2020年4月28日

口座のない人に入金する技ブラジル編

前回、ブラジル連邦政府のコロナウィルス対策低所得者救済プログラムは、Auxílio Emergencial(緊急援助)と呼ばれ、特に政府のデータベースに名前が載ったことのない非正規労働者がどのように申請して登録されるのか書いた。

今回は、銀行口座を持たない多数の人々にどうやって現金を支給するかの問題である。
現在日本に全く銀行や郵便局に口座を持たない人がいるのかどうかは知らない。
しかし今回ブラジル連邦政府は、銀行口座を持たない数千万人に援助金を渡さなければならない。

既に政府の福祉関係データベースに登録されていて、援助金受給資格のあることが証明されて、しかも2つの政府系金融機関、つまりBanco do Brasil(BB ブラジル銀行)とCaixa Econômica Federal(CEF 連邦貯蓄銀行)に既に口座がある個人には、確か4月10日までに振り込みが行われた。
そして既に連邦政府の福祉プログラムBolsa Famíliaを受け取っている人は、そのカードを使って従来の受取日にこの緊急援助金の受け取りができる。
だから以上のグループは支給に問題はない。

既存データベース及び今回のスマホやPCによる申請登録によって援助金受給資格のあることが証明されたが、上記2つの銀行に口座がなかったり、申請登録時に他銀行を指定しなかった人にどうやって援助金を配るか?
連邦貯蓄銀行は、そのような人のために、Poupança Social Digital(社会デジタル貯金)口座を強制的に作り各個人に割り当てた。

デジタル口座へのアクセスは、CEFのスマホアプリ"Caixa Tem"を使わないとできない。
スマホアプリがCEFのサーバーと通信確立できれば、バーコードのある請求書の支払いや、無料回数に制限はあるが他銀行の口座へ振り込み、そして下に説明するカードなしでATMから現金引き出しをするときに必要なコードの入手ができる…、はずである。

しかしアクセス数が半端でないため、通信確立ができない。
何日もトライし続けて、早朝の過疎時間にようやく通信できたという報告が多い。
通信に成功しても、対話式の操作全部が終わって、振り込みや支払いの証明書や引き出しコードを受け取らないうちに切れたらやり直しである。
地方によってつながりやすさが違うらしいが、何日もつぶすことのある苦行である。

そして銀行口座など一切持っていないから、とにかく現金をおろしたい人は、多分もう一つの苦行が待っている。

CEFは、デジタル貯金口座からの現金引き下ろしスケジュールを次のように発表した。
4/27 誕生日1月2月、4/28 誕生日3月4月、4/29 誕生日5月6月、…
その日だけ引き出せるのではでなく、その日から引き出せるものと思われる。

銀行カードも生体認証もなしでどうやって現金を引き出すかというと、件のアプリで現金引き出しを選択すると表示されるコードをATMへ打ち込むという方法が使われる。
数千万の受給者の複数回の取引を区別しなければならないから、コードは10桁以上であろう。

ざっと計算したところ、デジタル貯金口座を持つ個人の半数が現金引き下ろしを選択した場合に1千万人、その12分の2が一日に集中すると仮定すると、ブラジル人口2億1千万人の0.8%にあたる167万人が全国のCEF支店のATMやCEF業務を一部代行している宝くじ売り場へ集中することになる。
人口百万人の都市で8千人である。
ATMや宝くじ売り場窓口が150あるとして、8時間で払い出すとなると1台1時間で6.7人が計4000レアルを引き出す勘定になる。
60分割る6.7は9分である。
援助金引き出し目的でなく、他の一般業務のためにATMを使う人も多いから一人に割ける時間はその半分として4, 5分であろう。
全員が機械操作に迷わなければ可能な気はする。
でもそれは全員があらかじめアプリでコードを手にしていてATMに打ち込むだけという状態であったらの話である。

第一関門は他銀行振替を選択した人と同様、スマホアプリCaixa TemでCEFのサーバーへ接続して引き出しコードを入手することであるが、インターネットにあふれる苦情をみると、朝5時から7時位までが一番つながりやすいが、それでも皆さん何日もかかったようである。

どうも雰囲気では、何時間も何日もアプリがつながらなくて頭に血が昇っている受給者が、大勢で銀行支店に押しかけて大行列を作って社会的距離など全く無視して、窓口で受け取ろうと押し問答になる予感が強い。

既に年金を受給している人はこの援助金を受け取る資格はないから、明日からの支払日に機械操作に全く疎い老年者はいないはずであるが、銀行の機械など一度も触ったことのない人も多いだろうし、読み書きができない人もある程度(2018年15歳以上人口の6.8%)いて、そのような場合には助けてもらうために家族同伴で行くことになり、行列人数は1人でなく2人が並ぶことになるから、密集をどれだけ避けることができるか疑問である。

もう一つの心配はデジタル詐欺である。
打ち込むだけでお金がおろせるコードをなんとかして盗もうとする悪意を隠した、例えば「列に並ばなくても引き出し時刻の予約ができる登録をするからここへコードを入力せよ」とかいった、一見お助けのメッセージなどが氾濫して、騙される人が続出するような危険は一杯である。

ここから4月27日夜に書いている。
新たにわかった新事実は、現金引き出しコードの有効期限はスマホアプリCaixa Temで取得してから2時間きりということなので、安全性はより高いものの、早朝家で取ってから昼食後にゆっくりATMへ向かうというような融通はきかない。

なお協定によって、スマホにクレジット残高がなくてもどの携帯会社も無料で接続できることになっている。
しかし、スマホに送られる確認コードの関係で、1台のスマホでは一人分のデジタル口座しか取り扱うことができないという不便がある。
後からCEFのドキュメントによってわかったのだが、セキュリティの理由で1台のスマホには2つのCPF、つまり2つの口座まで登録できる。
緊急援助は1世帯に2人まで受け取ることが認められているので、家にスマホが1台しかない場合でも大丈夫で、一応整合性は取れている。

予想した通り、ブラジルじゅう各地のCEFの支店には、アプリでは全くアクセスできないから現金引き出しコードを取れないとか、申請したがいつまで待っても「調査中」で許可不許可の返事が出ないとか、そもそもガラケーしか持っていないとか、スマホアプリに不満たらたらの人々が、支店でなんとか引き出しをしようと長い行列を作っていた。
ペルナンブコ州の州都レシフェでは大雨が降って道路が水浸しになったので、傘を差して、くるぶしまで水に浸かりながら行列する人々が気の毒であった。

一方人々の苦労の張本人のCEFは、スマホアプリのアップグレードはときどき行っているようだが、アクセス数に対して明らかに非力なサーバーやアクセス容量の増強とか、受給者向けの親切な説明とかの努力をしているようにはとても思えない。
誰もクビにならない国営企業の、非効率の極みである。

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