2018年4月14日

ルラ被告vs裁判官

4回に分けて書こうとした、ルラ元大統領の収監であるが、5回に伸びた最終回である。
あえてここで幻となる可能性の多いルラ大統領候補に個人的期待する理由を書いてみよう。

ルラ元大統領は検察と裁判所を目の敵にする。
本心はともかく、演説ではそう言っている。

議員は選挙第一である。
何もかも選挙至上であるから、その資金集めにはことのほか熱心になる。
汚職にまみれやすい。
選挙に落ちたらただの人どころか、借金を抱えたらただの人以下になる。
それでも落ちた人を救う互助会のような仕組みが政党にはあるようだ。
政治家になるのに必要な素質は何か。
学歴や試験ではない。
政党への貢献と党内外の人望と、演説術や説得術のような選挙能力と、献金を集める集金力だろうか。
ブラジルの立法府の最高の地位は上下院議長である。
下院議長 Rodrigo Maia、上院議長 Eunício Oliveira

大統領は権力と注目が集中するが、これも選挙次第なので議員と似たようなものだ。
行政の実行者である公務員はどうか。
立法府と司法府にも行政府よりずっと数は少ないが、公務員がいて、待遇は行政府より良いようだ。
キャリアの公務員になるには公務員試験があって、職種によって特定の学位が求められ、競争はきわめて激しい。
なるのは難しいが、一度なったらよほどのことがない限り首にならない。
日本とは違う意味でのノンキャリア公務員は、政治任命であって、試験に受かる必要はないが、政権党に功績があって党に尽くすことが求められる。
これがまた汚職の種になったりする。
選挙で負けたなどの理由で所属党が政権から離れたら、当然すぐクビになる。
行政府の長はもちろん共和国大統領である。
共和国大統領 Michel Temer

司法府である。
判事という職業の、この権力の一員になるのは、多分一番困難だろう。
法学を修めなければならないが、法学出身者である弁護士は無数にいるのだが、裁判官任用試験は普通の公務員試験よりずっと難しそうだ。
公務員の中でも無数の法律と判例を頭に叩き込む職業的知識と倫理を一番要求される職種であり、その職務行使を保証するために最も強力な身分保障が与えられ、汚職防止のためだろうか、給料も良い。
判事をやめさせることができるのは、現行犯のような犯罪の場合を除けば、同じ判事から構成される司法評議会の審査だけだったと思う。
ブラジルならではだが、判決の逆恨みから自衛しろと言うのだろうか、使うか使わないかはともかく武器の携帯まで認められている。
司法府の最高位は連邦最高裁判所長官である。
最高裁判所長官 Cármen Lúcia

職業上の法律判断の厳しさは当然良いこととして、対外的には慎重で誠実そうな印象を与える判事という職業であるが、仲間意識は相当強烈である。
かなり前になるが、パラナ州のある新聞が判事の高給を批判して記事にしたことがあったが、州内の判事が次々に新聞や記者を名誉毀損か何かで訴える嫌がらせに出て、記者はあちこちの町の裁判所に出廷させられて仕事にならなかった、という判事の復讐の話を聞いたことがある。

判事とはそんな人種であるから、社会保障改革で公務員の特権に手を付けるようなことになると、一番反抗しそうな厄介な存在になると思う。
法律を盾に取ることが得意技であるから、既得権利の剥奪など至難の業だ。
法律を改正する権限は立法府だが、合憲性裁判によって無効にされる恐れもある。
そこで憲法改正であるが、議会の三分の二の賛成が必要である。
議会がまとまらなければできない。
だからこの特権階級に正面から闘っていける存在として、議会をまとめることができたならという条件は付くが、司法に恨みつらみのあるルラ元大統領がもってこいである。

労働者党は、ルラが超カリスマを持っている分、大統領候補になりうる他の人材が見当たらない。
ジルマ前大統領も悪くはなかったけれど、党内掌握は今ひとつだったし、現党首のGleisi Hoffmann上院議員は容姿はいいのだけど頼りなさげな上に、この人も起訴された被告である。
エースに頼って優勝したが、若手育成を怠って沈んでいくチームのようだ。
労働者党の候補者不在は、右派中道で候補者がひしめく状態と全く対照的である。
現実に労働者党は、ルラが立候補できないときのBプランを、少なくとも表向きに示さず、格子の向こうにいて家族と弁護士としか面会が許されないルラをなんとしても候補者に担ぎたい。

先週の土曜日に連邦警察に収監されるため赴く前に、自分の原点の場所サンパウロ大都市圏ABC金属労組本部で行った最後の演説は、「昔の労組リーダーだった頃のルラ」を彷彿とさせるようで、かなり強い口調で自分を起訴した検察や自分を有罪にして人身保護も認めなかった裁判所を非難した。
40分位あったという演説を全部聞いたわけではないが、印象に残る格好良い言葉を発した。
「私は今生身の人間ではなく、イデアである」。

というわけで、ルラが立候補できて社会保障改革で公務員勢力と戦わねばならないと観念したら、非常に面白い展開になると期待している。
でも、やはりその不都合な未来を予見した判事たちは何としてもルラを牢屋に留めておいて、被選挙権を断固として認めない手に出るんだろうなと予想する。

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