2018年4月12日

赤信号皆で渡れば青信号

これまで何十人も企業の責任者と政治家が起訴されたり有罪判決を受けたりしているのだが、企業家は司法取引で贈賄の罪を認めても、収賄の罪を認める政治家は一人もいない。

なぜブラジルの政治家は潔くないのか?
国民性とか政治家の資質とかの主観的な見方から離れて説明を試みる。

贈賄側と収賄側の非対称性がある。
贈賄する側は明言、暗示の違いはあるかもしれないが、政府資金入手や優遇税制や入札指名や許認可などの政治的便宜を求めて、政治献金をする。
何らかの見返りを求めて、意図と作為がはっきりしているから、言い逃れしにくい。

一方収賄側は、選挙のために献金を受け入れていると言う建前を貫けば十分で、献金を受け取っても便宜を図ったわけでないから全く悪くないと言い張ることが可能だ。

政治献金は選挙裁判所(選挙管理委員会に相当)に届けて政治資金の会計に異常がないと承認されれば合法である。
この「選挙裁判所に届け出て承認された」というのをどの政党も政治家も錦の御旗として、「わが党が受け取ったすべての献金は選挙裁判所によって承認されている」点を強調して、「司法取引を受け入れた贈賄者の自供は罰を軽減して欲しさの作り話」、とか「政敵による汚い政治的迫害の捏造」とか言い張る根拠としている。
金を受け取ったのは確かだが、ちゃんと申告して承認されているではないか、という言い分である。

要するに受け取った金は、自分個人が私腹を肥やすためでなくて、自分の所属政党がブラジルを良くするためには選挙に勝たなければ、そのための清い資金だ、と考える。

資金集めにはいろいろな苦労はつきものだから、頑張ってこれだけの金を一人で手に入れた自分は1割(2割、3割かもしれないが)ぐらいの褒美をもらえる価値は、党も認めてくれるだろう。
どの政党もどの候補者も皆やっていることでないか。
これは赤信号ではないぞ、皆やっていることだから青信号と一緒だぞ。

確かに出処の不審な金も一旦洗浄されれば、危ないとか安全とか色はついていないから、自分や家族の贅沢に使ってしまっても、選挙資金になったとしても、入っている財布が同じだったら区別するのは難しい。

名義を借りてペーパーカンパニーを作って、その会社に選挙マーケティングやコンサルタントや法律顧問をやってもらう形にすれば金の行く先も怪しまれない。

献金された選挙運動資金のうまみは実際のところ、仮に百万の献金を受け取ったら、90万は選挙運動に使うが、10万は自分の懐に入れてしまっても外部からは追跡できない、という点であると思う。
莫大な金額が献金されるから、一部をくすねるだけでも全く苦労せずに大層な金額を手にすることができる。

しかしさすがに資金が国境を超えてタックスヘイブンの口座にあるのはまずいのではないか。
不審な国外口座からのブラジル国庫への資金返還repatriaçãoのニュースはかなり多い。

選挙に金がかかる、これは事実である。
政党の右も左も区別ない。
だから政敵が起訴され有罪になったといっても、うかつに喜んでばかりはいられない。
都合のいいところで自分の足元に火が回らないうちに、捜査の対象を広げるのは止めにして、このあたりで幕を引いてもらいたいと、どの政党も考えることであろう。

大して重大な責任問題もないのに立法府によって罷免された、ルラ元大統領の秘蔵っ子、不運が重なった前ジルマ大統領の副大統領で、昇格して大統領になったテメル現大統領の立場がまさにその通りだろう。
労働者党シンパがクーデターで政権をとったと誹謗する事件であった。
実際にテメル大統領のMDB(ついこの前までPMDB)は昨年中頃定年になるRodrigo Janot検事総長の後任にRaquel Dodge氏を指名して、その恩で捜査の手を緩めさせようとしたと思われるのだが、ラケル検事総長は予想外に職務に頑張っていて、テメル大統領の友人たちを捜査しているので、MDBは苦り切っていることと思う。

だからどの政党が政権を取ることになっても自分たちの懐具合に直接影響することだから、本当は誰も本気で取り組みたくない。
現在の政治献金の制度が続いていくのなら、贈賄側ばかり有罪になるのに収賄側が逃げ切れるという事態は全く改善されない。

どうすれば断ち切れるか、素人なりに考える。
  • 選挙運動をテレビ・ラジオの選挙公報プログラムだけに限り、公費で賄う。
  • 選挙運動で金がかかる行為を禁止する。
  • 政治献金を禁止して選挙運動費を全部政府が政党に交付してそれだけで賄う。
    この考え方は政治改革案で選挙基金として提案されている。
  • 政治献金を禁止したくないのなら、企業や個人の献金を一つの基金に集中して行い、それから各政党に分配する。
  • これまでのような政党や候補者に宛てた政治献金を続けたいのなら、政党や候補者の特別なガラス張りの口座を立法制度化する。

誰が改革を行うのか?
行政府でも司法府でもなく、当然立法府である。
現在の「赤信号皆で渡れば青信号」をどの政党も続けたいと思っているのならいつまで経っても実現しない。

今年の10月は選挙であるが、牢屋に入ったルラ元大統領が投票意向調査で1位になるようなので、獄中から立候補できるのか、そうしたら中道右派は統一候補を出せるか、あるいは二次(決戦)投票で団結できるか、現政権の思惑通りに獄中で潰されるか、これからどうなっていくかが見ものである。

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