ブラジルには人種差別は存在しない、なんて言い切るのは全くの妄想だ。
奴隷制が存在した歴史を持つ国の中では、現在まで残る、表面に見える差別は少ないのかもしれない。
しかし、一部の人々の心の奥でくすぶって生き続けるこの心情をときおり垣間見ると、「ブラジルのアファーマティブアクション」で書いたように、百数十年で撲滅するには、巨大すぎる汚点だといえる。
今月初めに起きたニュースである。
ブラジリアの映画館で、チケット売り場の列に割り込もうとした男が、それを注意した係員に投げつけた言葉のせいで逮捕される事件があった。
憤った係員がセキュリティ要員を呼んだので、映画館のあるショッピングセンターの防犯カメラに、すたこら逃げていく小太りの男の姿がはっきり写っていた。
映画館の係員はMarina Serafim dos Reisという黒人の女性で、列の割り込みを注意した彼女は、
「お前は口のきき方が悪い、だからそんな色なんだ。
お前はいる場所が間違っている。
お前は人間を相手にするのでなく、動物を相手にしろ。
ここに住むのでなく、アフリカでオランウータンの相手でもしていろ。」
と男に言われたと証言した。
彼女は警察に届け出て、男の身元捜索に協力した。
そして判明したのがHeverton Otacílio de Campos Menezesという医師で、10年前に、大統領選挙の投票の行列に同じように割り込みをしようとして注意され、投票所の係員の黒人女性に同様の侮辱をした再犯である。
その時は、クロちゃん(neguinha)、お前はバナナ共和国の代表か?と言ったらしい。
調査にあたっているAilton Rodrigues de Oliveira捜査官は、医師は名誉毀損(injúria difamatória)の容疑で起訴されよう、と次の説明をした。
「人種差別(racismo)は、隔離という行為(segregarつまりseparar)が伴う場合、たとえば、白人しか入れない学校といった場合に適用される。
この医師の件は、差別的侮辱(injúria discriminatória)に当たり、殺意なき殺人(homicídio culposo)に匹敵する罪で、1年から3年の禁固が適用される。」
(Edição do dia 02/05/2012
02/05/2012 14h18 - Atualizado em 02/05/2012 14h18
Polícia identifica médico que ofendeu mulher negra em cinema de Brasília
http://g1.globo.com/jornal-hoje/noticia/2012/05/policia-identifica-medico-que-ofendeu-mulher-negra-em-cinema-de-brasilia.htmlを参考)
「このレストランに××人は入ってはいけない」、「この席は××人専用」とか言って人種間隔離行動制限があるのがracismo、行動制限は伴わないが侮辱言動があるものが、injúria difamatóriaと言うとは、これまで知らなかった、勉強になった。
まず第一に、医師という普通なら尊敬されそうな人が、行列の割り込みというずるい行為をして、それを注意した人がたまたま黒人女性で弱い立場と見たので、鬱憤晴らしをするという情けない行為を繰り返していることだ。
この医師は精神分析医(médico psicanalista)だというが、こういった非人間的言動に傷つく心を癒すのは専門の範疇でないのか。
自身を犠牲にして実験でもしているのか。
もう一つのツッコミどころは、アフリカにオランウータンがいると思っているところだ。
ニュース後報では、アフリカ系ブラジル人(afro-brasileiro)を尊重しているとの謝罪声明文を読んでいたが、取ってつけたような発言とこの知性では、10年後にまた行列割り込みを注意されて差別発言をしそうな予感がする。
言葉の使い方はほんとうに難しい。
たとえば、上のneguinhaなど、親しい間柄や子供に使うと親愛の意味を持つ単語が、使われる人と場面により侮蔑語となる両面性を持つからだ。
新参外国人にとっては厄介な単語なので、踏むと危険な単語はなるべく避ける。
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