2019年11月24日

ブラジルにベネズエラのウルトラヘビー・ゲリラ・アタック

格闘技の話ではない。
ましてやベネズエラ国民やベネズエラの国家が、ブラジルに攻撃を仕掛けたわけではない。
ベネズエラに由来する、ある物体がブラジルを攻撃しているのだ。

8月終わりからブラジル北東部海岸へ原油が漂着するようになって、もう少しで3ヶ月になろうとしている。
最初報道で見たときは浮遊原油による巨大な汚染海域は見られなかったので、すぐに終わるものだろうと思っていた。
しかし一度汚染除去された海岸に再び油が漂着するだけでなく、汚染海岸は範囲を増しながら、このニュースは毎日繰り返されてきた。

しばらく作文を放って置いてから書き足している。
ブラジル北東地方の9州は、海岸線の長短に差があるものの、すべて海岸を持っているが、軒並み原油が到来した。
そして南側の原油汚染到達最遠部は、ブラジル南東地方に入り、エスピリト・サント州を越えて、リオ・デ・ジャネイロ州北部まで届いたと先ほどのニュースは言っていた。
結局11州の160以上の郡市にまたがる720地点以上が汚染地点となった。
11月下旬になって、時々以前の場所への汚染の戻りがあるものの、海流のため汚染原油の到達地はより遠くに、また広域に拡散されたため一つの地点での汚染量は少なくなっている。
11月22日のニュースでは、手のひらにのせた豆粒大の原油塊を7~8個見せてくれた。

ブラジルを襲った原油汚染の様相について考える。
水や海水に油を落とすところを想像してみよう。
普通、水面に薄く広がる油膜を思い浮かべる。
しかし最近ブラジル北東部海岸に漂着した油は、オリーブオイルのようなさらりとしたものではなく、原油、それも超重質である。

これを形容するのにどういう喩えを使ったら良いのかわからず、少し調べた。

コールタールはその英語綴り(coal tar)を見たらわかるように、石炭からできるものである。
私の記憶では、粘度は高いがどちらかというと液体であって、刷毛で物の表面に塗ることができるだろう。
もしかしたらクレオソートと混同しているかもしれない。

一方、道路を舗装するアスファルト(asphalt)は、コールタールと似ているが、石油からできるもので、道路が液体だったら困るから、灼熱の日でなければ、常温で固体のはずである。

ブラジルを困らせているのは、粘度が両者の中間的に見える。
原油塊を手で掴んで海岸を清掃するボランティアの作業動画をみると、粘体の水飴のような硬さである。
液体より固体に近い。
なおこの粘体に直接触れると毒性があることがわかってきてからは、手袋・マスクなどを着用するよう注意が出された。
事態を重く見た連邦政府は軍隊を動員して汚染原油除去を行い、海軍の艦船や航空機は沖から汚染監視を行うようになった。

ベネズエラの超重質原油は、その国土を流れる南アメリカの大河、原油を産出するオリノコ川の名をとって、オリノコ・ウルトラヘビーとか言うらしい。
強そうな名前だ。

このウルトラヘビーがどれだけ重いかというと、蒸留するときに軽質油を加えて流動性を高める必要があるくらいである。
重質原油しか生産しない国は、精製のために軽質油を輸入しなければならないし、そもそもアスファルトのような重い成分が余るのに対して、沸点の低い揮発性の高いガソリンとかケロシンとかの、商品価値の高い成分が足りないと輸入の必要性は高まる。

海洋の海面近くの海水温は、当然気温に近い。
熱帯の海水温は高いので、その密度は小さい。
一方海洋の深海の水温は、日光の熱がほとんど届かない場所だから、どこの気候帯でも総じて低く、密度は高いはずである。

海流や風の影響で、海水中に水温の異なる層がはっきり分かれることがあるらしい。
熱帯の海洋の垂直温度分布を模した、密度が完全に異なって混じり合わない2つの液体層からなるビーカーに問題の原油を入れてやると、どろりとした原油は浮くでもなく沈むでもなく、2つの層の境界に浮かぶように留まるのだ。
飛行機などで上空から、深度の深い沖合を観測したときに原油塊を確認できないのに、岸に接近すると海水層の厚さが減るので、明るい海底の色とのコントラストが真っ黒な原油を浮かび上がらせることになる。
それがゲリラ的に原油塊が突然出現する理由と思われる。
原油塊が水面に浮かばない間は、浮かぶ油層を取り囲み拡散を防ぐオイルフェンスも使えないので、沖合で汚染を拡散前に一網打尽することもできない。

攻撃してくるのはベネズエラ産ウルトラヘビーなのだが、それを撒き散らした原因はいわゆるブラックシップや海賊船ではなく、ギリシャ船籍のタンカーであることが解明して国際的な調査が進行中である。
観察された原油の拡がり方から過去をシミュレートして推定した時期と海域を通過した、ベネズエラから原油を積み込んだ船を絞り込んだ結果である。
船主は自分の船であるわけがないと言って責任を逃れようとしているが、どのような成り行きになるかが注目される。

原油の国際価格の標準の一つはアラビア湾岸産の原油、アラビアン・ライト(Arabian Light Crude Oil)であると聞いたことがある。
昔の話である。
今の今まで「北海ブレンド」とは、北海産の原油をコーヒーのようにブレンド(blend)したものかと想像していたのだが、それは間違いで、(北海の)ブレント産原油(Brent Crude Oil)ということだ。
北海産のいくつかの原油をブレンドしたものというのもあって、これこそがBrent Blendとなる。
時代と共に前者から後者へ指標油種は変わった。
オリノコ・ウルトラヘビー原油(Orinoco ultra-heavy crude oil)は、名前だけは強そうだが、いや本当に環境に与えるダメージは大きいのだが、商品価値となるとこれらの油種よりかなり低そうである。

日本商品先物振興協会の原油の商品特性を見た。

原油の軽重(比重)によって、超軽質から超重質の区分がある。
原油からの製品で価値が高いのは、軽質の区分である。

硫黄・硫化水素の多少によって、サワー(すえた)原油(含有量が多い)とスイート(あまい)原油(含有量が少ない)の区別がある。
味覚の好みはもちろん人それぞれだが、原油に使われる意味では間違いなく、甘味は酸味より優れている。

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