2019年12月30日

自由裁量田舎バス

前に話題にしたワンダー一杯田舎バスの路線は時々使うのだが、半年くらい前の、ブラジルのこのあたりでは寒い日のできごとを思い出した。

一年で一番寒い日は6月から7月の頃に起きる。
日は短く夜の訪れは早く、寒さのため出歩く人は少ない。
夜7時ターミナル発でやって来た路線バスに7時10分ころ乗ったら、先客は男女二人であった。

ブラジルの市内路線バスは料金均一であることが多いが、前乗りで料金を支払うかICプリペイドカードをタッチして、乗客数を計数するカトラカ catraca、あるいはロレタ roletaと呼ばれるターンスタイル(回転木戸)を回して後ろ側の広い区域へ入るようになっている。

木戸を回して私達が入ったのだが、後ろ側に女性がひとり座って私達を呼ぶ。

「ちょうどよかったあんたたちが乗ってきてくれて。わたしたちすぐ先で降りるから。この運転手新人だから道順教えてあげて」

「教えるってどうするの?」

「私のダンナが前にいるでしょ。運転手に説明しているの」

「なんで乗客が道順教えなければならないの?」

「夜運転するのが初めてで自信がないんだって」

「え、でも俺あの農場地域の土道のところ、夜しか通ったことないから道案内などできないよ。バスが道間違えたら、知らない狭い道で真っ暗な中で方向転換なんて無理だよ」

「行かなくていいから」

「今なんて言った?」

「あの土道には行かなくてもいいそうよ」

「でも路線図を見ると、あそこへ行く決まりだろ?(しかしあの区間で人が乗り降りするのを見たのは、これまでにたった一回だけだし、きっと今夜も誰もいないだろう)」

確かに「ツバメ公園」集落を抜ける前に、道案内夫婦は降りていった。
今度は私達が道案内する番だ。
他に乗客はいないので言った。

「運転手さん、道路がよく見えるように室内灯消していいですよ。安全第一でよろしく」

果たしてバスは方向転換点であるバル「揚げ魚」に着いた。
寒い日でバル「揚げ魚」も、営業しているのかどうかわからないほど閑散としていた。
バスの転回スペースを邪魔する無法駐車もなかった。

「確かこの辺にUターンする所があったよな?」

(全く頼りないな)と思ったが、冷静に教えなければ自分の身が危うくなる。

「右側の大木のところで右側に大回りして、木を一周して方向転換するんだ」

バスはぎくしゃくしながら、慣れている運転手だったら必要のない2回ほどの切り返しをして、もと来た道へ向きを変えた。
普段から往来の少ない道だが、道を塞いだときに対向車がなくてよかった。

舗装された本道と農場地域へ入る土道との分岐がある「肌黒男たちの小屋」のロータリーを回っているとき、運転手にどの方向へ抜けるのか確認のために聞かれた。
確かにこの田舎のロータリーには、行先案内標識など全くない。
それが最後の質問であり、後は道に迷ったり質問されることもなく、バスターミナルに着いた。

運行路線を短縮したのは一体誰の権限なのだろうか。
もしも私達がいなかったら、果たしてこのバスはバル「揚げ魚」まで、いやそのずっと手前の「肌黒男たちの小屋」集落まで行っただろうか。

それとも誰も乗客がいないのを良いことにして、「ツバメ公園」集落で打ち切って、バスを止めて少し時間つぶしをしてから、しらっとした顔でターミナルへ帰ってしまったのではないか。

運転手が勝手に運行路線を短縮してしまったら、多分装備されているタコメーターでバレてしまうはずだが、バス運行本部もグルなのか?
ブラジルの田舎路線バスについての、答えのない疑問はたくさん残っている。

2019年12月15日

環境の決め手は中国とマトリックス

COP25がマドリッドで開催されているが、最終声明に手こずっている。
環境問題であるが、私たちは地球を守る必要などない。
何より地球を守るなどと大それたことなどできないし、地球は人間の営みなどで壊れることはない。
壊されるのは人間、多分その一部と、哀れにも巻き添えを食ういくらかの動植物であって、地球は壊れない。
地球は強靭で崇高なものだ。

火星や金星には、昔は空気や水があったと信じられているが、誰も悪さをしないのに、現在は呼吸できない薄い大気とか、高圧高温の有害な大気という厳しい環境になっている。
火星や金星自体は、多分外観がかなり変わっているかもしれないが、びくともしていない。
地球もそれと同じで、表面で何が起きようとも全く気にしていない。
惑星に意識があったとしての話であるが。

二酸化炭素が増加しているからと言っても、それは大昔に植物やプランクトンであった炭素が、石油や石炭のような炭化水素に形を変えたいわゆる化石燃料が、大気中に放出されているものである。
大昔の地球は、植物がおきなく吸収して繁茂できるほどの二酸化炭素の濃い大気であり、高温多湿であったであろう。
どんどん育ってから次々に倒れて地面に積もり重なり合って、腐った植物が高圧で固体になったものが石炭だと教わった。
海中にはプランクトンも大量に繁殖して、海底に積もったその死骸が地殻変動で地中に取り込まれて高圧・高温の作用で濃縮された炭化水素になったものが原油と理解している。
1億年以上に渡って地中に蓄積された炭化水素が、ここ数百年で全部放出されたらどうなるのか。
  1. 大気中の二酸化炭素濃度が増える
  2. 温室効果で気温と表層海水温が上がる
  3. 極地方の氷が溶けて海面面積が増大する
  4. 海面の蒸発量が増える
  5. 高温多湿のため巨大低気圧が陸地を襲う
  6. 豊富な二酸化炭素、水、高温多湿のため石炭紀のような植物が進化する
  7. 石炭紀の再来
というわけで、地球はちっとも困らない。

もう面倒だから何も環境対策をしないというのはどうだろう。
温暖化などがほら話だったなら万歳、不幸にも災厄が本当に起きたのなら、残念ながら人類社会の弱いところが犠牲になって人口を減らしてもらう。
人口が減って生産活動の規模が小さくなれば、環境への負荷の排出は同様に小さくなって、環境を生命維持が難しい方向へ悪化させてきた要因はなくなる。

でもそれはあまりにも無策と言われそうだから、妄想を働かしてみる。

環境が悪化していく途上で、今はかなりバラバラな科学者の意見が収斂して、全人類の賛同を集結することができて、全世界の国々の指導者が団結することに成功すれば、放っておいたら更に人類生存に不適になる環境悪化をくい止めて、その修復のために人類の全力を傾けるという、感動的な復活のシナリオが描けるだろう。

バラバラな科学者の意見を調節するためには、難しそうだが、世界に唯一の地球気候変動に責任を持つ気候変動定義学会を作って、できるだけ多くの観察・実験結果から計算に使われる多数の係数を世界一意に決定して、唯一の全地球モデルによる気候予測を算出する。
人類活動による二酸化炭素(とその他の温室効果を起こすガス)排出と気候変動の間に因果関係が存在するのならば、異論が出なくなるまで、環境悪化は容赦なく続き、データは蓄積して、因果関係存在説への賛同がどんどん増えるだろう。
検討し尽くされて誰もが納得したこの段階から先、異論やちゃぶ台返しは絶対許してはいけない。

拒否権によって何も決まらないような安全保障理事会など廃して、気候変動定義学会の成果を忠実に実現するため、絶対的な強制力を持つ地球未来総会を創設して、その指揮のもとで各国は温室効果ガス削減を指導・監視される。
そうだ、この期になってまだ権力にしがみついて、生活緊縮から逃げ切ろうとする、年金受給世代の影響力を削ぐために、前回の記事環境は年金と同じ老若対決で書いたように、年金負担世代の投票権を2倍にすることを、地球未来総会は世界中の民主主義国へ強制しなければならない。
絶対君主国や独裁国にはその強権を発揮させて、地球未来総会の決定に国を従わせる。
人類生存の危機だったらできるだろう。

理論的に言えば、国民一人当たりが大量の二酸化炭素を排出している国は、削減すべき量が大きくなるはずである。
ただ、誰でも今優雅な暮らしをしている人は贅沢を失いたくない。

現在ブラジルを含めて開発途上国が持っている不満は、先進国は環境問題などなかった時代に、時には植民地を利用して化石燃料を自由に使って豊かになることができたのに、環境政策の制約のため、途上国に豊かになる権利がないのは不公平であるというものだ。
それだったら、豊かな国、つまり国民一人あたりの温室効果ガス排出量が多い国の必要削減量の一部を、貧しい国に支払うことにすれば良い。
難民を流出させるような途上国は大部分熱帯近くにあって、当然国民一人あたりの温室効果ガス排出量は低いはずであって、温室効果ガス削減量の移転を受け取ることができる。

ただでお金がもらえるのではなく、その代償は、移転された資金を使って、絶対に難民を他国へ流出しないで暮らせるような仕組みを国内に作ることである。
祖国で十分人間的な暮らしを送れるのならば、難民として他国を目指す必要がなく、摩擦を起こす原因となりうる人間の移動を制限できるのなら、制度化された国際的なベーシックインカムであっても構わないと思う。
難民問題はこれで解決。
人類生存の危機だったらできるだろう。

温室効果ガス排出量を的確に捉えることはできるか?
産業場面では当然農業や工業の生産でも、サービス業のサービスでも、経済活動にコスト計算がされているのだから、温室効果ガス排出量はどちらかというと算出しやすい。
世界中の会計士よ、あなた達の出番だ。

問題は個人の活動である。
ブラジルのように貧富の差が世界一、二の不公平な国であったらどうするのか。
下手に平均で語っては、貧富の差による不公平は埋まらない。
どうするのか。

中国のようにキャッシュレス支払いシステムと顔認識機能つき監視カメラをめぐらして、国民の行動を全部記録するのである。
国民一人ひとりの行動を追跡して、牛肉を1キロ食べたから何グラム、飛行機で1000キロ移動したから何グラムといった標準排出量を合計すれば、その個人の一ヶ月とか一年とか単位期間当たりの温室効果ガス排出量が出せるはずである。

共産党幹部が素直に従うかは非常に疑問が残るが、全世界で実施することに全世界が同意するくらい気候悪化が切羽詰まったら、中国政府が経済分野のようにええかっこしいして、ついでに儲けを取ろうとシステムを全世界に売りまくる算段をして、結構率先してやるかもしれない。

現在の中国の技術と監視体制でも国民が、都市部だけではあろうが、何を購入して何を食べて、どこへどの交通機関を使って移動して、そこで何をしたかが、かなりわかっているのではないだろうか。
国民個人の信用力が調査されて、様々な場面で使われているらしい。

そうすれば今贅沢をしている人は排出量削減目標は大きく、美食や観光は諦めるように命令され、慎ましい暮らしの人は目標は小さく、今の暮らしとあまり変わらないことだろう。
反社会的勢力は命令から逃れようとするだろうから、本番に入る前に先進国の排出量移転の資金を利用して徹底的に潰す。
貧富の差という社会問題はこれで解決。
人類生存の危機だったらできるだろう。

行動と精神の自由を制限されてまで生きたくない?
今から全世界総力でAI技術を集結して、もうマトリックスのように何もしないでカプセルの中で培養されて、仮想現実世界で思いっきり贅沢をすればいい。
人間の精神の自由の問題はこれで解決。
人類生存の危機だったらできるだろう。

2019年12月14日

環境は年金と同じ老若対決

pirralho, -a 名詞 子供;小柄な人
ativista 名詞男女同形 活動家

ごく最近世界のニュースで注目されたポルトガル語の単語がある。
ブラジルのボルソナロ大統領がグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)を語るときに形容した単語、pirralhaである。

ポルトガル語の綴りと発音規則を知らないと多分どう発音するのかわからないだろう。pirralho ピラーリョ、私の地方の発音に従うとピハーリョ、「ガキ」とは書いてないが、上の訳は辞書によるものだ。
グレタは女性なのでpirralha ピラーリャである。

グレタ少女が米国の雑誌Timeの「今年の人」に選ばれて表紙に載ったことに反応したトランプ大統領であるが、自分がとってやろうと目論んでいるノーベル平和賞を、下手したらさらわれそうだという恐れから出た発言ではないかと思ったりする。
「俺より目立っているから癪だ」という理由かもしれない。

この「とんがった少女」は、もう将来の道は活動家に決まったようなもので、政治家になる可能性も高いが、世界はその一挙一動に注目しているから、予想に反して清貧であることをやめて、肉食をしたり自家用機で飛び回ったりし始めたら世間の風当たりは半端ではないだろう。

とにかく今のところ、名指しでグレタさんについてネガティブな批評をしたのはトランプ大統領とボルソナロ大統領であって、それに応ずるグレタさんのSNSへの発言には面白がって、記事にすると視聴率は上がるから喜んでいるのは世界のマスコミである。

環境問題は押しなべて人類に関わるのではなく、地域間にでもあるが、世代間に利害対立が生ずる運命である。
これから20年の余命しかない世代が世界の国々を代表して、やりたくない決断を渋って先延ばしにして、もしも大災厄が本当に存在するのだったら、これから80年生きる世代の未来を左右する状況なのだ。

この世代間闘争、もっと直截にいうと老害排除のために、各国の公式な年金受給年齢に達した有権者の票数を1票から0.5票に削減すればよいのだ。
もっと良さそうなのは、年金受給世代の票数を1票としておいて、年金負担世代の票数を2票にするのだ。
そうすれば2票の使いみちを、与党をもっと盤石にしたければ与与、バランス感覚を考えれば与野、政権交代を望むのなら野野のように、あるいは、右右、右中、中中、左中、左左、もちろん左右でもよいが、自分の票の使い方に選択肢が増えて投票が楽しくなるから、投票率も少しは上がるだろう。

年配の人の経験と知識を社会に奉仕してもらうために、選挙権は二分の一にしても、被選挙権は年齢に関わらず維持するのである。
参政権の侵害だという意見には、国民や人類の生存権の尊重という意見をぶつけてやれば良い。
もちろん受給世代の尊厳ある生存を保障することは、成文化して不安を取り除く。

環境問題は地球全体に関わることであるから、日本が率先して世界にこの方法を呼びかけて、年金年齢は国によって違っても、将来生きる時間に応じて負担世代と受給世代の意見の重みを加減するのは、環境、人口などの問題の全世界的解決に役立つことだろう。

現在フランスは年金改革に反対するストやデモでなかなか荒れているが、50歳で年金入りする制度を維持したいというのが労組の要望であっても、選挙権が半分になると言ったら少しは考えが変わるかもしれない。

もちろん書いていて、憲法改正が必要であるから、老年人口が既に増えた今では、この試みは絶対無理だとは思う。
でもグレタ少女の登場は、若い世代にとってその意見を反映していくのにどうしたらよいか考える絶好の機会を与えてくれる。

2019年11月28日

安くて危ない飲み物

先週、路上生活者のグループが路上の酒盛りで怪しげな飲み物を飲んで、4人死亡4人病院搬送という事件が、サンパウロ大都市圏のバルエリ(Barueri)で起きた。
当然毒物中毒が疑われた。
その後、多分ブラジルの安酒の代表ピンガだと思われるが、飲み物に混入したコカインの中毒であったことが判明した。
第一容疑者が入院中の一人であるため、誰が何の目的で持ち込んだかはまだ明らかにされていない。

ニュースを聞いて記憶した数字では、焼酎1ml当たりコカインが50mg混入していたという。
早速興味が湧いて調べたことを書く。

1ml当たり50mgということは50/1000=5%もの高濃度である。
ピンガがアルコール度数35%として、それに5%のコカインを加えるのだから、40%もの有効(善悪関わらず効果があるという意味)成分を含む飲料となる。
それだけ大量のコカインを飲み物に加えると味は変わるし、精神への効果がすぐに現れるだろう。

中毒にかかった路上生活者たちがこれまでにコカイン入りピンガを飲んだ経験があったかどうかは不明であるが、初めて飲んだとしても、「お前いつもと違って今日はいい酒を持ってきたな、酔い心地がとても愉快だ」ぐらいの会話で、特に詮索することなく終わってしまったのではないか。
すぐに怪しんで「これは危ない、みんなちょっと待て、飲むな」と警告するような注意深い者が誰もいなかったからこそ、被害者が多くなったのだろう。

日本の警察の平成3年警察白書を見た。
コカインの致死量は1.2gとある。
胃か腸の消化器から吸収された場合にこの数字通りなのかわからないが、少し余裕を見て1.5gとすると、バルエリ事件のピンガの30ml、つまりシングルワンショットを飲めばあの世行きとなる計算である。

どれだけの量のボトルを持ち込んだのか。
ペットボトル500ml 1本でシングル30mlは16杯とれるから、8人殺して余りが出る。

この飲み物を日本国内で調製するという反社会行為をするのに、いくら金がかかるか。
2019年3月の日本経済新聞の記事でコカイン1gの末端価格が2万円という。
50mg/mlの500ml分を計算すると必要なコカインは25gであるから、ピンガの値段を外しても50万円である。

参考にすることがあるかもしれないから、新聞記事から一文だけ引用しておくが、元ソースは警察庁である。
「18年調査での1グラム当たりの末端価格は、覚醒剤6万円、大麻5千円、コカイン2万円、ヘロイン3万円という。」

時期も場所も異なる別の、売人摘発事件のローカル報道だったが、マリファナの小売価格は25gが80レアルだと言っていた。
1レアル26円で計算したマリファナ1gは83円である。

一般的に農畜産物の値段が日本より安いブラジルであるが、安いから試してみたい、という気にもならないので、農産物には違いないがこの種類の物の値段が安くてもあまりうれしくない。

2019年11月24日

ブラジルにベネズエラのウルトラヘビー・ゲリラ・アタック

格闘技の話ではない。
ましてやベネズエラ国民やベネズエラの国家が、ブラジルに攻撃を仕掛けたわけではない。
ベネズエラに由来する、ある物体がブラジルを攻撃しているのだ。

8月終わりからブラジル北東部海岸へ原油が漂着するようになって、もう少しで3ヶ月になろうとしている。
最初報道で見たときは浮遊原油による巨大な汚染海域は見られなかったので、すぐに終わるものだろうと思っていた。
しかし一度汚染除去された海岸に再び油が漂着するだけでなく、汚染海岸は範囲を増しながら、このニュースは毎日繰り返されてきた。

しばらく作文を放って置いてから書き足している。
ブラジル北東地方の9州は、海岸線の長短に差があるものの、すべて海岸を持っているが、軒並み原油が到来した。
そして南側の原油汚染到達最遠部は、ブラジル南東地方に入り、エスピリト・サント州を越えて、リオ・デ・ジャネイロ州北部まで届いたと先ほどのニュースは言っていた。
結局11州の160以上の郡市にまたがる720地点以上が汚染地点となった。
11月下旬になって、時々以前の場所への汚染の戻りがあるものの、海流のため汚染原油の到達地はより遠くに、また広域に拡散されたため一つの地点での汚染量は少なくなっている。
11月22日のニュースでは、手のひらにのせた豆粒大の原油塊を7~8個見せてくれた。

ブラジルを襲った原油汚染の様相について考える。
水や海水に油を落とすところを想像してみよう。
普通、水面に薄く広がる油膜を思い浮かべる。
しかし最近ブラジル北東部海岸に漂着した油は、オリーブオイルのようなさらりとしたものではなく、原油、それも超重質である。

これを形容するのにどういう喩えを使ったら良いのかわからず、少し調べた。

コールタールはその英語綴り(coal tar)を見たらわかるように、石炭からできるものである。
私の記憶では、粘度は高いがどちらかというと液体であって、刷毛で物の表面に塗ることができるだろう。
もしかしたらクレオソートと混同しているかもしれない。

一方、道路を舗装するアスファルト(asphalt)は、コールタールと似ているが、石油からできるもので、道路が液体だったら困るから、灼熱の日でなければ、常温で固体のはずである。

ブラジルを困らせているのは、粘度が両者の中間的に見える。
原油塊を手で掴んで海岸を清掃するボランティアの作業動画をみると、粘体の水飴のような硬さである。
液体より固体に近い。
なおこの粘体に直接触れると毒性があることがわかってきてからは、手袋・マスクなどを着用するよう注意が出された。
事態を重く見た連邦政府は軍隊を動員して汚染原油除去を行い、海軍の艦船や航空機は沖から汚染監視を行うようになった。

ベネズエラの超重質原油は、その国土を流れる南アメリカの大河、原油を産出するオリノコ川の名をとって、オリノコ・ウルトラヘビーとか言うらしい。
強そうな名前だ。

このウルトラヘビーがどれだけ重いかというと、蒸留するときに軽質油を加えて流動性を高める必要があるくらいである。
重質原油しか生産しない国は、精製のために軽質油を輸入しなければならないし、そもそもアスファルトのような重い成分が余るのに対して、沸点の低い揮発性の高いガソリンとかケロシンとかの、商品価値の高い成分が足りないと輸入の必要性は高まる。

海洋の海面近くの海水温は、当然気温に近い。
熱帯の海水温は高いので、その密度は小さい。
一方海洋の深海の水温は、日光の熱がほとんど届かない場所だから、どこの気候帯でも総じて低く、密度は高いはずである。

海流や風の影響で、海水中に水温の異なる層がはっきり分かれることがあるらしい。
熱帯の海洋の垂直温度分布を模した、密度が完全に異なって混じり合わない2つの液体層からなるビーカーに問題の原油を入れてやると、どろりとした原油は浮くでもなく沈むでもなく、2つの層の境界に浮かぶように留まるのだ。
飛行機などで上空から、深度の深い沖合を観測したときに原油塊を確認できないのに、岸に接近すると海水層の厚さが減るので、明るい海底の色とのコントラストが真っ黒な原油を浮かび上がらせることになる。
それがゲリラ的に原油塊が突然出現する理由と思われる。
原油塊が水面に浮かばない間は、浮かぶ油層を取り囲み拡散を防ぐオイルフェンスも使えないので、沖合で汚染を拡散前に一網打尽することもできない。

攻撃してくるのはベネズエラ産ウルトラヘビーなのだが、それを撒き散らした原因はいわゆるブラックシップや海賊船ではなく、ギリシャ船籍のタンカーであることが解明して国際的な調査が進行中である。
観察された原油の拡がり方から過去をシミュレートして推定した時期と海域を通過した、ベネズエラから原油を積み込んだ船を絞り込んだ結果である。
船主は自分の船であるわけがないと言って責任を逃れようとしているが、どのような成り行きになるかが注目される。

原油の国際価格の標準の一つはアラビア湾岸産の原油、アラビアン・ライト(Arabian Light Crude Oil)であると聞いたことがある。
昔の話である。
今の今まで「北海ブレンド」とは、北海産の原油をコーヒーのようにブレンド(blend)したものかと想像していたのだが、それは間違いで、(北海の)ブレント産原油(Brent Crude Oil)ということだ。
北海産のいくつかの原油をブレンドしたものというのもあって、これこそがBrent Blendとなる。
時代と共に前者から後者へ指標油種は変わった。
オリノコ・ウルトラヘビー原油(Orinoco ultra-heavy crude oil)は、名前だけは強そうだが、いや本当に環境に与えるダメージは大きいのだが、商品価値となるとこれらの油種よりかなり低そうである。

日本商品先物振興協会の原油の商品特性を見た。

原油の軽重(比重)によって、超軽質から超重質の区分がある。
原油からの製品で価値が高いのは、軽質の区分である。

硫黄・硫化水素の多少によって、サワー(すえた)原油(含有量が多い)とスイート(あまい)原油(含有量が少ない)の区別がある。
味覚の好みはもちろん人それぞれだが、原油に使われる意味では間違いなく、甘味は酸味より優れている。

2019年11月21日

フラメンギスタのリマ巡礼

11月となると、ブラジレイロン(Brasileirão)と呼ばれるフットボール(サッカー)のブラジル選手権(Campeonato Brasileiro)が終盤にかかっているが、2019年はフラメンゴ(Clube de Regatas do Flamengo)が断トツ1位を走っている。
クラブの正式名からわかるように、元々はレガッタのクラブから発したようだ。
フラメンゴはリオ市内の海岸の地名である。
燃える理由はブラジレイロンだけでなく、アルゼンチンの名門リーベル・プレート(正式名はクルブ・アトレティコ・リーベル・プレート Club Atlético River Plate)とリベルタドーレス(南米クラブ選手権)の決勝を戦う日が近づいている。
2019年11月23日、今週の土曜日である。

当初この決勝戦はチリの首都サンティアゴで行われる予定だった。
しかし、確か数円か数十銭の地下鉄運賃値上げから発して拡大暴徒化している反政府デモのために、世界環境会議開催地もこの都市からスペイン・バルセロナに変更されて、環境少女グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)が再び飛行機を使わないでどうやって大西洋を越えるか困る状況に陥ったのだった。
この子は、キロメートル・人だったか、距離と輸送重量の積の単位当たりで計算すると飛行機の燃費が非常に優れることを聞いていないのだろうか?

グレタ少女のことはともかく、同じような目にあった人が数千人いるのである。
リベルタドーレスの決勝戦がチリのサンティアゴからペルーのリマへ変更されて、航空券の変更手配や、その他、主にバスでの陸路旅行計画に右往左往するフラメンゴのサポーター、フラメンギスタ(flamenguista)である。
この有名なチームがリベルタドーレスに優勝することになったら38年ぶりだというので、連中は苦労しながらも旅行準備に嬉々としている。
スペインのサンティアゴ(Santiago de Compostela)は巡礼で有名だが、チリのサンティアゴ(Santiago de Chile)ならぬペルーのリマで願いが実現する瀬戸際なのだ。

ブラジルからサンティアゴへ応援しに行く予定だった数千人、アルゼンチンの敵チームの連中も含んだら、ことによると数万人の目的地が土壇場でリマになったのである。
記憶に間違いがなければサンパウロからサンティアゴへ国際バス定期便があったはずだか、リマへ路線バスが出ているという話は聞いたことがない。
飛行機はかなり臨時便が出ていると思うが、バスを借り切るグループも多い。

南アメリカ大陸とヨーロッパ大陸が異なる点がいくつかある。
ヨーロッパ大陸のように、鉄道や道路で容易に隣国へ渡れるところばかりではない。
南アメリカ大陸は大きな盆地のようで、内陸に広大な熱帯雨林(北の方)や乾燥地帯(南の方)があり、人口密度が極めて低く、陸上交通の便が悪いし、水上(河川)交通は時間がかかりすぎる。
一つ一つの国土が欧州より大きい。
旅客列車が走れる鉄道網は皆無で、網が粗い道路網は保守が悪い。
だから南米大陸は海岸沿いで行ける縦断はともかく、横断を陸路で行うのは相当覚悟が必要だ。
ブラジルとペルーは隣国だが、道は遠い。

飛行機の直行便が取れなかった人や、貸し切りバスで移動する人のルートを南アメリカ地図上で見ると、いずれも大迂回の大旅行なのである。
陸路の最短距離を取ろうとするとボリビアを横断しなければならないが、現在大統領選挙結果が疑問視されて混乱しているこの国を避けて旅行しなければならない。
こんな目的の長距離旅行をすることは自分にはないだろうが、面白いのでニュースで紹介されたいくつかのルートを記録する。

  • 国内線2つを国境陸路越えで結ぶ
    Rio de Janeiro-RJ -(飛)-> Rio Branco-AC -(チャーター車で国境越え)-> ペルーPuerto Maldonado -(飛)-> Lima
    車で国境越えと簡単に言っても今見たら570キロもあるでないか、多分1日旅程
  • 全行程貸切バスのボリビア南迂回ルート
    Rio de Janeiro-RJ -> Foz do Iguaçu-PR -> アルゼンチン国土通過 -> チリ国土通過 -> ペルー入国 -> Lima
    一番道路状況が良さそうな陸路
    でも月曜日出発でリマ到着は金曜日予定、つまり5日の旅
  • 全行程空路
    ペルーに比較的近い内陸部に住んでいるから、航空運賃が多少安くなるのではないかと思うと裏切られる
    直行ルートがないので地図を見るとぐるっと半回転して距離を稼いでいる
    Palmas-TO -> São Paulo-SP -> Foz do Iguaçu-PR -> Lima
  • 全行程貸切バスのボリビア北迂回ルート
    Rio de Janeiro-RJ -> São Paulo-SP -> Campo Grande-MS -> Cuiabá-MT -(やっとこの辺りが旅程の中間)-> Porto Velho-RO -> Rio Branco-AC -(ブラジル・ペルー国境)-> Puerto Maldonado -> Cusco -> Nazca -> Lima
    悪路に立ち向かうこのグループは既に昨土曜日にリオを発っているから、7日がかりの楽しいバスの旅である

陸路は5千キロないし6千キロの距離がある。
当然だが心の洗われる巡礼の後には、みんな帰ってこなければならない。
貸切バスの人たちは往復料金だから、余分な金を払う気がなければ、嫌になっても帰りもバス旅である。

興味のある人は次の動画を見ると良い(2019/11/18放送、ポルトガル語約3分、前に宣伝あり)
既にペルーのリマへ向かっているフラメンゴのサポーター
Torcedores do Flamengo já estão a caminho de Lima, no Peru

2019年10月26日

酒場テロと放射能雑貨

こんなものを見つけた。
時々通う道筋にある看板を、走るバスの中から撮ったので、写真は斜めになったり残念な出来だが、見れば何かわかる。



このビン・ラディンはもちろん、あの人の名前である。
しかしこの看板は一杯飲み屋、こちらでバール(bar)と呼ばれる、多くの人が大好きな、楽しい場所のはずである。
アルカイダの活動が激しかったあの頃につけられた名前であろうか。
でもこの看板は最近までここになかったから、どこかから引っ越してきたのかもしれない。

「飢餓に対抗する恐怖」と、下に書いてある。
飢餓にとっての恐怖、飢餓をやっつける恐怖、ということか。
横の方に「冷えたビール」、「つまみ一品」とか書いてある。
このようなところでは、料理に店名にちなんだ名前を付ける例があるから、品書きを見てみたいものである。

昔住んでいたところには、Chernobyl「チェルノブイリ」という名前の雑貨屋があった。
放射線処理した品物を売っているのかと思ったりしたが、当然そんなはずはなく、単にニュースで有名になった、当時ソビエト連邦にあった地名が気に入ったので命名したものだろう。

ポルトガル語ではChernobilと綴るのだが、上にように英語綴りでiの代わりにyとなっていたので、そのエキゾチック趣味がうかがわれる。

人々の記憶に残るこれらの事件について、発生した日付を書いておこう。

チェルノブイリ原子力発電所事故 1986年4月26日
アメリカ同時多発テロ事件 2001年9月11日
ウサーマ・ビン・ラーディンの殺害 2011年5月2日

2019年10月20日

今年も馬鹿なままのAndroid

毎年この時期にはブラジルの夏時間入りについて書くのが定例となっていたのだが、今年はそれはない。
今年の4月に出た政令(大統領令)によって廃止されたからである。
政令の骨子、というかほとんど全体であるが、ここに書いておく。

2019年4月25日政令9772号
  • 第1条 国家の領土で夏時間は終了される。
  • 第2条 以下は廃止される:(以前の25の政令リストが続く)
  • 第3条 本政令は公布の日から効力を発する。
これだけである。

なぜブラジル(中西部・南東部・南部の3つの地方)で夏時間は廃止されたのか。
夏時間の目的であった電力節約を、時代とともに変わってきたブラジル人の生活様式、一つ例をあげれば家庭でのエアコン使用の普及によって、達成することができなくなったからである。
また別の大統領が夏時間復活させる可能性はゼロではないが、目的達成ができないのなら利点ゼロに対して、わざわざ反対意見の多い夏時間を復活させる意味は全く無いだろう。
ブラジルの他の2つの地方、北部と北東部は、低緯度のため、もともと夏時間は存在しない。

そんなわけで、今年は10月の第三土曜日の翌日の日曜日に、ネットワークにつながっていない家中の時計、カメラ、電話を1時間早める恒例儀式がなくて楽々だ、と思ったのだがそうではなかった。

Windowsより馬鹿なAndroidというテーマで書いたのは1年前だったが、実は今年になってもWindowsは、上に引用した今年4月、つまり6ヶ月前に発効した政令を賢く覚えていたのに、Androidは馬鹿なまんま、昨年と全く同じように勝手に要らぬ知ったかぶりおせっかいをして、10月の第三土曜日から日曜日に変わる瞬間に機器の時計を1時間進めてしまったのだ。

スマートフォンの設定をいろいろいじってみて、結局スマホの位置情報を使うと思われるタイムゾーン自動設定をオフにして、手動でUTC-3地帯の都市を選択した。

インターネットで検索したら、Googleが先週金曜日10月18日に、スマホの時刻自動設定を切るようにユーザーに勧める内容のブログを発表したそうである。
そんなもの誰が見るのか?
いや見る人は当ブログよりずっとずっと多いだろうが、アンドロイド・スマートフォンを使う人はそれ以上に多いから、今朝になってあたふたした人も、わが家の2人だけはないはずである。

結論:アンドロイドとその開発者Googleは、前年の不具合の経験を生かしきらず、今年になっても馬鹿なままである。

2019年10月15日

ブラジルは53カ国で一番の公務員天国

調査によると、公務員は民間企業の労働者の2倍の給料をもらう
Servidores públicos recebem o dobro do que trabalhadores de empresas privadas, diz estudo
2019/10/09 G1 Jornal Nacional

今日は「公務員は楽なのに稼げる」という、どこででも聞けそうな話である。
仕事が楽かどうかはなんとも言えないが、稼げるというのは本当である。
ただしブラジルの話である。

世界銀行が53カ国で調査した結果である。
ブラジルは国内総生産の10%を連邦、州、市の公務員給料に費やしている。

そして連邦の行政府の公務員の人件費は2008年から2018年の10年間でインフレ率より25.9%も増加した。
他の国も同様に公務員にはカネがかかるものだというのならまだ許せよう。
しかし、連邦公務員は民間部門の約2倍(+96%)稼いでおり、この差は調査した53カ国の中で最大であるという結果は、我慢ならない不公平さである。

ブラジルでは公務員の44%が1万レアル以上、22%が1万5千レアル以上、11%が2万レアル以上の月給をもらっている。
ちなみに現在の国定の最低給料(月給)は998レアルである。

世界銀行はこの解決策として、まあ誰でも思いつく策ではあるが、近年に給料調整を受けた公務員の給料金額の一時的凍結、キャリア初めの新任公務員の給料額削減、及び職務の整理をあげている。

ブラジル公務員連盟長という、ブラジル公務員の労組の親方みたいな立場の人が、この処方に関する意見を聞かれて、「もしも給料額凍結をするのなら公共サービスの質は落ちて、もし解雇するならば公共サービスの数量が減ることになる」と、仕事の効率化のような努力改善要因を全く無視した、内容が馬鹿なだけでなく、国民への脅しとも取れるような腹の立つ回答をしていた。

そこで左派の政府であったならまずやらないだろうと思われる行政改革を、現在の右派の連邦政府の財務省は、公務員の身分保障と新公務員の契約形態を民間と似た形に変更する計画を携えて臨んでいる。
「他の国と比較してブラジルは相対的に高い人件費を費やしているのに、社会にとって基本的な分野での結果が伴わない。この認識を変えなければならない」と、財務省の脱官僚化局長は、自分も役人ではあるがそのように説明する。

最大の予算を持ち責任も大きい連邦政府は、さすがに給料遅配という話は聞かないが、連邦を構成する27州のうち20州は資金不足のため州公務員の給料遅配が起きたことがあるか現在起きている。

ブラジル国民の心情としては、年金改革より先に、この行政改革がまず必要なのではないか。

2019年9月2日

あやふやな環境理論に翻弄されるブラジル

誰でも環境の良いところに住みたい、少なくとも自分の住んでいる土地は清浄な環境であってほしい、と願うのは当然である。
その意味では環境問題はローカルである。
今住んでいる町が下水垂れ流し、ごみ収集処理なしで不満だったら、隣町に引っ越しすれば良い。

しかし空気や水は隣町とつながっている。
国際河川だったら数カ国とつながっていることになる。
上流にある国が無責任に水資源を無駄にすると、下流にある国が困る。
中国のPM2.5は、朝鮮半島や日本列島に届くのだろうか?

今にわかに全世界が心配する格好になったブラジルのアマゾニア、あるいは南アメリカの数カ国に渡るアマゾニアが、どうして地球の肺だとか、酸素の源だとか言われるのか。

動物は呼吸によって酸素を取り込んで、生命活動に使うエネルギーを発生する過程で二酸化炭素を排出すると習った。
よろしい、一方的な酸素消費者である。

さて植物は、二酸化炭素を光合成によって炭素源としてエネルギーのもとになる物質を合成して、余剰の酸素を放出する。
しかし植物も生物であって、動物と同じように、酸素を取り入れてデンプンなどを分解してエネルギーを取り出す呼吸によって、二酸化炭素を放出する。
明るい昼間に酸素を生成しても、夜中にそれを消費するのだったら、差引勘定したら酸素量は大したことないのではないか。

もしもアマゾン地方の森林が世界の40%の酸素を供給しているというのなら、アマゾン地方の空気は、動物がたくさんいる地方、例えば大都市と比較して、酸素濃度が非常に高く、それだけ植物が繁茂しているのだったら二酸化炭素濃度などゼロに近くなって当然ではないか?
そして、アマゾン地方で生成された酸素に、例えば放射性マーカーで印をつけて追跡すると、酸素の消費地まで流れていくことが証明されてこそ、アマゾン地方は地球最大の酸素供給地であると肯定できるのではないか?

環境問題でもやもやとした疑惑が収まらないのは、地球温暖化のように過去に誰もやったことのない予測を、方法も前提条件も確立されていない仮定に基づいて積み重ねて行うので、結局時間が立ってその時が来るまで、予測が当たっているかどうかわからないことを、真実であるごとく論じているからだと思う。

そんなことを考えていて検索してみたら、
アマゾンは「地球の肺」ではない。森林火災にどう向き合うべきか
という記事で田中淳夫氏が説明している。
簡単に言えば、成熟した森林では、植物が腐食するときの菌類の活動を考慮に入れるのだから、森林を全体で見ると、酸素も二酸化炭素も出さない・吸収しないというのだ。

そうであるならば、先ごろのG7で話題になったように、諸外国がアマゾンは「地球の肺」だから、全世界が口を出す権利があるというのはおかしな話だ。

ブラジル自国の法律すら破って、自己の利益のためだけに伐採火入れを行う輩は、懲罰を受けなければならないのは自明だが、筋の通らない理屈で難癖をつけて、挙げ句の果てにブラジルのような環境破壊に熱心な国からは、肉や皮革を輸入するわけにはいかない、という制裁に脅かされるのは理不尽だとブラジルが感じるのは当然ではないだろうか。

2019年8月31日

アマゾンが熱い

G7に取り上げられてにわかに世界の注目を浴びて、文字通り熱いアマゾンである。
アマゾンという単語であっても、いくつかの意味があるので整理する。

  • Rio Amazonas(読みはアマゾナス)-アマゾン川
  • Estado do Amazonas-アマゾン州、doと定冠詞がつくのは、「アマゾン川」を指すからだろう
  • Amazônia-アマゾン圏

アマゾニア・レガル(Amazônia Legal)-多分、法定のアマゾン圏(地方)という意味だろう。
  • アマゾン盆地に属して、アマゾン植生を持つ
  • ロライマ、アマパ、アマゾナス、パラ、アクレ、ロンドニア、マト・グロッソ、トカンチンス州及びマラニョン州の西経44度以西
  • 約522万平方キロメートル(ブラジル全土の約61%)
  • 人口約2300万人(ブラジル全人口の約12.3%)

ブラジルに住んでいてもアマゾニアからは遠いので、たぶん大多数のブラジル人と同じで本当にどこで何がどれだけ燃えているのか、正直言って想像しづらいところである。

一般的な森林火災の原因を推察してみる。
  1. 強風による枝同士の摩擦や、落雷による自然発火
  2. 行儀悪いドライバーや乗客が不用意に投げ捨てる吸い殻
  3. 登録された合法な既成の農牧地に農牧活動の目的で管理された火入れをする
  4. 登録された正式な農地用途の土地に、正規な伐採をしてから火を入れる
  5. 森林保護区、インディオ保護区、あるいは所属がはっきりしない土地に侵入して、不法伐採してから不法な野焼きをする
1.の起きる確率はそれほど高くないだろう。

2.は、特に道路沿いの枯れ草によく見られるもので、アマゾニアから遠いミナス・ジェライス州でも、乾季に車で100キロほど走ると1, 2箇所は道路沿いが燃えていて、慌ててウィンドウを閉めることになるし、濃い煙に突入すると視界がゼロなので危険である。
こういうのを普段から見ているので、ブラジル人はアマゾンが燃えていると言われても、近所の道路沿いの火のようなものかと変に安心してしまって、危機感が湧いてこない。
これがアマゾン火災に対する、ブラジル人と国際社会の感じ方の違いであるように思えるのだ。

3. 乾季になると牧草が枯れてくるのだが、枯れた葉の中にそれほど乾燥していない葉が混じっていて、私が牛であったとしても、あまり食欲がわかない。
牧草の新たな芽吹きのために、延焼を防ぐ防火帯を作って囲み、枯れた牧草に火を付ける。
牧草地は一面黒い焼け野原になるのだが、雨が降ると新葉が芽吹いて、きれいな牧草地が再生する。
だからあまり推薦されない農法なのだが、これをやりたい牧場経営者は多い。

4.が3.と違うのは、既成農牧地でなく、これまで森林だったところが農牧地に変わることであるから、環境ライセンスによってその用途のため許可される必要がある。

5.は農牧目的の利用が禁止されているのに関わらず強行するのだから。当然一番悪質である。
原生林の中に元々育っていた商品価値の高い木材で儲けてから、焼き払った広野に牧草の種を蒔いて牛を粗放的に飼育して、手をかけないで再び儲ける形である。

森林の監督であるが、昔は現場にたどり着くための道路などインフラも少なかったし、衛星によるリモートセンシングもなかった。

現在はリモートセンシング技術の発達のため、毎日測定して火災数(foco de queimada 山焼き・焼け跡の中心)の日毎の変化すら発表できるようになっている。
しかし、その火元が上にあげた考えられる原因のどれに当たるのかはリモートセンシングだけでは判別できないだろうし、どのような画像分析アルゴリズムを使うのかまで理解するのは難しいが、測定誤差がかなり大きいようである。

軍隊を消火作業に動員してからのここ数日は、火災数が昨年並みに減少してきて、一昨日は去年の数字を下回って「やればできる子」でないかと思ったのだが、昨日(約1200)は一昨日(約600)の倍に跳ね上がって、ニュースでは測定誤差がかなりあると分析したが、本当にそうだろうか。

ニュース報道のとおりだとすると、火災の原因を区別しないまま、焼失面積に触れずに火災数のみに注目しているだけでは、アマゾニアの火災・伐採について分析的意見を言うことはできないのではないか。

2019年7月30日

カリオカの悲しき習性

リオデジャネイロといえばわずか3年前にオリンピックがあったのだが、当時からも、いや当時に増して犯罪が多いのは、ブラジル国内の尺度で測っても、かなりのものである。
そういった話である。

リオに住んでいる姪っ子がベロ・オリゾンテへ旅行した。
一応説明しておくと、リオ・デ・ジャネイロ市はリオ・デ・ジャネイロ州の州都であり、人口約650万人で全国で2位、一方ベロ・オリゾンテはミナス・ジェライス州の州都であり、人口約250万人で全国で6位の、いずれもブラジルの大都市である。

旅先のベロオリゾンテではUberを利用したというが、身についた習慣は恐ろしく的確だ。
車に乗り込んでさっそく行ったことが、自分の横のドアのウィンドウを急いで閉めたことだった。
運転手は窓を開けたまま平気で運転しているので、どうして閉めないのか気が気でなかったという。
えっ、えっ、窓閉めないの?
危ないよ、強盗やひったくりが手を出してくるよ!

そこでようやく自分がリオにいるのではなく、ベロオリゾンテの街中(まちなか)を車で移動していることを思い出したという。
リオデジャネイロの街を車で走るときに、窓を開けたままなんて無謀で危険な行為は考えられないそうである。
カリオカ(リオ市住人)の悲しき習性である。

逆に考えると、ミネイロ(ミナス州住人)がリオへ車で旅行するときは、この話をよく思い出して注意しないと犯罪の被害に遭うことになりそうだ。

そして、少し昔だったら乗用車のエアコンは贅沢装備とみられていたのに、熱波のときは40度にもなるリオデジャネイロで窓を閉め切るために、必須の保安装備と成してしまう、無法な世界になってしまったのではないか。

2019年7月29日

オートマ車は欠陥危険機械

ブラジルのボルソナロ大統領が議会へ送った交通法改正案が、また議論を呼んでいる。
  • 免停到達点数を現行20点から40点へ引き上げ
  • チャイルドシート不使用の違反金を廃して書類通知と減点のみにする
  • カテゴリーC以上の免許更新時の薬物検査義務の中止
  • 免許証有効期限の現行5→10年へ、65歳以上は現行3→5年へそれぞれ拡大

多くの運転免許を所持する一般市民が喜びそうな政策であるが、政府が一番ターゲットと考えているのは、去年全国でストを打たれて、国全体がマイナス成長に落ち込んだ原因となったトラック運転手の組合である。
すぐに免停になってしまう、免許更新に金がかかる、といった職業運転手の不満を少しは抑えておいて、去年の全国トラック運転手ゼネストのようなことが起こらないようにする手立てであろう。
チャイルドシート以外の項目は、トラック運転手にとっては利害の大きい問題であるからだ。

さてどの項目も規制緩和がゆる過ぎなのだが、この中で現在の日本では全く受け入れ不可能なものがある。
4番目の免許証有効期限の拡張である。
最近次から次に出てくる日本の交通事故のニュースには、高齢者のドライバーがペダルを踏み間違えるのが原因で起こる事故に大いに関係がある。

ブラジルは最近になって高価格帯からオートマチック・トランスミッション採用モデルが拡がってきているが、まだまだマニュアル・トランスミッション車も多い。
オートマ車と比較して価格が安いことが理由の一つだと思う。
免許が比較的取りやすいというオートマチック車限定免許というものがブラジルにはないから、免許取得のためには将来乗る予定がなかったとしてもマニュアル車を習得しなければならない。
うちの大衆車もマニュアル車である。

そもそも運転が楽だという理由で普及してきたオートマチックは、機械工学的にそうなのかはわからないが、人間工学的というか安全工学的にに大きな欠陥があるのではないかと思う。
この点でどれだけ共感してくれる人がいるのか、異論が多いことは想像する。
それでも説明してみよう、なぜか。
  • 発進・加速するとき→ペダルを踏み込む
  • 減速・停止するとき→ペダルを踏み込む
もちろんペダルは異なるが、操作運動方法はまったく同じである。
踏み込む位置を間違えると全く反対の結果となってしまう。

オートマチック車しか知らない人のために一応書くと、マニュアル車だったら、
  • 発進・加速するとき→ペダルを踏み込むだけでは発進せず、クラッチ操作が必要
  • 減速・停止するとき→ペダルを踏み込むだけで一応減速・停止するが、クラッチ操作をしないとエンジンが停止する
かなり複雑になる。
間違えたペダルを踏んだら車の動きとエンジン音からすぐに分かるし、クラッチがあるからすぐに修正をかけられる。
というより、クラッチ操作があるからこそドライバーはエンジン音に敏感に反応すると言える。
それだけ運転操作に、聴覚・ペダル触覚・加速感覚が集中するのである。

年をとって自動車の運転があやふやになってしまっても、操作が簡単なために漫然とオートマチック車に乗り続けることができるだけに、わけがわからないまま事故を起こすのが問題なのだ。
危険な機械を扱うのだから、容易く運転できればよいというものではない。

昔日本で免許をとったときには存在していなかったオートマチック車限定免許ができたのは、今調べたら1991年に普通自動車免許のAT車限定という形で誕生したものという。
ということは、その年に年齢30歳であってAT車限定免許を取った人は、再来年は年齢満60歳となり、AT車限定免許をとって30年を迎える。
これからAT車しか運転できない老人ドライバーがどんどん増えるだろう。

極端な提案をしてみるが、欠陥自動車しか運転できないAT車限定免許は欠陥免許であるから、ある年齢以上の者に持たせておくのは危険なので、所持者がある年齢、例えば満65歳に達したら失効するように法改正をすればよい。

「日本における乗用車のAT車の販売台数比率は2011年で98.5%である」という記述を見た。
もちろん乗用車区分の話であるから、大型のトラックやバスのようなプロフェッショナル用途であると、まだMT車は活躍していると思われるが、どうもMT車とは、絶滅危惧種のようである。
米国もAT車の割合が非常に高いらしい。

アクセルペダルだけで加速と減速を制御する「シングルペダルコントロール」
https://japan.cnet.com/article/35139615/
この記事を読んだだけでは、この経験したことのないメカニズムがよくわからない。
「ペダルを踏めば加速し、離すと回生ブレーキがかかって減速する」ということは、アクセルを急に離すと強いブレーキがかかって、「惰性で走る」状態がないということだろうか?
慣れないとペダルを離したときに急減速がかかり、後続車に追突される恐れはないのだろうか。
そのような心配がないのだったら、かなり有効と思う。

AT車限定免許に有効年齢期限を設け、達したら強制失効させるといった、上に書いたような過激な変革を本当にやろうとしたら、AT限定免許所持者の不満を一斉に浴びて、絶対無理だろう。
AT車製造と輸入を制限などしたら、非関税障壁などと騒ぐ外国もありそうだ。
そこを、高年齢運転者にはペダル踏み間違え警告安全装置つきの自動車しか運転できないように法改正する、といったら、導入するのに抵抗は少ないだろう。

しかし、検問して免許証と運転者の顔と車のメカニズムを全部チェックしないと違反を見つけることは不可能だろう。
罰則を極めて厳しくして一発で免許取り消しとしたら、あえて違反して運転する高齢者は減るだろうか。

中国でやっているような、何でもかんでも、ここではすべての自動車に顔認証を付けて、その車を運転する資格のない人が運転席に座るとエンジンが決してかからないようにすれば、車両盗難予防も兼ねて対策は完璧だろうが、金がかかるし、深刻なプライバシーの侵害につながる。

しばらくブラジルの交通法規はゆるゆるが続きそうだが、日本と同じようなAT車の普及と高齢運転者の増加によって日本のような事故が目立つようになったら、いつかはブラジルにも変化が訪れるかもしれない。
くれぐれもブラジルにAT車限定免許など導入しないように祈る。

2019年7月21日

日程がきつくコストが高い在外投票

2019年7月21日は投票日であるから、選挙について書こう。
ブラジルではなくて日本のである。

サンパウロの領事館から選挙のお知らせが届いた。
7月10日か11日のことだった。

2019/07/04 選挙の公示日
2019/07/05 在外公館投票の開始日
2019/07/21 日本国内の投票日

投票方法は3つある。
金のかかる順番で説明すると、
  1. 日本国内における投票 期日前投票、不在者投票、投票日に投票の3つの方法がある
    ブラジルから日本まで片道2万キロの旅行をしなければならない。
  2. 在外公館投票 7月5日(金)から13日(土)まで各日9:30から17:00まで
    サンパウロ市内の日本領事館まで片道600キロの旅行をしなければならない。
  3. 郵便投票 三段階を経る必要があり、どれも飛ばすことはできず、国内の投票日までに順番に行われて完結しなければ、投票は有効にならない。
    1. 海外の有権者は日本の選挙管理委員会へ郵便で選挙人証を送り、投票用紙を請求する
    2. 日本の選挙管理委員会は郵便で選挙人証と投票用紙を有権者へ送付する
    3. 有権者は記入した投票用紙を郵便で日本の選挙管理委員会へ返送する
    つまり、郵便はブラジルと日本を一往復半しなければならない。
    これを公示から投票日までに済ませなければならない。

1.については当然、たまたま日本に帰国した期間が投票とぶつかったならば取ることのできる方法であり、わざわざ起こす投票行動ではない。(いや俺は行くぞという異論は認めるが)

2.であるが、サンパウロ市内(あるいは他の国・他の都市の大使館・領事館のある場所)に住んでいるのだったら、話は簡単である。
サンパウロ市内だったらバスだけで行くと4.30レアル、バスと電車やメトロを乗り継いでも7.48レアルで行けるはずだから、時間はともかく、金銭的には負担が少ない。
しかし、地方在住であると事情は全く異なり、大旅行をしなければならない。
日本で投票のためだけに、飛行機でことによったら泊りがけになる旅行をするかと聞きたい。

3.であるがこれを今日は問題にしたい。

かって郵便局の信用が高かった時代があった。
近年になって商店や銀行や、水道電気などの公共サービス会社は、取り立て書類を郵便で送ることが少なくなった。
銀行の取引明細も紙にプリントでなく、ネットバンキングでサイトから勝手に取ってくれ、という流れである。
いきおいブラジル全体の郵便物の数量は激減する。
それと共に郵便サービスの劣化が起きるのだ。
しっかり計測記録したことはないが、以前より郵便の届くまでの日数が国内、国際ともにかかるようになったと思う。

公示から投票日まで17日の期間である。
日本-ブラジル間の普通郵便が一週間程度で届いていた、以前のある時期には、ブラジルから日本までの2回の郵送を普通郵便で行うと、日本側は多分、制度を作っておきながら郵便でケチって投票を無駄にすることはできない、という気概があるのだろう、郵便では一番早い、つまり料金が高いEMSを使ってくれるので、公示日にすぐ3.A.の行動を起こせば何とか間に合ったはずである。

現在はどうか。
6月に普通書留(prioritário registrado)で日本へ送った郵便物が宛先地に着くまで13日かかった。
これではブラジル-日本郵送2回で26日かかるからどうしても間に合わない。
もっと早く着くのはないかというと、これがあってEMSなのだが、郵便料金は重量50gで133レアル、普通郵便書留なしが8.95レアルだから考えてしまう。
レアル→円換算は、レアル数字に29、面倒だから30を掛ければ良い。
投票のためだけに8千円払えるか?ときかれたら、払えるよという人はかなり少ないと思う。

告示前から期日が確定している選挙であったら、先を見込んで告示前に選挙人証を郵送する手が使えるが、不意に解散した衆議院選挙ではそうもいかない。
でも実際的に考えたら、このフライング請求しか取る方法はないのかと思うので、次回は試してみよう。
せっかく制度があるのだから、無駄にせずに利用できたほうが良い。
ニュースに敏感になるという利点もついてくる。

2019年6月23日

文盲から大学まで

2019年6月19日のニュースで流していた、最近のブラジルの教育事情の統計値である。
調査はブラジル統計地理院(IBGE)による、2018年の数字である。
以下はいずれもブラジル国民の(国内居住の)25歳以上の者に関するものである。

元ニュースで「修了していない incompleto」という表現は、100%から減算して、全て修了した割合に変換した。
Analfabeto非識字6.8%
Ensino fundamental completo前期中等教育修了66.9%
Ensino básico completo後期中等教育修了47.4%
Ensino superior completo高等教育修了16.5%
非識字の実数は全ブラジルで1,130万人
単語ensinoが同義語educaçãoとなると、後ろにつく形容詞の性別が変化するが意味は同じ
Ensino fundamentalは9年修了(6-14歳)、国際標準教育分類の前期中等教育まで
Ensino básicoはその9年を含む12年、国際標準教育分類の後期中等教育まで
Ensino básico completoの割合は、ブラジル北東地方だけでは38.9%まで落ちる
高等教育は大学・専修学校などで、その74%は私立で、残りが公立

各国で違う教育制度を分類するために、国際標準教育分類 ISCED - International Standard Classification of Educationというのがあるが、改定するたびに以前と異なって、わからなくなるばかりだ。

さて、少し調べたら奇妙なことがみつかった。

ユニセフ(UNICEF)が出版する「世界子供白書2017」という日本語の資料がある。
その表5:教育指標をみると、国ごとの様々な指標が示されている。
カタカナ表記だがアルファベット国名順にソートされていて、少しわかりにくいが、ブラジルはBだからかなり前の方に出てくる。

15-24歳の識字率が男98%女99%とは、びっくりである。
この数字があと50年継続したのならば、74歳までの人口の99%が識字できるようになるではないか。
信じていいのか?
今は農村地区にもインディオ居住地にも小学校はあるから、信じてよい根拠はある。

同じ資料によると、前期中等教育の純就学率が男女平均で78%(2011-16)と、話が違うぞ。
67%じゃないのか?

しかし直近のIBGEによる2018年の数字でこれだけ中途退学、それも初級からの脱落が多いということは、ポルトガル語学習が不完全なままで学業をやめてしまう子供や若年が多いということであろうから、15-24歳の識字率99%という数字は、信用できないものかもしれない。

成人の識字率調査が困難なことはわかる。
この日のニュースでは言及されなかったが、analfabetismo funcional 機能的非識字といって、自分の署名をできるからといっても、完全に読み書きができるわけではないのだ。
「あなたは文盲ですか?」という聞き方はないだろうから、「字を書けますか?」と聞かれたとき、読み書きはできないが、人に書いてもらった手本によって自分の名前をかろうじて書けるに過ぎなくても、「書けます」と答えるだろう。
国勢調査などの訪問調査員が「今から私の言うことを書いてみろ」などと、確認の試問などするわけがない。
そこは自信満々のブラジル人である。
書けますと肯定しても嘘ではない。

左官仕事などの領収書に署名を求めると、「拇印ではだめかね?」と言われることもあるし、そんなときには後からだまされたなどと難癖つけられないように、書かれた文章を朗読してやって「これでいいかね?」と念を押して、特に数字を見てもらってから拇印を押すことになる。
文章を読めない人から見れば、これは白紙領収書に拇印を押すようなものかもしれない。
証人がいない限り、朗読する相手を信じるしかない。

日本の数字が出ていないが、そもそも就学率が100%と全員就学だから、調査しなくても100%とみなしているらしい。
「分数がわからない大学生」がいると聞いたので、現在の日本の若年がみな文章を読めるものか、こちらも怪しいものだ。

2019年6月22日

冬至に思う

今日2019年6月21日は、当地南半球で冬至である。
昨日から日本の夏至が、6月21日であると言っている人と22日だと言っている人がいる。
この場合夏至でなく、夏至日といったほうが正確だ。
多分例年は6月21日である年が多いからだろう。

以下は、太陽や月の動き、世界の暦・時刻や天気を見たいときに参考にする、
https://www.timeanddate.com/
によるデータである。

ブラジリア 15º48'S / 47º53'W UTC-3
June Solstice (Winter Solstice) is on Friday, 21 June 2019, 12:54 in Brasilia.
In terms of daylight, this day is 1 hour, 53 minutes shorter than on December Solstice.
In locations south of Equator, the shortest day of the year is around this date.

東京 35º41'N / 139º42'E UTC+9
June Solstice (Summer Solstice) is on Saturday, 22 June 2019, 00:54 in Tokyo.
In terms of daylight, this day is 4 hours, 50 minutes longer than on December Solstice.
In most locations north of Equator, the longest day of the year is around this date.

なるほど、それなら日本(UTC+9)より1時間遅い時間帯であったら、夏至は21日23:54であるから、夏至日は21日であるはずだ。

北京 39º55'N / 116º23'E UTC+8
June Solstice (Summer Solstice) is on Friday, 21 June 2019, 23:54 in Beijing.

メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」を、一年に一度、本当の夏至の夜しか聴けないという厳しい決まりがあったなら、北京ではもう昨日で終わりになっているが、日本ではまだ22日だから聴くことができる。
幸いそんな決まりはないから、どうでも良いことだが。

稚内 45º25'N / 141º40'E UTC+9
June Solstice (Summer Solstice) is on Saturday, 22 June 2019, 00:54 in Wakkanai. In terms of daylight, this day is 6 hours, 57 minutes longer than on December Solstice.

さて、引用したデータにあるが、昼の長さを冬至と夏至で比較した差はどうか。
低緯度 ブラジリア 15º48'S:1h53m
中緯度 東京 35º41'N:4h50m
高緯度 稚内 45º25'N:6h57m

だからブラジルのこのあたりでは、冬至だと言っても、夕方すぐに日が暮れて、寂しい気持ちになることが少ないのだ。
どちらにしても、寒波が来ていないときは、冬至の季節でさえも逢魔が時に、半袖シャツと短パンで公園へ歩きに行っても寒くないから、秋の侘しさや冬の厳しさからは程遠い。

2019年6月9日

普通ならつぶれてるだろベネズエラ

ごく最近(2019年6月)の国連の発表によると、ベネズエラからの難民と移民は4百万人に達した。
国連のWorld Population Prospects 2017による、2015年のベネズエラ総人口推計値が3千115万5千人であるから、国民の10人に1人以上が逃げ出したというものすごい勘定になる。

こんな状況になっても何ら心配しないと言うか、もう何もしないが権力だけは手放したくないというマドゥロ大統領というのは驚嘆の的ではある。
前任のチャベス時代はまだ難民垂れ流しという状況までには至らなかったが、マドゥロがかなり無理して大統領になってからは、石油の生産量が半減しようがインフレが年数十万%になろうが、国民の10人に1人が消失してしまおうが意に介さないで、びくともしない(わけではないが)からくりについて事実を基に想像してみたのだった。

日本のポータルサイトのコメントの主張で多いのは、難民や移民という人たちはどうして自分の国に踏みとどまって住みやすくするように頑張らないで、疎んじられるのを知りながら、外国へ行って迷惑をかけるのか、というものである。

ベネズエラに帰ってきても食べ物も医薬も常に不足してるし、停電続きであるという苦難を考慮に入れないで単純に考えてみるのだが、この人達が全てベネズエラに戻って選挙人登録ができれば、現在マドゥロとグアイドが拮抗していると仮定すると、グアイドはマドゥロに10%の差をつけて大統領選挙で勝つようにも思う。
しかし一回犯したことだから当然のように、マドゥロは選挙妨害をするというか、選挙人登録を拒むだろうから、苦難に立ち向かう決心に反して意味のない帰還になりそうである。

彼らの行き先で一番多いのは、隣のコロンビアである。
接する国境は地続きである。
続いてペルー、チリ、アルゼンチン、以上は全てベネズエラと同じスペイン語が話される国だが、似てはいるが異なる言語のブラジル(地続き)と続く。

同じスペイン語を話す国だからといって、祖国を後にするのに抵抗はないというわけではない。
自国民の仕事を奪うと敵視されたり、差別されることもあり、仕事を見つけるのに苦労がある。
居るも去るも「前門の虎後門の狼」である。

2019年6月6日

コンビニより多い弁護士

ブラジル政府が検討している銃器所有と携帯の緩和について、弁護士などに銃器携帯を許可したらとんでもない、と前回書いたのだが、ブラジルでどれだけ弁護士が多いか見てみた。

World Population Prospects 2017からダウンロードしたワークシートによると、
ブラジル人口推計値 2015年 205,962,108
日本人口推計値 2015年 127,974,958
である。

上の人口に、ブラジル弁護士会からの大雑把なブラジルの弁護士数110万を、データの年が多少違っているのは無視して、除算してブラジルの法曹一人当たりの国民の数を求めると、187人となる。
弁護士ドットコムキャリアのサイトの弁護士の人数の推移と今後のシミュレーションによると、「平成13年に18,246人であった弁護士の数は、平成27年3月31日時点では36,415人にまで増加」とある。
同ページにある、各国の数字と比較している表に入れてみる。

法曹一人当たりの国民の数による比較
法曹人口 法曹一人当たりの国民の数
日本 36,415 3,514
ブラジル 1,100,000 187
アメリカ 941,000 290
イギリス 83,000 710
ドイツ 111,000 740
フランス 36,000 1,640
注:引用元データに対して、日本のデータ差し替え、ブラジルのデータ追加

これはすごいぞ。

データ元サイトの解説に従って一言注釈をつけると、日本には司法書士や行政書士、社会保険労務士等のような、隣接法律職と呼ばれる職業が存在するが、諸外国には、このような隣接法律職が存在しない国も多い。
米国もブラジルもこのような細分化した隣接法律職は存在しない。
そのような職業人が含まれた大きな数字がブラジルや米国であり、含まれない小さい数字が日本のものである。
その結果、何でもかんでも弁護士である。

そしてブラジルも米国も訴訟社会である。
ブラジルの特徴としては、労使関係に特化した労働裁判所があって、労働裁判というジャンルがある。
労働組合対企業組合のような大集団の紛争もあるが、大部分の訴訟の係争金額は少なめのことが多く、労働弁護士は訴訟の数で勝負する。
単に弁護士数の大小だけ見て、その過剰・不足を語ることはできない。

さて、ブラジルにコンビニは、あまり普及していない。
夜間ワンオペのような運営だと強盗被害にあいやすい、労働法や労働組合の力が強く、夜間労働を強いるコストが高い、何が何でも身近なコンビニで用を足すという考えがブラジル人にはない、いろいろコンビニが普及しない理由は考えられる。

日本にはコンビニがたくさんあるような印象を持っている。
外国から見るとそう見えるのかもしれない。
たくさん乱立しているように見えるのは、大都市の一部分かもしれない。

コンビニ店舗数の現状をさぐる(2018年7月時点)で不破雷蔵氏が、日本フランチャイズチェーン協会が公開している資料を基に計算したデータがあり、年度ベースでのコンビニ店舗数の最新値は2016年度分で、全体で57,818店とある。

先の国連のサイトの人口2015年推計値から計算すると、日本のコンビニ一店当たり人口は2,213人となる。

日本でもっと身近にたくさんあるのが自動販売機である。
これがブラジルで少ないのは当然理由がある。
昔はインフレが激しく、機械を価格調整したり新貨幣に対応させたりする手間が、自動販売機による省力より面倒だったのかもしれない。
現在では当然、人気のない場所の自動販売機が無傷である日本と段違いの治安の悪さのせいで、ブラジルの危ない場所では、機械が一日ともたない恐れがあるからだろう。

ITmediaニュースの自販機の普及台数、年間500万台を割り込む 販売効率重視でによると、2016年の自動販売機の普及台数は494万1400台ということなので、同様に一台あたりの人口を計算すると26人である。
さすがにこの数の多さには、ブラジルの弁護士数でも勝てない。

珍しい、つまり人口割の数が少ない順に並べてみる。
日本の弁護士 3,514人に一人
日本のコンビニ 2,213人に一店
ブラジルの弁護士 187人に一人
日本の自動販売機 28人に一台
表を組んでみて、一体弁護士とコンビニの数の比較に何の意味があるのか馬鹿らしく感じてきたが、貴重な結論である。
日本社会の身近なものと比較してみると、ブラジルの弁護士は日本のコンビニより、出会う確率は12倍も多いが、さすがに日本の自動販売機と比較すると六分の一くらいである。

2019年5月30日

銃があふれそうなブラジル

前回銃規制緩和の政令について書いたのは、これまでニュース記事などで聞き流すだけであった銃器の種類が、その威力と共に体系付けられて、図解と共に説明されたからである。
別に銃器マニアになりたいわけではないから、そんなことに詳しくなっても何の得もないとも言えるのだが、これから時事問題を語るときに、銃器の分類や威力を知らないでは語れないようになりそうなのである。

ここで市民という用語は、警察を含む軍人その他の特殊職業と対になる概念で使われる。
これまで市民への銃器の許可は、狩猟、収集とスポーツ射撃目的の場合に認められている。
警察を含む軍人だけでなく、判事のような司法に従事する職業にも認められている。
イタリアのマフィアを裁く裁判官は命がけであるが、職業柄しかたないので、武器携帯を認めるから自分の身はどうぞ勝手に自分で守ってくださいというのも殺生な話で、女性警察官や軍人ならともかく、銃など馴染みそうでない女性判事や検事はどう思っているのだろうか。

市民への銃器の許可については、所有(posse)と携帯(porte)が別々に扱われる。
所有は居住する住宅や市街の外の農村施設に、銃器を所持することである。
そのため銃器を使用する場面は、住宅や農牧場の敷地内部への侵入者に対する自己防衛に限られるはずである。

一方携帯は、所持する銃器を自分の住所外へ携帯して持ち出すことである。
これは危険を伴う職業など、ある条件を満たすものに対して認められる権利である。

いずれにしても誰にも無条件で所有や携帯が認められるわけではない。
最初の前提が無犯罪であって、試験はないと思うが、自動車運転免許と同じように射撃教習所での教習と、どれだけスクリーニングできるのか私にはわからないが、心理学的適性試験が必須でこれに全部通らなければ認められない。

基本的に適格者である市民の銃器所有は許可されるようである。
私見では銃器の所有は、農村地域に限っては認められてもよいだろうと思う。
警察の見回りが頻繁にできる都市地域では、自宅に銃器を所有する必要性は大きくないだろう。
もちろん見るからに金を持っていそうだと目されるような派手な大邸宅で、自分で銃器の管理が完全にできるという自信のある人が持つのは、まあまあ許せるかもしれない。

広大なブラジルの農村地域に、いつでもどこでもくまなく警察力を巡らせるのは、事実上無理な話である。
農場には価値のあるものが多い。
牧場の動物や倉庫の収穫物だけでなく、トラクターやハーベスターのような農業機械や、農薬には高額なものが多い。
しかし農村地域の農牧場の強盗は、例えば牛泥棒を想像してもらえればよいが、かなり大人数のグループでないとできないので、守る側もかなりの人員と武器が要りそうで、実際有効なのか危惧はある。

都市部の銃器所有についてであるが、警察力の欠如を政府自ら認めて勝手に自己防衛してくれと半分さじを投げた形になると感じるのは私だけだろうか。
銃器拡大派の意見は、下手すると犯罪者が、警察を凌ぎ軍隊並みの銃器を密輸などで手に入れるのだから、市民側も対抗するための銃器を持てなければ釣り合いが取れないというものだ。
一理あるのだが、一般市民の所有者が銃器をきちんと安全に保管できるかどうか、非常に心配である。
軍や警察だったら、一応使っていないときの銃器保管については適切な武器庫に格納されるだろう。
それでも不良軍人や警官による武器横流しのような事件はたまに起きる。

これが一般市民の場合に、住宅や店舗の敷地への侵入者に対して守備を行使するという本来の目的以前に、保管のルールが決まっていないと、子供が銃器をいじる事故に遭ったり、これまで密輸業者に代金を払って銃器を入手していた悪党が、空き巣や強盗などの犯罪に多少の手間を掛けてまで、タダで銃器を手に入れようと考えても不思議ではない。

携帯に関しては余計心配である。
これから携帯を許可していこうという対象に、市会議員とか、弁護士のような職業に大判振舞である。
国会レベルの議場で暴力沙汰が起きるのは、ニュースで見る限りアジアの国々に多いような印象があるが、ブラジルもないわけではない。
ましてや地方議員に至っては素性のわからないのが結構いる。

難しい試験と定員が障壁となる判事や検事と違って、弁護士は法学部を卒業してブラジル弁護士会(OAB)の資格試験に合格するだけでなれるから、やたら数が多い。
OABによると全国に百十万人の弁護士がいるそうである。
もちろん全員が弁護士の仕事をしているわけではない。
でも銃器携帯に関しては、弁護士の仕事をしているかしてないかなど調査できない。
弁護士資格が条件だ。
弁護士全体の10%だけが銃器を携帯したいと思っても、11万である。

弁護士仲間の宴会など、危なっかしくて行けるものではない。
弁護士の夫婦喧嘩とか不倫騒ぎとか、考えたくもない。

ブラジルには血気盛んで荒っぽい性格の者が多いから、この手合に銃器の携帯を認めるのは害にしかならないだろう。

最もこの政令は違憲審査申請がいくつも出ていて、かなりの修正を受けるものと予想される。

2019年6月3日追加

今日発表された世論調査会社IBOPEによる聞き取り世論調査結果

銃器所有規制の緩和について
反対 61%
賛成 37%
わからない 2%

銃器携帯規制の緩和について
反対 73%
賛成 26%
わからない 1%

2019年5月24日

銃器について少し詳しくなる

ブラジルの銃規制緩和について、最近(2019年5月)出た政令では、市民が入手できる火器の威力が大幅にアップする。

銃器の威力は発射時に放出される運動エネルギー量(força cinética)で規定されて、今までは407ジュール(joules)までの銃器が許可されていた。
下の表で網をかけた銃種である。

日本語の名称nome em português口径運動エネルギー(J)
リボルバー32revólver 320.32"175
リボルバー38revólver 380.38"391
ピストル38pistola 3800.380"300
ピストル40pistola 400.40"676
ピストル9x19mmpistola 9x19mm9mm610
半自動カービン銃40carabina semiautomática 400.40"800
半自動カービン銃9mmcarabina semiautomática 9mm9mm600
小銃 T4fuzil T45.56mm1320

口径(en. caliber キャリバー, po. calibre カリブレ)は、銃口の内径で、インチの場合はその百分の一を一単位として例えば38口径、書くときはコンマがついて.38のようになる。
ポルトガル語で小数点はコンマ(,)であるが、この場合は小数点であっても日本語や英語と同じくピリオド(.)を使うようである。
ポルトガル語では例えば上表1番目の38口径は、レボルヴェル(・カリブレ)・トリンタ・イ・オイト。
カリブレを省略しても通じる。

ピストルの場合にポルトガル語でカリブレ38でなく380となるのは、多分モデル名から来る慣習だと思われる。
リボルバーは弾倉が回転するもの、ピストルは弾倉がマガジン式のものと理解している。

口径がメートル法だったら、ミリメートルが単位となる。
数字が並列するのは、口径×薬莢長

新しい基準ではこの限界値が、約4倍の1,620ジュールまでにも増える。
上表の網掛けだけでなく、全部がこの限界値に収まってしまう。

表の中では一番下にある最強の小銃T4は、軍隊でも使用されるアサルト・ライフルであるらしい。
T4はブラジル製造のモデル名である。
新しく市民の所有が許可される可能性のある銃器にある、カービン銃はライフルより銃身が短い小銃である。

批判の多いこの政令については、小銃や自動・半自動の銃器は市民には許可されない、最終的な銃種は防衛省が検討して決定するということなので、まだかなりの変更が加わると思われる。

(放送局Globoのポータルの、2019年5月20日付ニュース記事を参考にした。)

2019年5月19日

パチネッチで走ろっち

ポルトガル語で「パチネッチ(patinete)」という玩具とも乗り物とも言えるものがある。
さてこれは日本語で何と言うのだろうか?
この物の名前を日本語で呼んだことも、これについて日本語で書かれた文を読んだこともないのに気づいた。

ようやく調べたら、英語でscooterとか、kick scooterと言われるらしい。
scooterには動力付きと動力無しがあるようだ。
日本語では少し複雑で、キックスクーターは英語から直接の導入語で、キックスケーターは和製英語、キックボードは商品名とか、ややこしい。

「現代ポルトガル語辞典」白水社(1996)では、見出し語patineteは、
男性名詞 [子供用の、片足で地面を蹴って進む]スクーター
とある。
しかし、ニュースで解説していたが、
サンパウロでは、o patinete(男性名詞)
ベロ・オリゾンテでは、a patinete(女性名詞)
と異なるそうで、これも方言の一種だろう。
Wikipediaポルトガル語版には、o patineteと書いてある。
そして、聞いたことはなかったが、ポルトガルのポルトガル語ではtrotinetaと呼ぶのだそうだ。
日本語の呼び方のようにややこしい。

さてこれがサンパウロのようなブラジルの大都市内の、手軽な交通手段になっているとニュースに取り上げられた。
企業が多数購入して、契約ユーザーがシェアリングできるスマートフォンのアプリと共に提供するのだが、ユーザー自身が購入したり持ち運ぶ必要がないことから、最近9ヶ月足らずの新しいものであるのに、爆発的に広がっているという。
自分で蹴って漕ぐタイプではなく、充電式のモーター付きであるから、スピードはそこそこ速く、しかも疲れない。

このような子供が遊びに使っている、半分はおもちゃにみえるのだが結構スピードが出る物が、町中にはびこるとどういうことになるか。
歩行者との接触事故や、転倒事故が増える。
歩道へ乗り上げるところやマンホール設置の段差では、注意散漫でスピードを出していると、車輪径が小さいだけに乗り越えられなくて、すぐに転倒する自損事故が起きる。

なにぶん新しいものだから、法制が追いついていかない。
国の交通局(Departamento Nacional de Trânsito)は、歩道を走行するときは時速6キロ、自転車レーンを通行するときは時速20キロと定めている。

最近サンパウロ市は独自に市法を作り、ヘルメット着用を義務づけ、歩道上の通行を禁止して、自転車レーンと普通車の最高時速が40キロである道路の通行を認め、最高速度を時速20キロと定めた。
サンパウロでは全ブラジルに先駆けて、パチネッチを歩道から締め出し、車道へ追いやったのである。

なおブラジルで動力付きのこれを、公道で運転するのに免許は不要である。

2019年5月2日

薬漬け借金地獄にあえぐベネズエラ

日本が平成から令和への代替わりに熱狂していたころ、南アメリカのニュースはベネズエラに集中していた。

どちら側も自分が正統な政権だと考えているし、だから呼び方には困るのだが、一応継続していることからニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)大統領側を政府側、フアン・グアイド(Juan Guaidó)宣言大統領(presidente auto-proclamado)側を反政府側とここでは呼ぶ。

メーデー予定より一日前倒しされたと言われる4月30日の中途半端な蜂起の後、両者の不可解な数時間にわたる消息不明があってから、夜になって両者は再び表に現れて、それぞれの立場から表明をした。
5月1日は一見元に戻って反乱側は毎日街路で示威行動を進めていくようだし、マドゥロの演説は相変わらず威勢がよい。

しかしまさに中途半端に終わった原因であるベネズエラ軍の内部状況、正確に言えば司令部に対する忠誠度が微妙に綻んでいるようなのである。
多くの反乱側大衆や世界のマスコミが勘違いする元となった、グアイドの「行動を起こせ」声明では、彼の両側に軍服が何人も並んでいた。

米国のマイク・ポンペオ(Mike Pompeo)国務長官、ジョン・ボルトン(John Bolton)国家安全保障問題担当大統領補佐官などは十分な確信を持って、「ベネズエラの三権や軍部の一部などの説得によって、後少しのところでマドゥロのキューバへ亡命の瀬戸際まで追い込んだのに、土壇場でロシアが出しゃばって亡命を思いとどまらせた」と発表した。
米国の情報によると、2万5千人ものキューバ軍兵力がベネズエラ国内に駐留しているらしい。
もちろんロシアは関与を否定した。
でもロシア軍用機のベネズエラ国内での駐機が確認されているし、ベネズエラの舞台裏では米露交えて陰謀が渦巻いているとみえる。

しかし消息不明から戻ったマドゥロの声明では、彼と同席した多数の軍将官は、軍部の政府への忠誠を表明していた。

活字にはならないが、放送で口頭で伝えられた情報が興味深い。
マドゥロは定員より2千人も多い将官を任命して、高い給料を支払っているだけでなく、そのうちの多くの者が麻薬と武器の密売に関わって懐を肥やすのを認めている。
それだけでなく、上納金のように吸い上げた不正資金が選挙運動費用に使われているという。
自分でやっていなくても、これは薬漬けだ。

取引に関わっているのだから、自分ひとりでふけって勝手に破滅する常用者より質(たち)が悪い。
密売に関わって甘い目をみている軍将官は、政権が替わって米国へ引き渡され密売で裁かれるのを何よりも恐れているから、命をかけてマドゥロ政権を支える動機が極めて強く、軍の士気は高まる。

ベネズエラにくっついているのはロシアやキューバだけではない。
ロシアやキューバはあまり金を持っていないが、中国は余裕がある。
そして反米産油国からできるだけの果実を収穫しようと、中国はベネズエラ政府に大きく投資して貸しこんできた。
当然中国にとっては、政府が替わってしまって、「あれは馬鹿な前政権がやったこと」などと返済を渋られたらかなわない。
だから制裁をかいくぐっても、マドゥロ政権を支持しなければならない強い動機がある。

2019年4月30日の騒動では、25名のベネズエラ軍兵士がカラカスのブラジル大使館に亡命を申請した。
彼らのうち最高位が中尉であるというから、まだまだ将軍たちは体制側についている。

ベネズエラと接するブラジル・ロライマ州パカライマ国境で、ベネズエラ政府が一方的に国境を閉鎖して二ヶ月位経つが、一日あたり約250人だったブラジルへの亡命あるいは一時滞在を求めるベネズエラ市民は、この4月30日一日だけで約850人と急増した。

これからのベネズエラの行方はひとえに、グアイド側の民衆がどれだけ、マドゥロによる恩恵をそれほど受けていなくて不満を持つ下士官や兵士、それから密輸に手を染めていない正義の将官を説得して軍勢力を分裂して、反政府側に加勢させることができるかにかかっているだろう。

2019年4月21日

その後のキューバ人(医師)

題名に(医師)と、括弧を付けたのには意味がある。
昨年まではブラジル国内の医師資格を所持していなくても、プログラムの効力によって、ブラジル国外で取得した資格のみで医師として、主に過疎地域の住民を診療してきたキューバ人は、現在はブラジルで医療行為ができないからである。

労働者党(PT)政権が2013年に始めた「もっと医者を」プログラムは、2019年1月就任の赤嫌いボルソナロ大統領が、キューバ政権と袂を分かつために中止したものだが、その後の情報が最近報道されたので記しておく。

プログラムが中止された2018年12月の時点で約8千5百人いたキューバ人医師は、本国へ帰国か、ブラジルで医師以外の仕事に就きながら資格有効化試験に合格してブラジルの医師資格を取得するかの選択を迫られた。
2019年4月18日のGlobo局報道によると、8千5百人の内、2千人ほどのキューバ人は本国に帰国せずにブラジルで生活していく道を選択した。
帰国組76%、居残り組24%という割合であった。
4人に1人が居残りとは、なかなか高いのではないか。

サンパウロ市から西方へ約100キロの地点にソロカバ(Sorocaba)市がある。
この町に今年キューバ風バーができた。
キューバ風に飾った飲み屋で、キューバ音楽をかけて、キューバのドリンクや料理を供する。
料理人もウェイターも従業員は皆、元キューバ人医師であるのが特徴だ。
元キューバ人医師がバンドを組んでキューバ音楽を奏でたら完全だったろうが、ミュージシャンはいなかったようである。

ブラジルでは一般化して、アプリカチーヴォ(aplicativo)の運転手と呼ばれる、Uberなど配車アプリのドライバーになった人もいれば、エステサロンでエステティシャンになった人もいる。
いずれにしても昨年まで、診療所で治療をしてあげた元患者たちが、お客としてついてくれるようで、慣れない職業についたのだが客が全然来ないという、苦しい状況ではないように見受けられる。

そして誰もがブラジルでの医師資格取得を目指して、難関の医師資格有効化試験への勉強にも励んでいるようである。

ボルソナロ政権のもとで、キューバ人医師の抜けた穴をブラジル人医師で補充しようと、昨年12月には募集採用が行われ、新卒無経験の医師までかき集めた形で定員をほぼ充足したのであった。
それから3ヶ月経ったのだが、約1千5百人の新任ブラジル人医師は、早くもポストを辞退して、特に過疎地の診療所で医師不足になっているところがある。
資格を取って欠員補充に応じさえすれば、キューバ政府に報酬のピンハネをされることなく、まるまる自分の収入になるのだから、試験勉強にも身が入るはずである。

マスコミが絵になる映像を求めて、ヤラセや仕込みをすることは洋の東西を問わないから、これも作られた映像だろうと思って見ていたのであるが、壁に吊るされた、"Dr.〇〇"とネーム刺繍の入った白衣と聴診器を背景にして、分厚い本を開いて試験勉強に励む姿には、悲壮感はない。

しかしながら、報道によると現在のところ、ブラジル政府は次回の試験の予定を発表をせず、時期は不定のままである。

2019年5月2日追加

昨夜、キューバ人医師の抜けた医療過疎地のルポ番組を見た。
家族をキューバに置いてきた男性は、インターネット上のメッセージアプリで幼い子供を見て、会えるのは8年経ってからと言った。
キューバ政府の帰国命令に従わずにブラジルに居残ったキューバ人(医師)は、8年の禁止期間を経た後でないと本国へ帰国できないそうである。

2019年4月17日

ブラジルの架電ロボット

これが字違いの「家電ロボット」だったら、ブラジルにもこんな進んだものがあるのかと誇ることができただろうが、残念ながらそうではなく、「架電ロボット」である。
機械的ロボット(robot)と区別するために、IT界では、ロボットの短縮形のボット(bot)がしばしば使われる、という記述があるから、それに従うと、架電ボットとなるだろう。


前に、セールス目的と思われる謎の電話の瞬切りについて、ブラジルの不審電話に書いた。
これについてある日のニュース記事に解説がされて、ボットのせいであることがわかった。

何が目的で、どのような仕組みでボットが働くのか。

携帯電話や一般家庭の固定電話に、ひっきりなくセールスの電話がかかってくる。
インターネット接続、衛星やケーブルテレビの契約、携帯電話、クレジットカードのセールスが多いようである。

特に、携帯電話と異なり、必ずしも発信者番号通知機能が備わっているとは限らない固定電話にかかって来る発信先に、ブラジルの通常の電話番号規則から外れている、一目で怪しい不審番号が多い。
0022222222とか0033333333とか、インターネットに接続されたボットが、実在しない番号を適当に装って付けているのだろうか。

ある一人のテレフォンオペレーターが、セールス通話を終えて手すきになったとしよう。
オペレーターの目の前の端末が属する潜在顧客番号管理システムの架電ボットは、前回架電してからある程度時間の経っている番号から、たった一つだけではなく、任意に7つの番号を選んで同時に架電する。
7つの架電先の中で一番先に受話器をとった番号がオペレーターに接続されて、要りもしないモノをなんとかして売りつけようとするセールストークと戦わなければならない不幸な目に合うのだが、残りの6つの番号は次のオペレーターの手がすくまで保留されるのでなく、通話は破棄される。

つまり、目的は電話呼び出し時間の最適化と、応答率向上であるということができる。
そして、通話破棄と呼び出し切断のタイムラグの中で受話器を取ると、もう切れているというワン切り的状態になることが判明した。

日本とブラジルで電話のシステムは同一でないだろうし、両国で電話による取引に関する規制も異なるだろうから、ブラジルで起きるような「ワン切り不審架電」が、日本で起きうるのかどうかはわからない。
こんな通話が病人のいる家にひっきりなしにかかるのではたまらないだろうが、日本と違ってブラジルでは、週末のフェスタの大騒ぎなど、隣家の騒音にかなり寛大であるから、ワン切り不審架電くらいでは国民的大問題になることがないとは考えられる。

それでも、夜8時から翌朝8時まで、及び週末はこの手のセールス通話は禁止されていたと思う。

2019年4月8日

水星に突然の邂逅

2018年12月の南半球の夏至のころ、次のように書いた。

水星は、わざわざ「観察するぞ」と意気込んで、しかも一年の中でどの時期のどの時刻にどの方向を探すべきか、あらかじめ調べておかないとなかなか見ることができない。

たしかにその通りなのだ。
2018年12月には、水星は西方最大離角にあって、暁の東の空に見えた。
見通しの良い場所を求めて、1キロ位歩いて公園に行った。
実は家の前の通りに出るだけで、屋根の低い場所を東方に探せば見つけることはできた。

2019年2月19日には、わが家の西側の通りに面した高い塀にはしごを掛けて、塀の上に顔を出し、日没後間もない19時から19時15分ころまで、西の空に東方最大離角を迎えようとしていた水星を見つけた。

いずれにせよウォーキングをしたり、塀まで登り、双眼鏡を使うという、コストと言うか手間を掛けなければ見つけられない高度と明るさだった。

しかし、偶然に出会うということもあるのだ。

2019年4月7日朝5時45分のことだった。
家のダイニングからは東の空が見える。
その方角には通りと反対側の隣家の塀がある。
データに示すとおり、少しずつ明るくなっていく直前の、暁の夜空だった。
塀のかなり上に金星が見えた。
そのすぐ下に、明るさが及ばないため、金星よりは小さいが、この暁の東の空の明るさに負けない光点がある。
手持ちの双眼鏡の視野にぎりぎり入ったから、距離角度は6.3ºである。
こんなところにこんなに強い光を放つ星があるとは、もしや水星ではないかと、スマホのSky Mapを作動させた。
やはり水星だった。
事象EnglishPortuguês時刻
天文薄明Astronomical twilightCrepúsculo
astronômico
5:08
航海薄明Naval twilight
(Nautical twilight)
Crepúsculo
náutico
5:33
観察開始5:45
市民薄明Civil twilightCrepúsculo civil5:59
日の出SunriseAmanhecer6:21
肉眼で目視できたのは最初の瞬間だけで、早速取ってきた双眼鏡で2分ほど観察できたものの、地平線側に湧き起こってきた雲に隠されてすぐに見えなくなってしまった。
いや、儚い邂逅であったものよ。

後から日本の天文サイト、アストロアーツを見たら、2019年4月12日 水星が西方最大離角ということである。
しかし、記事によると、東京での日の出45分前の水星の高度は約3度というから、よほど東方に何もない開けた場所でないと見えないのではないか。

疑問を解くために、以前も参照したさいたま☆天文同好会の内山茂男氏による、水星の最大離角をみる。

西方最大離角のときの日出時高度というグラフを見ると、4月初旬のころ、パースや赤道の南半球側では高度が一年中で最も高く25度位、反対に北半球の埼玉では12度位と、水星の見やすさは大違いである。

たしかに東側の塀の高さは、手を伸ばした握りこぶし2つ分くらいなので、山上企画天文情報いろいろの手の分度器~身体を使った角度の測り方を参考にすると、約20度とみる。
それより少し高いところに見えるのだから、水星の高度は二十数度だろう。

星見アプリを使ったり、天文サイトを参照する前に水星を見つけることができたのは、これまでに何回かこの惑星を探して観察していた経験があったからだと思うが、旅行中これまで行ったことのない町で、旧知の人に出会ったような驚きを感じるものだ。

家から一歩も出ずに窓越しに、高度が低く観察条件が限られている水星が見えるとは、全く予期していなかった。

2019年4月1日

令和前1月雑感

紀元前○○年という言い方に従うと、今日は令和前1月である。

頭文字だけでも当てたかったが、私推しの"K"ではなく、"R"となった。

令和である。
今変換を試みても、Google日本語変換の候補に引っかからない。
令和の披露後、初めてパソコンを起動して1時間も経っていないからまだ反映されていないのだろう。

まず気づくのが昭和との一字一致である。
きっと現代の有識者と評されるはずである、元号考案者も審議会も、昭和の記憶を忘れられない人たちなのだろう。
新鮮さに欠けて、少し残念である。

誤解をしないように、「令」について、昭和時代の紙の漢和字典「新字源」から写しておく。
一、いいつける。命じる。つげる(告)
二、いいつけ「命令」
三、おしえ。いましめ。
四、のり。おきて。法律。「法令」
五、おさ。長官。「県令」
六、よい(善)
七、他人の親族に対する敬称。「令兄」

万葉集から引いた「令月」は、この字典によると、
一、よい月。「令月令日」
二、陰暦二月の別名。

万葉集のある歌会についての、漢文で書かれた序文では、「初春令月、気淑風和」。
「初春のこの良い月に、気は良く風はやわらか」という意味(国文学者の辰巳正明氏の説明)。
よし、原典の意味はわかった。

つぎ、平成からの流れを考える。
平成と令和の文字を並べ替えると、令成和平→冷静和平となる。
何かと感情的にアツくなることが多いが、冷静になって和平を追求せよ、というメッセージが込められているのだと無理やり考えてみる。
そんなわけないか。

タカナワ、と来たら、ゲートウェイと続くが?
レイワ、だったら、ピース・エラとかなるのか?
令和ピース・エラ元年!
元号に余分なものがつかないように、地名・駅名も変な修飾はみっともない。

外国語との読み替えである。
ブラジル人にReiwaを読んでもらうと、地方による訛りはあるだろうが、「ヘイワ」と読む人が多いと思う。
当然「平和」と聞くことができるから、良い印象である。

スペイン語だと、Reiwa の字を等音的に書き替えて読むと、(El) rey va 王様は行く、という意味になるが、これはあまり意味的なこじつけをしにくい。

BBCは「令和」の訳を"Order and Harmony"または"Order and Peace"としているようだが、ブラジル国旗の中の文句"Ordem e Progresso"(秩序と進歩)と通じるところがあるのが少しうれしい。
原典の意味に忠実に従うと、"good and bland"となるのだろうが、会話でたまたま「それはどういう意味かい?」と聞かれるときにその答えは、その時点で固まっているであろう定説に従うことになるだろう。

最後に戯れ言をひとつ。

令和年間は、算数・数学教師をはじめ数学者災難の時代だね。
毎年ごと、0(れい)は1(元)年、0は2ね(ん)、0は3ね(ん)、0は4ね(ん)と、無理難題というか、無茶な命題をつきつけられるからね。

2019年2月17日

嘉栄元年五月一日 = K1.5.1

今日の日曜日は2019年2月17日である。
2月の第3日曜日であるこの日は、2018/19年夏時間(サマータイム)が終了した日である。

ブラジルの夏時間の期間については、昨夏までは南半球の夏至を挟む前後2か月ずつ合計4か月を夏時間にしようという、天文学的事実に基づいた、極めて論理的な規則であった。
つまり10月の第3日曜日0時から翌年2月の第3日曜日0時までが夏時間、という明快な規則だった。
しかし、2018年のブラジル総選挙の二次投票が夏時間に入ってしまうと都合が悪いという人間社会的理由で、今回の夏時間から、11月第1日曜日に夏時間に入って、翌年2月第3日曜日に終了するという、暦的にはいびつな形になってしまった。

さて、日本にも論理的なのかそうでないのかよくわからないものがあって、しかもそれが最近の話題となっている。
改元である。

昔から、明治や大正を西暦に変換しなければならない必要は、全くと言ってよいほどなかった。
日本近代史を全く勉強したことがないのではないかと思ってしまう。

海外での日々が長くなるととっさに元号年を聞かれてわからなくて、計算に手こずることになる。
昭和(S)と西暦(AD)は、一番慣れていたものだった。
マジックナンバーは25であって、
25 + S (+1900) = AD
である。

平成(H)と西暦(AD)は88というナンバーが出てきて、
88 + H (+1900) = AD
であるが、西暦を和暦に変換する場面が多くなったので、
AD (-1900) - 88 = H
2000年を超えると繰り下がりが出てくるので、それを避けるようにすると、
AD (-2000) + 12 = H
となる。

次の元号を考える人や評議会が、ローマ字で重ならないようにする考慮などしないだろうが、近代では M, T, S, H ときたから、次に何が来るのか気になる。

巷では次の元号の予想をする人もいるが、私も予想した。
正確には予想でも何でもなくて、単なる想像であるが。
「嘉栄」または「嘉永」
最初は「華麗」とも考えたが、キラキラしすぎるので、似た響きから「かえい」を採用した。
「嘉永」は1848年から1855年まで実在したので、必然的に「嘉栄」だ。
なぜか手書きで書いたこともないのに、「嘉」という字が気に入った。
辞書を見ると「すばらしい、りっぱな」という意味である。
そして、ローマ字頭文字で'K'である。

2019年5月1日から嘉栄元年となるのだから、マジックナンバーは18で、
AD (-2000) - 18 = K
になるから、今から記憶しておこう。

Meiji
Taisho
Showa
Heisei
Kaei

漢字だと難しいがローマ字だと短い。
当たるはずはないが、なかなか良いでないか。
(単なる自己満足…)
Kだけでも当たったらいいな。

2019年1月31日

ブラジルのダム決壊メカニズム

どうしてダムの決壊が気になるのか。

まず、ブラジルを代表する産業(鉱業)の最大の企業(Vale)が主体の事故であることであり、そのため同様の事故が別の鉱山で起きる可能性がある。
第二に、Vale社内で、加害側(経営)と被害側(従業員)両方に関わっているので、労使問題がどのように解決されるのか。
第三に、汚泥が下流に達するまで何十日もかかる、日本では地形的に考えられない状況の環境汚染が長期間続くと予想される。
第四に、両者とも就任して1ヶ月経たないうちの大災害に、ボルソナロ大統領の連邦政府とゼマ知事のミナス・ジェライス州政府がどのように対応していくかが気になる。
最後に、意識したことはなかったが私自身がかなりダム厨の気質があるようなので、事故の責任問題と関わる土木技術についての情報自体が興味深い。

さて、ダムの設計や施工がいい加減だったという危惧に一部答えてくれる情報があったので載せる。
後から判明した情報によって、先のブログに書いた表現の数値を訂正して再録すると、適当な谷間に16メートルの堰を建設する→鉱滓を貯める→一杯になる→最初の堰の上に16メートルの堰を積み増す、というサイクルを繰り返して、ダムは段々畑のように積層状に高くなって5段80メートルに達するということである。

少しでも土木やダムに興味のある人なら、図を見てもらえば説明は不要だろう。
図は放送局GloboのサイトG1から借用

  1. 上流方向伸張 - 一番安い構造
  2. 下流方向伸張 - 安定性が高い構造
  3. 中心線 - 中間的な構造
「原因はまさかこれではないか?」と危惧した推測がほぼ当たった。
今回決壊したブルマジニョも、2015年のマリアナも、ダムの構造は図1の、伸張する堰が貯蔵されている残渣の上部にかかっていて、川の上流方向へ伸びる、一番古い方式で、安く上がるが安全性に不安の残る構造で作られていた。
安全性が高い図2の下流方向伸張は、図1の上流方向伸張の3倍のコストであると解説された。

つまり、下から2段め以上の段は、貯留されている水分が抜けきらない鉱滓の上に一部が乗っかっているという不安定な構造であったのた。
貯留鉱滓の高さと容量のため圧力が増すと、上部の堰段を支えなければならない、堰の下に当たる部分が液状化して堰が崩壊する、ということだろう。

2019年1月30日になって、ボルソナロ連邦政府はこの古い方式で作られた全国の鉱滓ダムの緊急点検を命じた。
同日Vale社経営陣は、この古い方式で作られた同社所有の10のダムを使用停止(descomissionamento)、つまり多分鉱滓の投入を止め、排水を行って鉱滓を乾かして土に戻してから植林をするという決定を行った。

ダムを設計施工する企業と、監督認可する政府であるが、誰も全く危険性を予知できなかったのか、誰かは危険性を予知していたのか、予知していたのなら何らかの対策が取られたのか、これから解明されることだろう。

時期尚早だが、外れ承知で予想してみる。
産業振興を環境保全に優先する姿勢を見せている、就任1ヶ月未満で事故に見舞われたボルソナロ新政権であるが、まさにその時期ために、野党から環境政策の不在を責められることはなく、逆に過去の政権のせいにすることは、敢えてやろうと思えばできるだろう。
報道の断片から判断すると、産業界に過重な負担をかけないように、不問とはいかないだろうが過去については深く問わず、現在から将来にかけての安全対策に重点を置く処置をとっていくのではないかと思う。

2019年1月30日午後発表で、死者99名、行方不明者259名であった。

2019年1月30日

命あっての勝ち組

Vale社はブラジルで最大の鉄鉱会社である。
2018年の純利益135億レアル、総資産3423億レアル、純資産1667億レアルと資料にある。
最近の為替は1レアル=29円くらいである。

Vale社へ入社するのは大変である。
いくらブラジルでは相対的に大卒が少ないといっても、このような超大企業は就職競争が激しい。
特にエンジニアだったらこのような大会社で、でっかい仕事をしたいと思う人が多いと思う。
そして、ブラジルでは誰でも知っているこの会社の給料は高くて、福利厚生は手厚いはずだ(調べてないから断定はしないでおく)。
白黒つける物言いは好きではないし、ブラジルではこういう言い方はしないが、当然入った人は勝ち組とみられる。

2019年1月29日午後の発表では、ダム決壊の死者84名、行方不明者276名である。
今回のダム決壊の特徴は、死者・行方不明者の大半がVale社員と出入り業者であることである。
付け加えておくと、もっと下流にあったリゾートマンションの従業員と宿泊客が三十人ほどいる。

なぜか?
決壊したダムの下流の氾濫原に、事務所と食堂が建っていて、事故が昼過ぎに起きたとき、多くの従業員が昼食をとっていた。

少し話はそれるが、日本でも似ている主張がある(あった)。
「そんなに原発が絶対安全というのならば、どうして(消費地の)東京湾岸に原発を建てないのか」
結構言い古された命題である。

Vale社の、事務所や食堂という従業員が集中する施設と、決壊したダムの位置関係である。
この鉱山プラントの配置を設計したエンジニアは、ダム決壊など決して起こりえない、だから事務所や食堂をすぐ下流に設置しても何も心配することはないと思っていたからこそ、現実にそういうレイアウトになったのだろう。

今となって「〇〇はいつも(事故が起きるのではないかと)不安だと漏らしていた」と発言する、行方不明従業員の家族もいる。

その立地がもたらした損害がどれだけ大変なものか。
事務所・食堂地域を覆う泥の厚さは14~15メートル、破壊した食堂の建物の構造物の破片が、800メートル下流の泥の中に発見されている。
こんな強烈な破壊力で建物ごとなぎ倒された状況を想像すると、泥流の圧力に負けずに形を保つことができた強固な建物の中で、十分な空気とともに人が生存している可能性は限りなく低いと思う。

2019年1月29日月曜日は災害当日を含めて4日目であった。

行方不明者の家族に携帯電話のSIMカードを配布して、情報伝達用に使うとの発表があった。
どのようにこの情報伝達システムを運用するのかは不明だが、情報伝達を専有一本化・テキスト化して、どこの誰が情報を持っているのかわからない、情報が間違っている、漏れている、言った言わないでもめる、といった情報の錯綜にまつわる問題を減らすために役に立つだろう、良いアイデアであると思った。

ブラジル陸軍やイスラエル陸軍の救助部隊がミナス・ジェライス州消防・警察に加わって救助活動は続いている。
主題と全く関係はないが、ミナス・ジェライス州消防のスポークスマン、ペドロ・アイハラ中尉(ブラジルの消防は軍組織である)は、イケメンの日系人である。
他州の消防の救援も駆けつけた。
避難のため無人になっていた区域で、空き家を荒らしていた複数の盗人が逮捕された。
夫婦喧嘩がこじれて一方が放火した家屋が、たまたま救助のオペレーションセンターの隣家だったために、ヘリで発着していた消防の救助隊の人員が消火のため作業中断させられる、はなはだ人騒がせな事件が起きた。
要らぬ騒ぎのため、救助や治安維持に必要な人力を無駄に損耗しないでもらいたい、と遠くに住む普通の人々は呆れている。

各地で自発的な救援物資キャンペーンが起きているが、物資搬送に問題があって食料などが無駄になる可能性があるため、要求物が明らかになるまで見合わせるように報道されている。

Vale社の地質学者、環境責任者およびパラオペバ川コンビナートのオペレーション責任者の3名がミナス・ジェライス州内で、ダムの安全評価を請け負ったサンパウロ市にあるドイツ資本のTüv Süd Brasil社のエンジニア2名の合計5名が、昨年6月と9月に作成された2つの安全評価報告書の改ざんの嫌疑があるため、証拠保全の目的で、ミナス・ジェライス州警察により逮捕されて家宅捜索が行われた。
日系人名のエンジニアが逮捕者に含まれている。
サンパウロで逮捕されたエンジニア2名がマコト・ナンバ及びアンドレ・ヤスダと言う名前である。

Vale社は、死者・行方不明者の家族に一律10万レアルの見舞金(賠償金と区別するためにポルトガル語では贈与と表現)を支払う決定をした。
零細企業には真似できないことだろうが、当然だが失われた命は戻らない。

本記事はタイトルからしてふざけているように取られるかもしれないが本心は、できるだけ多くの人が無事に発見されることを願い、死亡者の冥福をお祈りする。

2019年1月28日

ダム決壊と災害救助、技術、外交

ダム決壊 = rompimento de barragem - ポルトガル語メディア
ダム決壊 = colapso de presa - あるスペイン語メディア

2019年1月25日の昼過ぎの事故だった。
ミナス・ジェライス州ブルマジニョ(Brumadinho - Minas Gerais)のVale(ヴァレ)社の鉱滓ダムが決壊した。
Vale社はブラジル最大の鉱業会社である。
Mina Córrego do Feijão(フェイジョン小川鉱山)20°07'09.0"S 44°07'27.1"W

このようなダムの目的は、鉱物採掘とその処理からできる鉱滓を貯蔵するのが目的である。
少し注釈すると映像から判断して、この鉱山には鉱石を溶解して精錬する処理は行われず、浮遊選鉱あるいは湿式製錬が行われるだけと思われ、その場合の鉱滓はスラグに対してスライムと呼ばれるとインターネットの知識には書いてある。
いずれも鉱山の残渣、つまり鉱滓である。

ダムを作って残渣を貯蔵する方法は、正しい処理方法なのか、それとも完全に正しくないのだが経済的理由で仕方なくそのようにせざるを得ない方法なのか、そこのところは不明である。
土の中から掘り出したものから利用対象物質を取り出して、その残りを土に戻すだけなら正しいと感じるが、処理に使われた酸・アルカリなどの余計で有害な物質が加わっていたなら重大な問題となる。
飲料や農業のため水を利用する、決壊の下流域は不安になるが、今のところは主成分はシリカ(二酸化ケイ素)であるから心配ないと言われている。
不都合なことが発見されて、問題が重大化する可能性はもちろんある。

ともかく、ブラジルの鉱山は露天掘りのところが多く、一次的な精錬処理された鉱物は鉄道などで輸出港へ運搬されるが、国土が広大であるから、余計な鉱滓をわざわざ他の場所へ移すという手間を掛けているという話を聞かない。
そのためどこの鉱山でも、鉱滓を貯蔵するダムなどは普通に多数存在する。

このようなダムを建設するときは、適当な谷間に例えば5メートルの堰を建設する→鉱滓を貯める→一杯になる→最初の堰の上に5メートルの堰を積み増す、というサイクルを繰り返して、ダムは段々畑のように積層状に高くなっていく、とニュースで説明していた。
5メートルは単なる説明例であり、本当は一段何メートルという基準や全高の制限などがあるのかは不明である。
ダムの素材は近くに豊富にある岩石や土砂そのものを使うのであって、内部に鉄筋コンクリートなどの強い構造があるのかもしれないが、基本的に岩石や土砂で作られるものだろう。
その分余計に厚い堰の厚みを必要として、比較的薄い非透水層を持つ構造となるだろう。
ダムに関するサイトをざっと見て、ブラジルの鉱滓ダムがどのタイプかと考えてみると、ロック(岩石)フィルダムかアース(土砂)ダムだろうと見当をつけてみる。

このような構造であるということは、運動会の組体操の人間ピラミッドの構造のように、しっかりとした設計に従って、最上段までの高さに応じて、下段は上部構造を安定に支えるだけの壁の厚みが必要だと素人目にも想像される。

仮に50メートルの高さのダムを設計しておいて、堰高が50メートルに達した時に、ブラジルは地震がないし、あと2段くらいは何とか大丈夫だろうと、当初の計画から外れて60メートルにしてしまうようなことはないと断言できるだろうか?

ダム決壊の原因は、設計(構造計算)の間違い、施工の間違い、メンテナンスの間違い、あるいはこれらの複合が考えられるが、鉱山エネルギー省、環境省、連邦検事局が原因解明に動き出している。

州消防・警察による救助活動と、Vale社への行政処分に先立つ資金確保のための強制執行はミナス・ジェライス州政府の手で行われている。

そしてここが外交が関与してくる部分なのだが、イスラエル陸軍の特殊部隊136名がイスラエル政府の特別機で16トンの資材を引っさげて到着して、行方不明者が集中しているVale社の事務所と食堂がある区域で、ミナス・ジェライス州消防と一緒に救助活動に入った。
この区域の泥の厚さは14~15メートルである。

イスラエルが携える技術は、まだバッテリーが残っているかもしれない行方不明者の携帯が発している信号探知、埋まる泥とその他の物質を区別できる探査映像処理、ドローンなどの例があげられた。

ブラジルのボルソナロ連邦政府とイスラエル政府の関係強化は、大統領就任前からマスコミが明らかにしている。
アラブ諸国は、日本などアジア諸国と共にブラジル産の鶏肉などの顧客であるから、あまりイスラエルと緊密になると、アラブのイスラム諸国への輸出に差し支えが出るのでないかという意見があるのだが、政府はそんなことをあまり構っていないらしい。

ブラジルは鉱業国であり、原油や鉱石の大規模な採掘には優れた技術と経験を持っているはずなのだが、設計や規則を厳守するという面で盲点はないのだろうか。
決壊したダムの最新の安全検査はドイツの第三者専門企業が行って安全であるという結果が出ているという。
すべての規制に従っていたのだが事故が起きたと言うなら、規制が緩かったわけだから、見直す必要が出てくるだろう。

一番近い先進国である米国は、もはや自国の得になること以外には手を出したくないと引きこもっている。
欧州は、自身の団結を維持する苦労に精一杯である。
イスラエルは周囲に味方してくれる国がない一方で、誇れる軍事・技術力を持ち、周りの目を気にしないで動ける自由を行使して、ブラジルで存在感を否応なく増している。

日本は地震の多い軟弱な地盤もものともせず、橋梁やトンネルを建設する土木建築技術や、地震や津波に対する知見と救助技術の経験を積んで、これらに優れているはずである。

救助の様子をテレビで見ると、3年前のマリアナの泥とは土質が違って、3日経っても表面が固くならないので、救助員は腹ばいで移動しなければならない部分があって、難渋している。
水害と液状化したような軟弱土壌での作業なのである。

日本政府がとにかく国際的に手柄を立てて、味方を増やしたいのならば、日本の近隣国には真似できない技術力を持つ援助を送って、ブラジルでアピールする良いチャンスだと思うのだが、遠すぎると遠慮しているのだろうか、要請が来るまで待つのか、そんな考えは持っていないようである。

2019年1月25日

12月は水木だったが、1月は木金

時間割やスケジュールの話ではない。

先月は水星と木星の接近観察をしたのだが、今月は水星は太陽に接近してしまうから見えず、一方で木星は太陽から離れてきているので、早起きさえできれば観察が容易である。

そして木星と金星が接近する。
アストロアーツの2019年1月下旬 金星と木星が接近や、国立天文台の明け方の空で金星と木星が接近(2019年1月)に情報がある。

2019年1月20日の日曜日、未明に雨が降っている音が聞こえた。
雨の音が消えたのに気づいて空を見た。
午前4時50分だった。
空の明るさと観察時刻の関係は次のようだったから、見たのは完全に夜間であった。
日の出時刻は夏至の頃から20分ほど遅くなっている。

事象EnglishPortuguês時刻
観察開始4:50
天文薄明Astronomical twilightCrepúsculo astronômico5:30
航海薄明Naval twilight (Nautical twilight)Crepúsculo náutico5:59
市民薄明Civil twilightCrepúsculo civil6:27
日の出SunriseAmanhecer6:51

この日はブラジルで皆既月食のみられる一日前で、西の空には、もののページによると「小望月(こもちづき)」と呼ばれる満月の一日手前が見られるはずだが、雲に隠れている。
しかし月明かりが雲をランプシェードのように照らして、雲はかなり明るい。
その雲の間に南から南東にかけて、ちょうど木星・金星やみなみじゅうじ座を見渡せるだけの大きさに、そこだけぽっかり窓が開いていた。
雨上がりの空気の透明度は極めて高く、夜空は黒く、星は際立つ。

窓の左にはひときわ明るい金星と次に明るい木星が、双眼鏡の7ºの視野の三分の五の距離で一望できる。
木星は日々高度を上げているが、23日の最接近までまだ日があるので、金星は木星より高い位置にある。
さそり座(Scorpius)のアンタレス(Antares)はさすがにその4倍位の距離にあるので視野には収まらない。

もっと右の南に当たる方向を見ると、正立したみなみじゅうじ座(Crux)が均整な形で天の南極を指している。
みなみじゅうじ座の十字架部分を双眼鏡で見ると、縦棒がちょうど視野に収まる大きさであるから、角度は7ºである。
南十字の上方に、3つの明るい星による、"へ"の字の左右を逆にした、いびつな傘のような三角形があり、左方には2つの明るい星が斜線を作っている。
調べたら、この斜線は"Southern Pointers"と呼ばれて、中点を通る垂直線が南十字の縦棒の延長線とぶつかる点が、天の南極を見つける方法となっている。

なお、天の南極には北極星のような明るく目印になる星は存在しない。
はちぶんぎ座(Octans)σ星がもっとずっと明るかったらα星と呼ばれて、南極星を名乗れて、南半球の全住民に見てもらえただろうが、5.4等と暗いので物好きな人しか見つけてくれずに、残念な星である。

正立したみなみじゅうじ座の上と左右の三方は、ケンタウルス座(Centaurus)に囲まれていて、これら5つの明るい星はα星とβ星(斜線)、γ星, δ星とε星(傘)つまりケンタウルス座で最も明るい5つの恒星である。
明るい雲にぽっかり空いた漆黒の窓に描かれた、輝く息をのむ惑星と恒星のコラボであった。

2019年1月22日

ワンダー一杯田舎バス

わが町の交通局バス代が市内均一料金4レアルになって1年くらい経つ。
4レアルでどこまで行けるか?
農場近くにある、数年前まで牛しかいなかった放牧地が、大区画の耕作・宅地混合分譲地になったため、1日に数便であるがバスが通るようになった。
路線は二地点の往復ではなくて、三角形を一周巡る形なので、行きは町の外郭のバスターミナルから15分以内だが、帰りは運行予定表によると40分位かかる見込みである。

夏時間の午後7時はまだ明るい。
旧牧場の土道にあるバス折り返し点で、帰りのバスを待っていた。
午後7時ターミナル発の最終バスは、予定より10分位遅れて7時25分ころようやくバス停を通って乗り込んだ。
最初から遅れかよ。

市内バスの車両についてだが、長距離バスとは全く異なる。
サスペンションが硬い、シートが硬い、ガタガタ騒音がうるさい。
聞いた話だが、ブラジルの都市内バス用車両にバス専用に作られた車体はなく、トラックのシャーシをそのまま使って、荷台の代わりに乗客を乗せる箱を付けてあるだけだという。
サンパウロ市のバスはもっと乗り心地が良かったけれど、地方では多分本当なんだろう。
だから乗り心地と騒音がトラックの荷台並みなんだ。
だれがバス会社を経営しても、新車は都心の黒字路線に使うのが当然で、路線の一部が未舗装の土道で、車両が汚れる上に車両構造に負担がかかる田園路線に使うはずがない。
だから田舎路線のバスは車体が古くて、ガタピシ音がうるさいのだ。

おばさん4人ほどの先客がいる。
前の方に陣取って、うるさく喋っている。
途中で別々の停留所から、一人ずつ青年が乗ってきた。

ダム湖近くの、川魚料理を出して酒を飲んでくつろげる、戸外スペースを利用した開放的なバルというかレストランが折り返し地点になっている。
市の中心部からは27キロ離れている。
田舎ではおなじみのセルタネージョ、ブラジル風カントリー音楽が大音量でかかっていて、踊っている人もたくさんいる。
道路脇の大きな木の周りのスペースを使ってバスは帰り道への方向転換をするのだが、場所にお構いなく乱雑に止めてある車が邪魔で、バスは方向転換ができない。
これだけ車がたくさん止まっていて、各車に一名酒を飲んでない運転者が必ずいるのだろうか気になるのだが、とりあえず忘れておく。
バスの運転手はエンジンを切って、邪魔な車の持ち主を探しにバルに行ってしまう。
しばらくして戻って来て車をどかす間、さらに10分ほど遅れた。
まだ明るさの残る、日曜日の午後8時を少し過ぎた頃だった。

ここで乗ってきた十数人の客は、車内後ろの方に散らばったが、子供を除いた半分が酔っ払い男、もう半分が酔っ払った女で、しばらくのあいだ非常にうるさかったが、すぐ静かになった。
眠ってしまったのだろう。
途中で後方で物が倒れる大きな打撃音がしたが、荷物が落ちた音か、泥酔した誰かが椅子からずり落ちて床に倒れた音か判別できなかった。
そんなことに構わずバスは快適に走る。

「肌黒男たちの小屋」という地点から、二か所目の土道に入る。
あたりはすっかり暗くなっていて、分岐や合流地点で本道と細道の区別がつかず、どう見ても農道としか見えない道を、バスは耐え難い騒音と振動を撒き散らしながらのろのろ進んでいく。
「昔話だったらいかにも山賊が出そうなところだ、誰の目も届かないところで、強盗が待ち伏せていたらひとたまりもないな」と想像すると、あまりいい気持ちはしない。

このあたりは牧場と耕作地で、昼間だったら人間の経済活動が十分感じられる場所なのだが、街灯も人家の明かりもまったくみえない暗闇の中で、頼れる光はバスのヘッドライトと室内灯だけだ。
さっきまであれだけはしゃいでいた連中が今は全く無音なので、実は毒物でも飲まされて全員この世の人ではなくなっていて、生きているのは私たちだけで、次元の狭間を走るバスで異次元へ連れ去られる、「きさらぎ駅」のブラジルのバス・バージョンかと、妄想だけがふくらむ。

道が一番低くなっていて、小さな川に橋がかかっているあたりで女性が一人降りた。
こんなところで一人で?
人間の女性だと信じたい。
「水源の保護人」と看板がある。
大都市の水源を涵養する農家が、都市から報酬を受け取る制度がアメリカ合衆国にあるが、ブラジルでも同様のシステムがあるのだろうか。

ほどなく次の目的地、「泉」と呼ばれるところを通過して、やっとアスファルト舗装国道へ出た。
路線図では「マリエルザ集落」というところは、別路線のバスが運行していて、このバスは通過するはずなのだが、なぜか集落に入っていく。
集落内は未舗装だ。
慣れない運転手が道を間違えるので、前に乗っているおばさん方がうるさく道を指示している。
4人のおばさんたちはこの集落で、それぞれ別の場所で降りていった。
自分の家に近いところに無理やり止めてもらっている感じがした。
バスがタクシー化している。
この集落を出て、市街区域に入ってバスターミナルに着いたのは午後8時50分だった。
行きの旅はターミナルから13分ほどに過ぎなかったのに、帰りは1時間30分かかり、いろいろなワンダーが続く、全く対照的なラウンド・トリップであった。

バスターミナルで係員にいつもこんなに時間がかかるのか尋ねたら、「2つの路線が合わさっているから」と謎の回答だった。
車両故障のためか、客が少ないからかわからないが、勝手に別々の路線をくっつけて運行してもらったら困るよ。
客が少ない田園地帯ではよくあることなのだろうか。

途中で降りなければ4レアルで一周28キロ、1時間40分の安い「田舎一巡り」ができる。
昼間の顔と夜の顔を比べるのも一興であるが、他人には勧めない。

2019年1月6日

安室、Amro、AMLO

普通の日本人、昭和から平成の?日本人にアムロと聞いて何を想像するかと問えば、安室奈美恵と答えると思う。

一部のブラジル人、私自身が口座を持っていたから特に連想するのかもしれないが、amroと聞くと、ブラジルの金融界において、現在はスペインのSantander銀行と合併して名前がなくなった、オランダのABN Amro銀行のことかなと思う。

最近新しいのが出てきた。
昨年2018年12月1日に就任したメキシコの新大統領アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(Andrés Manuel López Obrador)大統領の名前が、スペイン語の記事では頭文字をとってAMLOと表記されているものがある。
メキシコ人にアムロは誰と聞いたら、大統領と答えるだろう。

ブラジルにも報道記事の中では頭文字で表現された大統領、FHCつまりFernando Henrique Cardoso(任期 1995-2002)がいた。
二代前にFernando Collor de Melloと、同名フェルナンドが存在した(彼はコロル大統領と呼ばれていたが)のと、カルドーゾはかなりありふれた名字であることが理由だろうが、記述でなく発声される場合には、プレジデンテ(チ)・フェルナンド・エンリケ(エンヒッキと聞こえるが)・カルドーゾとフルネームで呼ばれることが多かったように思う。

メキシコの大統領絡みの略称で、もう一つ印象に残るのがある。
彼の所属政党、国家再生運動(Movimiento Regeneración Nacional)であるが、略称は3つの単語からそれぞれの初めの二文字をとって、MORENAというのである。
モレナまたはモレーナとは、特にブラジルでは褐色の肌の女性のことである。

国家再生運動についてのWikipediaポルトガル語版も英語版も、「メキシコの守護聖人であるグアダルーペの聖女(Nuestra Señora de Guadalupe)を暗示している」と書いてある。
英語版では"Tanned Virgin (Mary)" Our Lady of Guadalupeと注釈してある。
しかし、スペイン語版にその記述が見つからないのは不思議である。

2019年1月5日

リマ・グループ対ベネズエラ同調組

リマ・グループというものがある。
これはペルーの呼びかけでベネズエラに民主主義を取り戻すことを目的として、賛同する南・中央・北アメリカの13カ国で2017年に結成された。
リマはペルーの首都である。

2019年初にあたって、アメリカ大陸の「旗色」を明確にしておくことには、国際情勢を理解する助けになるだろう。
13カ国とは、Argentina, Canadá, Colômbia, Costa Rica, Chile, Guatemala, Guiana, Honduras, México, Panamá e Paraguai(以上11カ国名はポルトガル語表記)、つまりカナダ、メキシコ(以上北米)、コスタリカ、グアテマラ、ホンジュラス、パナマ(以上中米)、アルゼンチン、コロンビア、チリ、ガイアナ、パラグアイにペルーとブラジル(以上南米)を加えた国々である。
ベネズエラから難民が直接入ってくる陸続きの、ガイアナ、ブラジル、コロンビア3国は全部入っている。

加入していない国をあげると、アメリカ合衆国(北米)、ベリーズ、エルサルバドル、ニカラグア、カリブ海全部(以上中米)、スリナム、(仏領ギニア-独立国でない)、エクアドル、ボリビア、ウルグアイ及び焦点となっているベネズエラ(以上南米)である。

アメリカ合衆国はグループのメンバーではないが、目的には大いに賛成して、オブザーバー参加(テレビ会議)を通してグループの後押しをしている。

ニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)現大統領は今月、2019年1月10日に次の6年の任期に入る。
ニコラス・マドゥロ大統領は、ウーゴ・チャベス(Hugo Chávez)の死後、副大統領から2013年4月に憲法に則り大統領に就任した。
2018年5月に大統領選挙に彼自身が当選したのだが、選挙では不正があったとされている。
そのためリマ・グループは、ベネズエラのニコラス・マドゥロ現政権の継続を承認しない決定をした。
2015年の選挙で選出された国会が、自由選挙が実施されるまでの正統なベネズエラ政権者であるとする。

議長国のペルーは、グループメンバーがベネズエラと断交をしようという強硬な提案をしたが、そこまでの合意はできずに、ベネズエラの要人の入国禁止、経済制裁などを行ってベネズエラを絞め上げようという結論となった。
全会一致でなかったのは、国家再生運動(Movimiento Regeneración Nacional)のオブラドール(Andrés Manuel López Obrador)大統領が2018年12月1日に6年の任期で就任して、13カ国内で唯一の社会主義政権となったメキシコの反対があったからであり、メキシコはリマ・グループの決定に署名をしていない。

日本ではあまり報道されていないだろうが、物不足の深刻なベネズエラから、ここ数年で逃げ出したベネズエラ人は2百万人を数えている。
よくベネズエラ国民が耐えているなあと疑問に思うものだが、産油国であるから石油生産を押さえている独裁政権は、豊かとは言えなくても金に困ることはないし、票田となる労働組合員や特定の社会階層には苦しい思いをさせないようにして過半数を確保しながら、一方では野党勢力を逮捕して選挙参加させずに政敵を追い落として、強権を使って独裁を維持しているのだろう。
北朝鮮やシリアと全く同じ匂いがするのである。

2019年1月1日

赤嫌いボルソナロ大統領就任する

2019年1月1日は4年に1回起きる、共和国大統領と各州の州知事の就任式の日である。
初詣のような正月の行事がないブラジルの、年越しのパーティーで疲れて何もかも止まってしまったような元日の午後に、式典の中継を見るともなく流していた。
並行して行っている他のことの手を止めてまで、テレビの前に歩いていくほど注意を引いたことを書く。
だから報道を改めてチェックする手間を省いた第一印象のみであるから、ある程度の勘違いと情報漏れは十分にありうることに注意してほしい。

議事堂で行われた就任・宣言書類署名の儀式で、上院議長の演説があった。
連邦上下議員も大統領と同日選挙だったが、式典の指揮は議会議長によるものだから、旧議員が行うようだ。
再選が叶わなかったエウニシオ・オリヴェイラ上院議長にとっては、悔しいが最後の大仕事だったと思う。

ボルソナロ第38代共和国大統領が観衆の前で2回目の(1回目は議事堂内)演説をする前に、大統領夫人が手話で演説をした。
ミシェリ夫人は前から障害者を助ける活動に携わっているため、手話は付け焼き刃でなく、音声は別の人に任せて自身は手話のみの演説をした。
就任式で一番感動的な場面だった。

大統領の2回めの演説で注意を引いた点をあげる。
  • 汚職・特権の撲滅
  • 党利のための政府役職分配の習慣から脱する
  • 悪党を保護して警察を目の敵にするような間違ったイデオロギーを正す
  • 武器の所有と正当防衛の権利を尊重する
  • 対外的にはブラジルに利益をもたらす国際関係を重視する
  • 締めは「すべての上にブラジル、すべての人々の上に神」(Brasil acima de tudo, Deus acima de todos)という選挙運動中からおなじみのレンマ
もっといろいろなことを言ったが、以上はこれまでの大統領にない特別に目立った点である。
大衆向けであり、演説自体はかなり短かったが、終盤でブラジル国旗を広げてみせて、「これがブラジルの色だ、再び赤くなることはない、なるとしたら我々の血の色だ」と勇ましい明言をした。
名指しはしなかったが、もちろん労働者党(PT)とそれに連帯する左翼勢力のことである。

就任の挨拶を来賓から受ける時の序列は、次のようになっていた。
招待されなかった国は、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアであった。
  1. メルコスル(南米共同市場)-パラグアイとウルグアイ
  2. ポルトガル(旧宗主国として尊重しているのか、伝統を共有しているからか?)
  3. メルコスル以外の隣国-チリとボリビア
  4. 中央アメリカ
元首(大統領)の中では以上の序列であったが、次に来るのは首相・副元首、閣僚級、国際機関代表と続くようであった。

ボリビアのエボ・モラレス(Evo Morales)大統領は、社会主義運動つながりでPTのルラ元大統領と親しく、ボルソナロ大統領就任式には出席しないのではと思われたが、ブラジルは戦略的に重要な隣国であるから挨拶だけは欠かすまいと考えたため、参席してお祝いの言葉を交わしていた。

首相で最初に登場したのはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相で、先週金曜日から夫人と共にブラジル訪問している。
既にボルソナロ大統領は、時期は不定であるが、ブラジル大使館をテルアビブからエルサレムへ移転する意向を表明して、ブラジルとイスラエルの緊密な関係が予想されていた。