2014年10月11日

まずは全額支払え、後から半額返すから

この表題はいったい何か。
借金融通のお願いだろうか。
滞った借金返済の脅し文句か。
質(たち)の悪い詐欺のたぐいだろうか。

「最強の(不屈の)金曜日」sexta imbatívelと書かれたスーパーのチラシが郵便受けに入っていた。
金曜日一日だけの特売である。
「すべてのビールCarrefourカードの利用で50%割引」
Carrefourカードとは、スーパーが顧客囲い込みのために発行するクレジットカードである。
ここだけ見れば、普段2レアルで売っている缶ビールが1レアル支払えば買えると誰もが思ってしまうだろう。
甘い。

大書した宣伝文句の横に、小さい字でこう書いてある。
「70日以内に請求書にクレジットを付与」
これはどういうことだろうか、考えてみよう。

このカードは私も持っている。
MasterCardのクレジットカードなので、カルフール以外の店でも当然使える。
普通のクレジットカードと同じように、買い物をした日から最短10日、最長40日目に支払日が来る。
わかりやすくするために、締切日直後に買い物をして、支払猶予最長の40日を得たものとしよう。
2レアルの値札がついた缶ビールを10ダース、120本今日買うとなると、通常価格の240レアルの勘定を40日後の11月20日に支払う。
そして、細かい字で横に書いてある「70日以内に請求書にクレジットを付与」というのは、40日プラス30日であるから、120レアルのクレジットは、240レアル支払った11月20日のさらに30日後の12月20日支払いの勘定請求書にようやく受け取ることができる。

40日後に240レアルまず支払え、払ったならその30日後に、120レアル分の買い物に使えるクレジットを請求書にのせることにより返還する、ということなのだ。
通常価格を支払ってビールを買えば、30日後に半額分のクーポン券をくれると言い換えてもよさそうだ。
でもこのスーパー以外の店で買い物してもクレジットは有効だから、当店のみ有効のクーポン券よりは使い勝手は格段に良い。
どうして40日後の支払い時に即座に半額分のクレジットをしないのか、お客を混乱させてまで、半額分を一か月手元で回すことができること以外にスーパーにとってのメリットがあるのか。

まず10月は「カードの利用で50%割引」の宣伝で売りまくる。
11月は注意深い客が「12月になると50%分返ってくるので11月の買い物が安くなる」心理で売りまくる。
12月は忘れっぽい客が思いがけず12月支払い時にクレジットが付いたために「おっ今月の支払いは安かった」心理で売りまくる。
スーパー経営者は「1粒で3度おいしい」を夢見ているようだが、疑い深い消費者はそうはいかないと思う。

ニュースで見るブラジルの最近の気候は、北部アマゾン河流域は毎日午後スコール、南部は前線の影響で大雨、南東部や中西部は高気圧勢力下で前線が近寄れず日照り続きである。
乾季の終わりにあたる10月は、この辺りでは1年で最も平均気温が高い月である。
高温乾燥の気候のもとではビールを飲みたくなる人は当然多い。

半額セールのビール売り場は、買い物客と買い物カートでごった返していた。
各製品の値札は、通常価格とCarrefourカード価格の二つが並んで、同じ字の大きさで書いてある。

しかし、買い物客全部が支払い方法について熟知しているわけではない。
耳を澄まして会話を聞いてみる。

まず、現金でも半額で買えると思っている人がいる。
Carrefourカードでない普通のクレジットカードで買っても半額になると思っている人がいる。
次のクレジットカード支払日に半額分を支払っておしまいと思っている人がいる。
70日後にクレジットという小さい字を見つけて、ビールの代金請求は70日後だ、30日支払猶予だと勝手に自分に都合よい解釈をしている人がいる。
よくわからないから値札の写真を撮って、話が違っていたら弁護士に駆け込むと息巻いている女性がいる。
カート一杯のビールを買って持って帰って良いものか、奥さんとか家族に携帯で相談している人がたくさんいる。
ビール売り場に群がっている客の大多数は男性だ。

今から70日といったら、ちょうどクリスマス直前だから、戻ってくるクレジットは思わぬクリスマスプレゼントだろう、と言ったら、いやきっとギリシャ人のプレゼント(presente de grego)に違いないと返された。
ギリシャ人のプレゼントという表現は、多分トロイの木馬から来ているのだろう。
もらって困るプレゼントという意味だ。
もらっても困らないよ。

控えめに説明を試みながら、したたかにCarrefourカード勧誘を怠らない店員をよそに、支払いがああだこうだと言っている人々の一人が言った。
「(35キロほど離れた)隣町から現金2千レアル持ってビールを買いに来た人がいたけれど、どうしたのだろうかね」

結局私は店の巧みな戦略に負けて、12本パックを12個都合144本を買ってしまった。

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