2016年1月2日

ブラジルに航ちゃんはいる

わが家に来た客と、とりとめもなく飛行機の話になった。
食堂の窓から、空港へ着陸する寸前の降下してくる旅客機が見えるので、遠くの街から飛行機でやって来る客があるとき、時間通りに降りてこないと遅れている事がわかると言ったら、来客はiPadを引っ張りだして見せてくれたアプリがあった。
Flight Radarである。

あと15分でこの街の空港に着陸予定の便があるから見てみることにした。
90kmほど離れた隣町上空で一回輪を描いた。
来客は、「きっとなにか小さな問題が空港で起きたので、時間調整のために旋回をしたのだろう」と解説する。
旋回したために予定着陸時間が2分延びた、と思ったら一気に5分延びた。
滑走路進入路左側90度から進んでくる航跡と飛行高度を見て、「これはこのまま着陸態勢に入るな」と彼は分析をする。
するとこれから着陸をする空港に突然別の機影が現れ、滑走路を縦断してそのまま上昇していく。
この出発便のために、旋回をして時間調整を行ったのだろうか。

「もう少しすると機影が家の前の延長線を通るから、そろそろだぞ」と彼が言った瞬間、ジェットの排気音が聞こえてすぐにGol航空のボーイング機が着陸直前の降下滑空で横切っていった。

彼はこのソフトが気に入って、月額3ドルを払ってプレミアムにしている。
彼はリオ・デ・ジャネイロとグアナバラ湾を挟み、リオ・ニテロイ橋で渡るニテロイに住んでいるので、リオデジャネイロの2つの空港、サントス・ドゥモン空港と、アントニオ・カルロス・ジョビン・ガレオン国際空港を発着する飛行機を見渡せるようだ。
勘違いする人もいるだろうから少し注釈しておくと、アントニオ・カルロス・ジョビンはボサノヴァのミュージシャン名、ガレオンは地名である。
彼の奥さんは、「これを見ながら窓から機影を探して、あれはどの都市から飛んできたとか、何分遅れているとか言って、暇だと一日中そうやって過ごしている」と半ばあきれたように言う。

こういうのは何という趣味なのだろうか。
飛行機ファン、航空ファンというのか。
鉄道ファンが「鉄」ちゃんなら、航空ファンは「航」ちゃんなのか。
「ブラジルに鉄ちゃんはいない」と以前書いたが、航ちゃんはいるようである。
便数があるものでないから多数いるとは思えないが、船舶ファンだったら船(せん)ちゃんか。
くどいが、自動車ファンならカーちゃんだぞ。
とにかく彼のように、乗り物を趣味にしているのは男に多いようである。

手元に本はないから正確に思い出せないが、遠藤周作が友人の阿川弘之について、一緒に旅に出た時のことを綴ったものがあったと思う。
ホームに出入りする列車をみて、「あのXXXX列車の到着は2分遅れだ」とか全部説明してくれるというのだ。
時刻表を暗記していたらしい。

世界的に有名な音楽家「鉄」といえばドヴォルザークあるいはドヴォルジャーク(Antonín Leopold Dvořák)だと、彼のエピソードはしばしば
OTTAVA(オッターヴァ)
で取り上げられる。
Wikipediaをみると、プラハ駅の列車の時刻表やシリーズ番号、さらには運転士の名前までも暗記していたというから、「またこの運転士はエンジン吹かし過ぎで30センチオーバーして停車が下手くそだ」なんて批判して楽しんでいたのかもしれない。
米国でも、教鞭をとるニューヨーク音楽院への行き来にわざわざ遠回りしてグランド・セントラルへ寄り、列車の発着を飽きずに見ていたとかいった話である。
プラハと違いニューヨークにはフェリーもあるし外航船もあっただろうから、鉄ちゃんだけでなく船ちゃんにもなったという記録がある。

私達のお客の職業を知ったら、なぜ航空に詳しいのか納得できた。
陸軍の落下傘部隊所属というから、航空機の速度とか高度とか航路とかが気になるのは当然だろう。

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