はるか昔テレビで見た映画に、「自転車泥棒」があった。
既にその映画を見ていた母が、とても悲しい映画と言っていた。
イタリアの戦後と、日本の戦後に何か共通する人生の苦さがあったのだろうか。
最近ニュースで見た、ブラジルの自転車泥棒は、様相が異なる。
もちろん、自転車の置き引き、ポルトガル語に訳せばfurtoにあたる犯罪も多いだろう。
だが、ここでみるのは、もっと危険な犯罪である。
ブラジルでも、単なる移動・運搬手段としてだけでなく、趣味やスポーツとしてサイクリングする人が増えてきた。
必然的に自転車は、実用品からぜいたく品の範疇となる。
さいふに余裕がある人は、輸入自転車に乗ったり、輸入部品を使って改造したりして、車に金をかけるように自転車に金をかける。
近所の自転車屋をみても、FujiとかShimanoとか、日本メーカー名のステッカーがウインドウに貼ってある。
Fujiは現在は米国の会社(Advanced Sports, Inc.)になっているようであるが。
安価な中国産が幅をきかす衣服や日用雑貨と異なり、品質で勝負する本格自転車や部品は、輸入品は国産品より値段が高い。
ぜいたく品であったら、家の中に安全にしまっておけばよいのだが、自転車は戸外で乗って漕がなければ存在意義はない。
そうすると当然強盗が目をつけるようになる。
2010年に(ブラジルで)350台の自転車に保険がかけられた。
2013年には、その台数は1千2百台に増加した。
その数はまだまだ小さいが、サイクリストの不安感が増大していることを示す。
強盗が出没するのは早朝、夜間である。
人出が少なく、サイクリングにちょうどよい時間帯である。
強盗はバイク(自転車でなくオートバイ)でやって来る。
通常二人組で、後ろに乗った者が、サイクリストを銃で脅したり、押して転ばせたりして、奪い取った自転車をかついでオートバイで逃げていくというのが犯罪の手口だ。
サンパウロ市民がサイクリングする場所の一つに、サンパウロ大学(USP)キャンパスがある。
このブラジルで最も著名な大学は、サンパウロ市西方に広大なキャンパスを持ち、その地域はCidade Universitáriaと呼ばれ、高級住宅地と隣接している。
人出の少ない公園のようなこの場所はサイクリングには最適、そのため強盗も集まってくる。
遠出すれば大丈夫かといえば、そうでもないようだ。
高地のサンパウロから海岸のサントスへ続くRodovia dos Imigrantes(訳すと移民街道-移民はサントス港からサンパウロへ向かった)をサイクリングしていた人たちも、強盗に自転車を奪われていた。
自転車競技に参加するような、スポーツサイクリストはハイテク高級な自転車を持っているから、被害者になることが多い。
サンパウロの自転車屋、というよりサイクル(バイク)・ショップといったほうがニュアンスが伝わるか、そこで展示販売される3万2千レアルの自転車が、自動車の新車の値段だとテレビで紹介された。
豪華な自転車に乗るサイクリストが増えると同時に、サイクリングの裾野が広がるのだが、闇市場も発生して、強盗も「商品の知識」と「商品の売り先」を容易に手にするから、この悪循環を断ち切るのは難しい。
公安の専門家は説明する。
サンパウロ公安局(Secretaria da Segurança de São Paulo)によると、2013年1月から11月までにサンパウロ大学付近で151人の自転車強盗を逮捕したという。
サンパウロ軍警察はUSPキャンパスの警備を強化したと表明した。
映画の自転車泥棒(1948 イタリア)だが、原題がLadri di Biciclette、これをGoogle翻訳にかけるとポルトガル語でLadrões de Bicicletasだから複数形で、「自転車泥棒たち」になる。
映画では、自転車を泥棒に盗まれた父が自転車を盗む側に回る状況に陥るので、泥棒は一人だけでないという意味なのだろう。
ブラジル・サンパウロでは、ladrões(泥棒-複数)ではなくて、assaltantes(強盗-複数)という単語を使っている。
高級な自転車のオーナーは十分注意しよう。
Bicicletas viram artigo de cobiça dos assaltantes em São Paulo
http://g1.globo.com/jornal-hoje/noticia/2014/01/bicicletas-viram-artigo-de-cobica-dos-assaltantes-em-sao-paulo.html
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