムの設計や施工がいい加減だったという危惧に一部答えてくれる情報があったので載せる。
後から判明した情報によって、先のブログに書いた表現の数値を訂正して再録すると、適当な谷間に16メートルの堰を建設する→鉱滓を貯める→一杯になる→最初の堰の上に16メートルの堰を積み増す、というサイクルを繰り返して、ダムは段々畑のように積層状に高くなって5段80メートルに達するということである。

少しでも土木やダムに興味のある人なら、図を見てもらえば説明は不要だろう。
図は放送局GloboのサイトG1から借用

  1. 上流方向伸張 - 一番安い構造
  2. 下流方向伸張 - 安定性が高い構造
  3. 中心線 - 中間的な構造
「原因はまさかこれではないか?」と危惧した推測がほぼ当たった。
今回決壊したブルマジニョも、2015年のマリアナも、ダムの構造は図1の、伸張する堰が貯蔵されている残渣の上部にかかっていて、川の上流方向へ伸びる、一番古い方式で、安く上がるが安全性に不安の残る構造で作られていた。
安全性が高い図2の下流方向伸張は、図1の上流方向伸張の3倍のコストであると解説された。

つまり、下から2段め以上の段は、貯留されている水分が抜けきらない鉱滓の上に一部が乗っかっているという不安定な構造であったのた。
貯留鉱滓の高さと容量のため圧力が増すと、上部の堰段を支えなければならない、堰の下に当たる部分が液状化して堰が崩壊する、ということだろう。

2019年1月30日になって、ボルソナロ連邦政府はこの古い方式で作られた全国の鉱滓ダムの緊急点検を命じた。
同日Vale社経営陣は、この古い方式で作られた同社所有の10のダムを使用停止(descomissionamento)、つまり多分鉱滓の投入を止め、排水を行って鉱滓を乾かして土に戻してから植林をするという決定を行った。

ダムを設計施工する企業と、監督認可する政府であるが、誰も全く危険性を予知できなかったのか、誰かは危険性を予知していたのか、予知していたのなら何らかの対策が取られたのか、これから解明されることだろう。

時期尚早だが、外れ承知で予想してみる。
産業振興を環境保全に優先する姿勢を見せている、就任1ヶ月未満で事故に見舞われたボルソナロ新政権であるが、まさにその時期ために、野党から環境政策の不在を責められることはなく、逆に過去の政権のせいにすることは、敢えてやろうと思えばできるだろう。
報道の断片から判断すると、産業界に過重な負担をかけないように、不問とはいかないだろうが過去については深く問わず、現在から将来にかけての安全対策に重点を置く処置をとっていくのではないかと思う。

2019年1月30日午後発表で、死者99名、行方不明者259名であった。

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