2024年5月20日

2024年リオ・グランデ・ド・スル州大洪水のメカニズム

2024年5月初めあるいは4月末からか、ブラジル南端の州、リオ・グランデ・ド・スル州は大雨洪水に見舞われている。
この州はどんなところか。
面積 281,707.151 km2、ざっと日本の国土面積の四分の三である。
そこに 1088万2965人(2022年)の人が住んでいる。
まあ日本の人口の十分の一である。

州都ポルト・アレグレは、ブラジルの首都ブラジリアから約2千キロメートル南にある、面積約500km2、人口149万人(2020年)の大都市である。
今のところ、都心の低地部が冠水して2週間を超えた。
空港もバスターミナルも水没しているため、空路陸路の旅客交通は停止している。
州内の山地ではがけ崩れ、川沿いでは橋の流失によって、道路が各地で分断している。
救援物資のみがかろうじて通過できるような半孤立した場所もある。

どのような天候と地形のメカニズムで、この地方が洪水になるのか知りたいと思った。

Porto Alegre という名前が示すように、この町は港町なのであるが、外海に面してはいない。
グアイバ川 Rio Guaíba と呼ばれることもあれば、グアイバ湖 Lago Guaíba と呼ばれることもある水域がある。
水の流れがあれば川、流れがなく溜まっていれば湖ということになるようである。
グアイバ湖の上流側は、タクアリ川 Rio Taquari、カイ川 Rio Caí、パルド川 Rio Pardo、グラヴァタイ川 Rio Gravataí、シノス川 Rio dos Sinos と、多数の支流が流れ込み三角州を形成している。
なおこれらはみな支流で、川の太さから見ると、ポルト・アレグレの西方つまりリオ・グランデ・ド・スル州の中心部から流れてくるジャクイ川 Rio Jacuí がこの水系の本流のようである。
ポルト・アレグレの町は、この三角州の下端、グアイバ湖の北東端岸に面している。
グアイバ湖の南側の下流部には、さらに大きなパトス湖 Lagoa dos Patos がつながり、その一番南端でようやく外海、大西洋へ水が放たれる。

パトス湖がどれだけ大きいかというと、面積10,140km2、比較のため日本最大の琵琶湖は669km2だから、その大きさがわかる。
面積の割には水深は浅く、最大水深は12mということである。
それでも霞ヶ浦の7mよりは深い。
海と標高差の極めて小さい水路でつながっているために、海水が入り込む汽水湖である。

パトス湖の形は細長い紡錘形に近いのだが、面白いことに海岸から直角に内陸の方に伸びているのではなく、海岸線と平行になる方向で、幅約8kmの大きな砂州で外海と仕切られている形なのである。
パトス湖の北と南の両端、つまりグアイバ湖との接続部から外海へ通ずる水路までは280kmもある。
ちなみに東京駅と名古屋駅間の直線距離が約270kmである。
ポルト・アレグレ市の標高は10mなので、ポルト・アレグレに溜まった雨水が外海に排出されるためには、たった10mの標高差で280km遠くまで水を押し出さなければならないわけである。
水が極めてゆっくりとしか流れないことが想像できる。実際ポルト・アレグレ付近の水がパトス湖南端の大西洋流出水路付近に達するまで数日かかるので、そうするとペロタス市やリオ・グランデ市のようなパトス湖南部の湖岸の都市が洪水になる。
当面の天気予報によると、大西洋からの強い海風がパトス湖の南東へ向かい、海への流出方向に逆らうように吹き付ける形になり、パトス湖の洪水水の流出を遅らせることになるだろう。

ポルト・アレグレ地方のこれまでの最大の洪水は、1941年のものであった。
グアイバ湖の氾濫水位が3mであるところ、その年は4.76mに達して、氾濫水位まで下がるのに32日を要した。

その後1960年代末にポルト・アレグレの護岸工事が始まった。
それは市街地とグアイバ湖を区切る延長68kmの堤防、14の水門及び23箇所の排水ポンプ場を持つ。

しかしながら、2024年の大洪水では、流入する川すべての流域が大雨になったために予想を上回る速さで水位が上がり、グアイバ湖の水位は1941年を上回る5m超えとなり、最大5.35mに達した。
困ったことに水門が完全に閉まらないで隙間から水が侵入したり、排水ポンプ場が水没したり、感電防止のために電気供給が止められてポンプに通電できなくなったりして、当初は4箇所のポンプしか運転できなかったという。
普段から水門やポンプ場の定期的な点検ができていなかったことは、洪水が一部人災と考えられることにつながっている。

今回のリオ・グランデ・ド・スル州の水害では、洪水による死者約160名、行方不明者約90名、浸水のため避難者数が約66万人を数えている。(2024/5/20現在)

0 件のコメント:

コメントを投稿