2013年1月28日

ブラジルの集客施設での心がけ

2013年1月27日日曜日の未明、ブラジル最南端州リオ・グランデ・ド・スル州のサンタ・マリア(Santa Maria - Rio Grande do Sul、座標は29°41'11.47"S 53°49'4.80"W)のボアッチ(boate - 英語メディアではnightclubと訳されている)"Kiss"で起きた火災は、死者231名を数える大惨事となってしまった。

報道を見ると、400名くらいが定員のナイトクラブに、1000名ほどの客が入っていたという。
演奏していたバンドが演出に使った信号灯(sinalizador)の火花が、防音材に燃え移り、火災が発生した。
火事に気付いた客が出入口へ向かって避難したが、保安員は最初、勘定の踏み倒しと思ったのだろうか、客に先に勘定を払うように命じて、出入口の解放をしなかった。
出入口のセキュリティ要員は、やがて実際に煙を見て、出入口を解放したが、逃げきれなかった多数の被害者が出た。
非常口と勘違いして、お手洗いに客が殺到したとか、フリーザーに隠れた人がいる、というような証言があった。

死者の死因であるが、防音材の燃焼で発生した有毒性のガスのための死亡が大多数という。
直接火傷によるものや、群衆に踏まれた圧死もあるようであるが、詳しいことはわからない。
州都ポルト・アレグレの大病院の移植用皮膚の在庫ほとんどを、この火災の負傷者のために確保したとか、隣国アルゼンチンが、移植用皮膚を提供する申し出をしたというから、重傷の火傷を負った者が相当数いるのだろう。

サンタ・マリアは菱型をしたリオ・グランデ・ド・スル州の中心にあり、沿岸部、正確には潟湖(せきこ)であるLagoa dos Patos岸の州都ポルト・アレグレ(Porto Alegre - RS)から西方290kmにある。
人口は約27万人(2006)、州中央部の中心都市である。
国境州の中心にあることから、ブラジル帝国時代より軍事・交通の要所であり、そのため公共部門や商業サービス部門が中心となっている。
サンタ・マリア連邦大学をはじめ大学を多数擁し、3万5千(最近)の学生人口を持つ学園都市でもある。
そのためにボアッチの客は、学生や若者が多かった。
http://www.ufsm.br/によると、少なくとも101人の犠牲者がサンタ・マリア連邦大学(Universidade Federal de Santa Maria)の学生だった。

この火災の要因を振り返ってみる。

まず第一に、屋内の閉じられた狭い空間で信号灯を安全に使うことができるのだろうか。
このバンドの売り物の一つが、火を使った派手なショーであった。
これは、pirotecnia「花火製造・打ち上げ術」と辞書に書いてあるが、当然厳格な規則があるという。

第二、ステージで火を使うならば、建築内装は不燃でなければならないはずだ。
もしもこの防音材が不燃性であったら、火災にはつながらなかったであろう。

第三、これだけ多人数が集まることが日常化している場所ならば、多数の非常口があるはずではなかろうか。
報道では、逃避路は一つきりだったようである。

第四、セキュリティ要員の行動である。
喧嘩のような小競り合いが起きると、必ずどさくさに紛れて勘定を踏み倒してしまおうと考える輩がいるのだろう。
保安員は、「火事だ」という叫びを聞いても、誰かが騒ぎに便乗して出口を開けさせようとしているのだと想像して、取り合わなかったのかもしれない。
「火事だ」と騒ぐ客は毎日のようにいるのかもしれない。
実際に火をステージ上で使うバンドがいるならなおさらだ。
ポルトガル語で「火事だ」というとき、わざわざincêndio(火事)と言わずに、単にfogo(火)と言うだろう。
花火はfogo de artifícioあるいはfogo artificialだ。
さすがに、花火も火事も同じ単語を使うから混乱、ということはないだろう。

第五、その他の保安設備だ。
火を使った張本人だったバンドメンバーは、引火を見て、消火器で火を消そうとしたが働かなかった、と証言した。
非常アラームのような保安設備も、酒と踊りと大騒ぎをする場所であるボアッチのことだから、景気をつけようとする軽薄者にいたずらされそうである。
アラームがなっても、「またいつもの空騒ぎ、偽報だよ」と、だれも気にしないことが多いのではなかろうか。
勝手な想像だが、あまり役に立ちそうもない。

大火災や大震災に苦しめられ、もまれてきた日本の建築・施設は災害に対して強固なはずだ。
ブラジルに来た人には、街のあちこちにある建築現場を見てほしい。
もし日本だったら、ごく軽い地震でも崩れ落ちそうだ、と感じるであろう。
実際は軽い地震の起きる地方はあるが、一般的には地震のないブラジルでは、建築基準が当然日本と全く異なる。
当然だが、起きるはずのない地震に備えて、不必要まで太い鉄筋や柱を使って、可用スペースを削って建築コストを上げるはずはない。
リオデジャネイロで突然起きたビルの崩落事故で見られるように、古い建物はそれだけで危ないと思われるのに、店子が勝手に無茶苦茶な改造をして、重要な構造部や保安施設を損ない補修は行わない、というような犯罪的行為もあるだろう。
日本でも「ここまでやっているから絶対安心」の結果が、福島第一であったのだ。

人が集まる施設の保安施設認可は消防署の役割になっているのだが、非常口の設置と案内表示、非常時照明、防災アラーム、消火装置、非常時の連絡周知体制などの根拠となる、法律や条例の技術的基準については、全国的に見なおしして、ブラジル国民に「これなら劇場・映画館やスタジアムやボアッチに行っても大丈夫だ」との安心感を与えてほしいものである。

同様に、歴史的災害からつい最近の大震災まで、大火災や大震災を経験した日本の保安員や客自身は、ブラジル人と比較して格段に防災意識が高い。
一方、ブラジル人は火を焚くのが好きなようである。
今回の火災報道では、ポルトガル語でsinalizador(信号灯)といわれるが、画面をみると花火そのものである。
昨年末のクラブ・ワールドカップで、警備が厳重であろうと思われる日本の横浜スタジアムで、コリンチャンスの応援団が発煙筒を焚いているのを見てかなりびっくりしたのだが、考えてみれば、普通の日本人はスタジアムで発煙筒や花火をつけるなど思いつきもしないだろうから、警備側もそんなことまで気にせず、普段の警備は多少甘くても大丈夫であろう。
スタジアムの発煙筒や花火をみても、「派手で元気があってよろしい」と考える日本人は少数で、大多数は「こんなことして大丈夫だろうか、周りの人が火の粉をかぶるのでないか」と考える。

そうではないのがブラジルだから、心配な人は自衛を考えなければいけない。
といっても、何も難しいことはないと思う。
突然ビルが崩れるようなことはまず起きないと観念して、あとは飛行機の旅行でいつも説明されることを思い浮かべればよいのだ。
飛行機の場合はCAや乗組員の指示に従えばよいのだから、非常事態の重大さはともかく、取りうる行為は限定されるからある意味簡単だが、ひとりあるいは家族や仲間で行動して、人の密集する施設に入る、そうでなくても街を歩くときには、少し考えてみよう。

「非常口はどこにあるか」
誰でもコンサートや映画館では、席に座ったら非常口はどの方向か、表示を確認するだろう。
慎重な人は、実際に開演前に非常口まで歩いてみるだろう。
表示があっても本当に開くのか確かめるのが、より慎重だといえる。
複数の退避路を確認すれば完璧だ。
日本の雑居ビルでも、非常口に物が置かれていて、実際通行不能という事件があったように、ブラジルでもその点は似たり寄ったりだ。

「非常時に酸素マスクが降りたり、不時着時には非常着陸姿勢をとる」
不慮の事故が起きたらどう反応するか、頭のなかで想像してみる。
火災の他にも、停電、スリ、強盗、客や通行人の喧嘩、交通機関の場合は事故・故障などがあるだろうか。
排水施設が貧弱な都市では、にわか雨での道路の冠水なども忘れてはいけない。
単なる停電だったら慌てることはないが、停電が火災によるものだったら大変だ。
そのへんの見極めが実は大変なのだろうが、冷静に行動したい。
レストランでの停電では、闇に乗じて食い逃げしようとする奴がきっと出るから、店員や保安員にそういった連中と間違われないようにしたい。
レストランや銀行などでは、身の回り品のスリや置き引きの他に、強盗が入ってきた場合の対応まで想像しておいたほうが良いだろう。
警察は生命第一、強盗に逆らうな、と喧伝する。
特にボアッチのような酒の入る場合は、客同士の喧嘩もあるが、ブラジルでは火器を使うことがあるから、正義感や男気など出さず、仲裁は保安員に任せたほうが良いだろう。

1月28日昼時点で、バンドメンバー2名とボアッチのオーナー1名が逮捕されて取り調べを受けている。
犠牲者の冥福をお祈りすると共に、事実解明をして将来の安全につなげてほしい。

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