2018年5月30日

ブラジルのトラック運転手という階級

血栓症重症のブラジル

caminhoneiro = トラック運転手

5月21日からブラジル社会の大麻痺状態の原因となったブラジルのトラック運転手とはどんな人達だろうか。
次の記事から見えるその実体は、強固な労働組合組織を形成する一枚岩の労働者の団体像とは、印象がかなり異なる。

Edição do dia 25/05/2018
25/05/2018 21h17 - Atualizado em 25/05/2018 21h17
Governo tem suspeita de locaute na greve dos caminhoneiros
http://g1.globo.com/jornal-nacional/noticia/2018/05/governo-tem-suspeita-de-locaute-na-greve-dos-caminhoneiros.html

なお下の文章は記事のみでなく、他から持ってきた情報も含んでいる。

2015年のトラック運転手法(法律)は、労使間協約があれば一日12時間、週72時間の労働を認める。
しかし法律はいくつもの例外を設けて、車両が安全な場所や目的地に到着するまで労働時間を延長することが許される。

長時間の運転の眠気と疲労を追い払うために、日本では覚醒剤に指定されている、こちらの日常言葉でレビッチ(rebite)と称されるアンフェタミンの力を借りる運転手もいる。

トラック運転手の仕事は奴隷にもたとえられる。
年平均200日は自宅の外で過ごし、狭いトラック内のキャビンで強盗の脅威にびくびくしながら浅い眠りを取りながらの旅が続く。

街道沿いには食堂だけでなく、売春も行われているから、トラック運転手は性病の高リスクグループであるという不名誉な属性も持つ。

昔のトラックの装備は、運転手仲間で情報を共有するためにせいぜい無線が付いていたくらいだったが、現在はインターネット接続や、運転手が初めての配達先に迷うことなく到着するためのカーナビだけでなく、トラック盗難や強盗に備えて遠隔から位置確認が可能なGPSによる監視がされている。

サンパウロ大学が2月に発表した調査によるトラック運転手の横顔は、この職業が楽なものでないことを示している。
  • トラック運転手の58%は正式な被雇用者
  • トラック運転手の27%は自営者、つまり自分が所有するトラックを運転する
  • トラック運転手の15%はその他の形態の契約
ストライキの間は労働を中止しているから、当然自営者の場合収入はなくなるのだが、運送会社の従業員の給料体系はどうなっているのだろうか。
自営者と被雇用者の間に格差ができそうなものだが、そこを説明してくれる報道はない。
  • トラック運転手の43%は法定の週44時間以上労働する
  • トラック運転手の85%は1から3最低給料を稼ぐ
  • トラック輸送は国内輸送の60%以上を担う(2018年4月)
調査などのデータからみると、社会で大きな力を誇示しにくい、どちらかというと社会弱者と考えられる、ばらばらで団結力がなさそうなトラック運転手が、どのように組織化した実力行使を行い、一般市民の同感を得ているのはどうしてだろう。

まず、今回の全国規模のトラック運転手ストライキを組織したのは一体どこの団体だろうか。
報道によると、トラック運転手の労働者組合と考えられる2つの団体が、既にスト入り前から連邦政府に警告の書状を送っていた。
ブラジルトラック運転手協会(Associação Brasileira dos Caminhoneiros - ABCAM)と、全国自営運輸業連盟(CNTA - Confederação Nacional dos Transportadores Autônomos)である。
トラック運転手の労働組合はこれだけではなく、全国組織も地方組織もいろいろあってあって多数存在する。

そもそもなぜこのような抗議活動が始まったかと言うと、汚職スキャンダルに見舞われたペトロブラスが、その反省から最大株主の連邦政府から独立性を高めて、製品価格をドル為替と原油価格に連動して、ほぼ日単位で変動するように2016年から変更した価格決定方針が原因になっている。
そのため連邦政府が人気取りやインフレ率の操作のために、ペトロブラスの製品価格を人為的に抑制することや、会社の資産が不正な政治献金に流用されることが難しくなって、ペトロブラスは復配できるまで体力を取り戻してきた。
反対にペトロブラス製品であるガソリンや軽油の価格調整は、国際情勢緊張のため原油価格の上昇とレアル下落によってインフレ率を大幅に超えて、自動車所有者を苦しめる結果となった

だからストに参加したのはトラック運転手だけではない。
タクシーやUberや通学バンの運転手も、局地的一時的であったが賛同ストやデモを各地で行った。
ストに参加した職業運転手だけでなく、仕事で車を使う人も私用にしか使わない人も大部分が、燃料の価格と付加される税金を下げろというストの趣旨には賛同している。

さらに問題を複雑にするのがトラック運転手の雇用者の立場である。
燃料価格が下がって、しかも上乗せされる税金が減税されたならば、一番得をするのは給料をもらう個々の運転手ではなく、利益の大部分を持っていく雇用主だろう。
だから、故意にか不作為にかに関わらず、運転手を焚き付けてストをしてもらえば労せず得するわけだ。
そこで連邦政府はブラジルでは禁止されているロックアウト、つまり運送会社の事業所や車庫を閉鎖して運転手に労働させない戦術をとった疑いを持って、日本の公正取引委員会に相当する経済防衛行政審議会(CADE - Conselho Administrativo de Defesa Econômica)が捜査に入っている。

2018年5月27日日曜日になって、軽油の価格を0.46レアル引き下げ、連邦政府はペトロブラスに差額を補填する、その他いろいろある詳しい内容については省略するが、実施事項を政令で定めることに、連邦政府とトラック運転手の多数の労働組合の間で合意に至って公式的にはストライキは終結した。
と言い切りたいのだが、実はそう簡単に全てのトラック運送が復帰するのではなく、時限立法であることに不安を持つ一部の勢力は中央執行部の決定に従わない、いわゆる山猫スト状態になっている。

ロックアウトから山猫ストまでいろいろな戦術が出ているのだが、闘争目的が労使で一致して大衆の支持も高いという珍しいできごとではある。

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