2021年3月23日

フランスもブラジルも「寒う」

 
いや全く大したことはないのだが、気がついて面白いと思ったので書こう。

現在ブラジルは、あのグダグダのWHOにすらも世界の脅威になると心配されるくらい、Covid-19の感染者と死亡者の増加がひどく、もっと力を合わせろと警告を受けている。

テレビのニュースで、フランスでも再び市民の外出制限が敷かれると、パリの街の情景が流れた。
パリの救急車の車体にも"SAMU"と書いてあるのを見て、あっブラジルと一緒だ!と思ったので調べてみた。

ブラジルでは「サムー」と後ろの音節に強勢がある。
長音ではないが心持ち長くなるようである。
"Sam"と混同しないようにサムーとここでは書き表わそう。
フランスでどのように発音するのかは不明だ。

フランスのサムー = Service d'aide médicale urgente
その英語訳 = Urgent Medical Aid Service
その日本語訳 = 緊急医療援助サービス

ブラジルのサムー = Serviço de Atendimento Móvel de Urgência
その日本語訳 = 緊急モバイルケアサービス
病院に着くまでに車内で緊急処置を進められる設備を備えた救急車のことである。

ブラジルのサムーをフランス語に訳したら = Service de soins mobiles d'urgence
略語(頭文字)は一緒でも、元の語は確かに少し違いがある。

さらにわかったことは、サムーには国際シンボルがある。
そのためブラジルの救急車もフランスの救急車も、車体にSAMUと大書してある上に、六角アスタリスクを背景に、杖に巻き付く蛇のマークをつけているから、遠目には全く区別がつかないのだ。

2021年3月7日

二部落ちしたデング熱

感染の心配の少ない、食事を用意したり会食することができる、三方の風通しが良く開放した広いスペースが田園地域にあるので、ときどき週末に会うほぼ唯一の親戚家族がある。
その者と一緒に働くトラック運転手が体調不良になった。
2週間前のことだ。
風邪のような症状と聞いて、まず恐れるのは当然新型コロナ感染症である。
これは検査結果がわかるまで会わないほうが良いかなと、一週間考えていた。

結果がすぐにわかる簡易検査は陽性だったので、PCR検査の結果を待った。
こちらは陰性だった。

最近町で問題になっていることに、簡易検査、つまり抗体検査キットの精度が悪く、これで陰性と出たので普通の生活に戻ったところ、実はPCR検査の結果は陽性であり、それが判明するまで周りの人にウィルスをばらまいてしまうという困った状況が出ていることである。
市の衛生当局は、キットを配布した保健省へ返却するとか言っていた。
まあこんなゆるゆるだから、日本の人の目から見ればブラジルでコロナが蔓延するのも当然だと思われるかもしれない。
うん、その通り、確かに返す言葉はない。

このトラック運転手の場合は通常問題になるケースと逆で、抗体検査では陽性、PCR検査では陰性となったところが異なる。
他の病気の検査もしたところ、デング熱であったことが判明した。
みんなの口々で異口同音に聞かれたのが、「ああ、デング熱で良かった」という言葉だった。

6年前の昔、「デング熱とソファと女性の関連性」という題の記事を書いたが、その頃に恐れられていたデング熱が、「なーんだ、デング熱か、安心した」と言われるようになってしまった。

デング熱は、病気のチャンピオンシップで二部リーグ落ちしたようなものだ。

2021年3月6日

ブラジルがコロナ死亡数1位になる日

米国はワクチン入手と接種に全力で取り組んでいる。
国内に複数のワクチン開発生産メーカーがある上に、政府の呼びかけに応えてライバル会社も巻き込んで協力して、ワクチン生産能力を上げている。
バイデン大統領は約3ヶ月先の5月末までに、米国の成人にワクチン接種を終えるつもりだと発言した。
そして現在の1日あたり接種人数は約2百万人で、これまで人口の15%が接種済みだという。

一方ブラジルはどうか。
本ブログの一つ前の記事で、ブラジル連邦政府はワクチンの購入交渉が下手で、ワクチン入手が非常に困難なことを書いた。
今日(2021/3/5)のニュースは、保健省の3月ワクチン購入予定数が4千5百万から3千7百万台まで下がったと言った。
それもまだ未契約だったり未承認だったりするワクチンを含んでいるという、不確実な数字である。

毎日発表される24時間の接種数を見ているが、一日あたり25万から30万くらいである。
それも連邦政府の五月雨式供給が途絶えると、接種も中断する。
2021年3月5日現在人口の3.75%が少なくとも1回、1.2%が2回めの接種を完了している。

以上の数字と国連発表の人口統計から計算してみた。
2020年推計で米国の人口は3億3100万、ブラジルの人口は2億1256万である。

米国もブラジルも一番優先順位が高いグループは医療従事者、とりわけコロナ患者に直接接触する人たちであるが、その人数は不明なため、高齢者から接種が始まったものと仮定する。
そして接種のペースは上の数字がこれからも続き、接種を拒否する人はいないとした。

65歳以上の人口と接種が終わる予定日
米国 55,049千人(総人口の17%)2021/3/7
ブラジル 20,389千人(総人口の10%)2021/4/15

18歳以上の人口と接種が終わる予定日
米国 257,510千人(総人口の78%)2021/6/16
ブラジル 158,962千人(総人口の75%)2022/7/21

確かにバイデン大統領の掲げた目標は、少し頑張れば半月早めて達成できそうだ。
しかしブラジルでは同じ結果となるまで、1年以上も余計に年月を要するということだ。
最初に接種した人たちの免疫が切れてしまい、次の接種サイクルに入ってしまうだろう。
永遠のワクチン接種キャンペーンになる。

現在までの新型コロナ死亡数
米国 520千人(世界1位)人口10万人あたり157人
ブラジル 261千人(世界2位)人口10万人あたり123人

まだ今のところは単位人口あたり死亡数で比べると、米国の状況はブラジルより深刻だといえる。
しかし米国はあと3ヶ月もすれば18歳以上の国民皆接種、つまり国民の78%がワクチンによる免疫を得て、国全体が集団免疫獲得のレベルに達する。
そうすれば死亡数増加もおのずからゼロに近くなってくるだろう。

かたやブラジルの単位人口あたり死亡数は米国とかなり近くなっているし、ワクチン接種が進むまでブラジルの死亡数減少は減速しないとなると、実数でも米国に追いつくことは間違いない。
ブラジルの接種速度が一日100万であったとしたら、2021/8/2に18歳以上の人口に接種が完了するのであるが、奇跡を妄想してもしかたがない。

米国は科学無視のトランプ大統領が、科学重視のバイデン大統領に代わり、流れが一気に変わった。
ブラジルはトランプ大統領に薫陶されたボルソナロ大統領が、思想を変えない限り2022年末まで相変わらず科学軽視・無視を続ける見込みであることが、両国の科学力・生産力の差を、さらに拡大していく未来が心配される。

しかし2022年下旬の大統領選挙で再選を目指すとなると、急速に方向転換する可能性は非常に大きい。
現実に、連邦政府がワクチン入手にもっと力を入れないと、地方政府が共同でワクチンを直接購入する動きが急速に形成されていて、連邦政府は保健政策の主導権と国民の称賛を持っていかれる可能性があり、大統領はそれを望まないだろう。
だらだら長びくコロナ流行のもとで、経済を止めたり緩めたりを繰り返しながら補助金を小出しにする消耗戦より、流行を一気に停止してから経済全開にするほうが政府の税収を増やし出費を減少するという認識が、もっと広まり力を得ると良いのにと思う。

2021年3月2日

富者のワクチン、貧者のワクチン

 各国の新型コロナ感染症対策は、その国で利用可能なリソースによって決まるから、ある国の治療法は、必ずしも隣の国の治療法と同じだとは限らない。
新型コロナのワクチンであっても事情は同様だ。

下の表は全ての認可されたりその候補のワクチンを上げたのではなく、現在ブラジルで話題に上がるものだけである。

番号開発者名称商品名開発国種別特徴
1AstraZenecaウィルスベクター2回接種、冷蔵保管
2Johnson & Johnson蘭/米ウィルスベクター1回接種、冷蔵保管
3ModernaRNA2回接種、冷凍保管
4Pfizer/BioNTech米/独RNA2回接種、冷凍保管
5Bharat BiotechCovaxin不活化ウィルス
6Gamaleya研究所Sputnik Vウィルスベクター
7SinovacCoronaVac不活化ウィルス2回接種、冷蔵保管


現在ブラジルで認可を受けているワクチンは3種である。
いずれも昨年からブラジル国内で第3フェーズ試験を行ったため、以前の法規に則って、ブラジル衛生監視庁(アンヴィザ ANVISA - Agência Nacional de VIgilância SAnitária)より認可された。

  • 1.アストラゼネカ(英国)
  • 4.ファイザー/ビオンテッキ(米国・ドイツ)
  • 7.シノバック(中国)


1.アストラゼネカは、ブラジルの医学衛生分野で権威実績のある、オズワルド・クルス財団(フィオクルス FIOCRUZ)と提携して、年内の国内生産を目指している。
現在は緊急使用許可で、フィオクルスが生産を開始するまでは、中国工場からのワクチン原液の輸入と、インド工場からの製品ワクチンの輸入に頼っている。

4.ファイザー/ビオンテッキは、初めてブラジル国内で完全使用許可を得たワクチンであるが、連邦政府は商談に手こずっていて、契約に至っていない。
2020年半ばにファイザーブラジルがブラジル連邦政府に契約を打診したのだが、副反応が出たときの免責条項にブラジル政府が同意しなかったので、提案はそのまま放置された。
免責条件に同意しなかった国は、ブラジルの他にはベネズエラとアルゼンチンだけだったというのだが、ニュースで一回聞いた限りで、以降確認していない。

7.シノバックは、サンパウロ州立の医学衛生研究機関ブタンタン研究所(Instituto Butantan)が第3フェーズ試験を行った。
ブラジルで権威のある研究所をパートナーとしたので、情報開示に問題がありがちな共産圏ワクチンであるが、検証はしっかり行われたと信じたい。
現在は緊急使用許可で、もちろん原料は中国に頼っている。

1.アストラゼネカも7.シノバックも中国頼みであるが、ブラジル大統領派の議員や大臣が中国批判ばかりするので、ブラジルへのワクチン原料が妨害されて遅れているのではないかと噂されていた。
中国の返答は事務手続きに時間がかかるという理由であったが、外交のことであるから隠れた本心はわからない。

ブラジルで第3フェーズ試験が行われているものはあと一つ、2.ジョンソン&ジョンソン(米国)があるが、ANVISAへの承認申請が行われていない。

これまでの法規は、ブラジルで治験が行われたワクチンでないと国内使用は認可されなかったのであるが、あまりにもワクチン入手に困難があるため、連邦議会は認可条件を緩和する立法に取り組んでいる。
例えば、科学的に信用のおける国の保健機関が認可したワクチンについては、試験結果を引用して簡略に許可するといった方策である。

そのような流れで未だブラジル衛生監視庁から認可されていないが、連邦政府が契約しようとしているのが次のワクチンだ。

  • 5.商品名コバクシン Covaxin(インド)
  • 6.商品名スプートニク・ブイ Sputnik V(ロシア)


米国は自国で複数のワクチンの開発が行われているので、全く比較対象にはならないだろうが、現在まで3種のワクチンが認可されている。

  • 2.ジョンソン&ジョンソン(米国)
  • 3.モデルナ(米国)
  • 4.ファイザー/ビオンテッキ(米国・ドイツ)


ブラジルのワクチンリストと米国のワクチンリストを比較すると、ワクチン生産国のコントラストがくっきりしている。

ブラジルにはブラジル独自の事情がある。
インディオはこれまで他の文明から隔離されてきたため、いろいろな感染症に免疫を持っていない。
インディオが、医療従事者や高齢者と並ぶ予防接種優先順位に位置づけられる理由である。

アマゾナス州の保健部門で働く人がインタビューで言っていた。
インディオ部落へワクチンを届けるのは並大抵でない。
川船で6日川をさかのぼってから、小さいボートに乗り換えてさらに1日かかるというような辺鄙で不便な場所がある。
辺境地では電力事情が悪いだけでなく、電気自体が通っていない場所もある。
国土が広いため空路でも陸路でも、冷凍輸送するには機材や燃料が高くつくし、時間が足りない。
マイナス20度冷凍保存のワクチンなど持っていけるわけがない。

そのような事情で、90%を超える有効性を誇っても、取り扱いが非常に面倒なワクチンは、手元にあっても十分に役に立ってくれない可能性は大きいのだ。
日本のようにワクチン全量がファイザーであるような国を羨ましがっても仕方がない。
接種を受けるのは無料だし、地元にあるワクチンで満足しなければバチがあたる。

ブラジルは、規則に従って国内で第3フェーズ試験が行われて、50.38%という際どい数値ながら、WHOが基準と定める必要な数字を叩き出したから許可したのである。
中国製ワクチンを闇雲に入手するのとは違う。

今のところブラジルで入手可能なワクチンの中で、唯一の西側先進国製のアストラゼネカにしても、政治的事情はあるもののEU諸国では不利な情報があふれて、できるなら避けたいワクチンナンバーワンになっているようなのだ。
ブラジルなら打ちたいワクチンナンバーワンになれるぞ。

インフルエンザワクチンと同じようなもので、発病しても入院して重症に至る確率が低くなれば、個人にとっては儲けものだし、医療機関が機能不全に陥ることはないから、社会全体が安心できる。

まあそれにしても、BRICSの中でもワクチンを生産しているのは中国、ロシア、インドががんばっているのに、熱帯病研究に強いはずのブラジルが、治験と生産の提携に過ぎないのは残念である。
計画と信念、何よりも予算が足りないのだろう。